美少女たちが金を払えば耳かきをしてくれる。しかも好感度が高い 作:三重知貴
王道、スポーティ、クール、アイドル、教師、オタク、ギャル、幼馴染、そして大和なでしこ。光属性から闇属性まで、あらかたのジャンルは網羅したように思える。だが、まだだ。僕の「耳」という名のブラックホールは、さらなる混沌(カオス)を求めている。
今日の僕が渇望しているのは――「魔力」だ。物理的な癒やしではない。精神的な、いや、霊的な浄化。日常のレイヤーを一枚剥がした先にある、禁断の儀式。そして何より、「設定」でガチガチに武装しているくせに、想定外の事態(金欠)に直面すると脆くも崩れ去る……そんな「防衛力ゼロ」の少女を愛でたい。
僕は放課後の校舎を徘徊し、人気のない旧校舎の最上階へと足を向けた。日が傾き、廊下に長い影が伸びる逢魔が時。その突き当たりにある、「第2空き教室」の札がかけられた部屋。そこが、彼女の結界(テリトリー)だ。
刈谷千尋(かりや ちひろ)。1年生。
眼帯、包帯、黒い手袋。制服の上からマントのようなカーディガンを羽織り、常に「何者か」と交信している少女。クラスでは「痛い子」として生温かい目で見守られているが、その実態は、誰よりもピュアで、誰よりも「カッコイイ自分」に憧れている夢想家だ。そして、その眼帯の下にはオッドアイのカラコンを仕込み、包帯の下には無傷の白肌を隠している、努力型のファッション・中二病。
彼女こそ、今日の生贄……いや、契約者だ。
僕は「開かずの扉(ただの引き戸)」の前に立ち、ノックもせずに勢いよく開け放った。
ガララッ!
薄暗い教室内。遮光カーテンが閉め切られ、床にはLEDキャンドルが怪しげに配置されている。その中央、魔法陣(チョークで書いた落書き)の上に、彼女は鎮座していた。
「……ククク。来たか、光の住人よ。」
千尋は眼帯をしていない方の左目をカッと見開き、大仰なポーズで僕を迎えた。手には分厚い洋書(中身はくり抜かれてお菓子が入っているのを僕は知っている)。
「我が結界『虚無の回廊(ヴォイド・コリドー)』へ足を踏み入れるとは、命知らずな愚者め……。我が右腕に封印されし黒龍が暴れ出す前に、立ち去るがよかろう。」
完璧な導入だ。だが、僕はその設定(ロールプレイ)に付き合うつもりはない。今日の僕は「光の住人」ではない。「パトロン」だ。
僕は無言で靴を脱ぎ、魔法陣の中へと土足(上履き)で踏み込むことはせず、礼儀正しく侵入した。そして、彼女の目の前に立ち、懐から「召喚の触媒」を取り出した。
一万円札。諭吉――いや、栄一のホログラムが、LEDキャンドルの明かりを受けて妖しく輝く。この一枚に込めた魔力(購買力)は計り知れない。
千尋の動きが止まった。「黒龍」を抑えていたはずの右手が、ピクリと震える。
「……な、なんだそれは。……光の勢力の、結界破りの護符か……?」
僕は首を横に振る。そして、一万円を彼女の目の前に突き出し、自分の耳を指差し、次に彼女の膝――包帯が巻かれた片足と、黒いニーソックスの片足というアシンメトリーな絶対領域――を指差した。
言葉はいらない。「契約だ。一万円払う。俺の耳に巣食う邪悪なる者(耳垢)を、その闇の力で祓ってくれ」。その意志を、瞳の強さだけで伝える。
千尋は一万円と、僕の顔を交互に見た。眼帯の下の右目がどうなっているかは知らないが、左目は明らかに動揺で泳いでいる。設定が崩壊しかけている。
「え、あ、ちょ……契約? い、一万……!?」
素の声が出た。可愛い。だが、彼女はすぐに咳払いをし、必死にキャラを立て直そうとする。
「……フン、馬鹿め。……我を金で買収しようなどと、1000年早いわ! 我が力はプライスレス……世界の均衡を保つためのものだ。そのような紙切れで動くと思っているのか!」
強気だ。だが、その手はしっかりと一万円の端を掴んでいる。離さない。
僕は無言で、もう半歩、距離を詰めた。いわゆる「圧(プレッシャー)」だ。彼女の属性は「押しに弱い」。強引に来られると、断りきれずに流されてしまうチョロイン属性。僕は逃げ場を塞ぐように、彼女を見下ろした。
「……頼む。お前しかいないんだ」。そんな熱視線を送る。
千尋の顔が赤くなる。視線が泳ぎ、口元がわなわなと震える。
「……っ、うぅ……。そ、そこまで言うなら……仕方あるまい……」
落ちた。早い。早すぎる。開始数分で陥落だ。
「……貴様がどうしてもと言うなら、特例として契約を結んでやろう。……ただし! これはあくまで『浄化の儀式』だ! 膝枕とか耳かきとか、そんな俗世の遊戯ではないからな! 勘違いするなよ!」
