美少女たちが金を払えば耳かきをしてくれる。しかも好感度が高い 作:三重知貴
「1日1人」。この崇高なる誓いを立ててから、僕の耳かき道は、もはや単なる快楽の探求を超え、精神修養の域に達しつつある。一人のヒロインと真摯に向き合い、その魂の形(と膝の感触)を理解する。昨日の幼馴染・紗英との時間は、まさに「帰還」だった。日常という名の揺るぎない大地に足をつける安らぎ。
だが。安らぎを知ったからこそ、人は再び旅に出たくなるのだ。大地を踏みしめた足で、未踏の峰を目指したくなるのが男のサガというやつだ。
今日の僕が求めるのは、「静寂」と「献身」。それも、図書委員の静のような冷徹な静けさではない。もっと湿度が高く、奥ゆかしく、それでいて内側に熱い情念を秘めた……日本の美、「和」の静寂だ。
喧騒を離れ、心を研ぎ澄ませたい。凛とした空気に触れ、その緊張感が、僕のためだけに甘く解ける瞬間(デレ)を目撃したい。
僕は放課後の校舎を歩き、生徒たちの声が遠のく特別棟の奥地へと向かった。目指すは、日本庭園(中庭)に面した離れ。茶道室。
そこに、彼女はいるはずだ。この学園における「大和なでしこ」の頂点にして、高嶺の花。
笹川佳(ささかわ けい)。3年生。
腰まで届く艶やかな黒髪、切れ長の涼しげな瞳、雪のように白い肌。常に背筋を伸ばし、音もなく歩くその姿は、まるで深窓の令嬢か、あるいは浮世離れした巫女のようだ。普段は口数が少なく、クールで人を寄せ付けない雰囲気があるため、下級生からは「氷の女王」なんて呼ばれて恐れられている。
だが、僕は知っている。その氷の下に、マグマのような愛情が渦巻いていることを。彼女が僕にだけ見せる、とろけるような甘い顔を。
茶道室の障子の前に立つ。中からは物音ひとつしない。ただ、い草の香りと、上品なお香の匂いが微かに漂ってくるだけだ。
僕は呼吸を整え、静かに障子を開けた。
夕日が差し込む和室の中央。炉の前で、彼女は正座していた。制服姿ではない。部活動のためか、淡い藤色の着物を身に纏っている。その佇まいの美しさに、僕は一瞬、時が止まったような錯覚を覚えた。
僕の気配に気づき、佳先輩がゆっくりと顔を上げる。その瞳が僕を捉えた瞬間――。
氷が解けた。
凛とした無表情が崩れ、花が咲くように柔らかく、愛おしげな笑みが浮かぶ。このギャップ。これこそが、彼女の真骨頂だ。
「……お待ちしておりました、私の『君(きみ)』」
鈴を転がすような、涼やかで優しい声。彼女は僕を呼ぶとき、名前ではなく「君」と呼ぶ。あるいは、時折もっと古風な呼び方をすることもある。それが、僕たちだけの秘密の符牒のようで、背筋がゾクゾクする。
僕は靴を脱ぎ、畳の上へと上がった。足裏に伝わる畳の感触。静謐な空気。外の世界とは隔絶された、二人だけの結界の中にいるようだ。
僕は彼女の前に正座し、一礼した。そして、懐から封筒を取り出した。中には、今回用意した軍資金――一万円が入っている。紗英に全財産を預けたとはいえ、日々の活動資金(小遣い)は確保してある。この一万円は、彼女の点てるお茶一杯の値段ではない。この空間と、彼女の時間を独占するための「拝観料」であり「奉納金」だ。
僕は封筒を畳の上に置き、両手をついて頭を下げた。そして、顔を上げ、自分の耳を指差し、次に彼女の膝――着物に包まれた奥ゆかしい太もも――を指差した。
言葉はいらない。ただ、瞳で訴える。「あなたに癒やされたいのです」。
佳先輩は封筒を一瞥もしなかった。彼女の瞳はずっと僕の顔だけを見つめている。慈愛と、執着と、そして微かな嗜虐心が入り混じったような、深淵な瞳。
「……ふふ。今日もまた、甘えん坊な顔をして」
彼女は袖で口元を隠し、上品に笑った。
「お金など、いりませんのに。……君が来てくださるだけで、私にとっては最上の喜びなのですから」
