美少女たちが金を払えば耳かきをしてくれる。しかも好感度が高い   作:三重知貴

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【番外編】親友・田中健太の地雷圏突入レポート 

 

 世界には触れてはいけない真実がある。見て見ぬふりをするのが大人の対応であり、モブキャラの処世術だ。俺、田中健太(たなか けんた)は、これまでそうやって平穏無事な高校生活を送ってきた。

 

 だが、事態は看過できないレベルに達している。俺の親友であるあいつのことだ。最近のあいつは、バイト代という名の莫大な軍資金(弾薬)をばら撒きながら、学園中の美少女たちの膝と耳を渡り歩いている。生徒会長、アイドル、教師、果ては「学園の王子様」まで。属性のデパートかよ、とツッコミを入れたくなるラインナップだ。

 

 あいつ本人は「耳かきに正解はない」「みんな違ってみんないい」などと、悟りを開いた僧侶のようなことを言っているが、俺の目は騙されない。あいつの周囲に漂う空気は、ピンク色ではない。ドス黒い紫や、警告色の赤が混じった、もっと危険な色だ。

 

 あいつは気づいていない。自分がどれほど重い「感情」の矢印を向けられているかを。「お金を払ったからビジネスライクな関係だ」なんて思っているのはあいつだけで、向こう側――ヒロインたちは、もっと別の、ドロドロとした、あるいは熱烈な何かを抱いているはずだ。

 

 親友として、このまま放置していいのか?ある日突然、あいつが東京湾に沈められたり、どこかの地下室に監禁されたりしてからでは遅い。現状(リスク)を正確に把握する必要がある。

 

 だから俺は決意した。今日一日をかけて、あいつを取り巻くヒロインたちに接触し、聞き出すのだ。「ぶっちゃけ、あいつのことどう思ってんの?」と。

 

 これは、モブキャラである俺にしかできない隠密ミッション。名付けて、『オペレーション・地雷探知』。俺は胃薬を飲み込み、戦場(校舎)へと足を踏み出した。

 

 ◆

 

File 01:陸上部エース・早瀬理緒の場合

 

 朝の昇降口。朝練を終えた早瀬理緒が、タオルで汗を拭きながら歩いてくるのが見えた。ショートカットが爽やかで、健康的な色気が眩しい。まずはジャブだ。彼女なら話しやすい。

 

「あ、早瀬さん。お疲れ様っす」 「ん? あー、田中じゃん。おっはよー!」

 

 彼女はニカッと笑って挨拶を返してくれた。裏表のない性格。これがクラスの人気者の所以だ。俺はさりげなさを装って切り出した。

 

「そういや、最近あいつ……あいつと仲いいっすよね。カフェとか行ってるって聞いたし」 「あー、うん! あいつねー!」

 

 名前を出した瞬間、早瀬さんの表情がパッと華やいだ。タオルの端をギュッと握りしめる。

 

「ねえ田中、聞いてよ。あいつさ、見た目はヒョロっとしてるくせに、意外と『芯』があるっていうか……私のペースについてこようとするんだよね」

 

「へぇ……あいつが?」

 

「そ。この前もさ、私が『次はここ行きたい!』って言ったら、『望むところだ』みたいな顔して付き合ってくれてさ。……お金出してくれようとするから、『そこは割り勘でいいから、その分長く一緒にいろ!』って言っちゃった」

 

 照れくさそうに鼻の下を擦る早瀬さん。おい、それ完全にデートの報告じゃねーか。俺は核心に迫る質問を投げた。

 

「で、早瀬さん的には、あいつのこと……どういう存在なんですか?」

 

 彼女は少し考えてから、真っ直ぐな瞳で答えた。

 

「……ライバル、かな?」

 

「ライバル?」

 

「うん。あいつ、すぐどっか行っちゃいそうじゃん? フラフラしてるし。だからさ……」

 

 彼女の目が、獲物を狙うスプリンターの目になった。

 

「……捕まえたくなるんだよね。全力で追いかけて、私のレーンに引きずり込みたい。……負けないからね、他の子にも」

 

 爽やかな笑顔の下に、肉食獣の本能が見えた。彼女にとってあいつは「ゴール」であり「獲物」だ。物理的に捕獲される未来が見える。逃げ足の速さだけは鍛えておけよ、親友。

 

 ◆

 

File 02:生徒会長・白鷺天音の場合

 