言い訳が長い。だが、一万円はしっかりと懐(カーディガンのポケット)にしまわれた。彼女はマントを翻し、魔法陣の中央にあるクッション(黒いフリル付き)を整えた。
「……さあ、贄(にえ)となるがよい。……我が『玉座(ただの膝)』にて、貴様の穢れを喰らい尽くしてやる。」
彼女は正座ではなく、少し崩した横座りのような体勢をとった。スカートから覗く足には、包帯や絆創膏といった装飾が施されている。痛々しい。だが、そのこだわりこそが、彼女のアイデンティティだ。
僕は恭しく頭を下げ、その「闇の祭壇」へと頭を預けた。
――細い。
頭を乗せた瞬間の感想は、それだった。陸上部の理緒や、家庭科部のりな先輩のような肉感的な弾力はない。華奢で、骨っぽくて、少し頼りない。だが、太ももから伝わる体温は高く、そして微かに震えている。
緊張しているのだ。「魔王」を演じてはいるが、中身はただの初心な1年生。男子に膝枕をするなんて、きっと彼女の「設定資料集」には載っていないイベントなのだろう。その震えが、僕の頭にダイレクトに伝わってくる。愛おしい。この「頑張って虚勢を張っている感じ」が、たまらなく愛おしい。
漂ってくるのは、蝋燭の焦げたような匂いと、甘いチョコレートの香り。洋書の中身(お菓子)の匂いだろうか。生活感と非日常が混ざり合った、不思議な空間。
「……動くなよ、下等生物。……我が『邪眼』が、貴様の耳奥に潜む魔物を捉えるまでは。」
千尋は震える声で宣告し、黒い手袋を外した。素手だ。白くて、細くて、綺麗な指。爪は黒く塗られているが、ところどころ剥げているのがまたリアルだ。
彼女は懐から、禍々しい装飾が施された耳かきを取り出した。持ち手にドクロや羽のパーツがついている。重そうだ。バランスが悪そうだ。だが、それを使うことこそが、彼女なりの誠意なのだろう。
「……術式展開。……深淵の探求(ディープ・ダイブ)。」
詠唱と共に、耳かきが挿入される。
カチャッ、ジャラッ。耳かきについているチェーンが揺れる音がする。うるさい。だが、それがいい。この無駄な装飾音こそが、中二病耳かきの醍醐味だ。
先端が入ってくる。冷たい。そして、動きがぎこちない。お世辞にも上手とは言えない。生徒会長のような洗練された技術も、幼馴染のような慣れ親しんだ安心感もない。恐る恐る、壁面を突っついているだけだ。
だが、その不器用さが逆にそそる。彼女は必死なのだ。一万円という対価に見合う「儀式」を遂行しようと、小さな脳みそをフル回転させているのだ。
「……くっ、手強いな。……貴様の耳には、千年級の怨念(ただの耳垢)がこびりついているようだ……」
実況が壮大だ。昨日、ゆずのイヤースコープで掃除したばかりだから、そんなに溜まっていないはずだが。まあいい、彼女には何かが見えているのだろう。
彼女の膝が、カクカクと震えている。顔が見えないが、きっと真っ赤になっているに違いない。僕は少し視線を上げて、彼女の顔を盗み見た。
目が合った。眼帯をしていない左目。そこには「魔王」の威厳など欠片もなく、今にも泣き出しそうな、いっぱいいっぱいの少女の瞳があった。
「……っ! み、見るな! 深淵を覗く時、深淵もまたこちらを覗いているのだぞ!?」
慌てて僕の目を手で覆う千尋。その手が熱い。そして、甘い匂いが強くなる。
「……まったく、世話の焼ける使い魔だ……」
彼女は手を退け、再び作業に集中し始めた。さっきより、少しだけタッチが優しくなる。カリ、カリ。チェーンの音と、耳を掻く音。不思議なリズム。
この子は、根が真面目だ。設定を守りながらも、僕を痛がらせないように、一生懸命に力加減を調整している。「魔王」の仮面の下にある、素直で優しい「千尋」の顔が見え隠れする。
僕はさらに「押し」の一手を加えることにした。自分の耳を指差し、次に彼女の口元を指差す。「フーッとしてくれ」。最上級の甘え(要求)。
千尋が凍りついた。
「は……? き、貴様、何を求めている……? 風の精霊の加護(息)をよこせと……?」
僕は無言で頷く。まっすぐな瞳で。
「……っ、うぅ……。こ、この……変態め……!」
彼女は顔を背け、耳まで赤くした。拒絶か?いや、彼女は「押しに弱い」。断れないのだ。契約を結んでしまった以上、客の要望には応えなければならないという謎の義務感があるのだ。
「……わかった、わかったから! ……特別だぞ。……我が体内に宿る『黒き息吹(ダーク・ブレス)』、受けるがいい……!」
彼女が顔を近づけてくる。ドクロのついた耳かきが止まる。彼女の長い髪が、僕の顔にカーテンのように降り注ぐ。
「……ふーっ」
