美少女たちが金を払えば耳かきをしてくれる。しかも好感度が高い   作:三重知貴

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陸上部・早瀬理緒。耳かきパート

 

 白鷺天音という至高の芸術品による施術を終え、僕は骨抜きにされていた。  

だが、男の欲望というのは底なし沼だ。  極上のフレンチを味わったあとに、ジャンキーなスナック菓子を貪りたくなるのが男のサガというやつである。  

あるいは、静寂なクラシックを聴いた後に、心臓を叩くロックを求めたくなるようなものだ。

 

 上品で繊細な癒やしの次は、もっとこう、生命力に溢れた荒々しくも健康的な耳かきを所望したい。

 

 そう、僕は耳かきをされたいのだ。  何度でも、何度でも。

 

 紳士諸君ならわかるだろう。耳かきとは単なる衛生行為ではない。それはコミュニケーションであり、信頼の証であり、そして何より――太ももという聖域へのダイブである。

 

 僕は放課後のグラウンドへと足を向けた。  夕日が校舎をオレンジ色に染め上げる中、運動部たちの掛け声と土埃の匂いが漂ってくる。この青春の香り、悪くない。汗と制汗スプレーが混じり合った独特の空気感。  そして僕の視線は、トラックの脇でストレッチをしている一人の少女に釘付けになった。

 

 女子陸上部エース、早瀬理緒(はやせ りお)。

 

 ショートカットの茶髪が汗でわずかに額に張り付き、健康的に焼けた肌が夕日を反射して輝いている。  

何より特筆すべきは、その太ももだ。陸上競技で鍛え上げられた脚は、無駄な贅肉を一切許さないシャープな造形美を誇りつつも、女子特有の柔らかな曲線を失っていない。

エンジ色のジャージ越しにでも分かる、あのはちきれんばかりの弾力。

 

 天音先輩の太ももが極上のシルククッションだとするなら、彼女の太ももは最高級の高反発マットレスだ。  

間違いない。あそこで頭を預けられたなら、僕はきっと明日への活力をチャージできるに違いない。

 

 よし、行こう。  

 

僕は財布の中身を確認する。天音先輩が受け取らなかったので予算は温存されている。つまり、強気な交渉が可能ということだ。

 

 意を決して、タオルで汗を拭う彼女の背後へと近づいた。

 

「ん? あー、あんたか。おつかれ。今クールダウン終わったとこ」

 

 理緒はタオルを首にかけながら、気安い調子で返してくる。

彼女とは腐れ縁というか、クラスも一緒でよく話す仲だ。この距離感なら交渉の余地はある。  僕は無言で、彼女の前に千円札を三枚、扇のように広げて突き出した。

 

「は? 何それ。カツアゲ? じゃなくて私にくれんの? 意味わかんないんだけど」

 

当然の反応だ。

僕は真剣な眼差しで、自分の耳を指さし、そして彼女の膝元を指さした。

言葉はいらない。男の情熱は背中で、いや、視線で語るものだ。

 

「……はぁ? 耳……膝……?」

 

 理緒が眉をひそめ、数秒の思考のラグが発生する。  

そして、その意味を理解した瞬間、彼女の顔が夕日以上に真っ赤に染まった。

 

「ぶっ!!? あ、あんた何考えてんのバカじゃないの!? てか正気!?」

 

 僕は深く頷いた。至って正気だ。  

君のその鍛え抜かれた大腿四頭筋の上で、野性味あふれる耳かきを堪能したい。その一心である。

 

「い、意味わかんない! なんで私!? あんたなら他にお願いできる子とかいそうじゃん……それこそ生徒会長とかさぁ! なんでわざわざ汗くさい私なわけ!?」

 

 鋭い。女の勘というやつか。だがここで「さっき会長にはしてもらった」などとジェスチャーで伝えれば、「じゃあ私は二番目かよ」と機嫌を損ねる可能性がある。  僕は首を横に振り、理緒を真っ直ぐに見つめた。  君がいいのだ、と。  その健康的な美しさに癒やされたいのだ、と。  瞳にありったけの誠実さ(と欲望)を込めて訴えかける。

 

「っ……!?」

 

 理緒がたじろぐように半歩下がる。  タオルで口元を隠し、視線を泳がせる。

 

「な、なによその目……本気なの……?」

 

 僕は無言で千円札をもう一枚追加した。計四千円。破格だ。  だが理緒は、僕の手をパシッとはたいた。

 

「金の問題じゃないっつーの! バカ!」

 

 痛い。いい威力だ。さすがエース。  だが、その拒絶に「嫌悪」は混じっていない。  彼女は呆れたように大きなため息をつき、周囲をキョロキョロと見渡した。

 

「……こんなとこじゃ、無理だから」

 

 お?

