美少女たちが金を払えば耳かきをしてくれる。しかも好感度が高い   作:三重知貴

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双子・浜奈恵里菜と浜奈友理奈。耳かきパート。

「1日1人」。この鋼鉄の掟を自らに課して以来、僕の「耳かき道」は新たな地平へと到達した。乱れ打ちのような消費(ハシゴ)をやめ、一人のヒロインとじっくり向き合うことで見えてくる、深淵なる癒やしの世界。資金(バイト代)は潤沢にある。時間もある。僕は、それぞれのヒロインが持つ固有の「味」を噛み締める美食家として、日々、学園内を巡礼していた。

 

 だが、ここに来て僕は、自らが定めた哲学を揺るがす最大の難問(パラドックス)に直面していた。

 

 「双子」である。

 

 二人は二人でありながら、一つの世界を共有している。片方だけを選び、もう片方を切り捨てることなど、彼女たちにおいては物理的にも精神的にも不可能に近い。右足と左足のどちらか片方だけで歩けと言うようなものだ。

 

 ならば、どうするか。答えは一つ。特例措置の発動だ。「セットで一人」。これは浮気ではない。一つの完成された芸術作品(ユニット)を鑑賞するための、不可避な選択なのだ。

 

 僕は自分自身に完璧な言い訳(ロジック)を構築し、放課後の校舎を彷徨っていた。目指すは、この学園で最も影が薄く、しかし最も美しい対称性(シンメトリー)を持つ二人。

 

 浜奈恵里菜(はまな えりな)。浜奈友理奈(はまな ゆりな)。1年生でも3年生でもない、僕と同じ2年生のクラスメイト。

 

 彼女たちの噂は少ない。なぜなら、彼女たちは徹底した「ダウナー(省エネ)」だからだ。常に二人で行動し、気怠げな瞳で世界を眺め、必要最低限の言葉しか発しない。クラスの喧騒から切り離された場所に、二つ並んだ美しい人形のように佇んでいる。

 

 他の生徒たちは言う。「どっちがどっちだか分からない」「喋り方も顔も一緒で不気味だ」と。

 

 愚かな。僕に言わせれば、彼女たちは全くの別人だ。同じ顔、同じ声、同じ髪型をしていても、そこにある「魂の波長」が違う。姉の恵里菜には、すべてを包み込み、流そうとする「河」のような静けさがある。妹の友理奈には、静けさの中に甘えと依存を隠した「沼」のような引力がある。

 

 僕はその違いを、一目で見抜くことができる。世界で唯一、彼女たちを個として認識できる男。それが、僕の最大の武器(アドバンテージ)だ。

 

 放課後の旧校舎。今は使われていない、視聴覚準備室。そこが彼女たちの巣(ネスト)だ。僕は音もなくドアを開けた。

 

 夕日が差し込む薄暗い部屋の隅。カーペットが敷かれた床の上に、二人の少女が重なり合うようにして寝転がっていた。

 

 同じ長さの亜麻色の髪。同じように着崩した制服。同じように半開きになった、眠そうな瞳。

 

 まるで鏡を見ているようだ。あるいは、細胞分裂の途中で時が止まったかのような、完璧な相似形。

 

 僕が入室しても、彼女たちは起き上がろうともしない。ただ、四つの瞳がゆっくりと動き、僕を捉えただけだ。

 

「……あ。きみは」 「……ん。きみ、だ」

 

 声が重なる。ステレオ放送のように、左右から脳に響く低血圧なウィスパーボイス。右側にいるのが姉の恵里菜。左側にいるのが妹の友理奈。名乗られなくてもわかる。恵里菜の瞳には「やれやれ」という微かな理性が、友理奈の瞳には「あ、おもちゃ」という無垢な興味が宿っているからだ。

 

 僕は無言で近づき、彼女たちの前に正座した。そして、懐から二つの封筒を取り出した。今日は二人分だ。一万円入りの封筒を二つ。計二万円。僕のバイト代が火を吹くが、この「奇跡の双子」を独占するためなら安いものだ。

 

 二つの封筒を、それぞれの目の前に差し出す。そして、自分の両耳を指差し、次に彼女たちの膝――二人分の、柔らかそうな太もも――を指差した。

 

 「二人同時に、俺を癒やしてくれ」。その欲望のすべてを、視線に乗せる。

 

 彼女たちは封筒を見つめ、次に僕の顔を見つめ、そして互いの顔を見合わせた。言葉はない。テレパシーのような視線の交錯。

 

 やがて、二人は同時に溜息をつき、同時にふにゃりと笑った。

 

「……物好き」 「……変態」

 

 罵倒だが、そこには棘がない。むしろ、甘い飴のような粘度がある。彼女たちは気怠げな動作で身を起こし、封筒をスカートのポケットにねじ込んだ。契約成立だ。

 

 彼女たちはゴソゴソと動き出し、カーペットの上で体勢を整え始めた。向かい合うのではなく、横に並んで座る。肩と肩が触れ合う距離。二人の間に、僕一人が頭を埋めるスペース(聖域)が作られる。