可愛い。「黒き息吹」とか言いながら、その吐息はミントの香りがした。少し震える、温かい風が耳の中を通り抜ける。鼓膜が震え、脳髄が溶けそうになる。
彼女はすぐに顔を離し、肩で息をしていた。まるで、全力疾走した後のように。
「……これで満足か、愚か者め……」
満足だ。一万円以上の価値があった。この「嫌々ながらも、結局は言うことを聞いてくれる」という構図。そして、必死に設定を守ろうとする健気さ。刈谷千尋。彼女は、中二病という名の皮を被った、極上のチョロインだ。
反対側を向く。今度は彼女の腹部に顔を向ける。カーディガンのボタンや、安全ピンなどの装飾が目の前にある。カチャカチャと音がする。
「……右耳には、さらに凶悪な魔獣が潜んでいる気配がするな……。我の封印が解けそうだ……」
ブツブツと言い訳をしながら、彼女は作業を再開した。その手つきは、最初よりはずっと安定している。僕の頭の重さに慣れてきたのか、それとも覚悟が決まったのか。
彼女の膝(祭壇)は、決して座り心地の良いものではない。包帯の結び目が当たったり、骨ばっていたりして、物理的には痛いかもしれない。だが、精神的な充足感は半端ではない。僕は「選ばれし契約者」だ。この偏屈で、臆病で、プライドの高い魔王様が、唯一心を許した(許さざるを得なかった)人間。その優越感が、物理的な不快感をすべて上書きしていく。
薄暗い教室内。揺れるLEDキャンドルの明かり。彼女の詠唱(独り言)と、チェーンの音。ここだけ、世界から切り離されている。外の世界では「痛い」と言われる彼女の妄想が、ここでは現実になる。僕はその共犯者となり、彼女の世界を肯定する。金という名の最強のバフをかけて。
……ああ、悪くない。この混沌とした癒やし。癖になりそうだ。
◇
儀式(耳かき)が終わった。僕は身を起こし、少ししびれた首を回した。耳の中は、魔物が祓われたかのようにスッキリとしている。
千尋は耳かきをしまい、手袋をはめ直し、大きく息を吐いた。その額には、うっすらと汗が滲んでいる。お疲れ様、魔王様。
「……ふん。どうだ。……我が浄化の力、思い知ったか。」
彼女は腕を組み、精一杯のドヤ顔を見せた。だが、その頬はまだ赤い。
僕は深く頷き、感謝の意を込めて両手を合わせた。そして、懐からさらに千円札を一枚取り出し、賽銭のように置こうとした。オプション料だ。
「っ!? き、貴様、まだ積む気か!?」
千尋が目を見開く。
「……い、いらん! これ以上は……我の魔力が暴走してしまう……!」
受け取らない。どうやら、彼女なりの許容量(キャパ)を超えてしまったらしい。これ以上の「押し」は、彼女を壊してしまうかもしれない。僕は素直に千円を引っこめた。
僕は立ち上がり、教室の出口へと向かった。振り返ると、千尋はまだ魔法陣の上に座ったまま、呆然とこちらを見ていた。
「……ま、また来るがよい。」
彼女がボソッと言った。
「……貴様の魂が、再び闇に染まった時は……。……我が、祓ってやらんこともない。」
ツンデレの教科書のようなセリフ。これは「また来てね」の意訳だ。僕はニヤリと笑い、無言でサムズアップ(契約成立の合図)をして、扉を閉めた。
ガララッ。廊下に出ると、夕日は完全に沈み、夜の気配が漂っていた。だが、僕の心は明るかった。中二病・刈谷千尋。彼女の「設定」という鎧を、金と押しでこじ開け、その下の素顔を愛でる喜び。この背徳感は、他では味わえない。
僕は軽やかな足取りで階段を降りた。次はどんな「設定」で挑んでくるだろうか。包帯の下に封印された禁断の左手か? それとも眼帯の奥の邪眼か?いずれにせよ、僕の財布(魔力)が尽きない限り、彼女は僕の専属魔術師だ。さあ、明日は誰に会いに行こうか。この学園には、まだまだ僕の知らない「萌え」が眠っているかもしれない。僕の冒険(耳かき行脚)は、まだまだ終わらない。
豆知識・中二は永遠
ここから先の展開について、どういう方向性が見たいかのアンケートです。参考程度なので確定ではないです。
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このままヒロインを増やし続ける
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主人公取り合いルート(親友視点)
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主人公取り合いルート(ヒロイン視点)
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各ヒロインルート書く