美少女たちが金を払えば耳かきをしてくれる。しかも好感度が高い   作:三重知貴

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アイドル・久留米ましろ。ラブコメパート

――人間なんて、チョロい。

 

 私、久留米ましろ(くるめ ましろ)の世界は、イージーモードのゲームみたいなものだ。鏡の前で30分かけて作った「完璧な後輩」の仮面を被り、口角を適切な角度に持ち上げて、「おはようございますっ!」と挨拶する。たったそれだけで、男子も女子も、先生さえも、みんな私に優しくなる。

 

 『可愛い』は正義。『愛想』は武器。『あざとさ』は賢さ。

 

 私はこの学園という箱庭で、アイドルという役割を完璧に演じている。ファンクラブ? 勝手に作ればいい。貢ぎ物? 欲しければ受け取ってあげる。みんな、私の掌の上で踊る駒に過ぎない。心地よい優越感。そして、底知れない退屈。

 

 誰も、私の本当の顔なんて見ていない。見ようともしない。みんなが見ているのは、「久留米ましろ」という可愛らしいパッケージだけ。中身が腐った毒まんじゅうでも、彼らは喜んで頬張るだろう。

 

 ……でも。たった一人だけ、バグみたいな存在がいる。

 

 あの先輩だ。

 

 最初の出会いは最悪だった。私が裏庭で、しつこい勧誘男を低い声で撃退しているところを見られた。「終わった」と思った。バラされたら私のアイドル人生は終了だ。泣き落としで口止めしようと、涙袋に力を入れた瞬間、彼は言ったんだ。

 

『へえ、そっちの方が人間らしくていいじゃん。』

 

 は?意味がわからなかった。彼は私の「黒い部分」を見ても引かなかった。むしろ、面白がった。それ以来、彼は私の前でだけ、平気で雑な扱いをしてくる。私も、彼にだけは猫を被るのをやめた。

 

 毒を吐いても、舌打ちしても、彼は「はいはい」と受け流す。その適当さが、心地よかった。他の有象無象みたいに私を崇めない。対等な人間として接してくる。……まあ、だからといって好きとかじゃないけど。ただの、暇つぶしに丁度いいおもちゃ。そう思っていたのに。

 

 最近、おもちゃの挙動がおかしい。私の知らないところで、私の知らない誰かと遊んでいる気配がする。それが、こんなにも私をイラつかせるなんて、計算外だった。

 

 ◆

 

 渡り廊下でスマホをいじりながら、私は内心舌打ちをしていた。SNSの通知がうるさい。『ましろちゃん今日も可愛い!』『天使!』はいはい、どうも。テンプレお疲れ様。

 

 そこに、彼が現れた。気配を消して近づいてくるあたり、無駄にスキルが高い。私は反射的に営業スマイルを貼り付けたけれど、彼の顔を見た瞬間、そんなものは必要ないと悟った。

 

 彼は、真剣な顔で財布を取り出した。そして、千円札を六枚。扇型に広げて突き出してきた。六千円。……は?

 

 意味がわからなくてフリーズした。カツアゲ? いや、自分から出してる。貢ぎ物? にしては現金すぎる。彼が指差したのは、自分の耳と、私の膝。

 

 ――耳かき。膝枕。それを、金で買おうとしている。

 

 その瞬間、私は吹き出しそうになった。なんてバカなの?他の男子なら、下心丸出しで「ましろちゃん、お願い♡」とか言ってくる場面だ。それをこいつは、ビジネスライクに、しかも全財産に近い金額を積んで交渉してきた。

 

 「俺はましろのサービスに対価を払う」という、奇妙な誠実さ。そして何より、「ましろに癒やされたい」という切実な欲望。

 

 ……悪い気はしなかった。いや、むしろゾクゾクした。私という「アイドル」を消費するのではなく、私という「女」の膝を求めている。そのどうしようもないバカ正直さが、私のサディズムを刺激した。

 

 私は彼の手からお札をひったくった。いらないけど。こんな端金で、私が買えると思ってるその根性が気に入らない。でも、その必死さは買ってあげる。

 

「……タダでしてあげますよ。その代わり、私の暇つぶしになってくださいね?」

 

 視聴覚室。防音扉を閉めると、そこは外界から切り離された密室になる。私は教卓の上に乗り、彼を見下ろした。スカートから覗く太ももを見て、彼が喉を鳴らすのがわかった。チョロい。本当に、男って生き物は単純だ。

 

 私の膝に頭を乗せた彼。その顔は、とろけるように緩んでいる。普段の、私の毒を受け流す飄々とした態度はどこへやら。完全に無防備な、無様な顔。……可愛い。私だけが知っている、先輩の弱点。この顔をスマホで撮って、SNSにアップしてやりたい。『私の下僕です♡』ってキャプションをつけて。そうしたら、この人は社会的に死んで、私のそばにしかいられなくなるのかな。なんて、物騒な妄想が脳裏をよぎる。

 

 私は耳かき棒を手に取り、彼の耳へと侵入した。焦らしてやる。すぐに気持ちよくなんてさせてあげない。入り口付近をくすぐり、じわじわと攻める。彼がビクンと跳ねるたびに、私の太ももに振動が伝わる。それが楽しくて、私は思わず口元を歪めた。