 

 ダブル・ニー・ピロー。またの名を、W膝枕。男のロマンの極致であり、人類が到達しうる幸福の最終形態。

 

 二人は同時に、自分の太ももをパンパンと叩いた。

 

「……ほら」 「……おいで」

 

 誘われるまま、僕はその狭間へと身を投じた。

 

 ――天国か。

 

 頭を乗せた瞬間、脳が溶けるような感覚に襲われた。右半身には恵里菜の、左半身には友理奈の体温。二つの柔らかさが、僕の頭を左右から挟み込み、固定する。これは拘束だ。世界で一番柔らかく、逃げ場のない檻。

 

 見上げると、二つの同じ顔が僕を見下ろしていた。逆光の中で、亜麻色の髪がカーテンのように降り注ぎ、視界の全てを覆い尽くす。世界にはもう、この二人しかいない。彼女たちの匂い――同じ柔軟剤、同じシャンプーの香り――が、肺の中まで満たしていく。違いがあるとすれば、それは微かな体温の差と、呼吸のリズムだけ。

 

「……ねえ」 「……ん?」

 

 恵里菜が口を開き、友理奈が呼応する。二人は、手元にあった学生鞄から、それぞれの耳かきを取り出した。お揃いの、シンプルな竹の耳かき。飾り気のないそれが、彼女たちのアウトローな雰囲気(気怠さ)に妙にマッチしている。

 

「……どっちが、どっちだか」 「……わかってるの?」

 

 試すような問いかけ。僕は無言で、右手を恵里菜の頬へ、左手を友理奈の頬へと伸ばした。そして、それぞれの目を見て、確信を持って頷いた。

 

 二人の瞳が、わずかに見開かれる。驚き。そして、すぐに蕩けるような安堵の色に変わる。彼女たちは、自分たちを見分けられない世界に飽き飽きしている。だからこそ、自分たちを「個」として認識してくれる存在に、異常なほど執着するのだ。

 

「……ふふ」 「……えへ」

 

 二人が同時に微笑む。その笑顔の破壊力たるや、致死量を超えている。普段の無表情(ダウナー)からの、このデレ。双子ならではの相乗効果(シナジー)だ。

 

「……じゃあ、ご褒美」 「……お掃除、してあげる」

 

 二人の手が同時に動き出す。右耳に恵里菜の手が、左耳に友理奈の手が触れる。指先の温度が違う。恵里菜の指は少しひんやりとしていて、理知的だ。友理奈の指は温かく、少し湿り気を帯びていて、甘えるように絡みついてくる。

 

 同時に、耳かきが挿入される……わけではない。さすがにそれはカオスになりすぎる。彼女たちは、阿吽の呼吸で役割を分担していた。

 

 まずは右耳。姉の恵里菜のターンだ。

 

 スゥッ……。恵里菜の耳かきは、滑らかで、無駄がない。気怠げな見た目に反して、その手技は驚くほど繊細だ。まるで水面を滑るアメンボのように、軽やかに耳壁を撫でていく。

 

「……ここ?」

 

 彼女が囁く。右耳のすぐそばで。その吐息が、鼓膜を震わせる。

 

 カリ、カリ。心地よいリズム。彼女は、僕の反応を冷静に観察しながら、的確に痒いところを攻めてくる。姉としての余裕だろうか。僕を「管理」し、「お世話」しているという優越感が、指先から伝わってくる。

 

 その間、左耳の友理奈は何をしているかといえば。遊んでいる。僕の左耳の耳たぶを、指でぷにぷにと捏ねくり回している。そして、空いている僕の左手に自分の指を絡ませ、恋人繋ぎをしてくる。

 

 自由だ。姉が仕事をしている間、妹は甘えることに専念している。だが、その左耳への甘噛みのような刺激が、右耳への鋭敏な感覚と混ざり合い、脳を混乱させる。右からは理性が、左からは本能が攻めてくる。処理落ちしそうだ。

 

「……ん、取れた」

 

 恵里菜が小さな成果物を釣り上げた。彼女はそれをティッシュに拭うと、満足げに僕の頭を撫でた。 「……いい子」

 

 その一言で、僕は完全に骨抜きにされた。普段はやる気のない彼女に褒められるという、この特別感。

 

 すると、すかさず友理奈が身を乗り出してきた。

 

「……次、わたし」 「……ん、交代」

 

 役割交代(スイッチ)。今度は、恵里菜が僕の右手の指を弄び始め、友理奈が左耳に耳かきを構える。

 

 友理奈の耳かきは、姉とは対照的だった。粘着質だ。狙った場所を執拗に攻める。クリクリ、ゴリゴリと、少し強めの圧で、僕の性感帯を探り当てるように這い回る。

 

「……ここ、気持ちいいでしょ?」 「……知ってるんだから」

 

 彼女の声は、姉よりも少し甘く、そして湿度が高い。沼に引きずり込まれるような感覚。彼女は僕の反応を楽しんでいる。僕がビクンと震えると、嬉しそうにクスクスと笑う。小悪魔的だが、ましろのような計算高さはない。もっと原始的な、無邪気な嗜虐心だ。

