美少女たちが金を払えば耳かきをしてくれる。しかも好感度が高い   作:三重知貴

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幼馴染・如月紗英。ラブコメパート。

――ヒロインレース?そんな子供っぽい争い、私は参加しないわ。だって、ゴールテープは最初から私の手の中にあるんだもの。

 

 私、如月紗英(きさらぎ さえ)は、この物語の構造を誰よりも理解している。学園には、魅力的な女の子がたくさんいる。才色兼備の生徒会長、元気いっぱいの陸上部員、ミステリアスな図書委員、あざとい後輩アイドル、ギャップ萌えのギャル、そしてアンニュイな女教師。みんな素敵だし、個性豊かだし、男の子が夢中になるのも無理はないと思う。

 

 彼――「あなた」も、男の子だもの。目移りしちゃうのは仕方ないわよね。あっちの華やかな花にフラフラ、こっちの甘い蜜にフラフラ。好奇心旺盛で、ちょっと浮気性で、どうしようもない人。

 

 でも、私は焦らない。嫉妬してキキーッとなるのも、必死になってアピールするのも、私の役目じゃない。そんなことをしなくても、わかっているから。

 

 遊び疲れた子供が、最後にお母さんの胸に帰ってくるように。長い航海を終えた船が、必ず母港に錨を下ろすように。あなたは必ず、私のところに帰ってくる。

 

 それは願望じゃなくて、物理法則みたいなもの。10年以上、あなたの隣に居続けた私だけが知っている真理。

 

 だから私は、ここで待っていればいいの。ご飯を作って、お部屋を暖めて、一番居心地の良いクッションになって。あなたが「ただいま」って言うための場所を、守っていればいい。

 

 ほら。今日もまた、いつもの足音が近づいてくる。

 

 ◆

 

 夕方のチャイムが鳴り、少し経った頃。玄関のドアが、ノックもチャイムもなく開けられた。この「無遠慮さ」こそが、私とあなたの距離感。他の女の子の家に行くときは、きっと緊張してインターホンを押しているんでしょう?でも、私の家は、あなたにとって実家の延長みたいなもの。その特別感が、心地いい。

 

 リビングに入ってきたあなたの顔を見て、私はすぐに察した。ああ、今日は「長旅」をしてきたわけじゃないのね、と。

 

 ここ数日のあなたは、どこか忙しなく、いろんな匂い(気配)を纏って帰ってくることが多かった。まるで、ビュッフェで全種類の料理を一口ずつ食べてきたみたいに、興奮と消化不良が入り混じったような顔をしていた。でも、今日は違う。目の色は澄んでいて、どこか憑き物が落ちたような、清々しい顔をしている。そして何より、私を見る目に迷いがない。

 

 あなたは私の前に来ると、正座をして、懐から封筒を取り出した。ずしりと重みのある、厚い封筒。

 

 ……まあ。中身を見なくてもわかる。まとまったお金だわ。あなたはそれを、恭しく私の前に差し出した。

 

 あなたのジェスチャーが、雄弁に語りかけてくる。自分の膝を叩き、私の膝を指差し、そして目を閉じる。

 

 ――全てを捧げるから、癒やしてくれ。――もう遊び疲れたから、俺を元の鞘に納めてくれ。

 

 ふふ。やっぱり、帰ってきた。

 

 他の子たちにも、お金を払っていたのは知っているわ。でも、それは「対価」でしょう?サービスを受けるための、入場料。

 

 でも、これは違う。この封筒の厚みは、そんな即物的なものじゃない。あなたのバイト代の残り、そのほとんど全て。生活費であり、未来への投資であり、私への「全幅の信頼」の証。

 

 「お財布を預ける」って、どういう意味かわかっているのかしら。それはね、もう「家族」と同じなのよ。

 

 私は微笑みながら、封筒を受け取った。中身なんて確認しない。そのまま、リビングの棚にある「二人の貯金箱」へ入れる。カラン、と硬貨じゃなくて、紙幣が重なる静かな音がした。

 

 これでまた、私たちの未来が少し近づいたわね。このお金で、いつか一緒に旅行に行きましょうか。それとも、新しい家具を買いましょうか。想像するだけで、胸が温かくなる。

 

 「……いいわよ。今日は、いっぱい甘えたい気分なんでしょ?」

 

 私はソファに座り、膝を叩いて合図を送った。あなたは待ってましたとばかりに、私の膝へダイブしてくる。

 

 ◆

 

 ずしん、という重み。あなたの頭の形、髪の感触、体温。私の太ももが、それらを記憶しているかのように、ピタリとフィットする。

 

 ああ、しっくりくる。このパズルのピースが埋まる感覚。あなたにとっても、きっとそうでしょう?

 

 他の女の子の膝は、どうだった?筋肉質で弾力があったり、華奢で儚かったり、ムチムチして柔らかかったり。それぞれに良さはあったと思うわ。刺激的で、ドキドキしたでしょうね。

 

 でも、私の膝は「日常」よ。毎日使っている枕のように、着慣れたパジャマのように、あなたの体の凹凸に馴染むようにできている。刺激はないけれど、負担もない。緊張を解いて、100%リラックスできる唯一の場所。

 

 あなたの呼吸が、すぐに深くなる。肩の力が抜けて、重力が全部私にかかってくる。それが嬉しい。あなたの重荷を、私が支えているという実感が、何よりの幸せ。

 

 私はテーブルから、いつもの竹耳かきを手に取った。最新鋭のスコープも、チタン製の高級品もいらない。私には、これと自分の指があれば十分。

 

 そっと耳に触れる。あなたはビクリともしない。他の子のところでは、きっと緊張して身を固くしていたでしょうに。ここでは、無防備な仔猫みたい。

 

 耳かきを入れる。手探りなんてしない。あなたの耳のカーブ、奥行き、敏感な場所。全部、私の指先が覚えているから。

 

 カリッ、サクッ。心地よい音だけを響かせる。あなたは気持ちよさそうに、喉を鳴らすように息を吐く。

 

 ……ねえ、あなた。他のヒロインたちは、あなたの「どこ」を見ていたのかしら?「お金を払ってくれるお客さん」?「面白いおもちゃ」?それとも、「可愛い男の子」?

