美少女たちが金を払えば耳かきをしてくれる。しかも好感度が高い   作:三重知貴

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ギャル・逢坂りな。耳かきパート。

 

 

 

 「1日1人」。この鉄の掟を自らに課したことで、僕の視界は劇的にクリアになった。複数の美少女を渡り歩く「ハシゴ」は、確かに背徳的な快楽をもたらすが、それはファストフードのドカ食いにも似た、味覚の麻痺を招く行為だった。真の美食家(膝ソムリエ)たるもの、一皿の料理(美少女)と数時間向き合い、その香り、温度、そして魂の形までをも味わい尽くすべきなのだ。

 

 昨日の鳴海ゆずとの時間は、まさに革命だった。一人の相手と深く関わることで見えてくる、隠された素顔。その余韻は、一晩明けた今もなお、僕の心を温かく満たしている。

 

 そして今日。バイト代という名の莫大な軍資金(弾薬)をポケットに、僕は次なる「癒やし」を求めて校舎を彷徨っていた。財布の中には、諭吉たちがスクラムを組んで待機している。金はある。時間もある。身も心も清浄だ。

 

 今日の僕が求めるテーマは、「極上の甘み」と「視覚的な暴力(褒め言葉)」の融合だ。静謐な図書室や、ストイックなグラウンドではない。もっとこう、脳が溶けるような、人工甘味料と極彩色に彩られた、ポップでハッピーな空間。そして、見た目は派手で攻撃的なのに、中身はとろけるように優しい……そんな「ギャップ萌え」の極致。

 

 甘い匂いに誘われるように、僕は家庭科室の前へと辿り着いていた。ドアの隙間から、バニラエッセンスと焼き菓子の芳醇な香りが漂ってくる。僕は深呼吸をし、意を決してその扉を開けた。

 

 そこにいたのは、お菓子作りには似つかわしくない、褐色の天使だった。

 

 家庭科部、逢坂りな(あいさか りな)。2年生。

 

 明るく脱色されたミルクティーベージュの巻き髪。制服の着こなしは校則の限界(あるいは突破)に挑んでおり、短く詰めたスカートからは健康的な太ももが覗き、足元はルーズソックス。カーディガンは萌え袖。そして何より目を引くのは、その指先だ。キラキラと輝くラインストーンや3Dパーツで装飾された、長い長いスカルプネイル。

 

 一見すれば、渋谷のセンター街にいそうな、典型的な「ギャル」だ。だが、今の彼女はフリルのついたエプロンを身に着け、その長い爪を器用に使いこなしながら、真剣な眼差しでオーブンの中を覗き込んでいた。

 

 「優しいギャル」。「家庭的なギャル」。この世に存在する矛盾の中で、最も尊い組み合わせ。クラスの男子たちは彼女の見た目に尻込みしているが、僕は知っている。彼女が誰よりも情に厚く、そして面倒見が良い「オカン属性」を秘めていることを。

 

 僕は音もなく彼女の背後に近づいた。りなは、焼き上がったクッキーを天板ごと取り出し、ふぅ、と満足げに息を吐いたところだった。彼女が振り返り、僕と目が合う。つけまつげがバサバサと瞬き、カラーコンタクトを入れた大きな瞳が丸くなる。

 

「……あ! やっほー☆ どしたの? 迷子?」

 

 明るい声。裏表のない、太陽のような笑顔。僕は無言で首を横に振り、懐から「誠意」を取り出した。

 

 一万円札。今日も今日とて、諭吉の登板だ。昨日のゆずと同じく、この一枚に全ての覚悟を込める。

 

 僕は一万円を彼女の目の前に掲げ、自分の耳を指差し、次に彼女の膝――ルーズソックスとスカートの間の絶対領域――を指差した。さらに、周囲に誰もいない家庭科室のソファスペースを視線で示す。

 

 言葉はいらない。「一万円払う。俺に耳かきをしてくれ。そして甘やかしてくれ」。その強烈な欲望(リビドー)を、瞳の輝きだけで伝える。

 

 りなは一瞬きょとんとし、次の瞬間、ケラケラと笑い出した。嘲笑ではない。本当に面白がっている笑いだ。

 

「あははは! ウケるんだけど! なにそれ、カツアゲ? ……じゃなくて、アタシに貢いでくれんの? しかも耳かき? マジで?」

 

 彼女は粉のついた手をタオルで拭きながら、僕の顔を覗き込む。甘い匂いが鼻先を掠める。

 

「てか、一万とか高すぎっしょ! きみ、そんな金あんの? ……あ、もしかしてバイト代入った系? それでアタシをご指名とか、センスありすぎ~!」

 

