美少女たちが金を払えば耳かきをしてくれる。しかも好感度が高い   作:三重知貴

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陸上部・早瀬理緒。ラブコメパート

――あいつは、私のことなんて「いい友達」としか思っていない。

 

 私、早瀬理緒は、いわゆる「サバサバ系」女子ってやつだ。 女子陸上部のエースとして、来る日も来る日もトラックを走り回り、汗と泥にまみれている。

 長い髪は邪魔だからバッサリ切ったし、スカートよりもジャージでいる時間の方が長い。 男子からは「理緒」と呼び捨てにされ、背中を叩き合い、バカ話で盛り上がる。そこには色気のかけらもない。

 

 それが、私の日常。 それが、早瀬理緒というキャラ。

 

 でも。

 

 そんな私の「女の子」の部分を、強引に引っ張り出したのが――あいつだった。

 

 去年の夏、地区大会予選で負けた日のことを覚えている。 タイムが伸びず、ライバル校に競り負けて、私は悔しさで泣きそうになるのを必死でこらえていた。  部員たちの前では強気なエースでいなきゃいけない。「次があるさ」なんて笑い飛ばして、一人で用具室の裏に隠れて膝を抱えていた時だ。

 

 あいつが、やってきたのは。

 

「……なんだ、ここか」

 

 あいつはスポーツドリンクを一本、私の頬に押し当てた。 慰めるわけでも、励ますわけでもない。 ただ、隣に座って、同じ空を見上げてくれた。

 

「……見んなよ。不細工な顔してんだから」

 

 「いつも通りだろ」

 

 「うっさいわね!」

 

 軽口を叩き合って、少しだけ気が楽になった。 そして、帰り際。あいつは立ち上がった私を見て、さらりと言ったんだ。

 

「理緒が走ってる姿、俺は好きだよ。誰よりも格好良くて――誰よりも綺麗だった」

 

 心臓が、走っている時よりも激しく跳ねた。 「綺麗」なんて言葉、私には無縁だと思ってた。 汗だくで、必死なだけの私を、こいつは見ていてくれたんだ。

 

 その瞬間から、あいつはただの「腐れ縁の男子」じゃなくなった。 私を「女の子」として肯定してくれた、たった一人の男の子になった。

 

 だからこそ、もどかしい。 あいつの周りには、可愛くて女の子らしい子がたくさんいるから。 生徒会長の白鷺先輩とか、あんな完璧な人が近くにいたら、私なんてただの「野蛮な運動部」にしか見えないんじゃないかって、いつも不安になる。

 

 そんな私のコンプレックスを、あいつは今日、あっさりとぶち壊しに来た。

 

 ◆

 

「俺は理緒がいいんだよ」

 

 真正面からそんなこと言われて、断れるわけがないじゃない。 お金なんてどうでもよかった。

 あいつが、あの上品な生徒会長とか他の子じゃなくて、わざわざ私を選んでくれた。  「私の太ももがいい」って言ってくれた。

 

 それが嬉しくて、恥ずかしくて、どうにかなりそうだった。

 

 用具置き場のマットの上。 あいつの頭が、私の太ももに乗っている。 ジャージ越しに伝わる重みと熱が、思考回路をショートさせそうになる。

 

 ――硬くないかな。  ――汗臭くないかな。  ――太すぎないかな。

 

 不安がぐるぐると渦巻く。 私の脚は、速く走るための筋肉の塊だ。女の子らしいふわふわした感触なんてない。 それでも、あいつは「最高だ」と言ってくつろいでいる。

 

「……あんたさぁ、本当に無防備っていうか」

 

 呆れたふりをして、声をかける。でも、本当はドキドキしているのがバレないかヒヤヒヤしていた。

 

 耳かき棒を持つ手が震えないように必死だった。

 

 あいつの耳の中なんて見たことないし、傷つけたらどうしようって怖いし。 でも、それ以上に「触れたい」って気持ちが勝った。

 

 カリッ、ガリッ。

 

 不器用な音がする。 それでもあいつは気持ちよさそうに目を細めている。

 

 その顔を見ていたら、どうしようもなく愛おしさが込み上げてきた。

 

 普段は私のことをからかってくるくせに、今はこんなに大人しくて。 私の膝の上で、私にすべてを委ねてくれている。

 

 ――私だけのもの。

 

 そんな独占欲が、胸の奥でふつふつと湧き上がる。

 

 あいつはモテる。自覚がないのがタチが悪いけど、誰にでも優しいから、きっと他の女子も放っておかない。  

 もしかしたら、他の子にもこうやって甘えているのかもしれない。

 

「……他の奴には、やってないよね?」

 

 思わず聞いてしまった。 「今は理緒だけ」なんて曖昧な答えが返ってきたけど、その言葉を信じることにした。

 だって、あいつは嘘をつくとき目が泳ぐから。今は、真っ直ぐ目を閉じて、私を感じてくれているから。

 

 左手で、あいつの髪を梳く。

 少し硬い髪質。汗の匂いじゃなくて、あいつ自身の匂いがする。

 

「……私だって、女の子なんだからね」

 

 つぶやいた言葉は、本心だ。 お前が私を女の子にしてくれたんだから、責任取りなさいよ。そんな気持ちを込めて、優しく耳を撫でる。

 

 グラウンドからは部活の掛け声が聞こえるけれど、この薄暗い用具置き場だけは、世界から切り離された二人だけの空間みたいだ。

 

 もし、今ここで誰かが入ってきたら。 もし、この関係がバレたら。  

 ……それでもいいかな、なんて思う。 むしろ「こいつは私のものだ」って、見せつけてやりたいくらいだ。

 

 あいつが寝息を立てそうになる。  

 

 その無防備な顔を、一番近くで見られる特権。

 

 ねえ、気づいてる? 私がどんな顔で、あんたを見下ろしているか。 普段の「理緒」じゃ絶対に見せない、とろけるような顔をしていること、あんたは知らないままでいい。

 

「……好きにしていいなんて言ったけど、本当に寝ないでよ?」

 

 憎まれ口を叩きながら、私は太ももの位置を調整する。  

 

 少しでもあいつが寝やすいように。 少しでも長く、この時間が続くように。

 

 耳かきが終わったあと、あいつはお金を払おうとした。  

 

 バカだなぁ。  

 

 私が欲しいのは、そんな紙切れじゃないのに。

 

 だから、約束を取り付けた。次はカフェデート。ジャージじゃなくて、精一杯おしゃれをして行ってやる。あいつが「誰だお前」って驚くくらい、可愛くなってやるんだから。

 

 走り去っていくあいつの背中を見送りながら、私は自分の膝をぎゅっと握りしめた。

 

 そこにはまだ、あいつの頭の重みと、確かなぬくもりが残っていた。

 

 ――次は、もっとすごいの、してあげるからね。

 

 覚悟しとけよ、私の鈍感なゴールテープ。




こいつ(主人公)はなんなのか?
俺にもわからん

ここから先の展開について、どういう方向性が見たいかのアンケートです。参考程度なので確定ではないです。

  • このままヒロインを増やし続ける
  • 主人公取り合いルート(親友視点)
  • 主人公取り合いルート(ヒロイン視点)
  • 各ヒロインルート書く
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