 昼休み前、俺は生徒会室へ書類を届ける雑用(を装った潜入)を行っていた。部屋には、生徒会長の白鷺天音が一人。紅茶を飲みながら、優雅に書類に目を通している。圧倒的な「支配者」のオーラ。

 

「……そこに置きなさい」 「は、はいっ!」

 

 俺は書類を置き、逃げ出したい衝動を抑えて声をかけた。

 

「あの、会長。……最近、うちの親友がご迷惑おかけしてませんか?」 「迷惑?」

 

 会長の手が止まった。眼鏡の奥の瞳が、冷徹に俺を射抜く。

 

「……彼が、何か?」

「い、いや! あいつ、会長のところによく出入りしてるみたいだから、粗相がないかと……」

 

 会長はふっと表情を緩めた。だが、それは慈愛ではなく、所有物を値踏みするような笑みだった。

 

「……粗相なんて、可愛いものよ。彼はとても『素直』だわ。……私の指導を、全身で受け止めてくれる」

 

 指導。その単語の響きが妙に艶めかしい。

 

「田中くん。君から見て、彼はどういう人間かしら?」

「え? あー……ちょっと抜けてて、流されやすい奴ですかね」

 

「そうね。……流されやすくて、無防備で、誰かの『管理』がないと生きていけない子」

 

 会長は立ち上がり、窓の外を見下ろした。まるで学園全体を掌の上に乗せているかのように。

 

「……だから、私が手綱を握ってあげるの。彼という『資産』を、最も有効に運用できるのは私だけだもの」

 

「し、資産……」

 

「ええ。彼はダイヤの原石よ。少し磨けば(調教すれば)、素晴らしいパートナーになるわ。……他の泥棒猫たちにかっさらわれる前に、私の金庫(生徒会室)にしまっておかないとね」

 

 会長は妖艶に微笑んだ。……確定だ。彼女にとってあいつは、人間ではなく「管理すべき物件」だ。一度捕まったら、法的手続き(結婚届)まで一直線だろう。政治力と財力で外堀を埋められる前に逃げろ、親友。

 

 ◆

 

File 03:図書委員・月見里静の場合

 

 図書室。静寂が支配する空間。カウンターの奥に、月見里静先輩がいた。本を読んでいる。周りの空気温度がそこだけ2度くらい低い。

 

 俺は本を借りるフリをして近づいた。カウンターに本を置く。

 

「……貸出?」

「はい。……あ、そういえば先輩。こないだあいつが『先輩のおすすめの本が面白かった』って言ってましたよ」

 

 これは嘘だ。あいつは本なんて読まない。だが、反応を見るための釣り針としては十分だ。

 

 先輩の手がピクリと動いた。顔を上げ、漆黒の瞳で俺を見る。

 

「……嘘つき」

 

 バレた。背筋が凍る。

 

「……あの子は、活字が苦手。……でも、私の声(読み聞かせ)なら聴く」

「あ、ハイ、スミマセン」

 

「……でも、あの子が私のことを話していたのは、事実?」

「え、あ、はい。それは本当です」

 

 先輩は本を閉じ、小さく息を吐いた。その頬が、ほんのりと朱に染まる。

 

「……あの子は、うるさい」

「え?」

「……存在が、うるさい。心臓の音が聞こえるくらい、私の静寂を乱す」

 

 先輩は自分の胸元をぎゅっと掴んだ。

 

「……でも、あの子がいない静寂は……ただの孤独になった」

 

 重い。ポエムのように聞こえるが、内容は激重だ。

 

「……だから、閉じ込めたい。……本のページに押し花を挟むみたいに、私の時間に彼を挟んで……動けなくしたい」

「へ、へぇ……」

 

「……田中くん。あの子が他の女の匂いをさせてたら、教えて。……消臭(上書き)しなきゃいけないから」

 

 先輩の目がマジだった。彼女にとってあいつは「静寂を共有する共犯者」であり、同時に「コレクション」なのだ。本の間に挟まれてペラペラになる前に逃げろ、親友。

 

 ◆

 

File 04:アイドル・久留米ましろの場合

 

 廊下の角で、1年生のアイドル、久留米ましろと鉢合わせた。ラッキー……ではない。今の俺にとっては恐怖の対象だ。彼女は取り巻きの男子たちに笑顔を振りまいていたが、俺を見つけるとスッと近寄ってきた。

 

「あ、田中センパイっ! こんにちはぁ~♡」

 

 可愛い。悔しいけど可愛い。だが、俺は騙されない。

 

