美少女たちが金を払えば耳かきをしてくれる。しかも好感度が高い 作:三重知貴
翌日の昼休み。 私の安息は、窓の外から響く黄色い歓声によって、またしても破られた。
生徒会室で彼を待っていた私の耳に、異様な熱気が伝わってくる。 昨日の図書室での勝利も束の間、私の「彼」探知レーダーが警鐘を鳴らしている。 あの中庭のざわめき。そして、空気を震わせる「可愛らしい」を凝縮したような、砂糖菓子みたいに甘ったるい声。
嫌な予感がする。 私は決裁途中の書類を放り出し、廊下へと飛び出した。
中庭は、一種のファンクラブイベントのような狂乱に包まれていた。 人だかりの中心にいるのは、小柄な少女。 ふわふわとしたピンクブロンドの髪をツインテールにし、制服のスカートを規定ギリギリまで短く着こなしている。
学園のアイドル的存在、久留米ましろ。
芸能人ではない。あくまで一介の生徒だ。 けれど、その愛くるしいルックスと、SNSでのフォロワー数、そして計算し尽くされた「あざとさ」によって、この学園のカーストトップに君臨している女王蜂。 男子生徒のみならず女子生徒からも絶大な支持を得ている「天使」。 だが、私だけは知っている。 あの天使の羽が、ポリエステル製の作り物であり、その下には強欲な悪魔の尻尾が隠されていることを。
「みんなー! 今日も見てくれてありがとー! ましろ、すっごく嬉しい!」
彼女がスマホに向かって手を振るたびに、「かわいいー!」「こっち向いてー!」と歓声が上がる。動画配信か、あるいはただの自撮りか。 そして、その狂乱のすぐ脇に――彼はいた。
彼は、大量の荷物を抱えさせられていた。 ましろのブランド物のスクールバッグ、ブレザー、飲みかけのタピオカドリンク、そして撮影用のリングライト。 まるで、彼女の専属マネージャーか下僕のようだ。
「あ、先輩! ライトの位置、もうちょっと右ですぅ! 影ができちゃうんで!」
ましろが、スマホの画面を確認しながら、彼に指示を飛ばす。 彼は額に汗を浮かべながら、必死にライトの位置を調整している。
「あ、ごめん! こうかな?」
「そうですぅ! さっすが先輩、『ファン0号』ですねっ!」
彼女はあざとくウインクを飛ばす。 その一瞬、スマホに向けられた笑顔が、彼にだけ向けられる「支配者の冷笑」に変わったのを、私は見逃さなかった。
(……あの女)
私の血管の中で、血液が沸騰する音がした。 彼女は彼を「理解者」という名の「手駒」扱いしている。 彼の断れない性格と優しさを熟知した上で、公衆の面前で彼を自分の所有物(アクセサリー)として利用しているのだ。 「地味な男子を従える私」という構図で、自分の魅力を引き立てるために。
私は人波をかき分けて進んだ。 「ちょっと、押さないでよ」「あ、会長だ」「げっ、白鷺先輩」 私の姿に気づいた生徒たちが、モーゼの十戒のように道を開ける。
私は、撮影会と化した空間へと踏み込んだ。
「……随分と楽しそうね、久留米さん」
氷点下の声を投げかける。 ましろの動きが止まった。 彼女はくるりと振り返り、誰もが騙される「営業用」の満面の笑みを私に向けた。
「あ、生徒会長さん! こんにちはぁ! 今ね、みんなと思い出作りしてたんですぅ!」
「昼休みとはいえ、中庭を占拠しての撮影行為は迷惑よ。それに、その騒ぎ。予習をしている生徒たちの邪魔になっているとは思わない?」
正論のナイフ。 しかし、彼女は怯むどころか、頬を膨らませてみせた。
「ええー? これくらい、いいじゃないですかぁ。みんな楽しんでるしぃ。……ねー?」
彼女が同意を求めると、取り巻きたちが「そうだそうだ!」「会長厳しすぎ!」「ましろちゃん可愛いから正義!」と声を上げる。 多数決の暴力。 彼女は「空気」を味方につける術を知っている。
「それにぃ、先輩も手伝ってくれてるんですよ? ね、先輩?」
ましろが彼にすり寄る。 あろうことか、彼の腕に自分の胸を押し付け、上目遣いで見つめた。
「先輩、ましろのお手伝い、嫌じゃないですよね? ……迷惑、でしたか?」
うるうるとした瞳。計算された涙目。 これを至近距離で見せられて、彼が「迷惑だ」と言えるはずがない。
「い、いや……迷惑なんてことないよ。俺で役に立つなら……」
彼は顔を赤くして、視線を泳がせている。 その反応を見て、ましろは私に向かって「ほらね?」という顔をした。勝ち誇ったような、挑発的な笑み。
