その男、目指すは最強の剛剣。   作:volcano

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随分間が空いてしまいました。
同時進行作品の方に集中してしまって、おろそかになってしまってました。





再会 1

それは突然の再会でした。

 

いつもの八百屋さんで今日の夕ご飯の材料を買っていた時のことでした。いつものように八百屋のおばさんと会話していたら、甲高い悲鳴が聞こえてきたのです。慌てて外に出ると、数十メートル離れた場所で、年配の女性が倒れていました。そして、此方に向かって走ってくる一台のバイク。運転しているのは真っ黒のライダースーツとヘルメットで素性は分かりませんでしたが、体格から男性だと私は見抜きました。手には似つかわしくない、薄桃色の女性用のバックを握っていて、とても不自然。それらの情報から、あのライダーが「ひったくり犯」だと理解しました。そうと分かれば、私はすぐに行動に移ったのです。

買い物かごを店に置き、普段から携帯している竹刀袋から使い慣れた木刀を取り出し、バイクが走ってくる道前に身を出し、私は木刀を腰にあて”抜刀術の構え”をとる。あの犯人を追撃するために。

向かってくるライダーは驚きながらも、スピードを緩めず此方に向かってきましたが、それでいい。私の剣の間合いに入れば、此方のものだから。

意識を集中して、バイクの動きに集中して、大きく息を吐きました。自分の間合いに入るまで後五メートル、二メートル、一メートルまで迫っていた、その時。

 

 

「破ァッ!」

 

 

私の後方から、凄まじい剣閃がはしり、バイクに直撃したのです。運転していた犯人は驚愕を隠せない声で転倒しながら意識を失っていきました。

暫く、茫然としてしまいました。いざ剣を抜こうとした瞬間にかたが付いてしまったのですから。

 

 

「大丈夫か? すまない、状況はよく分からなかったんだが、あれは切って良かったんだよな?」

 

 

後ろから、私に声がかけられる。男性の声、言葉から、さっきの斬撃はその男性が放ったものだと予想しました。

ゆっくりと後ろを振り返ってみると、そこには若い男性が。年は私と同じか上ぐらい、でも白い頭髪にサングラスといった風貌の知り合いなんて私にはいません。しかし、男性は私を見ると、目を開いて驚き、私の名前を口にしたのです。

 

 

「....由紀江?」

 

 

不思議と、私の名を呼ぶその声は何処か懐かしく感じました。

よくその顔を見てみると、サングラスに隠れた瞳は、まっすぐで、暖かくて、”あの人”のような...そこまで思い当って、私は目の前の男性の”正体”を仮説し、半信半疑で、その名を尋ねました。

 

 

「....烈、さん?」

 

 

それは、私にとって憧れの人の名前。私が父の剣術を習う後押しをしてくれた人。短い間だったけど、あの人と一緒に過ごした日々は、今でも色あせることなく、昨日のことのように思い出せます。手紙でのやりとりも叶わず、ずっと音信不通だったけれど...

目の前の男性は、私が名前を聞いた後、私のよく知るあの顔をうかべて、答えてくれました。

 

 

「久しぶり、由紀江。大きくなったな。」

 

 

ポンッと、大きな手が私の頭の上にのる。優しく撫でるその手のぬくもりは、間違いない。間違えるはずもない。

 

『雪代烈』。かつて私の父の弟子だった人。十年以上前、修行で国外に旅立って以来、一度も会えなかった人。

私は喜びで胸を震わせました。だって、帰ってきたんです....烈さんが、帰ってきたんです!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうしたんだ、宋江?」

「ん? 知り合いか、その姉ちゃん。」

「おぉ、これは何とも清楚なお嬢ちゃんだ。いきなりで急だが、私にパンツを見せてはくれんかね?」

 

 

.........とても見目麗しい女性三人と一緒に。

 

 

 

2008 7/30 日本 石川県

 

 

雪代烈の帰郷。黛道場の門下生達は大いに喜び、歓迎した。

 

 

「でっかくなったなぁ、烈!」

「まったくめでたいぜ!」

「髪の毛どうしたんだ?」

「グラサンなんかしてかっこつけやがって!」

「一緒にいた可愛い娘達、お前の知り合い? しょ、紹介してくれない!?」

 

