美少女たちが金を払えば耳かきをしてくれる。しかも好感度が高い 作:三重知貴
動から静へ。 熱狂から静寂へ。 太陽から月へ。
早瀬理緒という強烈な太陽光線を浴び、その健康的な筋肉の躍動に揉みしだかれた僕の心と耳は、今、次なるステージを求めていた。
男の欲望とは、なんと業が深いのか。
あれほど充実したスポーティな時間を過ごし、心身ともにリフレッシュしたはずなのに、その舌の根も乾かぬうちに、僕は相反する属性を渇望しているのだ。
汗と青春の輝きの次は、ひんやりとした知性の闇に包まれたい。
賑やかなグラウンドの喧騒から離れ、世界から隔絶されたシェルターで、誰にも邪魔されない背徳的な時間を過ごしたい。
そう、僕は耳かきをされたいのだ。 徹底的に、静かに、そして冷徹に。
僕は校舎の階段を上り、最も静謐な聖域――図書室へと足を向けた。 放課後の廊下は、部活動へ向かう生徒たちの活気で溢れているが、図書室のある北棟へ近づくにつれて、その喧騒は遠のいていく。
空気の密度が変わる感覚。 湿度を含んだ少し重たい空気が、肌にまとわりつく。
重厚な木の扉の前に立つ。 この扉の向こうには、僕が求める「静の極致」があるはずだ。 僕は呼吸を整え、襟を正し、そして厳粛な気持ちで扉を押し開けた。
古びた紙とインクの匂い。 埃とワックスが混じり合った、学校の図書室特有の香りが鼻腔をくすぐる。 西日が長く伸び、無数に立ち並ぶ書架の影を床に焼き付けている。 舞い上がる埃が光の粒となってキラキラと輝き、まるで時間の流れそのものがここで停滞しているかのような錯覚を覚える。
その空間の主は、いつもの定位置にいた。
カウンターの奥、貸出業務用のPCの横で、分厚いハードカバーの本に没頭する少女。
図書委員、月見里静(やまなし しずか)。
切り揃えられた黒髪のボブカットは、まるで日本人形のように精緻で、一切の乱れがない。 透き通るような白い肌は、血の通っていない陶磁器を連想させる。長い睫毛が落とす影、ページをめくる細く華奢な指先。そのすべてが、完璧に計算された芸術品のように静止画として完成されていた。
彼女は「氷の図書委員」と呼ばれている。 無表情、無口、無愛想。
クラスメイトたちが遠巻きにするその冷たさこそが、今の僕には心地よい。 天音先輩のような包容力でもなく、理緒のような親しみやすさでもない。 僕が求めているのは、他者を拒絶する冷たい壁の向こう側にある、選ばれた人間だけが触れられる領域だ。
僕は足音を忍ばせ、カウンターへと近づいた。 静は顔を上げない。 本の世界に没入しているのか、あるいは僕の接近に気づいていて無視しているのか。
おそらく後者だろう。彼女の観察眼は侮れない。
僕はカウンターの前に立ち、彼女の視界に入るように身を乗り出した。 そこで初めて、静の手が止まる。 ゆっくりと、本当にゆっくりと顔が上げられる。 前髪の隙間から覗く、漆黒の瞳。 光を吸い込むようなその瞳に見つめられると、自分の存在が透明になっていくような不安と、同時に言い知れぬ興奮を覚える。
「……何?」
発せられたのは、氷点下の声音。 必要最低限の音量と、感情を削ぎ落とした響き。
ご褒美である。
僕は無言で財布を取り出した。 今回は、出し惜しみはしない。 理緒の時は四千円だったが、ここでは更なる本気を見せる必要がある。
彼女は気難しい。生半可な覚悟では、そのATフィールドを突破することはできないのだ。
僕は千円札を五枚、カウンターの上に並べた。
五千円。
高校生にとっての五千円とは、社会人にとっての五万円、いやそれ以上の価値を持つ。 僕の全財産の約半分。この痛みこそが、誠意の証だ。
静は並べられた紙幣を一瞥し、そして再び僕の顔を見た。眉一つ動かさない。
だが、その瞳の奥にわずかな軽蔑の色が浮かんだのを、僕は見逃さなかった。
「……延滞料金なら、そんなにいらない。」
淡々とした指摘。 僕は首を横に振る。そして、自分の右耳を人差し指でトントンと叩き、次に両手を合わせて拝むポーズをとった。さらに、視線でカウンターの奥――関係者以外立入禁止のスペースを示唆する。
言葉はいらない。 彼女との間に必要なのは、高度なコンテクストの共有だ。耳を掃除してくれ。金は払う。場所はそこがいい。
このシンプルな、しかし変態的な要求を、彼女の叡智が処理していく。