 

 右手の恵里菜は、僕の手のひらに指で文字を書いている。『す』『き』?いや、『ひ』『ま』と書いたのかもしれない。彼女たちの行動は読めない。ただ、このまったりとした時間が、永遠に続けばいいと思っていることだけは伝わってくる。

 

 二人の顔が交互に、あるいは同時に視界をよぎる。右を見ても美少女、左を見ても美少女。しかも、その二人は瓜二つ。万華鏡の中に迷い込んだようだ。

 

 現実感が喪失していく。ここは学校の空き教室なのか、それとも夢の中なのか。彼女たちの放つ「ダウナー」な空気が、麻薬のように僕の意識を混濁させていく。眠い。けれど、眠るのが惜しい。この「究極の対称性」を、一秒でも長く味わっていたい。

 

「……ねえ」 「……ん」

 

 二人が同時に動きを止めた。そして、耳かきを置き、四つの手で僕の顔を包み込んだ。ひんやりとした掌。

 

「……私たち、似てる?」 「……どっちが好き?」

 

 究極の質問。これは罠だ。どちらかを選べば、この均衡は崩れる。そして何より、彼女たちは「二人で一つ」であることを誰よりも誇りに思っている。片方を選ぶことは、彼女たちの美学に反する。

 

 僕は微笑み、二人の手を同時に握り返した。そして、二人の目を見つめ返し、首を横に振った。「選べない」ではない。「両方必要だ」という意思表示。右耳には恵里菜の静寂が、左耳には友理奈の熱情がなければ、僕の耳は完成しないのだと。

 

 二人は、きょとんとした後、顔を見合わせ、声を上げて笑った。ケラケラと、普段の彼女たちからは想像できないほど無邪気な笑い声。

 

「……欲張り」 「……強欲」

 

「……でも」 「……合格」

 

 二人は再び、僕の頭に覆いかぶさるように身を寄せた。髪の毛が降り注ぎ、僕の顔をくすぐる。二つの唇が、同時に近づいてくる。右耳と左耳に、同時に吐息がかかる。

 

「……じゃあ、仕上げ」 「……とくべつ」

 

 視界が完全に遮断された。暗闇の中で、左右の耳に同時に、温かい息が吹き込まれる。ステレオ・ブレス。脳が揺れる。理性が吹き飛ぶ。

 

 それは、どんなテクニックよりも強烈な、双子だけが使える魔法だった。

 

 ◇

 

 時間がどれくらい過ぎたのかわからない。窓の外は完全に夜の帳が下りていた。視聴覚準備室の中は漆黒の闇に包まれているが、不思議と怖くはない。二人の体温が、ここにあるからだ。

 

 僕はゆっくりと身を起こした。体中がふわふわしている。耳の中は、かつてないほどクリアだ。そして、心の中も、彼女たちの「気怠さ」に感染して、どうでもいいことは全てどうでもよくなっていた。

 

 二人はまだ、カーペットの上でくっつき合って寝転がっている。事後の余韻に浸る猫のように。

 

「……帰るの?」 「……もう?」

 

 名残惜しそうな声。僕は頷き、二人に手を差し伸べた。彼女たちは面倒くさそうに、しかし嬉しそうに僕の手を取って立ち上がった。

 

 スカートの埃を払い合い、髪を直す。その動作すらもシンクロしている。やはり、彼女たちは美しい。個でありながら全、全でありながら個。

 

 僕は二人に一礼した。最高の時間だった。二万円? 安すぎる。この体験はプライスレスだ。

 

 帰り際、ドアの前で二人が僕を呼び止めた。

 

「……ねえ」 「……あのさ」

 

 振り返ると、二人は並んで立っていた。暗がりの中で、四つの瞳が妖しく光る。

 

「……また、見分けてね」 「……間違えたら、お仕置きだから」

 

 それは、脅しであり、誘惑であり、そして愛の告白だった。僕はニヤリと笑い、無言でサムズアップを返した。間違えるはずがない。僕の耳には、恵里菜の静けさと、友理奈の熱さが、鮮烈に刻み込まれているのだから。

 

 廊下に出ると、夜の学校は静まり返っていた。だが、僕の耳にはまだ、二人のウィスパーボイスが残響している。同級生・浜奈姉妹。この双子の迷宮(ラビリンス)は、一度踏み込んだら二度と抜け出せない。左右から同時に囁かれる甘い毒に、僕は喜んで侵されることを選んだのだ。

 

 さて。明日はどうしようか。いや、今夜はこのまま、二人の余韻を抱いて眠りたい。「1日1人(セット)」の特例措置、大成功である。




豆知識・双子ヒロイン大好き
読んでくれた方々、よいお年をお迎えください。

ここから先の展開について、どういう方向性が見たいかのアンケートです。参考程度なので確定ではないです。

  • このままヒロインを増やし続ける
  • 主人公取り合いルート(親友視点)
  • 主人公取り合いルート(ヒロイン視点)
  • 各ヒロインルート書く
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