 

「……グラウンドのど真ん中で膝枕なんかしてたら、他の部員に変な目で見られるでしょ! あっち! 体育館裏の用具置き場!」

 

 勝利である。  

 

僕は心の中でガッツポーズを決めた。 野性味あふれる陸上部エースの耳かき、ゲットだぜ。

 

 ◆

 

 夕暮れの用具置き場は、埃っぽい匂いと、積み上げられたマットの匂いがした。 薄暗い空間に、高窓から差し込む西日が長い影を落としている。  

静寂の中に、遠くの部活動の掛け声だけがBGMのように響く。

 

「……ほら、座れば」

 

 理緒は跳び箱用のマットの上に腰掛け、自身のジャージの太ももをパンパンと叩いた。  少し恥ずかしそうに顔を背けているが、その耳まで真っ赤だ。  

僕は恭しく一礼し、その聖域へと頭を預けた。

 

 ――すごい。  

 

頭を乗せた瞬間、しっかりとした反発力が返ってくる。 天音先輩の時のような包み込む柔らかさとは違う、筋肉の層が織りなす極上の弾力。 沈み込むのではなく、支えられる感覚。 それでいて表面は女子らしい柔らかさを保っており、ジャージの生地越しに伝わる体温が驚くほど高い。

運動直後のほのかな熱気と、シトラス系の制汗剤の香りが、僕の顔周りを包み込む。

 

「……あんたさぁ、本当に無防備っていうか、なんというか」

 

 頭上から、呆れたような理緒の声が降ってくる。  

 僕は「マイ耳かきセット」を懐から取り出し、無言で差し出した。

 

「準備いいわね……。貸して」

 

 理緒の手が伸びてきて、僕の手から耳かき棒を受け取る。  彼女の指先は少し硬く、マメができている。努力の証だ。

 

「動かないでよ。刺さっても知らないから」

 

 ゴソッ。

 

 最初は遠慮なく、大胆に耳かき棒が入ってきた。 ビクリと体が反応してしまう。

 

「ちょ、動かないでってば!」

 

 理緒の耳かきは、やはり天音先輩とは対照的だった。  

 

カリッ、ガリッ、と壁面を強めに擦る感触。 だが、それがいい。  

痒いところに手が届くというか、「そこだ!」というポイントを的確に、力強く攻めてくる。  繊細なワルツではなく、情熱的なロックのような耳かき。  

これぞ求めていた「生」の実感だ。

 

「……痛くない?」

 

 少しして、手つきが不意に優しくなった。  

見上げると、理緒が心配そうに僕を見下ろしている。逆光で表情は見えにくいが、その瞳が揺れているのがわかる。  僕は小さく首を横に振り、親指を立てて「グッド」のサインを送った。  

 

最高だ、と伝えるために。

 

「……バカ。褒めても何も出ないよ」

 

 理緒は少し口を尖らせたが、その手つきは明らかに丁寧になった。  カリ、カリ、とリズミカルな音が鼓膜に響く。  

彼女の太ももの上で、僕は安らぎに包まれる。

 

「……ねぇ」

 

 耳掃除を続けながら、理緒がぽつりと呟く。

 

「なんで、私だったの?」

 

 その問いに、言葉で答えることは許されない(というルールを自分に課しているわけではないが、今は耳かき中だ)。

しかし、彼女の不安は伝わってくる。  

 

自分はガサツだから。可愛げがないから。もっと女の子らしい子がいるのに。  

そんなコンプレックスが、彼女の言葉の端々に滲んでいる。

 

