美少女たちが金を払えば耳かきをしてくれる。しかも好感度が高い 作:三重知貴
――大人になるということは、諦めることの連続だ。
私、蓮見響子(はすみ きょうこ)、28歳。職業、高校教師。担当教科は化学。世間一般から見れば、堅実で、立派な職業かもしれない。親戚の集まりでは「先生」と呼ばれ、それなりの敬意を払われる。
でも、実態はどうだ。朝から晩まで生徒の生活指導、部活の顧問、終わらない書類作成、モンスターペアレンツの対応。家に帰ればコンビニ弁当と缶ビールで胃を満たし、メイクを落とす気力もなくソファで寝落ちする日々。「先生、彼氏いないの?」「先生、その服また着てる」「先生、なんか疲れてる?」
無邪気で残酷な生徒たちの言葉が、ボディブローのように心を削っていく。キラキラと輝く青春を謳歌する彼らを見ていると、自分がひどく色褪せた、消費期限切れの存在に思えてくる。
恋愛? 結婚?そんなものは都市伝説だ。休日に合コンに行く体力があるなら、私は泥のように眠りたい。誰かと愛を育むなんて面倒なプロセスを踏むくらいなら、一人でYoutubeを見ながら柿の種を齧っている方がマシだ。
そうやって、私は自分の殻に閉じこもった。「残念な美人」「干物女」「やる気のない教師」。そんなレッテルを甘んじて受け入れ、理科準備室という薄暗い穴蔵で、世間の光から目を背けて生きてきた。
これでもう、いいと思っていた。このまま静かに枯れていき、いつか孤独死しても、それはそれで私の人生らしいと。
けれど。そんな私の乾ききった日常に、劇薬のようなノイズが紛れ込んできた。
あの子だ。
最初は、ただの生徒の一人だった。特に成績が良いわけでも、悪いわけでもない。目立つタイプでもない。ただ、妙に人懐っこくて、私のこの気怠い態度を怖がることもなく、フラリと準備室に現れる変わった子。
彼が私のテリトリーに入り込んでくるたび、私は少しだけ戸惑い、そして安堵していた。彼は私に「教師としての正しさ」を求めない。私がタバコを吹かしていても(電子タバコだけど)、机の上に足を投げ出していても、「先生、だらしないっすね」と笑うだけだ。
その「肯定」が、心地よかった。社会人としての仮面を脱ぎ捨てられる、唯一の相手。
でも、それも所詮は「教師と生徒」という枠組みの中での戯れだと思っていた。彼が卒業すれば終わる関係。そう割り切っていたはずなのに。
今日、彼はその境界線を、土足で踏み越えてきた。
◆
放課後の理科準備室。西日が差し込み、埃が舞う気怠い時間帯。私が「帰りたい」という煩悩と戦っていると、彼はやってきた。
その顔を見て、私はすぐに察した。ああ、この子は「満たされている」と。顔色が良く、表情が緩み、どこか夢見心地な雰囲気。まるで、極上のフルコースを食べてきた直後のような、満足感に満ちたオーラ。恐らく、他の誰かと遊んできたのだろう。生徒会室か、部室か、図書室か。どこかの可愛い女子生徒と、青春の1ページを刻んできたに違いない。若いっていいわね、と鼻で笑おうとした。
けれど。彼は私の前に立ち、財布の中身をぶちまけた。
バシッ。デスクの上に広がる千円札。七千円。
……は?思考が停止した。七千円。社会人の私にとっては、飲み会1回分、あるいはちょっと良い化粧水1本分の金額だ。だが、高校生の彼にとっては?彼の財布はペラペラだ。小銭入れすら軽そうだ。つまり、これは彼の「全財産」。
彼は何も言わず、耳と、私の膝を指差した。
――全財産を払ってでも、私の膝枕がいい。――青春のキラキラした女子たちと遊んだ後、最後の締めに、私を選んだ。
その意味を理解した瞬間、背筋に電流が走った。バカじゃないの。本当に、救いようのないバカだ。