 彼女は嫌がる素振りを微塵も見せない。むしろ、僕の突飛な行動を「面白いイベント」として受け入れている。この懐の深さこそが、ギャルの真骨頂だ。

 

「いーよいーよ! ちょうどクッキー焼けたし、休憩しようと思ってたとこだし! お客さん第一号ってことで、特別にサービスしたげる!」

 

 りなは僕の手から一万円を軽やかに抜き取ると、それをエプロンのポケットに突っ込んだ。

 

「あ、これ部費にするからね! 新しい材料買いたかったんだよね~、神かよ!」

 

 彼女は僕の手を引き、家庭科室の隅にあるソファスペースへと連れて行った。そこは、彼女が持ち込んだであろう派手なクッションやブランケットが置かれた、彼女専用のくつろぎ空間(チルスポット)だった。

 

「ほら、座りな! ……あ、膝枕がいいんだっけ? りょ! 任せて!」

 

 りなはソファに座ると、足を広げ、自分の太ももをパンパンと叩いた。その仕草には、恥じらいというよりも、頼もしさすら感じる。僕は靴を脱ぎ、その極彩色の聖域へと頭を預けた。

 

 ――甘い。そして、柔らかい。

 

 頭を乗せた瞬間、世界がバニラの香りに包まれた。彼女のエプロンから、カーディガンから、そして肌そのものから漂う、砂糖菓子の香り。太ももの感触は、運動部の理緒のような弾力とも、図書委員の静のような華奢さとも違う。もちもちとした、適度な肉付き。ルーズソックスのたわみが首筋に当たり、ふわふわとした感触が心地よい。

 

 そして、視界いっぱいに広がる「ギャル」。派手なメイク、大きなピアス、金色のネックレス。見上げると、りながニカッと笑って僕を見下ろしていた。

 

「んじゃ、やるよ~! ……あ、待って、これジャマだね」

 

 彼女は首から下げていたネックレスを外し、サイドテーブルに置いた。そして、ポケットからスマホを取り出し、ライトを点灯させる。

 

「アタシのネイル、長いから気をつけてね~。刺さったらゴメン☆ なんつって!」

 

 彼女が手をかざす。視界に飛び込んでくる、凶器のような長さの爪。先端が鋭く尖り、ジャラジャラとパーツがついている。普通なら恐怖を感じる場面だ。眼球を突かれるのではないかという本能的な恐れ。

 

 だが、僕は動じない。なぜなら、その爪の動きが驚くほど繊細だからだ。彼女はお菓子作りや裁縫をこなす家庭科部員。この爪は「障害」ではなく、彼女の一部として完全に制御されている。

 

 りなは僕の耳かき棒(マイセット)を受け取ると、小指を立ててバランスを取りながら、ゆっくりと耳穴へアプローチを開始した。

 

「……ん、入るよ~。痛かったら言ってねん」

 

 スッ。侵入してくる感触。長い爪が耳介に触れる。冷たくて硬いパーツの感触と、温かくて柔らかい指の腹の感触が交互にやってくる。カチャ、カチャ、と爪同士が触れ合う音が、ASMRのように響く。

 

「……あー、耳ん中キレイじゃん。掃除してんの?」

 

 ドキリとした。だが、彼女は深く追求してこない。「前の女の影」を探るような湿っぽさは、彼女にはない。ただ目の前の「今」を楽しむ。それがギャル・スタイル。

 

「でも、奥の方ちょっと残ってるかも。……よし、アタシが取ってやるから、じっとしててね~」

 

 彼女の手つきは、見た目に反して慈愛に満ちていた。カリカリ、と優しく壁面をなぞる。「よしよし」「いいこいいこ」とあやすようなリズム。

 

 僕は目を閉じ、その快感に身を委ねた。バニラの香り。カチャカチャという爪の音。そして、時折聞こえる彼女の鼻歌。

 

 「優しいギャル」。この破壊力は凄まじい。見た目は派手で、言葉遣いも軽い。けれど、その本質は「母性」だ。困っている人を放っておけない、世話焼きの精神。今、彼女は僕を「金づる」としてではなく、「疲れた迷子」として扱っている。

 

「……君ってさー。なんか疲れてんの? 最近、目の下クマすごくない?」

 

 耳かきを動かしながら、りながポツリと言った。声のトーンが、いつもの高い「アゲ」な感じから、少し落ち着いた優しい色に変わる。

 

「男の子もさ、大変だよね~。勉強とか、部活とか、人間関係とか? いろいろあるっしょ」

 

 彼女の左手が、僕の前髪を梳く。長い爪が、頭皮を優しく刺激する。

 

