美少女たちが金を払えば耳かきをしてくれる。しかも好感度が高い 作:三重知貴
世界には二種類の人間がいる。物語の主人公になれる選ばれし者と、その横で「マジかよ」と驚き役を演じるモブキャラだ。
俺、田中健太(たなか けんた)は、後者のプロフェッショナルである。容姿は十人並み、成績は中の中、特技は空気を読むこと。そんな俺の親友であるあいつは、本来なら俺と同じカテゴリの住人のはずだった。ちょっと顔が整ってるくらいで、中身はただの男子高校生。一緒にラーメンを食い、一緒に課題を写し合い、一緒にモテない愚痴を言い合う。そんな平穏な日々が続くと思っていた。
だが、最近あいつがおかしい。ここ数日、あいつの様子が劇的に変貌しているのだ。
具体的に言うと、耳が異常に綺麗になっている。そして、財布の紐が壊滅している。さらに言えば、学園の美少女たちとの距離感がバグっている。
これは、親友(モブ)としての俺の勘が告げている。あいつは今、何らかの「禁断のルート」に足を突っ込んでいると。
これは、そんなあいつの奇行と、その周囲で発生している異常事態に対する、俺の魂の叫び(ツッコミ)の記録である。
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Case 1:生徒会長・白鷺天音の場合
ある日の放課後、俺は見た。生徒会室から出てくるあいつを。
あいつは、まるで一仕事終えた賢者のような、あるいは極上のスパから帰ってきた富豪のような、とろけきった顔をしていた。そして、その直後に生徒会室から出てきたのは、あの白鷺天音会長だ。
才色兼備、冷静沈着。俺たち一般生徒にとっては雲の上の存在。普段なら、挨拶するだけで緊張する相手だ。
だが、その時の会長の様子はどうだ。眼鏡の位置を直しながら、どこか頬を染め、あいつの背中を熱っぽい目で見送っているではないか。
(……は? 何今の空気? 付き合ってんの? いや、あの会長に限ってそれはない。だとしたら何だ、弱みでも握られたのか?)
俺は物陰から戦慄した。しかも聞こえてきた会話がヤバい。
「……また来てくれる?」 「もちろんですよ、会長」
(『また来てくれる』!? あの鉄壁の生徒会室に!? お前ら中で何してたんだよ! 機密書類の整理とかじゃないだろそのテンション!)
俺の脳内で警報が鳴り響く。おいお前、知っているのか。白鷺会長の家がとんでもない財閥だということを。下手な手を出せば、東京湾に沈められるかもしれない相手だぞ。それなのに、あの「やり遂げた」みたいな顔は何なんだ。
……まさか、あいつ。 ラノベみたいなハーレム展開を地で行くつもりか?だとしたら命知らずすぎる。俺なら怖くて直視できない。
Case 2:陸上部エース・早瀬理緒の場合
別の日。グラウンドの片隅で、俺は信じられない光景を目撃した。
女子陸上部のエース、早瀬理緒。ショートカットが似合う健康的な美少女だが、性格はガサツで男勝り。男子とも「オッス」みたいなノリで接するタイプだ。そんな彼女と、あいつが何やら密談をしている。
……おい待て、お前。今なに渡した?千円札? しかも複数枚?
(カツアゲか!? いや、あいつから渡してるな……まさか、買収!? 何の!?)
俺が混乱していると、二人はコソコソと用具置き場へ消えていった。用具置き場。それは、ラブコメにおいては「イベント発生地点」だが、現実においては「密室」だ。
(おいバカやめろ! 体育教師に見つかったら停学だぞ! ていうか早瀬さんも何で満更でもない顔してんだよ! 『しょうがないなぁ』みたいな顔で頬赤らめてんじゃねーよ!)
数十分後。用具置き場から出てきたあいつは、やはり「昇天」したような顔をしていた。一方の早瀬さんは、スカート(ジャージ)の裾を気にしながら、どこか艶っぽい表情で唇を尖らせている。
「……次はカフェだからね! 絶対だから!」
デートの約束取り付けてるーーーっ!!?え、何? 金払って密室に入って、出てきたらデート成立?どういう錬金術?俺も千円払えば早瀬さんとデートできるのか?いや、絶対に違う。俺がやったらスパイクで踏まれる未来しか見えない。あいつだから許されているのだ。理不尽だ。世界は残酷だ。
Case 3:図書委員・月見里静の場合
俺は読書家ではないが、たまには図書室に行くこともある。そして、そこで見てしまったのだ。「氷の図書委員」こと月見里先輩と、あいつの異様な距離感を。
普段、人を寄せ付けないATフィールドを展開している月見里先輩が、カウンター越しにあいつと見つめ合っている。しかも、あいつの手には五千円札。また金か! お前は政治家か何かなのか!
(五千円って……お前、今月の昼飯代どうすんだよ。パンの耳でも食う気か?)