普通、高校生なら、そのお金で彼女とデートしたり、ゲームを買ったりするでしょう。それを、こんな疲れ切ったアラサー教師の、硬いパイプ椅子と埃っぽい部屋に投資するなんて。
でも。そのバカらしさが、どうしようもなく私の胸を打った。
彼は求めているのだ。若さゆえの輝きや、将来への希望なんかじゃない。私のこの「気怠さ」を。「ダメな大人」の、澱んだ空気を。
「……はぁ。あんたも物好きねぇ。」
ため息をつきながら、私はお金をポケットにねじ込んだ。拒否する理由なんてない。むしろ、私が彼を求めていたのかもしれない。私のこの空っぽの心を埋めてくれる、都合のいいぬくもりを。
◆
鍵をかけさせ、ブラインドを下ろす。理科準備室は、一瞬にして共犯者たちの密室へと変わる。
仮眠用のソファに座り、私は白衣の裾を広げた。どうぞ、ここがあなたの墓場よ。そんな皮肉を込めて太ももを叩くと、彼は待ってましたとばかりに頭を沈めてきた。
重い。骨格のしっかりした、男の子の頭の重み。生徒の体に触れるなんて、教師失格だ。教育委員会に知られたら一発アウト。でも、今の私は教師じゃない。ただの、疲れた女だ。
私の太ももは、女子高生みたいに張りがないかもしれない。運動不足で、少し柔らかすぎるかもしれない。でも、彼は「ここが最高だ」と言わんばかりに、深く息を吐いてリラックスしている。
……可愛い。悔しいけれど、可愛いと思ってしまう。
こんな無防備な姿、教室では絶対に見せないくせに。私の前でだけ、鎧を脱いで、ただのオスになる。その事実が、私の干からびた自尊心を潤していく。
耳かき棒を受け取り、私は彼の耳に触れた。熱い。体温が高い。生命力が溢れている。
私はわざと、雑に扱った。頭を鷲掴みにし、ガシガシと遠慮なく掻く。丁寧にやってあげる義理なんてない。これは奉仕じゃない。私のストレス解消であり、彼への「教育」だ。
大人の女は、優しくないのよ。理不尽で、気まぐれで、面倒くさいの。それでもいいなら、好きにしなさい。
そんなメッセージを込めて、私は耳の奥をグリッと突く。彼はビクッと反応するけれど、嫌がる素振りはない。むしろ、その刺激を楽しんでいるようですらある。ドMか。変態か。まったく、将来が心配になるわ。
ふと、彼を見下ろす。私の白衣に包まれて、安らかな顔をしている。
……ねえ。あんた、今日はいろんな子に会ってきたんでしょ?匂いを嗅がなくてもわかるわよ。あんたのその、満ち足りたような、それでいてまだ飢えているような目を見れば。
白鷺さん? 早瀬さん? それとも1年のアイドルちゃん?きっと、若くて可愛い子たちに囲まれてきたんでしょうね。ピチピチの肌と、キラキラした笑顔に癒やされてきたんでしょう。
普通なら、そこで満足して家に帰るはず。なのに、なんでここに来たの?なんで、最後が私なの?
答えは簡単だ。あんたも、「こっち側」の人間だからよ。光の世界だけじゃ息が詰まる。清く正しい関係だけじゃ物足りない。だから、この薄暗い準備室に、毒を借りに来た。
「……成分分析完了。結論、あんたはとんでもない女たらしのド変態ね。」
軽口を叩いてみる。彼は否定しない。その図太さが、たまらなく好きだ。
私だって、立派な大人なんかじゃない。結婚にも仕事にも疲れて、逃げ場所を探しているだけの、弱くてズルい女。あんたと同じよ。
耳かきを動かす指先が、自然と優しくなる。さっきまでの乱暴さが嘘のように、甘く、ねっとりと粘膜をなぞる。ねえ、知ってる?耳の中って、すごく無防備で、大事な場所なのよ。そこを他人に委ねるってことは、命を預けるのと同じこと。
私は今、あんたの平衡感覚も、聴覚も、快楽も、全部握っている。私がその気になれば、あんたを壊すことだってできる。そのスリルを、あんたは楽しんでいるんでしょう?