「...ハハ、皆相変わらず元気だなぁ。」

 

 

飛び交ってくる質問の嵐に圧倒されながらも、懐かしい兄弟子達との再会に烈は喜んだ。皆変わった様子はなく、また、あの頃から成長した自分にも変わらない態度で接してくれることに、皆の暖かさが嬉しかった。

そして烈は、懐かしき師と再会する。

 

 

「久しぶりだね、烈。」

「師匠。お久しぶりです。お変わりないようでなによりです。」

 

 

最後に会った十数年前と何一つ変わらない。優しげな口調も、ふさふさの髭も、見に纏う風格も、雪代烈がよく知る『黛大成』がそこにいた。

 

 

「君は随分変わった、いや、成長したね。見違えるほどに腕を上げた。」

「まだまだ至らない部分も多い未熟者です。」

 

「謙遜することはない。こうして直に君を見ると、成長ぶりがよく分かる。」

 

 

黛大成ほどの超一流の剣客ともなると、一目見るだけで相手の実力が分かる。強くなった、と心から思う。

筋肉の付き方や自然体でありながらすきのない佇まい、何より肌で感じ取れる気迫。幼かった麒麟児は、自分の想像以上の成長をとげていたようだ。

 

 

「そうだ、由紀江にはもう会ったかい? あの子は君に会いたがっていたからね。」

「あぁ、由紀江となら”此処に来る道中”で会いました。随分と、成長していました。」

 

 

烈は此処に来る前に既に再開していた『黛由紀江』を思い出す。十年という歳月は少女を立派な女性へ成長させていた。それは体の面でもそうだが、烈が言う成長とは、彼女の”剣の腕”についてである。

バイクに乗っていたひったくり犯の前に立っていた様子を見ていた烈は、その時は彼女を由紀江だとは気付いていなかったが、その構えから相当な実力者だと察知していた。正直、あの時そのまま彼女にひったくり犯への制裁を任せてもよかったのだが、万が一怪我でもしたら大変だと、烈が先に動いたのであった。

 

 

「構えを見れば分かりますよ。あの娘がこの十数年、どれだけ頑張ってきたかが。」

「うむ。あの子の剣の才は君に勝るとも劣らない。いずれは私を超え、その名を国中、いや、世界にまで轟かせることだろう。」

 

「あんなに小さかった由紀江が...時が経つのは早いものですね。」

「そうだね。あの烈とこうして敬語使って会話しているなんて、正直思ってもみなかった。」

 

「し、師匠ッ!」

「ハハハ! いや、すまない。私にとって烈はワンパクな子供だったからね。」

 

 

大成は談笑しながら当時の烈を思い返す。あの時から他の門下生と比べて飛びぬけたセンスを持っていた。烈が梁山泊へ旅立った時、大成は烈がちゃんと順当に成長してくれるか不安視していた。が、それは杞憂に終わった。

梁山泊は烈が持っていた才能をつぶすことなく成長させてくれたようだ。こうして改めて見ると、あの時こみ上がった「自分が育ててみたかった」という気持ちがまたよみがえってくる。

 

 

「(未練がましいな...それに私が彼を鍛えたとして、これほどまでに研ぎ澄ませることができたかどうか...)」

 

 

烈を鍛えた梁山泊の師範は、きっとかなり腕のたつ武人かつ、人を鍛えることに優れた人物なのだろう。

 

 

「....ところで烈。此処には、どれぐらい滞在するんだい?」

「明日には、此処をたとうと思っています。もう少し皆と一緒に語らいたいんですが、先方との約束の時間があるので。」

「そうか....なら、”今”がちょうどいいかな。」

「今?」

 

 

大成は道場にかけられてある刀に手を伸ばす。それは国から帯刀許可を得た大成が、国から譲り受けた名刀。本物の真剣であった。

 

 

「私はね、烈。君が幼いころから、ずっと心待ちにしていたことがあるんだ。「いつか、立派な剣豪になった君と、真剣で勝負してみたい」とね。」

 

 

