百合カップルの誕生を影から見守って(たまに助けて)いたら、ヒロインたちの俺をみる目がおかしい件 作:攻める女の子って可愛いよね
20XX年の日本。世界的な女性の人口増加と男性の減少により、社会のあり方は大きく変化した。ほぼ全ての国で首脳陣には女性が台頭し、そして世界は希少になる男性を保護するのではなく、女性のみで生きる術を探し進化した。
特に生殖医療の進歩は目覚ましく、女性同士でも遺伝子を掛け合わせ、自然な形で子供を産み育てることが一般化した。その結果、社会全体で女性の割合が9割を超え、恋愛の中心は自然と女性同士のロマンス、いわゆる「百合」へと移行した。
かつて異性愛が主流だった時代の名残は薄れ、同性カップルであることが当たり前の日常。街には百合をテーマにしたカフェやショップが立ち並び、メディアは様々な女性カップルのライフスタイルを特集する。学校教育においても、多様な愛の形の一つとして百合恋愛が教えられ、女子生徒たちは自身の感情に素直に向き合い、同性のパートナーを見つけることを自然な流れとして受け入れている。
そんな世界にある、由緒ある私立高校「聖カトレア学園」。伝統を重んじ、昨今では珍しい共学の学校であり(それでも男子は全体でも数人程度だが)、同時に生徒の自主性を尊重し、生徒主体による学校運営が行われていた。
そんな伝統と革新が共存するこの学び舎では、今日も多くの生徒たちが友情を育み、恋に悩み、未来への希望を胸に抱きながら学園生活を送っている。校内には、美しい庭園や歴史を感じさせる建造物、最新のバイオテクノロジー研究施設などが共存し、生徒たちの多様な興味関心に応える環境が整っており、今日も新たな恋が始まろうとしていた……
「やっぱすげーのは『生徒の自主性の尊重』だよな。犯罪以外なら大抵なんでもできんのはぶっ飛んでるわ。だってよ『sex部』があるんだぜ? 正式名称は『素敵な援助のカイ』だけどよ、活動内容は『夜の営み』だし、カイは看板には『X』って書かれてんだぜ。確信犯すぎてやべーよな」
「う、うん……分かったからその辺にして? 周囲の視線が痛い……」
「気にすんな、どうせ男同士の会話なんて誰も聞いてねえって」
「……そう思ってんのは君だけだよ」
「え、なんか言った?」
ここは性カトレア……じゃなかった聖カトレア学園の高校1年B組の教室。
そう……俺はかの『R17.9百合ゲー』と名高い『乙女繚乱のユリノワ -Pure Bloom High-』というゲームに転生した転生者だ。百合豚である俺は当然このゲームをやり込んでいたし、百合ゲーなのに自分という男が存在することに解釈違いを起こして悩み苦しんだ時期もあったが、今は昔の話。転生したなら思い切り楽しんでやろうと、思う存分に百合を堪能するために原作の舞台である聖カトレア学園に入学した。(決して挟まろうなどとは考えていない。それをしたら俺は命を絶つ覚悟である)
結果、俺は毎日女の子同士のイチャイチャを間近で堪能することに成功し*1、女の子に囲まれる生活*2を送ることができていた。残念なのは、この環境を前世の戦友同志に自慢もとい共有できないことくらいか。まあ共学故に男子もいることはいるが、中高大一貫のこの学園内でも数人程度であり、今隣にいる男子を除くと1か月に一度会うくらいしかいない。それに、この世界において百合は男性からすると自分の居場所がなくなるヤバい存在らしいし。
「そんなんだから、俺の熱い百合愛を聞いてもドン引きしなかった男子はお前だけだな」
「え、えっと……引いてはいる、かな? でも趣味なんて人それぞれだし、君は誰にも迷惑かけてないどころか、いろんな人を助ける原動力にしているからね。そこは素直に尊敬するよ」
「……助けるって言っても俺はただ背中を軽く押す……いやうちわで仰いだだけだ」
「そこは押すで良くない? 比喩なんだし」