数秒の沈黙。 図書室の壁掛け時計の秒針が、カチ、カチ、と時を刻む音だけが響く。
「……バカなの?」
核心を突く罵倒が飛んできた。否定はしない。耳かきのために全財産を散財する男をバカと呼ばずして何と呼ぶのか。
だが、僕は引かない。懇願するような、捨てられた子犬のような(と自分では思っている)瞳で、彼女を見つめ続ける。
静は小さく溜息をついた。その溜息すらも、可憐で儚げだ。彼女はパタンと本を閉じ、栞を挟んだ。そして、五千円には触れず、カウンターの横にあるスイングドアのロックを外した。
「……入れば。」
勝った。
心の中でガッツポーズを決める。やはり、誠意(と執念)は伝わるものだ。
僕はカウンターの中へとお邪魔する。 そこは図書委員だけの聖域。漂う空気すらも、表側とは少し違う気がする。静は無言で奥へと歩き出した。
書庫への入り口付近にある、作業用の休憩スペース。 そこには古びた革張りのソファーがあり、本棚に囲まれて完全な死角となっていた。
静はソファーに腰を下ろすと、スカートの裾を整え、両足を揃えた。黒いニーソックス。その上にある、絶対領域。理緒のような健康的な肌色とは違う、透き通るような白さが、薄暗い図書室の中で妖しく発光しているように見える。
「……5分だけ。」
短いが、十分だ。その5分に、僕は命を懸ける。
僕はソファーの前に跪き、一度深呼吸をしてから、その漆黒と純白の境界線へと頭を沈めた。
――柔らかい。 いや、「柔らかい」という表現では生ぬるい。理緒の太ももが高反発マットレスなら、静の太ももは最高級の羽毛枕、あるいはつきたてのマシュマロだ。
筋肉の張りを感じさせない、とろけるような感触。 骨格の華奢さが伝わってきて、力を入れたら壊れてしまいそうな儚さがある。 ひんやりとした制服の生地越しに、じんわりと体温が伝わってくる。 その温度は決して高くはないが、僕の芯を蕩かすには十分すぎる熱量を持っていた。
「……動かないで。」
頭上から降ってくる声。吐息が髪にかかるほどの距離。僕は持参したマイ耳かきセットを、手探りで彼女に差し出した。
静の指先が僕の手に触れる。 冷たい。 その冷たさが、火照った僕の体に心地いい。
彼女は無言で耳かき棒を受け取ると、僕の耳をもう片方の手で軽く引っ張り上げた。
その手つきは、理緒のような荒々しさは微塵もなく、天音先輩のような優雅さとも違う。
例えるなら、外科医の手術。あるいは、爆弾処理班の作業。 徹で、正確無比で、一切の迷いがない。
スッ、と耳かき棒が侵入してくる。冷たい金属の感触が、耳の粘膜を滑る。ゾクリと背筋が震える。
カサッ。コソッ。
音すらも静寂だ。 彼女は、僕の耳の中の構造を完全に把握しているかのように、的確に「快感のツボ」を刺激してくる。
痛みはない。くすぐったさもない。 あるのは、ただひたすらに異物が取り除かれていく清涼感と、管理されているという背徳感。
「……汚い。」
ボソリと呟かれた言葉に、僕は身を縮こまらせた。
すいません。今日3回目なんです。物理的には綺麗なはずなんです。しかし、彼女の言う「汚い」は、おそらく物理的な汚れのことだけではない。
耳かき棒の動きが止まる。静の視線が、僕の側頭部に突き刺さっているのを感じる。
「……匂いがする」
心臓が跳ね上がった。匂い? まさか。
「……甘い、香水の匂い。……汗の、運動部の匂い」
戦慄した。彼女は犬か? いや、魔女か? 天音先輩の残り香と、理緒との接触で付着した汗の匂い。
それを、この短時間で嗅ぎ分けたというのか。
静の冷たい指先が、僕の頬をツーっとなぞる。まるでナイフの背を当てられているような、鋭利な感触。
「……はしご、したの?」
声に感情はない。だが、その無感情さが逆に恐ろしい。
肯定も否定もできない。耳かき棒が入っているからだ(という言い訳で沈黙を守る)。僕はまな板の上の鯉、いや、解剖台の上のカエルだ。
「……ふん。どうせ、あちこちでだらしない顔見せてきたんでしょ。」
静の指が、僕の唇を強く押し潰す。痛い。でも、その痛みが妙に嬉しい。
彼女は僕の不貞(?)を見抜いている。その上で、拒絶するのではなく、罰を与えようとしている。
「……浮気者は、鼓膜突き破って、脳みそかき回してあげる。」
猟奇的すぎる脅し文句。図書委員らしく、言葉の選び方が具体的で文学的だ。しかし、その言葉とは裏腹に、再開された耳かきの動きは驚くほど優しかった。