先輩は「汚いお金」と吐き捨てるように言っていたが、その手はしっかりとあいつの手を握……いや、本を押し付けていた。だが、その目がヤバい。ハイライトが消えているのに、瞳の奥に「執着」という名の暗黒の炎が燃えている。
(うわぁ……あれはヤバい。一番怒らせちゃいけないタイプだ。お前気づいてないのか? 先輩の背後に『監禁』とか『束縛』とかのタグが見えるぞ?)
あいつは嬉しそうに分厚い本を抱えて帰っていった。その本、たぶん鈍器にもなるやつだぞ。遅刻したら角で殴るって聞こえたけど、あれ冗談じゃないからな。物理ダメージ入るやつだからな。
Case 4:1年生アイドル・久留米ましろの場合
これが一番危険だ。1年の久留米ましろ。学園のアイドル。天使。ファンクラブ会員数、数百名。俺も隠れファンの一人だ。
そんな「みんなのましろちゃん」が、あいつと一緒に歩いているのを見たとき、俺は我が目を疑った。しかも、あいつがジュースを買って、ましろちゃんに献上している。パシリか?いじめか?俺が助けに入るべきか?
そう思って近づこうとした瞬間、俺は見てしまった。ましろちゃんが、あいつに向けた一瞬の表情を。
――ニチャア。
(ヒッ……!)
天使の笑顔じゃない。あれは、獲物を前にした悪魔の笑顔だ。「このおもちゃ、どうやって壊して遊ぼうかな♡」みたいな、純粋な悪意と愉悦が混ざった顔。そしてあいつは、それに気づくどころか、デレデレしながら頭を撫でられている。逆だろ! 先輩が後輩を撫でるんじゃなくて、後輩に撫でられてどうすんだ!
(逃げろお前! そいつは天使じゃない! 課金したら沼るタイプのソシャゲの擬人化だ! 骨の髄までしゃぶられるぞ!)
だが、あいつは幸せそうだった。ファンクラブ会員番号0番?それ、名誉職じゃなくて「生贄」って意味だからな?
Case 5:化学教師・蓮見響子の場合
ここまできて、まさか教師にまで手を出すとは。理科準備室。そこは男子生徒にとっての聖域であり、同時に魔境。「残念な美人」こと蓮見先生が、気怠げにあいつと話している。
またしても、あいつの財布から金が消えていくのが見えた。おい、公務員(私立だけど)!生徒から金受け取っちゃダメだろ! 教育委員会にチクるぞ!
だが、二人の間に流れる空気は、教師と生徒のそれではない。もっとこう、場末のスナックのママと、常連のダメ男みたいな……。頽廃的で、爛れていて、でも妙に居心地が良さそうな空気。
(……なんか、エロいな)
直感的にそう思った。具体的な行為は見えていない。ただ鍵をかけて中に引きこもっただけだ。だが、出てきたあいつの顔には「大人の階段登りました」って書いてあった。そして先生の方も、なんか肌艶が良くなっている気がする。エネルギーチャージされたような、満足げな顔。
俺はそっと理科準備室から離れた。これ以上近づくと、俺の平凡な青春が「昼ドラ」に書き換えられてしまいそうだったからだ。
Case 6:クラスメイト・鳴海ゆずの場合
俺のクラスの鳴海。いつも教室の隅でゲームしてる、地味なオタク女子。俺にとっては「モンハンの素材集めを手伝ってくれるいい奴」くらいの認識だった。
だが、あいつは違った。あいつ、バイト代が入った直後に、一万円札を握りしめて鳴海のところに行ったんだ。一万円だぞ?高校生の一万円なんて、命の次に大事なものだろ。
(おいおい、鳴海にカツアゲされてんのか? それともレアなアカウントでも売ってもらうのか?)
心配になって、こっそり後をつけた。二人が入っていったのは、旧校舎の現視研部室。そこで俺は、信じられないものを見た。いや、正確には「チラッと見えてしまった」。
メガネを外した鳴海ゆずの、暴力的なまでの美貌を。
(……は? 誰あれ? 超絶美少女じゃん。え、あれが鳴海? マジで?)
俺の脳内データベースがクラッシュした。今まで「地味キャラ」として処理していたクラスメイトが、実はSSR級の隠しキャラだったなんて。しかも、その美少女の膝の上に、あいつが頭を乗せている。
膝枕!?しかも、なんかハイテクな機材を使って耳かきしてる!?何そのプレイ。時代の最先端すぎるだろ。
そして、鳴海の顔。真っ赤になって、照れながら、でも嬉しそうにあいつの頭を撫でている。「推し」を見る目だ。あれは完全に、ガチ恋勢の目だ。
(……お前、とんでもない鉱脈掘り当てやがったな)
俺は敗北感と共にその場を去った。幼馴染とかアイドルとかならまだ諦めもつく。でも、「クラスの地味な子が実は美少女で、主人公だけがそれを知っている」なんて、男のロマンの結晶じゃないか。それを一万円でアンロックしたのか。有能すぎるだろ、親友。
Case 7:家庭科部・逢坂りなの場合
翌日。あいつは家庭科室にいた。相手は2年のギャル、逢坂先輩。見た目は派手だけど、いい匂いがすることで有名な先輩だ。
あいつはまたしても一万円を差し出していた。お前、金銭感覚どうなってんだ。石油王の息子に転生したのか?