……いい性格してるわね。気に入ったわ。とことん、ダメにしてあげる。
私の太ももから逃げられないように。私のこの、薬品とコーヒーの染み付いた匂いなしでは眠れないように。徹底的に、依存させてあげる。
それが、七千円を受け取った私の責任(けじめ)よ。
◆
彼が寝息を立て始めた。本当に寝るなんて、度胸があるというか、危機感がないというか。私は耳かき棒を入れたまま、手を止めた。彼の顔にかかった髪を払う。若い肌。長いまつ毛。触れた指先から、熱が伝わってくる。
これが若さか。これが未来ある少年の輝きか。
本来なら、私は彼を正しい道へ導くべき教師だ。「こんなところで油を売ってないで、勉強しなさい」と叱って、教室へ追い返すのが正解だ。
でも、私は動かない。彼を起こさない。自分の欲望のために、彼の時間を奪う。
「……どうせ暇だし。このまま寝ちゃおうかしら。」
言い訳を口にして、私は彼の上に覆いかぶさるようにして目を閉じた。彼の匂い。他の女の残り香なんて、もうどうでもいい。今、彼は私の白衣の中で、私の匂いに包まれて眠っている。それが全てだ。
私の鼓動と、彼の鼓動が重なる。理科準備室の静寂の中で、二つの命が溶け合っていくような錯覚。ああ、なんだろう。すごく、安心する。
独りじゃないって、こういうことなのかな。誰かに必要とされて、誰かを必要とするって、こんなに温かいものなのかな。
たとえそれが、金銭で結ばれた歪んだ関係だとしても。たとえそれが、社会的に許されない背徳的な行為だとしても。今この瞬間、私の心満たされている。
……もう、離してあげないわよ。あんたは私の、最高の「クッション」であり、「暇つぶし」であり、そして「共犯者」なんだから。
卒業するまで?ううん、卒業してからも。あんたが大人になって、社会の波に揉まれて、疲れてボロボロになった時。帰ってくる場所は、ここよ。私がいつでも、このだらしない体と、冷えたビールで迎えてあげる。
「……一緒に腐っていきましょうね。」
誰にも聞こえない声で囁いて、私は意識を手放した。夢を見るなら、彼と一緒がいい。石油王との結婚なんて、もうどうでもよくなった。目の前に、こんなに可愛い、私だけの全財産(パトロン)がいるんだから。
◇
チャイムが鳴り、目が覚める。夢のような時間は終わり、現実に引き戻される。でも、喪失感はない。彼が置いていった七千円が、ポケットの中で確かに存在を主張しているから。そして何より、彼が「また来る」という確信があるから。
彼を見送る私の顔は、きっと以前のような死んだ魚の目ではないはずだ。少しは、潤いのある「女の顔」ができているだろうか。
「……またエネルギー切れたら、充電させなさいよ。」
それは彼への言葉であり、私自身への言葉でもあった。彼が去った後の理科準備室。私は冷蔵庫から缶ビールを取り出し、プシュッと開けた。一口飲む。いつもの安っぽい味だ。でも、今日は最高に美味い。
「……乾杯。」
誰もいない部屋で、グラスを掲げる。私の新しい、秘密の生活に。そして、愛すべきバカな教え子(カモ)に。
さあ、明日はどんな実験をして遊ぼうかしら。化学反応は、まだ始まったばかりだ。
豆知識 ダメな大人なら生徒と寝てもOK、ダメな大人だから
ここから先の展開について、どういう方向性が見たいかのアンケートです。参考程度なので確定ではないです。
-
このままヒロインを増やし続ける
-
主人公取り合いルート(親友視点)
-
主人公取り合いルート(ヒロイン視点)
-
各ヒロインルート書く