「先輩はね、ましろの『特別』なんですぅ。だから、会長さんでも邪魔しないでくださいね?」
彼女は彼の手からライトを取り上げると、今度はその手を自分の腰に回させようとした。 動画の演出だろう。「カップル風」の動画でも撮るつもりか。
(……汚らわしい)
私の理性が限界を迎えた。 生徒会長としての立場? 品位? 知ったことではない。 今すぐあのツインテールを引き千切ってやりたい。
私が一歩踏み出そうとした、その時だった。
「――はいはい、そこまで。解散、解散」
気だるげな、ハスキーな声が響いた。 タバコの残り香と、薬品の鋭い匂いが漂ってくる。
白衣を羽織った女性が、群衆を割って現れた。 くしゃくしゃの黒髪。死んだ魚のような目。片手には微糖の缶コーヒー。
化学教師、蓮見響子。
「先生……」
「お前ら、うるさいんだよ。化学準備室まで声が響いてくる」
蓮見先生は不機嫌そうに頭をかいた。
「あと久留米、スマホの使用はルールに従え。あんまり派手にやってると没収するぞ」
「あ……ちぇっ、はーい。……ほらみんな、散った散った!」
教師が出てきては分が悪いと判断したのか、ましろはあっさりと撤収を命じた。 そして、彼に向かって「先輩、ありがと! また明日ね♡」と投げキッスをして、取り巻きと共に去っていった。 逃げ足の速さと切り替えの早さだけは、一流だ。
場が静まる。 残されたのは、私と、彼と、蓮見先生だけ。
「ふぅ……どいつもこいつも、盛りのついた猫みたいに騒ぎやがって」
蓮見先生は溜息をつき、缶コーヒーを煽った。 そして、虚ろな目を彼に向けた。
「……で、お前だ」
「は、はい?」
彼はまだ、ましろに押し付けられたゴミを持ったままだ。
「お前、最近あちこちで引っ張りだこらしいな。……生徒会だの、陸上部だの、図書室だの」
先生は気だるげに彼に歩み寄ると、その胸ぐらを掴み、顔を近づけた。 大人の女性の匂いが、濃厚に漂う。
「……精が出る。だがな、学生の本分は勉強だろ?」
「あ、はい、それは……」
「お前の最近の化学の小テスト、見たぞ。……酷い点数だったな」
彼はギクリとして身体を縮めた。
「補習だ。……今すぐ、化学準備室に来い」
「え、今からですか!? でも昼休みは……」
「飯くらい食わせてやる。……私の『特製』のな」
先生はニヤリと笑った。 その笑顔は、だらしないようでいて、どこか妖艶で、捕食者の色を帯びていた。 彼女は彼の手を引き、強引に連行しようとする。
「お待ちください、蓮見先生」
私は割って入った。 小悪魔が去ったと思ったら、次は魔女。 この学園には、彼を狙うハイエナしかいないのか。
「彼は生徒会の仕事があります。補習なら、放課後にお願いします」
「……あ? なんだ、白鷺か」
先生は面倒くさそうに私を見た。
「生徒会の仕事? そんなもん、後回しだ。こっちは教育的指導だ。」
「昼休みは生徒の自由時間です。拘束権はありません」
「教師にはあるんだよ。……ほら、行くぞ」
先生は私の抗議を無視し、彼を引きずっていく。 彼は「あ、あの、会長……」と助けを求めるような目で私を見ている。
(……させない)
権力の壁。教師という絶対的な上位存在。 けれど、ここで引いたら、彼はあの薄暗い化学準備室に連れ込まれる。 あの部屋は危険だ。 鍵のかかる密室。怪しげな薬品。そして、倫理観の欠如した教師。 「実験台」と称して、何をされるか分かったものではない。
私は彼のもう片方の手を掴んだ。
「――っ!?」
彼が驚いて声を上げる。 右手は教師に、左手は生徒会長に掴まれている状態。
「離せよ、白鷺。えーと……あれだ。公務執行なんちゃらだぞ」
「離しません。……彼は、私のものです」
口走ってしまった。 けれど、訂正はしない。
「……私の、必要な人材です。誰にも渡せません」
蓮見先生は、少し驚いたように目を見開いた。 そして、私の手を、彼の腕を、ねっとりと視線で舐め回し――面白そうに口角を上げた。
「へぇ……。優等生の仮面の下は、随分とドロドロしてんねぇ」
先生は彼の手を離した。 あっさりと。
「……まあいい。興が削がれた」
彼女はポケットに手を突っ込み、踵を返す。
「だがな、白鷺。……お前みたいな潔癖な人間、男の本当の扱いは分からんよ」
すれ違いざま、彼女は私の耳元で囁いた。
「……大人の味を教えるのは、私の方が上手いと思うけどな?」
挑発。 彼女は手をひらひらと振りながら、校舎の闇へと消えていった。