大成の言葉に、門下生達がざわつく。剣聖・黛大成が真剣を用いることは滅多にない。大成があまり闘争にこだわらない平穏な性格をしていることにも理由があるが、大成は例え「武神」と名高い川神院総代の頼みであっても、真剣を用いて戦うことはないと噂されているほどなのだ。その大成が真剣を腰にさし、烈の前に立つ。

 

 

「どうだい、烈。一つ...私と手合せしないかい?」

 

「ッ! ....もちろん、俺なんかでよろしければッ!」

 

 

大成の挑戦に烈は大いに喜んだ。あの剣聖・黛と真剣での勝負ができる。剣客として、これほどの誉れはない。

ケースにしまっている長年の相棒を取り出し、烈は大成の剣に応える。

いつのまにか、二人の周りには誰もいなくなっていた。門下生達は二人の勝負は近くで見たいが、”近くにいてはいけない”と本能がつげ、自然と遠ざかっていた。

静寂の中、二人が鞘から剣をぬく。

 

 

「ほう、随分と”大きい”な。それは”太刀”かい?」

「はい。野太刀とも呼ばれる、太刀の中でも大きいものです。この刀こそ、俺の流派に欠かせないものなんですよ。」

 

「成程、それ程の得物を用いる剣...まさしく剛剣の名に相応しい剣だ。」

 

 

烈は太刀を肩にのせ、片方の手を伸ばした形の構えをとる。対する大成は刀を下段に構える。

正眼以外の構えはとても珍しい。それだけで大成がどれだけ本気なのかが分かる。

 

 

「....では、いきますッ!」

「あぁ、遠慮なく...来なさいッ!」

 

 

かつての師弟が十年以上の時をこえ、今、磨きぬいた互いの剣をぶつけ合う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

烈が師匠達と感動の再会を喜んでいたころ。黛家の台所では女性陣が集まっており、何やら重たい空気の中にいた。

 

 

「...........」

「...........」

 

 

主に、黛由紀江と林冲によって。

 

 

「...えぇと、林冲さんでしたか? 貴女方はお客様なのですから、ゆっくりしていて下さいな。お茶なら私がご用意いたしますから。」

「いや、客人だからと甘える気はない。それに見たところ、男連中の数は多い。一人では負担が大きいだろう?」

 

「お心遣いありがとうございます。ですが、これは私の役目です。それに...”烈さんのお茶”ならこの家のものである私がいれますから、大丈夫ですよ?」

「いやいや、”宋江との付き合い”はこちらの方が長いし、あいつの舌の好みもよ~く知っている私が用意したほうが良いだろう? こっちは”十年以上”、”一緒に!”暮らしてきたんだから、あいつの好みは熟知しているからな。」

 

「そうですかそんなんですか。しかし烈さんは久しぶりに日本にいらしたのですから、中国では味はえない日本のものをご用意したほうが喜ばれると思いますよ。その点では、烈さんと幼少期を共に過ごし、どのような日本飲食が好みか知っている私がやるべきだと思います。」

 

「............」

「............」

 

 

「(お、おめぇぇ! めっさおめぇ!)」

「(林冲のあんな顔初めて見たよ...デュフフ、かっわいぃ。)」

 

 

二人の戦い?が始まってからすでに十分が経とうとしていた。きっかけは、由紀江が道場にいる大成らにお茶を届けに行こうとした時だ。道場にいる全員に飲み物を運ぶということは、当然その中には烈もいるわけで。すると林冲が「宋江の分は自分がやる」と言い出し、そして由紀江はその意見に賛同せず、自分がやると主張した。(この場合どちらに非があるかと言われたら難しいが、無茶なことを言っているのは林冲の方だろう)

 

 

「(うわぁ...まさかお姉ちゃんのこんな姿が見れるなんて...)」

 

 

林冲と由紀江の張合いを遠くから見守っている史進と楊志に混ざって、今まで見たことない姉の一面を見て驚いているのは、由紀江の実の妹『黛沙也佳』。

彼女にとって姉・由紀江は引っ込み思案で友達もいない可哀相な人というイメージなのだが、今日の姉は違う。たかがお客さんのお茶運びにここまで意固地になるなんて。

 

 

「(そんなにあの『雪代烈』って人のことが気になるんだ...私はよく知らないけど、昔ウチの門下生だったっていうし、もしかして...?)」

 

 

黛沙也佳は中学生であり、烈が黛道場の門下生だったころはまだ生まれたばかりの赤ん坊だった。なので沙也佳は雪代烈のことをよく知らない。両親や姉がよく話題に上げていたので名前だけは知っていたが、姉がここまで意識するような男性だとは知らなかった。何より...