 

 私は違うわ。私は、あなたの「弱さ」も「ズルさ」も「寂しさ」も、全部見ている。あなたが承認欲求を満たすためにあちこち回っていたことも、結局どこにも満たされずにここへ来たことも。全部お見通しよ。

 

 「……ふふ。お疲れ様、あなた。……毎日、大変だったわね」

 

 髪を撫でながら、私は心の中で語りかける。怒ってないわよ。浮気者が帰ってきたことを、咎めたりしない。

 

 だって、比較対象がいないと、私の良さがわからないでしょう?外の世界の刺激的な味を知ってこそ、毎日のお味噌汁の美味しさが身に沁みるというもの。だから、今回のあなたの冒険は、必要な儀式だったのよ。私という「正解」を再確認するためのね。

 

 耳かきの梵天で、優しく仕上げをする。ふわふわとした感触に、あなたがくすぐったそうに眉を寄せる。その顔、昔から変わらない。5歳の時も、10歳の時も、そして高校生になった今も。私の膝の上で見せる顔は、ずっと同じ。

 

 きっと、10年後も20年後も、あなたはこうして私の膝で甘えるんでしょうね。おじさんになっても、おじいちゃんになっても。そう考えると、なんだか可笑しくて、愛おしくて、胸がキュンとする。

 

 「……ねえ、あなた」

 

 寝返りを打たせて、お腹の方を向かせる。ニットワンピース越しに、あなたの吐息を感じる。私の鼓動、聞こえてるかしら。ドキドキという早いリズムじゃなくて、ゆったりとした、大河のようなリズム。

 

 「どんなに遠くへ行っても、どんなに素敵なものに出会っても……あなたの帰る場所は、ここだけよ」

 

 これは宣言。そして、鎖。見えない首輪を、そっと締め直す。

 

 あなたは心地よさそうに目を閉じている。抵抗する気なんて、さらさらないみたい。それでいいの。あなたは何も考えず、ただ私に愛されていればいい。

 

 外の世界には、敵もいるし、試練もある。でも、この家の中だけは、私が絶対的な味方でいてあげる。甘やかして、ダメにして、骨抜きにして。もう二度と、自分の足で立ち上がってどこかへ行こうなんて思わないように。

 

 私の膝が、世界の全てだと思えるように。

 

 ◆

 

 完全に日が暮れて、お部屋がオレンジ色の照明に包まれる頃。私は耳かきを終えた。

 

 「……はい、きれいになったわよ。あなた」

 

 頬をつつくと、あなたは夢現の様子で起き上がった。まだ焦点が定まっていない瞳。私の毒(愛)が、十分に回った証拠ね。

 

 私はキッチンへ向かう。ここからは、第2ラウンド。「胃袋」の掌握よ。

 

 「今日はハンバーグよ。あなたの好きな、チーズインのやつ」

 

 背中であなたの反応を感じる。嬉しそうな気配。単純で、可愛い人。あなたの好みなんて、私が作ったものなら何でも「好き」になるように調教済みだけど、やっぱり好物を出した時の反応は格別ね。

 

 ジュウジュウと肉が焼ける音。デミグラスソースの香ばしい匂い。これが「幸せ」の音と香り。

 

 あなたは何も言わなくても、食器棚からお皿を取り出してくれる。二つの皿、二つのグラス。その動作が自然すぎて、まるで新婚夫婦の食卓みたい。

 

 ……ううん、「みたい」じゃなくて。これはもう、予行演習なのよ。いつか来る未来の、日常のワンシーン。

 

 私は焼き上がったハンバーグをお皿に盛り付け、振り返った。あなたがテーブルで待っている。その顔は、もう「他所行きの顔」じゃない。完全にリラックスした、私の前だけの「あなたの顔」。

 

 勝ったな、と思う。誰と戦っていたわけでもないけれど。生徒会長の完璧さも、アイドルの輝きも、この「生活感」の前では無力。日常こそが最強のエンターテイメントであり、最終的な到達点なんだから。

 

 「……ふふ。これからもよろしくね、あなた」

 

 お皿を渡すと、あなたは幸せそうに受け取った。その笑顔が見られれば、私はもう何もいらない。

 

 さあ、食べましょう。そして、お腹がいっぱいになったら、また少しお話をして。お風呂に入って、明日の準備をして。「おやすみ」って言って、それぞれの家に帰る。(すぐ隣だけど)

 

 そんな当たり前の幸せを、これからもずっと、死ぬまで繰り返していきましょう。よそ見をしてもいいわよ。どうせ、繋いだ手のひらからは、一生逃げられないんだから。

 

 幼馴染・如月紗英。私はあなたの「始まり」であり、「終わり」でもある女。観念して、一生私に甘え続けなさい。愛しい、愛しい、私のあなた。




豆知識・誰が本命かはまだわからない。ただ作者はヒロイン全ルート作るラブコメが好き

ここから先の展開について、どういう方向性が見たいかのアンケートです。参考程度なので確定ではないです。

  • このままヒロインを増やし続ける
  • 主人公取り合いルート(親友視点)
  • 主人公取り合いルート(ヒロイン視点)
  • 各ヒロインルート書く
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