乙女繚乱のユリノワ -Pure Bloom High-……略してユリノワのストーリーは他の百合ゲーとは少し異なり、主人公とヒロインが結ばれるのではなく、ヒロイン同士の恋路を主人公が応援するという流れで進んでいく。主人公は自分のことを自称『恋のキューピッド』*3と名乗り、『恋のレーダー』*4で見つけた相思相愛だが奥手なヒロイン達におせっかいを焼いていく。
……まあ主人公はアホの子であり、作戦のほとんどは説得1割/肉体言語9割といった具合の脳筋戦法なのだが。
「……どうしたのキョウマ? 急に疲れたような溜め息吐いて」
「いや、主人公ってすげーなという感傷に浸ってた」
「はあ……」
それでも主人公の思いはまっすぐで純粋であり、紆余曲折を経ながらも主人公に感化されたヒロインが結ばれていく……という物語は笑いあり泣きありの感動ストーリーで、プレイ中の俺もラストシーンは号泣したもんだ。あと、えっちなシーンが多い。えっちなシーンが多い。*5
「また出た、キョウマの主人公語り」
「俺なんて足元にも……いや、月とミジンコくらいの差はあるからな」
「やってることはキョウマの方が十分主人公でしょ」
「俺は真似事をしてるに過ぎねぇよ。ズルもしているしな」
……もう3年前の話か。
中学で聖カトレアに入学した俺は周囲のヒロインの存在から主人公と同年齢であることにすぐに気づいた。
しかし、主人公は高校の中途編入組であり、原作もそこから開始である。聖カトレアは8割方は内部進学生のため、ユリノワのヒロインもほとんどが中学もここであり、当時の俺のクラスにも何人ものヒロインが居た。まあだからといって接触する気はさらさら無く、壁となり百合を摂取するだけの存在になる気だったが……
気になることがあった。原作には『中学で些細な勘違いから大喧嘩し疎遠になり、高校になって主人公の協力もあってなんとか復縁した百合カップル』が居た。見る側としては胸が苦しいだけで終わりだが、いざ端の端とはいえ舞台に立つと、それだけではなかった。
……見てしまったのだ。喧嘩した後、一人で泣くヒロインの姿を。
その瞬間、俺は走り出した。ここで『3年後主人公が助けるから』と見て見ぬふりは、俺にはできなかった。別に「先の展開を知っている俺なら全部うまくやれる」とか驕っていたわけではない。ただ、「女の子が悲しんでいて、それが全て勘違いだと知っている」走り出す理由はそれだけで十分だった。
俺のやり方は、どこまでもまっすぐな主人公とは真逆の、ヒロインの性格を利用したズルく汚いやり方だったが……結果的に二人は直ぐに復縁した。
元々ただの勘違いだったし、「俺の介入要らなくね?」と思うほどあっさり終わったが、原作を改変したことにはそんなに後悔しなかった。むしろ、やり方は違えど「主人公ならこうなるようにする」と思えて、ちょっとだけ誇らしかったりする。無論、以降あの二人には俺から一切の接触をしていない。*6
「……そういうとこがさぁ」
「え、さっきからブツブツ何言ってん? 男の小声デレとか需要ねぇぞ?」
「……るさい。で、その主人公ちゃんがそろそろこの高校に来るんだっけ?」
「ああ、俺の予想*7だとB組で間違い無いだろうな」
主人公が4月中に転校してきたのは間違いないので、そろそろ来るはずである。てか来てくれないと困る。*8
半分くらいは自分に言い聞かせるように呟くと、高校に入ってから1ヶ月弱に渡り延々と俺の「主人公のここが凄い!」を聞かされてきた目の前の奴は半信半疑の目で疑問を呈した。
「……ほんとに来るの? そんな君の言う超人みたいな子がさ」
「……嫉妬か?」
「ち、ちがっ「やめろ、お前じゃ主人公様の足元にも及ばねえよ、絶対に『主人公の代わりに俺が』とか出しゃばるなよ? 男ならできるよな? いいな? 絶対だぞ」
「………………はぁ、これだからキョウマは」