でも、逢坂先輩の反応が意外だった。普通なら「キモい」って引くか、「ラッキー」って金だけ取るかだろ。先輩は、ケラケラ笑って、あいつの手を引いてソファに連れて行った。そして、あの長い爪で、あいつの頭をワシャワシャ撫で回している。
(……オカンだ)
見た目はギャルなのに、そこには圧倒的な母性があった。あいつが完全に幼児退行している。「バブみ」を感じている顔だ。
そして帰り際、先輩からクッキーをもらって出てきたあいつ。その顔は、幸せのパンケーキみたいにフワフワしていた。俺も家庭科室の前を通った時、甘い匂いを嗅いだだけで胸焼けしそうだったのに、あいつは直撃を食らって生還したのか。糖尿病になるぞ、色んな意味で。
Case 8:幼馴染・如月紗英の場合
そして、ラスボス。あいつの隣の家に住む、幼馴染の紗英ちゃん。俺も昔から知ってるけど、あの子はヤバい。何がヤバいって、「正妻オーラ」が覇気のように漏れ出している。
あいつが他の女と遊んでいても、彼女は怒らない。「あらあら、また寄り道?」くらいの余裕。それが逆に怖い。
今日、俺はあいつと一緒に帰っていた。「今日こそはゲーセン寄ろうぜ」と誘おうとしたら、あいつは言ったんだ。
「ごめん、今日は紗英のところに行くから」
その顔。これまでの「昇天」顔とも、「デレデレ」顔とも違う。「帰宅」する顔だった。仕事を終えたサラリーマンが、愛する妻と子の待つマイホームに帰るような、安堵と義務感が入り混じった顔。
あいつの鞄には、分厚い封筒が入っていた。バイト代の残り全部だと言っていた。それを、幼馴染に渡す?それ、もう結婚じゃん。事実婚じゃん。
俺は何も言えずに手を振った。夕日に照らされて、隣の家に入っていくあいつ。出迎える紗英ちゃんの「おかえり」という声が、ここまで聞こえてきた気がした。
完敗だ。他のヒロインたちがどんなに頑張っても、あの「実家感」には勝てない。あいつの奴、ハーレム主人公かと思ったら、最初からゴールインしてたのかよ。
◆
翌日の昼休み。俺は食堂で、あいつと向かい合っていた。あいつの財布は空っぽだ。今日の昼飯は、俺が奢ったパン1個。
「……で、お前さぁ」
俺は呆れながら問いかけた。
「バイト代全部突っ込んで、何やってんの? バカなの?」
数十万円。それを、数回の「耳かき」と「膝枕」のためだけに消し飛ばした男。普通なら後悔で死にたくなるはずだ。
だが、あいつはパンをかじりながら、悟りを開いた僧侶のように穏やかに微笑んだ。
「田中。お前にはわからないかもしれないが……俺は今、満たされているんだ」
「財布はスカスカだけどな」
「金はまた稼げばいい。でも、あの瞬間の温もりや、香りや、彼女たちの隠された一面に触れた記憶は、プライスレスなんだ」
……だめだこいつ。完全に思考が「あっち側」に行っちまってる。重課金兵が「実質無料」とか言い出す時の目と同じだ。
「それにさ、気づいたんだよ。一人ひとり、全然違うんだ。耳かきのタッチも、膝の感触も、匂いも……。世界はこんなにも多様で、美しいんだなって」
「それを変態的な文脈で語るな」
俺はため息をついた。こいつはもう、戻ってこないだろう。「耳かき」という名の深淵を覗き込み、深淵からも覗き返された男。
ふと、食堂の入り口を見る。白鷺会長が、こっちを見て微笑んでいる。早瀬さんが、遠くから手を振っている。図書委員の月見里先輩が、物陰からじっと見つめている。アイドルのましろちゃんが、不敵に笑っている。
……おいおい。あいつの周り、地雷原みたいになってんぞ。いつか刺されるんじゃないか?それとも、全員と仲良くやる「グランドルート」に入るのか?
ま、どっちでもいいか。俺はモブだ。特等席で、このハチャメチャなラブコメを見物させてもらうとしよう。
「とりあえず、来月のバイト代入るまで、昼飯よろしくな田中」 「……ふざけんな。出世払いで利子つけるからな」
俺たちは笑い合い、パンの袋を開けた。あいつの耳は、今日も無駄にツヤツヤと輝いていた。あーあ。俺も一万円払ったら、鳴海あたりが相手してくんないかなぁ。……無理か。俺じゃただの「カモ」で終わるな。
やっぱり、主人公には主人公の「器(狂気)」が必要ってことか。俺は大人しく、ギャルゲーの画面の中で恋をすることにするよ。
豆知識・ラブコメこういうのが一番好き
ここから先の展開について、どういう方向性が見たいかのアンケートです。参考程度なので確定ではないです。
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このままヒロインを増やし続ける
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主人公取り合いルート(親友視点)
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主人公取り合いルート(ヒロイン視点)
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各ヒロインルート書く