 僕は目を閉じたまま、彼女のジャージの裾を少しだけ強く握った。 信頼している、と伝えるように。 お前の、その飾らない一生懸命さがいいのだ、と伝えるように。

 

 僕の意図が伝わったのか、理緒の手がピタリと止まった。

 

「……あんたってさ。そういうとこ、ズルい」

 

 理緒の左手が、僕の髪に触れた。  

汗ばんだ指先が、優しく髪を梳いていく。  

耳かき棒の感触とは違う、不器用だけど温かな愛撫。

 

「……私だって、女の子なんだからね」

 

 小さな声だった。 けれど、その声には確かな熱がこもっていた。 カリ……と、耳の奥を優しく撫でられる。  さっきまでの荒っぽさはどこへやら。 今の理緒の手つきは、まるで宝物を扱うように慎重で、慈愛に満ちていた。

 

「……他の奴には、やってないよね?」

 

 ドキリとした。  

 

天音先輩と同じ質問だ。 なぜ彼女たちは、耳かき中に核心を突いてくるのか。

僕は狸寝入りを決め込むことにした。規則正しい寝息を装う。

 

「……寝たふりしても無駄だから。心拍数、上がってるよ」

 

 アスリートを侮ってはいけない。 理緒の指先が、僕の耳たぶをいじる。

 

「……もし浮気したら、耳の穴じゃなくて別の穴開けるからね。スパイクで」

 

 物理的に一番怖い脅しが来た。 だが、その声色はどこか楽しげで、甘えているようにも聞こえる。

 

「ま、とりあえず……今は私だけのものってことで、許してあげる」

 

 そう言って、理緒はくすりと笑った。 その笑顔は、きっと夕日よりも眩しいのだろう。見上げなくてもわかる。 太ももから伝わる体温が、少し上がった気がしたからだ。

 

 耳の中を掃除される快感と、理緒の太ももの感触、そして彼女の意外な独占欲。それらが混ざり合って、僕は極上のまどろみへと落ちていく。普段は男勝りな彼女が見せる、二人きりの時だけの乙女の顔。  

 

このギャップこそが、彼女の最大の武器なのかもしれない。

 

 ◇

 

 耳掃除を終え、僕は跳び箱マットから起き上がった。 耳の中は風通しが良くなり、心も体もリフレッシュ完了だ。 理緒は少し名残惜しそうに、自分の膝をさすっている。

 

 僕は約束通り、財布から四千円を取り出し、彼女に差し出した。  

 

だが、理緒は呆れたように手を振った。

 

「いらないってば。……そんなの貰ったら、なんか変な関係みたいじゃん」

 

 彼女は顔を背け、もごもごと続ける。

 

「その代わり……今度、部活休みの日に付き合いなさいよ。行きたいカフェ、あるから」

 

 それはデートの誘いではないか?  

僕は全力で頷き、了解の意を示した。金で解決できない要求。それこそが最も高くつく、しかし最も甘美な対価だ。

 

「よし。約束だからね! 破ったら校庭十周!」

 

 理緒はニカっと笑い、軽快な足取りで用具置き場を出て行った。  

嵐のような、しかし爽やかな一陣の風。  

女子陸上部エース、早瀬理緒。攻略完了、と言っていいだろうか。いや、攻略されたのは僕の方かもしれない。

 

 しかし。  人間の欲望とは、かくも深きものか。

 

 元気ハツラツな動の癒やしを得た今、僕の耳(と心)は、また別の刺激を求めて疼き始めていた。  

そう、例えるなら……。  静寂。  誰にも邪魔されない、密室の静けさ。  

クールで、無機質で、しかし内側に熱いマグマを秘めたような、そんな知的でダウナーな耳かき。

 

 僕は廊下を歩き出した。  向かう先は、図書室。  放課後の校舎の片隅で、ひっそりと本に埋もれる彼女の元へ。

 




お久しぶりです。
しばらく毎日投稿です(書き溜め)

ここから先の展開について、どういう方向性が見たいかのアンケートです。参考程度なので確定ではないです。

  • このままヒロインを増やし続ける
  • 主人公取り合いルート(親友視点)
  • 主人公取り合いルート(ヒロイン視点)
  • 各ヒロインルート書く
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