そう言いながらも、彼女は封筒を丁寧に手に取り、懐紙入れの横に置いた。受け取ることは拒まない。それは僕の「誠意」を尊重してくれているからだ。大和なでしこは、男の顔を立てることを知っている。
「……さあ、こちらへ。もっとお近くに」
佳先輩は手招きをした。そして、着物の裾を少し整え、居住まいを正した。膝と膝の間を少し開け、僕を受け入れる準備を整える。
「……膝枕、所望なのでしょう? 愛しい君」
見透かされている。僕は吸い寄せられるように膝行(しっこう)し、彼女の膝元へと頭を沈めた。
――極上だ。
頭を乗せた瞬間、鼻腔を満たすのは、お香の香りと、彼女自身の清らかな石鹸の香り。そして、着物の正絹(しょうけん)の滑らかな肌触り。その下にある、温かく柔らかな太ももの感触。制服やジャージとは違う、何層にも重ねられた布越しに伝わる体温は、どこか奥ゆかしく、それでいて熱を孕んでいる。
見上げると、佳先輩が僕を見下ろしていた。逆光で表情は見えにくいが、その瞳が潤んでいるのがわかる。彼女の指先が、僕の額をなぞる。冷たい指先。茶道で鍛えられた、無駄のない美しい指。
「……ようこそ、私の箱庭へ」
囁くような声と共に、視界が彼女の袖で遮られた。世界が閉じる。ここにはもう、僕と彼女しかいない。
彼女は傍らに置いてあった道具箱から、一本の耳かきを取り出した。煤竹(すすだけ)で作られた、黒く艶のある耳かき。年代物に見える。きっと、彼女が大切に手入れしている道具なのだろう。
「……動かないでくださいね。……君の耳を汚す俗世の塵、私がすべて祓って差し上げますから」
厳かな宣言と共に、耳かきが挿入される。
スゥッ……。
なんという滑らかさだろう。抵抗感がない。彼女の所作があまりにも洗練されているため、異物が体内に侵入しているという感覚すら希薄だ。ただ、心地よい「圧」だけが、耳の奥へと進んでいく。
カリ……コソ……。
音が、違う。静寂な茶道室だからこそ響く、微かな摩擦音。それはまるで、枯山水の砂紋を描くような、静かで規則的なリズム。
「……ん、ここですね。……溜まっていますよ、疲れが」
佳先輩の声は、耳元ではなく、脳内に直接響くようだ。
「……あちこち歩き回って、いろんな声を聞いて……。君の耳は、お疲れのようです」
ドキリとした。彼女は僕の「行脚」を知っているのか?情報通のゆずのように具体的なルートを把握しているわけではないだろう。だが、彼女の鋭い勘は、僕が纏う空気の揺らぎを見逃さない。
「……でも、構いません。……最後に行き着くのが、この場所であるならば」
耳かきの梵天側――羽毛ではなく、こよりのような和紙の房がついている――で、耳の入り口を優しく撫でられる。ゾワゾワと鳥肌が立つ。
「……他の女(ひと)の痕跡など、私が清めてしまえばいいだけのこと」
着物の袖から、彼女の手が伸びてくる。僕の頬を包み込むように触れる。その掌は熱い。普段のクールな彼女からは想像もできないほどの、情熱的な体温。
「……ねえ、君」
耳掃除の手を止めず、彼女が語りかけてくる。
「私がお茶を点てている時、何を考えているかご存知ですか?」
僕は首を横に振ることはできないので、瞬きで問い返す。
「……一期一会。……この一杯に、全ての心を込める。……もし今日が最後でも悔いがないように」
彼女の言葉には、3年生という立場ゆえの、卒業という別れの予感が滲んでいる気がした。だからこそ、今この瞬間が愛おしいのだと。
「……だから、君の耳掃除も同じです。……一掻き、一掻きに、私の想いを込めています」
重い。愛が、重い。だが、その重さが今の僕には心地よい。彼女の膝の上は、まるで重力が倍になったかのように体が沈み込む。逃げられない。逃げたくない。
カリッ。的確に、汚れが除去される感覚。痛みはない。あるのは、魂の澱まで削ぎ落とされるような浄化の快感だけ。
「……ふふ。可愛い顔」