「お、おう。久留米さん」

「ねえセンパイ。……あの『バカセンパイ』、今日どこにいるか知ってます?」

 

 声のトーンが落ちた。小悪魔モードだ。俺は首を横に振る。

 

「いや、知らねーけど……。お前、あいつのこと好きなん?」

「はぁ!?」

 

 ましろちゃんは素っ頓狂な声を上げた。

 

「す、すき!? 私が!? あの単純で、チョロくて、金づるなセンパイを!?」

「いや、だって執着してるし……」

「違いますよ! あいつは……私の『おもちゃ』です!」

 

 彼女は腰に手を当て、フンと鼻を鳴らした。

 

「いじると面白い反応するし、貢がせ甲斐があるし、私の毒舌を受け止めるサンドバッグとして優秀なだけですぅ!」

「な、なるほど……」

 

「でも……」

 

 彼女は少しだけ俯き、モジモジと靴先で床を突いた。

 

「……私のおもちゃに、勝手に触る他の女はムカつきます。……あいつを壊していいのも、直していいのも、私だけなんです」

 

 顔を上げると、そこには歪んだ、しかし純粋な独占欲があった。

 

「絶対に堕とします。……私の足元で『ましろ様大好き』って泣いてすがるまで、徹底的にわからせてやりますから」

 

 彼女にとってあいつは「所有物」であり「攻略対象」だ。愛憎入り混じるヤンデレ一歩手前。骨の髄までしゃぶられる前に逃げろ、親友。

 

 ◆

 

File 05:化学教師・蓮見響子の場合

 

 理科準備室。紫煙……ではなく、コーヒーの湯気が漂う部屋。蓮見先生は気怠げに椅子に座り、脚を組んでいた。

 

「先生、ちょっといいすか」

「んー? 何よ田中。補習?」

「いや、あいつのことなんすけど」

 

 先生は「ああ」と短く言い、カップを置いた。

 

「あいつねぇ。……最近、私の癒やしスポットになってるわ」

「癒やしスポット?」

 

「そ。あいつが金払ってここに来るでしょ? で、私が膝貸すじゃない? ……なんかね、落ち着くのよ。大型犬が足元で寝てるみたいで」

 

 先生は目を細めた。教師としての威厳も、大人の余裕も溶け落ちた、無防備な顔。

 

「大人になるとさ、誰かに甘えられることってないじゃない? でも、あいつは全力で甘えてくる。……それがね、妙に可愛いのよ」

 

 先生の手が、空中の何か(おそらくあいつの頭)を撫でるような動きをした。

 

「……ダメ人間にしちゃいそう。私が養って、一日中家でゴロゴロさせて……私の膝から離れられないようにしちゃいたいわねぇ」

 

 ヒモ製造機の発言だ。彼女にとってあいつは「ペット」であり「ダメにする対象」だ。社会復帰できなくなる前に逃げろ、親友。

 

 ◆

 

File 06:クラスメイト・鳴海ゆずの場合

 

 教室に戻ると、隅の席で鳴海ゆずがゲームをしていた。地味なメガネ姿。でも俺は知っている、その下が美少女であることを。あいつが「一万円」でアンロックした秘密だ。

 

「よう、鳴海」

「……ん。何、田中」

 

 彼女は画面から目を離さない。

 

「あいつのこと、どう思ってんの?」

「……は? 何その質問。キモい」

「いいじゃん、教えてくれよ。あいつ、お前の正体知ってる唯一の男だろ?」

 

 ピタリ、と指が止まった。ゆずはゆっくりと顔を上げ、メガネの奥から俺を見た。

 

「……あいつはさ」

 

 少し照れくさそうに、視線を逸らす。

 

「……私の『推し』だよ」

「推し?」

「うん。見てて飽きないし、課金(貢ぎ)してくれるし、何より……私の『裏設定』まで愛してくれる。……最高のコンテンツ」

 

 彼女はニヤリと笑った。

 

「モブだと思ってたNPCが、実は隠しルートの攻略対象だった……みたいな? 私が育てて、私がプロデュースして、最強の主人公にしてやるんだ」

「……お前が攻略される側じゃなくて?」

「うるさい。……まあ、あいつが望むなら、いつでも『神対応』してやる準備はあるけどね」

 

 彼女にとってあいつは「推し」であり「育成対象」だ。オタク特有の重たい愛。沼に引きずり込まれる前に逃げろ、親友。

 

 ◆

 

File 07:中二病・刈谷千尋の場合

 

