美少女たちが金を払えば耳かきをしてくれる。しかも好感度が高い   作:三重知貴

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ギャル・逢坂りな。ラブコメパート。

――人は見かけが9割、なんて言うけれど。あとの1割をちゃんと見てくれる人なんて、この世にどれだけいるんだろう。

 

 私、逢坂りな(あいさか りな)は、いわゆる「ギャル」だ。髪はブリーチで明るくして、毎朝1時間かけて盛ったメイクをして、スカートは限界まで短くして、足元はルーズソックス。爪だって、生活に支障が出るレベルのスカルプをガッツリつけて、キラキラにデコってる。

 

 これが私の武装。これが私の戦闘服。「舐められたくない」とか「可愛くありたい」とか、いろんな気持ちのごった煮だ。

 

 でも、世間の目は冷たい。廊下ですれ違う先生たちは眉をひそめるし、地味めな女子たちは「怖っ」って顔をして避けていく。男子なんて、遠巻きに見てくるか、変な下心でニヤニヤしてくるかのどっちか。

 

 「家庭科部? 似合わねー」「どうせ食べる専門でしょ?」「爪、料理に入りそうで汚くない?」

 

 そんな陰口、数え切れないほど聞いてきた。うるさいなぁ。私だって、料理くらいするし。むしろ大好きだし。この爪だって、毎日ちゃんとケアして清潔にしてるし、料理するときは手袋だってするし、邪魔にならないような所作だって身につけてる。

 

 誰も、本当の私なんて見てない。派手なパッケージだけ見て、「中身もジャンキーなんでしょ」って決めつけてくる。

 

 ……別にいいけどね。わかってくれる人だけ、わかってくれれば。私の作ったクッキーを「うまっ!」って食べてくれる部員の子たちがいれば、それで十分。

 

 そう思って、私は今日も放課後の家庭科室に引きこもる。ここは私の聖域(サンクチュアリ)。甘いバニラの香りと、オーブンの熱気だけが、私を優しく包んでくれる場所。

 

 でも。最近、この聖域に迷い込んでくる、変わったお客さんがいるんだよね。

 

 ◆

 

 オーブンからクッキーを取り出したタイミングだった。香ばしい匂いと一緒に、彼が現れた。

 

 また来た。私のこと「怖がらない」数少ない男子。

 

 彼はいつもフラッと現れて、私の作ったお菓子を食べていったり、くだらない話をしていったりする。私の派手な見た目を見ても引かないし、私の爪を見ても「すげーな、どうなってんのそれ」って純粋に驚くだけ。偏見のない目。それが心地よくて、私は彼のことを「常連さん」認定していた。

 

 でも、今日の彼はちょっと違った。

 

 なんか、気合が入ってるっていうか……目がマジだ。彼は無言で、懐からお札を取り出した。千円じゃない。一万円。諭吉さんが、こんばんはしてる。

 

 ……は?一万?高校生のお財布事情的に、それってヤバくない? 全財産レベルじゃない?それを、惜しげもなく私の前に掲げてくる。

 

 彼のジェスチャーはシンプルだった。自分の耳を指差し、私の膝を指差し、そして誰もいないソファを指差す。

 

 ――耳かき。――膝枕。――そして、全力の甘え。

 

 その意味を理解した瞬間、私は吹き出しそうになった。なんなの、それ!カツアゲの逆? 貢ぎ物?「一万円払うから、俺を癒やせ」って?