別に「男は女と付き合うな!」とかいう過激な思考を持っているわけではないが、原作の百合カップルに男が混入するのは無理、断固拒否で徹底抗戦の構え。是非とも目の前のやつは俺が知らない他の女の子と幸せになって欲しいものである。
「ま、気になる相手ができたんなら、相談くらいには乗るぜ」
「…………キョウマなんて百合の間に挟まればいいんだよ。名前も『挟間』だし」
「おま、それだけは言っちゃいけねぇだろうがっ!」
「き、気安く肩に触るな!」
「訂正しろ! するまで一向に放さんっ!」
「ゆーすーるーなーっ!」
「はーい、みんな席について……そこ、HR始めるからイチャつかないで。終わってからにしなさい」
地雷を踏み躙りやがったこの男を折檻していると、このクラスの担任教師(原作ではモブキャラ)が教室に入ってきた。
「い、イチャついてにゃんか……」
「はいはーい」
注意されたのはもちろん俺たちのことであり、目の前のやつが顔を真っ赤にして怒っているのを見た俺は素直に教師の方を向く。ちなみに俺とコイツは前後の席で俺が前側である。
でも噛んだのは後で指摘したろ。あいつの怒った顔おもれーし。
しかし、
「今日は、このクラスに転校生が来るの。もちろん女の子よ」
そんな呑気な俺の思考は、教師の一言で一瞬で吹き飛んだ。
聖カトレア学園は私立だけあって転校生が来るなんて滅多にない。高校で編入する生徒は除いてな。理由はもちろん知っているが、今はいいか。とにかく珍しいであり、教室はざわつき出し、後ろのやつからは「え、嘘ほんとに……」と息を呑む音が聞こえてきた。ま、コイツからしたら俺の発言はほぼ未来予知だしな。
「はいはい静かに……は無理よね。じゃ、入ってきて」
「はぁーい」
教室の外から可愛らしく元気な声がドア越し聞こえると、ドアがガラガラと軽快に開いて一人の少女がB組に入ってきた。緊張した様子は一切なく、彼女はスキップするような足取りの軽さで教師の横に立って生徒の方を向く。
ピンクのツインテールに綺麗な目、彼女は教室を見渡しながら幼さと可愛らしさを残しつつも可憐な笑顔を浮かべていた。
(さすが主人公様かわいいな、おい)
あれだけざわついていた教室は静かになり、皆が彼女に見惚れている。かくいう俺自身も何も知らなかったらただただ口を開けて魅了されていただろう。
「初めまして、
彼女は見た目に負けず劣らずの鈴が転がるような綺麗な声で告げた。
……主人公の見た目と声に騙されたヒロインの末路(笑)を知っている俺でさえ墜ちかけたのだ。一瞬の空白の後、教室は(男子を除き)大騒ぎ状態になり、HRを諦めた担任は「後は好きにして」と言わんばかりに教室の隅にある教師用の椅子に腰を下ろした。
そこからは「彼女は何人いたの?」という定番質問から始まる(この世界の)質疑応答の時間となり(ちなみに恋ヶ崎は「いたことない」と答えてさらに盛り上がった)、質問タイムはHR終了のチャイムまで続いた。こうなることを予見していただろう教師は原作と同様にHRの内容を黒板に紙で貼り付けて、「恋ヶ崎さんは教材とか渡すから、職員室来てね。誰かに手伝いを頼んでもいいわよ」と言い残して教室を去った。
「来たか…」
さてこの場面、原作では教師が言ったように恋ヶ崎は選択肢からヒロイン誰かに手伝いを頼むことができ、最初の選択肢かつ後のストーリー分岐に関わるところである。
そのため、彼女が誰を選ぶのか、はたまた一人で行くのか……どこか『他人のゲームプレイ動画』を眺めるようなドキドキワクワクな気分で見守っていると……
「ねぇ、さっきの聞いてたでしょ?」
担任のセリフを聞いた彼女は、事前に決めていたかのような迷いのない足取りで教室内を歩き進め、一人の前で立ち止まった。
「教材を運ぶ手伝い、お願いしてもいいかな?
「…………は?」
は?
この後の展開どうなるのか一番気になってるのは作者です
プロットなんかねえよ