 旧校舎の廊下で、マントを羽織った1年生、刈谷千尋を見つけた。あいつも物好きだ。こんな痛い子に一万円払うなんて。

 

「おい、刈谷」

「っ!? き、貴様は……光の勢力の手先、田中か!」

 

 ビクッとして構える刈谷。俺はため息をつきつつ聞いた。

 

「あいつのこと、どう思ってんだよ。契約したんだろ?」

 

 彼女の顔が、ボンッと音を立てて赤くなった。

 

「け、契約……! そ、そうだ! あやつは我が眷属(けんぞく)だ!」

「眷属ねぇ」

「……う、うるさい! あやつは……私の『設定』を笑わなかった! 私の世界に、土足で……でも優しく入ってきたんだ!」

 

 彼女はマントの裾をギュッと握りしめた。

 

「……寂しい魔王の城に、初めて訪れた人間……。……だ、だから、その……手放すつもりはない! 一生、私の側で儀式に付き合わせるんだから!」

 

 涙目で叫ぶ姿は、ただの寂しがり屋の少女だった。彼女にとってあいつは「理解者」であり「初めての友達(以上)」。黒歴史ノートに名前を書かれる前に逃げろ、親友。

 

 ◆

 

File 08:家庭科部・逢坂りなの場合

 

 家庭科室の前を通ると、甘い匂いがした。ギャルの逢坂だ。

 

「あ、田中っち~! クッキー食う?」

「いただきます。……あの、あいつのこと、ぶっちゃけどうっすか?」

 

 先輩はクッキーをかじりながら、明るく笑った。

 

「んー、かわいーよね! 弟みたい!」

「弟っすか」

「うん。放っとけない感じ? なんかさ、疲れてる顔してると、全力で甘やかしたくなるんだよね~」

 

 逢坂の目は、慈愛に満ちていた。

 

「ご飯作ってあげたいし、服選んであげたいし、膝枕で耳かきして、よしよしってしてあげたい! ……あ、これって『母性』ってやつ?」

「……かもしんないっすね」

「そっかー! じゃあ私、あいつのママになるわ! バブみ、感じさせてあげる!」

 

 彼女にとってあいつは「守るべき赤子」だ。幼児退行させられる前に逃げろ、親友。

 

 ◆

 

File 09:双子・浜奈姉妹の場合

 

 階段の踊り場で、浜奈姉妹に遭遇した。どっちがどっちかわからない。あいつにしか見分けられない双子。

 

「……あ、田中くん」

「……あいつの友達」

 

 ステレオ放送のように声が重なる。気怠げな瞳が、じっと俺を見る。

 

「……ねえ、あいつのこと聞いて回ってるの?」

「……探偵ごっこ?」

「ま、まあ、そんなとこ」

 

 二人は顔を見合わせ、クスクスと笑った。

 

「……あいつはね」

「……私たちの『おもちゃ箱』」

「……二人で共有するの」

「……二人で閉じ込めるの」

 

 二人の手が、見えない何かを挟み込むような動きをした。

 

「……あいつは、私たちを見分けられる」

「……だから、逃さない」

「……W(ダブル)で愛してあげる」

「……骨まで溶けるくらい」

 

 怖っ。シンクロ率100%のヤンデレだ。彼女たちにとってあいつは「共有財産」。二人の隙間に挟まれて圧死する前に逃げろ、親友。

 

 ◆

 

File 10:大和なでしこ・笹川佳の場合

 

 茶道室の前。3年生の笹川佳先輩が、静かに庭を眺めていた。高嶺の花。氷の女王。

 

「……おや。田中さんですね」

「ごきげんよう。……先輩、あいつのこと……」

 

 彼女はゆっくりと振り返った。その瞳は、深淵のように暗く、そして熱かった。

 

「……彼、ですか」

 

 彼女は袖で口元を隠し、艶然と微笑んだ。

 

「……彼は、私の『一期一会』です」 「

い、いちご……?」

「ええ。……この茶室の静寂に、水のように流れ込んできた人。……一度入ったら、もう外には出せません」

 

 彼女はスッと目を細めた。

 

「……畳の下に隠してしまいたいくらい、愛おしい。……私のお茶(毒)で、外の世界のことなど忘れさせて差し上げますわ」

 

 和風ホラーかよ。彼女にとってあいつは「神隠しの対象」だ。畳の下に埋められる前に逃げろ、親友。

 

 ◆

 

File 11:王子様・桜花神楽の場合

 