 

 

「あ、あのぉ...」

「ん? なぁに?」

 

「あの林冲っていう女の人、もしかして雪代さんのこと...?」

「あぁ、ご想像通りだよぉ。」

 

「ちなみになんですけど、雪代さんは...」

「あぁ、あの剣術馬鹿に”そんな感情”ないから。仲の良い友達って認識だろうさ。」

 

 

楊志と史進の確認得て、沙也佳は確信する。どうやら姉は世間一般でいう、”三角関係”というのに非常に近しいものに巻き込まれているようだ。

 

 

「(フフフ...おもしろくなってきたなぁ♪ )」

 

 

そして沙也佳は姉の事態に大いに喜ぶ。それは姉の不幸が嬉しいからというわけではなく、引っ込み思案で色恋にも疎かった姉が、初対面の人に対しこんなに自分の意見を通そうとすることにだ。これは姉の性格が改善されるいい機会なのでは?と思ったのだ。

 

 

「もぉ、さ。二人とも茶ぁ運ぶくらい別にどっちでもいいだろう? ここはほら、あれ、ジャンケンで決めたらいいなじゃね?」

 

「....史進がそう言うなら。」

「勝っても負けても、文句は無しですよ。」

 

 

史進の提案で両者ジャンケンの構えをとる。まるで今から殴り合いでもするかのような雰囲気。こんな和やかじゃないジャンケン風景は見たことないと見守っている三人は思った。

 

 

「それでは、いきます。」

「尋常に....」

 

「「ジャンケン....!」」

 

 

二人が勝利の祈りをこめた型をくり出そうとした、その時。

 

黛家が突如、大きく揺れた。

 

 

「!? な、何!? 地震!?」

 

 

沙也佳は思わず近くにあった机の下に避難する。一般人であれば、今の現象は自然災害によるものだと判断する。

しかし、他の四人、一流の中の一流の武人である林冲、史進、楊志、そして由紀江はこれが自然によるものではないと察知する。ほぼ一斉に、四人は道場の方へ意識を向ける。今の振動の発信源が道場からだと察知したからだ。

 

 

「今のは...!」

「片方は、宋江だね。」

「もう片っぽは、誰だ?」

「....おそらく父です。ということは...」

 

「え? ど、どうしたの? 何かあったの?」

 

 

事態がのみ込めていない沙也佳が姉に尋ねる。由紀江は先程とは違う、稽古の時に見せる真剣な顔で答えた。

 

 

「おそらく...烈さんとお父さんが戦っている。それも....”真剣(ほんき)”で...」

「え...お父さんが!?」

 

 

沙也佳が驚くのも無理はない。何せ彼女達の父・大成は平穏な性格の人物だ。本気なんて滅多に見せないし、沙也佳は見たこともない。

由紀江と梁山泊の三人も驚きを隠せないのは一緒だった。先程までの剣幕は何処へやら、四人は一斉に道場へと足を運んだ。

 

 

「あ、待ってよお姉ちゃん!」

 

 

その後を沙也佳はついていく。

此処から道場まではそう遠くない。十秒も走れば、彼女達は道場に辿りついた。そこで彼女達が目にしたのは....

 

 

 

比喩でもなんでもなく、文字通り、嵐だった。

 

 

 

 

 

 




Aをやってないので沙也佳のキャラクターがあっているのか不安ですが、今回と次回でしか登場しない(予定)なので、このまま突っ走ります。

追記
由紀江と烈は手紙のやりとりをしてなかった。正確にはできなかった設定にしました。
あの梁山泊が文通できるような場所ではないと考えたからです。(そのくせ、ネットはやっていますけどね)
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