残された中庭。 私は大きく息を吐き、膝の力が抜けるのを感じた。
「……会長、大丈夫ですか?」
彼が心配そうに私を覗き込む。 その顔を見て、私は再び怒りと、そしてどうしようもない愛しさが込み上げてきた。
「……大丈夫なわけ、ないでしょう」
私は彼の手を強く握りしめた。
「貴方は、どうしてそんなに隙だらけなの? あんな女にいいように使われて、教師に連れ回され……」
「すみません……断れなくて」
「……はぁ」
私はため息をつき、彼の腕を引いた。 もう、誰もいない場所へ行きたい。 誰の目も届かない、安全な場所へ。
「行くわよ」
「え、どこへ?」
「……屋上」
私は嘘をついた。 生徒会室ではない。屋上でもない。 もっと、確実な場所。
私たちは、旧校舎へと向かった。 人気のない廊下。埃っぽい空気。 その一角にある、今は使われていない「第二資料室」。 生徒会長である私しか鍵を持っていない、秘密の部屋。
ガチャリ、と鍵を開ける。 中に入り、彼を招き入れ、内側から鍵をかけた。
静寂。 窓から差し込む光だけが、薄暗い部屋を照らしている。 埃の匂いと、古い紙の匂い。 図書室に似ているけれど、ここはもっと閉鎖的で、二人だけの箱庭だ。
「……ここ、どこですか?」
「私の隠れ家よ」
私は彼を壁際に追いつめた。 ドン、と壁に手をつく。 壁ドン。 彼は目を丸くして、私を見上げている。
「……会長?」
「もう、我慢できないわ」
私は眼鏡を外し、胸ポケットにしまった。 ぼやけた視界の中で、彼の顔だけが鮮明に浮かび上がる。
「貴方が無防備すぎるから、悪い虫ばかり寄ってくるのよ。……だから」
私は彼の手を取り、自分の腰に回させた。 ましろがやろうとしていたことを、私がやる。 ただし、動画のためでも、演技でもなく、本能のままに。
「……私が、マーキングしてあげる」
「え……?」
「動かないで」
私は彼の首筋に顔を埋めた。 脈打つ血管。温かい肌。 そこへ、唇を押し当てる。
「んっ……!?」
彼が声を漏らす。 私は構わず、強く、吸い付いた。 痛みと快感が混じるくらいの強さで。 赤い痕が残るように。 誰が見ても、「所有者がいる」と分かるように。
数秒後。 私はゆっくりと顔を離した。 彼の白い首筋に、鮮やかな紅い花が咲いていた。
「……これでよし」
私は満足げに微笑んだ。
「……会長、これ……」
彼は首筋を押さえ、顔を真っ赤にして狼狽えている。 鏡を見なくても分かるのだろう。そこに刻まれた熱の痕跡が。
「虫除けのおまじないよ」
私は彼に背を向け、ドアの方へと歩き出した。 心臓が破裂しそうなくらい高鳴っている。 やってしまった。 もう、後戻りはできない。
「……教室に戻る時は、絆創膏でも貼っておきなさい。でも、お風呂に入る時は剥がして……私のことを思い出しなさい」
振り返らずに告げる。
「放課後、また迎えに行くわ。……逃げられると思わないでね」
鍵を開け、私は部屋を出た。 廊下を歩く私の顔は、きっと見たこともないほど崩れているに違いない。 歓喜と、羞恥と、背徳感で。
学園のアイドル? セクシーな教師? 勝てるものなら勝ってみなさい。 彼にはもう、私の「印」が刻まれているのだから。
けれど。 私の脳裏に、ふと誰かの言葉が蘇る。
『人形』 『コレクション』 『壊さないように』
私は首を振り、その思考を振り払う。 まずは目の前の勝利を積み重ねるだけ。 次の一手はどうする? 学園の中での争いはもう十分だ。 今度は、学校の外へ連れ出そう。 二人きりのデート。 そこで、決定的な楔を打ち込むために。
豆知識・うちの子たちはフルスロットルです。若人に悩む時間などないのだよ
ここから先の展開について、どういう方向性が見たいかのアンケートです。参考程度なので確定ではないです。
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このままヒロインを増やし続ける
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主人公取り合いルート(親友視点)
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主人公取り合いルート(ヒロイン視点)
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各ヒロインルート書く