 

 普通なら「キモっ」てなる場面かもしれない。でも、不思議と嫌な感じはしなかった。だって、彼の目は真剣そのものだったから。いやらしい目つきじゃなくて、もっと切実で、必死で、まるで砂漠でオアシスを見つけた旅人みたいな目。

 

 それに、気づいちゃったんだよね。今日の彼、なんかスッキリしてる。いつもなら、いろんな場所をウロウロしてる気配があるのに、今日は「私一本」に絞って来ました、みたいな潔さがある。寄り道しないで、真っ直ぐここに来たんだ。

 

 ……ふーん。いいじゃん。その「本気」、買ってあげようじゃないの。

 

 私は彼の手から一万円を抜き取った。お金が欲しいわけじゃない。でも、これは彼の「覚悟」だ。受け取らないのは野暮ってもんでしょ。部費にして、みんなのために高いバターでも買ってやろう。

 

 私は彼の手を引き、いつものソファスペースへ連れて行った。ここは私が持ち込んだクッションで埋め尽くされた、最強のリラックス空間。さあ、座りなさい。迷える子羊くん。ギャル流の「おもてなし」、たっぷり味わわせてあげるから。

 

 ◆

 

 ソファに座り、足を広げて太ももを叩く。「ここにおいで」の合図。彼は迷いなく、私の膝に頭を預けてきた。

 

 ずしっ。重い。男の子の頭って、結構重いんだよね。ルーズソックス越しに伝わるその重みが、なんだか愛おしい。

 

 見下ろすと、視界いっぱいに彼の顔がある。無防備。完全にリラックスしきってる。普段、教室では見せないような、とろけた顔。

 

 ……やば。なんか、母性くすぐられるんですけど。よく見ると、目の下に薄っすらクマがある。疲れてるのかな。勉強? バイト? それとも人間関係?詳しくは知らないけど、男の子には男の子の戦いがあるんでしょ。大変だねぇ、よしよし。

 

 私はネックレスを外して、スマホのライトをつけた。さあ、手術開始(オペカイシ)だ。

 

 私の長い爪が、彼の顔に近づく。キラキラのストーンがついた、凶器みたいな爪。普通なら怖がるよね。「目に入りそう」とか「刺さりそう」とか言って、ビビるよね。

 

 でも、彼は微動だにしない。目を閉じて、私にすべてを委ねている。信頼してくれてるんだ。この爪が、彼を傷つけるためのものじゃなくて、彼を癒やすためのものだって、わかってくれてるんだ。

 

 ――嬉しい。その信頼が、何よりの報酬だよ。

 

 私は慎重に、耳かき棒を操作する。小指を支点にして、ブレないように。お菓子作りで培った繊細な指先の感覚。生地の厚みを感じ取るように、耳の中の凹凸を感じ取る。

 

 カチャ、カチャ。爪が触れ合う音が、静かな家庭科室に響く。バニラの香りと、この音。彼にとっては、これが子守唄みたいなものなのかな。

 

 「……きみってさー。なんか疲れてんの?」

 

 思わず話しかけちゃう。彼は何も答えない。ただ、呼吸が深くなるだけ。それが肯定のサイン。

 

 私は左手で、彼の前髪をかき上げた。長い爪の先端で、頭皮をマッサージするように撫でる。気持ちよさそうに、彼が目を細める。

 

 ……可愛いなぁ、もう。大型犬みたい。普段は強がってるかもしれないけど、根っこは甘えん坊なんだね。

 

 「アタシでよかったらさ、いつでも愚痴聞くし」

 

 これ、本音だよ。私、こう見えて世話焼きだし。困ってる人とか、弱ってる人を見ると、放っておけないタチなんだよね。「お節介なオカン」ってよく言われるけど、それが私だし。

 

 一万円も払って、私の膝で寝たいなんて。そんなの、全力で甘やかしてあげるに決まってるじゃん。悪いこととか、嫌なこととか、全部忘れるくらい、トロトロにしてあげる。

 

 彼の耳の中は、案外綺麗だった。でも、奥の方にちょっとだけ残ってるのを見つけた。獲物発見。私はスナイパーのように狙いを定め、優しく、でも確実にそれを掻き出す。

 

 コロン。取れた。大物ゲット。

 

 「お、取れた! デカいのゲット~! 見る? 見る?」

 

 彼に見せると、親指を立ててくれた。ふふん、でしょ?アタシにかかれば、こんなもんよ。

 