彼女がくすりと笑う。上から見下ろされる優越感。普段は孤高の存在である彼女に、赤子のように世話をされているという背徳感。
「……君は、私の前では無防備ですね。……誰にも見せない顔を、私だけに見せてくださる」
彼女の指が、僕の唇をなぞる。
「……その顔を見るたび、私は思うのです。……君を、このまま畳の下に隠してしまいたいと」
猟奇的な発言だが、彼女の声があまりにも穏やかなので、それが極上の愛の言葉のように聞こえる。畳の下。暗くて、静かで、彼女の足音だけが聞こえる場所。それも悪くないかもしれない、と一瞬本気で思ってしまった。完全に毒されている。
反対側を向くように促される。僕は着物の帯のあたりに顔を埋める。帯締めの硬い感触と、その奥にある柔らかさ。そして、さらに強くなるお香の香り。
「……じっとしていてくださいね。……もう少しだけ、君を独り占めさせてください」
彼女の手つきが、少しだけゆっくりになる。終わらせたくない、という名残惜しさが伝わってくる。
夕日が傾き、障子に映る影が長くなる。茶道室の中は、茜色と影のコントラストで幻想的な雰囲気に包まれていた。遠くでカラスが鳴く声。ししおどしが、カコン、と鳴る音。日本に生まれてよかった。そして、笹川佳という女性に出会えてよかった。心からそう思う。
彼女との時間は、激しいスパークのような興奮はない。けれど、静かに降り積もる雪のように、僕の心を満たしていく。冷たくて、温かくて、消えない痕跡を残していく。
◇
「……終わりましたよ。愛しい君」
佳先輩の声で、僕は現実に引き戻された。いつの間にか、微睡んでしまっていたようだ。名残惜しさを振り払い、ゆっくりと起き上がる。耳の中は清浄そのものだ。風が通り抜ける音が聞こえる気がする。
佳先輩は立ち上がり、炉のそばへ戻った。そして、流れるような所作でお茶を点て始めた。シャカシャカシャカ……と、茶筅が動く音だけが響く。
美しい。ただお茶を点てているだけなのに、それは神聖な儀式のようだ。彼女は茶碗を手に取り、僕の前に差し出した。
「……どうぞ。一服、差し上げます」
僕は茶碗を受け取り、作法に則って(見様見真似だが)いただいた。苦い。けれど、その奥に深い甘みがある。まるで彼女のような味だ。
「……お菓子も、どうぞ」
彼女が懐紙に乗せて出してくれたのは、季節の和菓子。淡いピンク色の、桜の花びらを模した練り切りだ。
「……『想い人』という銘(な)です」
意味深すぎる。僕はその和菓子を口に運んだ。上品な甘さが広がる。
お茶を飲み終え、僕は一礼した。最高の時間だった。一万円以上の価値があった。
帰り支度を整え、障子を開ける。外はもう薄暗い。
「……君」
背後から呼び止められた。振り返ると、佳先輩が正座したまま、じっと僕を見つめていた。その瞳は、夕闇の中で妖しく光っている。
「……また、いらしてくださいね。……いつでも、お待ちしておりますから」
彼女は深く頭を下げた。三つ指をついて見送るその姿は、まさに大和なでしこ。いや、主人の帰りを待つ妻のようでもあった。
「……私の心は、いつも君と共にあります」
その言葉を背中に受けながら、僕は茶道室を後にした。廊下を歩く足取りは重く、そして心は熱かった。
3年生・笹川佳。彼女の持つ「和」の引力は凄まじい。一度足を踏み入れたら、簡単には抜け出せない底なし沼だ。僕は耳に残る茶筅の音とお香の香りを反芻しながら、夜の校舎を歩いた。明日は誰に行こうか。いや、しばらくはこの余韻に浸っていたい気もする。
僕はまた一つ、知られざる愛の形を知ってしまったようだ。
豆知識・もうちょい増えるんじゃ
ここから先の展開について、どういう方向性が見たいかのアンケートです。参考程度なので確定ではないです。
-
このままヒロインを増やし続ける
-
主人公取り合いルート(親友視点)
-
主人公取り合いルート(ヒロイン視点)
-
各ヒロインルート書く