 最後に、凱旋通り。人だかりの中心にいる、桜花神楽先輩。俺は意を決して、ファンをかき分け声をかけた。

 

「先輩! あいつのこと、どう思ってます!?」

 

 周囲が静まり返る。神楽先輩は俺を見つけ、優雅に微笑んだ。だが、俺の耳元で囁かれた言葉は、王子様のものではなかった。

 

「……ふふ。彼かい?」

 

 彼女の瞳に、少女のような、いや、幼女のような無邪気な光が宿る。

 

「……私の、一番お気に入りの『お人形さん』だよ」

「……人形?」

「そう。……着せ替えたり、撫で回したり、抱きしめて寝たり……。とっても可愛い、生きたお人形」

 

 彼女はウインクした。

 

「……壊さないように、大切に箱(部屋)にしまっておかないとね」

 

 彼女にとってあいつは「コレクション」だ。ショーケースに入れられる前に逃げろ、親友。

 

 ◆

 

Last File:幼馴染・如月紗英の場合

 

 放課後の帰り道。俺はスーパーの袋を提げた如月紗英ちゃんと出会った。夕日に照らされた彼女は、聖母のように美しかった。ラスボスだ。これまでの彼女たちとは格が違う。

 

「あ、田中くん。奇遇ね」

「紗英ちゃん……。買い物?」

「ええ。あの子、今日はオムライスがいいって言うから」

 

 当たり前のように、あいつの夕飯を作ることになっている。俺は、今日一日の調査結果(地獄のリスト)を脳内で反芻しながら、最後の質問をした。

 

「なぁ、紗英ちゃん。……あいつの周り、すごいことになってるけど、どう思ってるの?」

 

 紗英ちゃんは立ち止まり、ふんわりと微笑んだ。嫉妬も、焦りも、不安もない。ただ、絶対的な真理を語るような顔で。

 

「……どうも思わないわ」

「え?」

「だって、あの子は『私の一部』だもの」

 

 彼女は自分の胸に手を当てた。

 

「……右手が左手に嫉妬する? 心臓が肺にライバル心を抱く? ……そんなことないでしょ?」

「……はぁ」

「あの子がどこで何をしていようと、誰と遊んでいようと……最後は、ここ(私)に帰ってくる。それは、地球が回るのと同じくらい、当たり前のことなのよ」

 

 彼女は歩き出した。その背中には、「勝利」という文字すら浮かんでいない。戦ってすらいないのだ。彼女は、あいつの「世界」そのものなのだから。

 

 ◆

 

 俺は一人、夕暮れの道に残された。手帳に書き込んだメモを見返す。

 

 ・獲物・資産・共犯者・おもちゃ・ペット・育成対象・眷属・赤子・共有財産・神隠し・人形・自分の一部

 

 ……あいつ、詰んでね?どこに逃げても地獄(天国)じゃん。全方位からロックオンされてるじゃん。

 

 俺のポケットの中で、スマホが震えた。あいつからのLINEだ。

 

『田中ー、今からゲーセン行かない? バイト代まだ残ってるし、奢るよ!』

 

 能天気なメッセージ。あいつは何も知らない。自分が、この巨大な愛の爆心地に立っていることを。

 

 俺は空を見上げた。一番星が光っている。

 

「……強く生きろよ、親友」

 

 俺は返信を打った。 『行くわ。……あと、今日は俺が奢ってやるよ。お前の最期の晩餐になるかもしれないからな』

 

 モブキャラである俺にできることは、せいぜいあいつの愚痴を聞いてやることと、あいつが誰かに刺された時に救急車を呼んでやることくらいだ。田中の災難は続く。けれど、このハチャメチャなラブコメを特等席で見られるのなら、まあ、悪くはない……かもしれない。





書き貯めていたのはここまでです。

正直、思ったより読者の方々が増えて驚いてます。
キャラの案を考えるのに色々試しに書き始めていたのでもしかしたら似たようなキャラが他の自作から出てくる可能性がありますのでまたどこかで出すかも。

本当はここで終わりだったのですが、読んでくれてる人も増えてるしもう少し続けてまとめようかなって感じです。アンケートもありがとうございました。

ここから先の展開について、どういう方向性が見たいかのアンケートです。参考程度なので確定ではないです。

  • このままヒロインを増やし続ける
  • 主人公取り合いルート(親友視点)
  • 主人公取り合いルート(ヒロイン視点)
  • 各ヒロインルート書く
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