 楽しい。なんだろう、この感覚。彼といると、すごく楽だ。「ギャルらしく」振る舞う必要もないし、「怖がられないように」気を使う必要もない。ただ、ありのままの私で、彼に触れていられる。

 

 派手なネイルも、明るい髪も、全部ひっくるめて「逢坂りな」を受け入れてくれてる。それが、すごく心地いい。

 

 反対側を向いてもらう。今度は、私のお腹の方を向く形になる。近い。私のエプロンに、彼の吐息がかかる距離。

 

 「……あ、こっち向くと、アタシの顔ドアップじゃん」

 

 冗談めかして言ったけど、内心ちょっとドキドキしてる。今日のメイク、大丈夫かな。つけま、浮いてないかな。肌、荒れてないかな。

 

 こんな至近距離で見られるなんて、想定外だよ。でも、彼はずっと私を見てる。その瞳に映ってるのは、「派手なギャル」じゃなくて、「優しい女の子」としての私……だったらいいな。

 

 カリカリと耳掃除を続けながら、私は鼻歌を歌った。流行りの曲。彼も知ってるかな?知らなくてもいいや。今のこの空間のBGMは、私が決めるんだもん。

 

 彼がまどろんでいるのがわかる。私の膝が、彼にとっての安息の地になってる。このまま、時間が止まればいいのに。オーブンの余熱が冷めるまで、ずっとこうしていたいな。

 

 ◇

 

 終わりの時間は、あっけなく来た。これ以上やると、耳を傷つけちゃうからね。引き際は肝心。

 

 彼が起き上がる。ちょっと寝癖がついてる。可愛い。「おつかれ~! ど? スッキリした?」

 

 彼は深く頷いて、拝むようなポーズをした。大げさだなぁ。でも、満足してくれたなら合格点かな。

 

 私は立ち上がり、冷ましておいたクッキーを袋に詰めた。ハートのシールで留めて、彼に渡す。

 

 「サービスのおまけ! アタシの手作りだし、味は保証するよん☆」

 

 一万円のお礼には足りないかもしれないけど、気持ちの問題。「食べて元気出せよ」っていう、私からのエールだ。

 

 彼が嬉しそうにクッキーを受け取る。その笑顔を見て、私は確信した。あ、私、この人のこと好きかも。恋愛的に? 人間的に?まだわかんないけど、少なくとも「特別」な存在にはなってる。他のお客さんとは違う。ただのクラスメイトとも違う。私の中身を見てくれる、大事な人。

 

 「……またさ、疲れたらおいでよ」

 

 私は彼の背中を叩いて見送った。廊下を歩いていく彼の背中。その手には、私のクッキー。耳には、私の声と爪の音の余韻。

 

 ふふ。独り占め完了。今日の彼は、全身「逢坂りな」成分でコーティングされたはずだ。バニラの香りと、私の愛情たっぷりの甘さで。

 

 私はソファにダイブして、彼が座っていた場所のぬくもりを確認した。まだ温かい。ポケットの中の一万円を取り出す。これ、どうしようかな。部費にするって言ったけど……なんか使うのもったいないな。とりあえず、お守り代わりに持っておこうかな。

 

 「……ありがとね」

 

 誰もいない家庭科室で、小さく呟く。あんたのおかげで、私も自信持てたよ。この派手な爪も、お節介な性格も、全部「武器」になるんだって。

 

 次はいつ来るかな。今度は、もっと凄いお菓子、作って待っててあげよう。マカロン? ガトーショコラ?それとも、もっと甘くてとろけるような……私自身?

 

 なんてね。冗談だよ、冗談。……半分くらいは、本気だけどね☆




豆知識・作者はギャルがわからない

ここから先の展開について、どういう方向性が見たいかのアンケートです。参考程度なので確定ではないです。

  • このままヒロインを増やし続ける
  • 主人公取り合いルート(親友視点)
  • 主人公取り合いルート(ヒロイン視点)
  • 各ヒロインルート書く
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