「アタシでよかったらさ、いつでも愚痴聞くし。……こうやって、甘やかしてあげるからさ」

 

 僕は何も言わず、ただ頷くことしかできなかった。肯定される。全肯定される。図書委員の静のような「管理」でも、ましろのような「支配」でもない。ただ、隣にいて、背中をさすってくれるような温かさ。

 

 彼女は僕の孤独や、歪んだ欲望さえも、「ま、いっか! 生きてるだけで偉いし!」と笑い飛ばしてくれている気がした。

 

「……お、取れた! デカいのゲット~! 見る? 見る?」

 

 りなは耳かき棒の先端を目の前に突き出してきた。無邪気な笑顔。さっきまでの母性モードから一転、宝物を見つけた子供のような顔。この切り替えの早さが、彼女と一緒にいて飽きない理由だ。

 

 僕は親指を立てて「ナイス」のサインを送った。りなは「でしょ~!」とVサインを返す。

 

 楽しい。ただ耳かきをしているだけなのに、なんだかパーティーをしているような高揚感がある。極彩色のネイル、甘い香り、明るい笑顔。僕の視界も、心も、彼女色(パステルネオンカラー)に染まっていく。

 

 反対側の耳へ移るため、体勢を変える。今度は彼女のお腹の方へ顔を向ける。エプロン越しに、彼女の体温と鼓動を感じる。 「……あ、こっち向くと、アタシの顔ドアップじゃん。……化粧崩れてない? 大丈夫そ?」

 

 彼女は気にしているが、崩れるどころか完璧だ。長いまつ毛の一本一本まで、芸術的にカールしている。彼女は「美」に対してもストイックだ。毎日早起きして、時間をかけてメイクをして、自分を武装している。その努力の結晶を、こんな至近距離で拝めるなんて。

 

 一万円?安すぎる。この空間チャージ料だけで、もっと払うべきだ。

 

 カリ、カリ。反対側も、優しいリズムで掃除されていく。僕はまどろみの中で、幸せを噛み締めていた。派手な見た目に反した、繊細な技術。軽い口調に隠された、深い思いやり。逢坂りな。彼女こそ、現代に舞い降りた、ギャルの皮を被った聖母(マリア)だ。

 

 ◇

 

 至福の時間はあっという間に過ぎた。耳の中はスッキリとし、心は砂糖漬けになったように甘く満たされていた。僕はソファから起き上がり、名残惜しくも身支度を整えた。

 

 りなはスマホのライトを消し、ニッと笑った。

 

「おつかれ~! ど? スッキリした?」

 

 僕は大きく頷き、両手で最大の感謝を示した。りなは満足そうに頷くと、立ち上がってオーブンの方へ向かった。

 

「あ、待ってて! これ、持ってきなよ!」

 

 彼女は可愛らしいラッピング袋に入ったクッキーを数枚、僕に手渡してくれた。さっき焼いていたやつだ。まだほんのりと温かい。

 

「サービスのおまけ! アタシの手作りだし、味は保証するよん☆ 疲れたときは糖分補給っしょ!」

 

 一万円を受け取った上に、お土産までくれるなんて。やはり彼女は神か。

 

「……またさ、疲れたらおいでよ。部費カンパしてくれるなら、いつでも膝貸すし!」

 

 りなはウインクをして、僕の背中をバンと叩いた。

 

「んじゃ、気をつけて帰んなよ~! バイビー!」

 

 明るい声に見送られ、僕は家庭科室を出た。廊下に出ても、まだ鼻の奥にはバニラの香りが残っている。手には温かいクッキー。耳には、彼女の明るい笑い声が残響している。

 

 家庭科部、逢坂りな。彼女との時間は、まるで遊園地のアトラクションのようでありながら、実家のような安心感もあった。「1日1人」。このルールのおかげで、僕は彼女の「ギャップ」と「優しさ」を、骨の髄まで堪能することができた。

 

 僕は廊下を歩きながら、クッキーを一つ口に放り込んだ。サクッとした食感とともに、バターの風味が広がる。甘い。とろけるように甘い。それはまさに、彼女そのもののような味がした。

 

 ……さて。明日は誰に癒やされようか。この調子で、一人ひとりとの時間を大切にしていこう。僕の学園生活(耳かきライフ)は、ますます充実の一途を辿っている。




豆知識・☆つければ多分ギャル

ここから先の展開について、どういう方向性が見たいかのアンケートです。参考程度なので確定ではないです。

  • このままヒロインを増やし続ける
  • 主人公取り合いルート(親友視点)
  • 主人公取り合いルート(ヒロイン視点)
  • 各ヒロインルート書く
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