まるで、他の女の痕跡をすべて削ぎ落とすかのような執拗さ。天音先輩の記憶も、理緒の記憶も、すべて上書き保存していくような丁寧さ。冷たい耳かき棒が、僕の脳髄に直接語りかけてくる。『私のことだけ考えろ』と。
静寂な図書室。本の匂いと、静の微かな石鹸の香り。視界は彼女のスカートの黒色に覆われている。外界からの情報は遮断され、ただ彼女の存在だけが僕の世界の全てになる。
ああ、これが「洗脳」というやつかもしれない。そんな物騒な思考すらも、快感の波にさらわれて消えていく。
彼女は時折、小さな溜息をつきながら、僕の髪を撫でた。
その手つきは、どこか壊れ物を扱うように慎重で、そして微かに震えていた気がする。普段の氷のような彼女からは想像もできない、不器用な優しさ。
そのギャップに、僕は完全にノックアウトされていた。
5分という時間は、永遠のようでもあり、一瞬のようでもあった。 意識が半分、夢の世界へ旅立ちかけたその時。
「……終わり。」
冷淡な宣告と共に、耳かき棒が引き抜かれた。
名残惜しさを感じながら、僕はゆっくりと身を起こす。 耳の中がスースーする。風通しが良くなりすぎて、空気の流れる音さえ聞こえてきそうだ。
僕は約束通り、カウンターに置いたままの五千円を彼女に差し出そうとした。だが、静はそれを冷めた目で見下ろし、手で払いのけた。
「……いらない。汚いお金。」
手厳しい。
彼女にとって、僕の不純な動機と、他所を回ってきた経緯は「汚れ」そのものなのだろう。 では、どうやって代償を払えばいいのか。 僕は困惑して首を傾げる。
静は黙って立ち上がり、近くの書架から一冊の本を抜き出した。装丁が真っ黒な、分厚い海外文学のハードカバー。それを、僕の胸にドンと押し付けた。
「……その代わり、これ。貸してあげる。」
は? 本?
「……明日も来なさい。感想、聞くから。」
それは読書会のお誘いだろうか。 それとも、強制的な思想教育の始まりだろうか。
彼女の瞳を見る。
そこには、拒否など許さないという絶対的な光と、ほんのわずかな――本当に顕微鏡で見なければ分からないレベルの――期待の色が混じっているように見えた。
僕は本を受け取り、深く頷いた。 お金ではなく、時間を、思考を、共有すること。 それが彼女の求めた対価だったのだ。
「……遅刻したら、角で殴る。」
本の角を指差して脅す彼女。 あの厚さなら凶器になり得る。撲殺天使も真っ青だ。僕は敬礼し、その場を後にする準備をした。
帰り際、ふと振り返ると、静はもうソファーに座り直し、自分の膝をじっと見つめていた。 その表情は読めない。だが、耳がほんのりと赤く染まっているのだけは、夕日のせいではないはずだ。
図書委員、月見里静。 攻略完了……いや、精神的な隷属契約完了と言うべきか。 彼女の静寂という沼は、思った以上に深く、そして心地よい。
廊下に出た僕は、大きく息を吐いた。 胸には、彼女から渡された重たい本。耳には、まだ彼女の冷たい指先の感触が残っている。
さて。 これで3人だ。
王道の生徒会長。 活発な陸上部エース。 クールな図書委員。
主要な属性は網羅した気がする。耳の中もピカピカだ。 だが、人間の、いや男の欲望には果てがない。これだけ整った耳内環境を作り上げた今、次に求めるのは何か。
それは「飴」と「鞭」の融合。同級生や先輩では味わえない、天使の笑顔と、悪魔の企み。
僕は1年生の教室の方角を見据えた。
さて、次は君だ。
僕は重たい本を鞄にしまい込み、新たな戦場へと足を向けた。
豆知識・主人公の耳垢はすぐ溜まる。理由は頭の中身がゴミだらけだから。
ここから先の展開について、どういう方向性が見たいかのアンケートです。参考程度なので確定ではないです。
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このままヒロインを増やし続ける
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主人公取り合いルート(親友視点)
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主人公取り合いルート(ヒロイン視点)
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各ヒロインルート書く