 

 ――あーあ。やっぱり、おもちゃいじりは楽しいな。他の誰とも共有したくない。私だけの、専用のおもちゃ。

 

 そう思っていた、その時だった。

 

 鼻孔をくすぐる、異質な匂い。

 

 私は動きを止めた。クン、と鼻を鳴らす。……臭い。物理的な悪臭じゃない。もっと不快で、生理的な嫌悪感を催す匂い。

 

 甘ったるいローズ系の香水。これは……生徒会長、白鷺天音。あの上品ぶった女の匂い。柑橘系の制汗剤と、微かな汗の匂い。これは……陸上部の早瀬理緒。あの脳筋女の匂い。そして、古びた紙とカビの匂い。これは……図書委員の月見里静。あの根暗女の匂い。

 

 全部、混ざってる。まるで、マーキングの重ね塗りみたいに。

 

 カッ、と頭に血が上った。血管がブチ切れそうになるのを、必死で抑える。

 

 ――は?何これ。どういうこと?

 

 先輩、ここに来る前に、あいつらのところに行ってたの?あいつらの膝にも、頭を乗せたの?あいつらにも、こんな無防備な顔を見せたの?あいつらにも、お金を積んで、耳かきを頼んだの?

 

 六千円。さっきのお金の意味を理解した。あれは「特別」な金額じゃなかった。ただのインフレだ。あいつらに払った残りを、いや、あいつら以上に積めば私が落ちると思って、持ってきただけだ。

 

 ……ふざけんな。誰に向かって、そんな不誠実な真似をしてるの?私は久留米ましろよ?1年生最強のアイドルよ?なんで私が、あんな有象無象の「ついで」みたいに扱われなきゃいけないの?

 

 嫉妬?違う。これはプライドの問題だ。私の所有物に、他人のシールが貼られているのが許せないだけ。そう自分に言い聞かせても、胸の奥がキリキリと痛むのは止められない。

 

「へぇ……。センパイ、とんだヤリチン野郎だったんですね。」

 

 声が低くなる。隠すつもりもない。私は指先に力を込め、彼の喉元を軽く締めた。苦しそうに顔を歪める彼。その表情さえ、今は憎らしくて、愛おしい。

 

 他の女の匂いなんて、嗅ぎたくない。今すぐ消臭スプレーをぶっかけたい。いや、それじゃ足りない。内側から、私の匂いで満たしてやらなきゃ気が済まない。

 

「消毒、しなきゃいけませんね。」

 

 私は梵天を手に取った。ふわふわの、白い毛束。それを彼の耳の奥底へ、容赦なく突き刺す。

 

 回す。回す。回す。ゴォォォォという音が彼に聞こえているはずだ。私の怒りの音だ。私の独占欲の音だ。

 

「上書き保存してあげますよ。私の匂いで。私の音で。」

 

 会長の上品さなんて忘れさせてやる。陸上部の健康美なんて吹き飛ばしてやる。図書委員の静寂なんてぶち壊してやる。

 

 私の、この強烈で、歪んでいて、甘ったるい毒だけを、脳みそに刻み込め。先輩が気持ちよくなれるのは、私の膝の上だけ。先輩が癒やされるのは、私の手だけ。そう、DNAレベルで刷り込んでやる。

 

 息を吹きかける。わざと、吐息が直接鼓膜に当たるように。彼がビクンビクンと痙攣する。その反応を引き出しているのは、他の誰でもない、私だ。

 

 ああ、気分がいい。彼が壊れていく。私の色に染まっていく。

 

 もっと。もっと。他の女の名前なんて思い出せないくらい、メチャクチャにしてあげる。

 

 ◆

 

 気が済むまで彼を弄び、私は耳かき棒を放り投げた。彼は廃人のように目を回している。耳の中も、頭の中も、きっと今は私のことでいっぱいなはずだ。

 

 彼はフラフラと起き上がり、またお金を差し出してきた。まだ言うか、このバカは。私はその手をはたき落とした。お札が床に舞う。6枚の紙切れなんて、今の私にはゴミ以下の価値しかない。

 

「……いらないって言ったじゃないですか。」

 

 お金で清算なんてさせない。「サービス料を払ったから終わり」なんて、そんな都合のいい関係で終わらせてたまるか。私は、もっと重くて、逃げられない鎖が欲しい。

 

 教卓から降りて、彼の胸ぐらを掴む。身長差があるから、自然と上目遣いになる。これは私の武器だ。最大限に利用してやる。

 

「……その代わり」

 

 ニヤリと笑う。私の本性を知っている彼にだけ見せる、とびきりの悪魔の笑顔。

 

「これから毎日、私に貢いでくださいね? ジュースでもパンでも、私が欲しいって言ったもの、全部」

 

 これはパシリの命令じゃない。「毎日、私に会いに来い」という命令だ。「毎日、私のご機嫌を伺え」という契約だ。

 

「あと……私のファンクラブ、強制入会ですから。会員番号は……特別に『0番』にしてあげます。」

 

 0番。1番じゃない。他のファンとは違う、特別な数字。実験体であり、生贄であり、そして――誰よりも近くにいる存在。

 

 彼は頷いた。拒否権がないことを悟ったのか、それともそれを望んでいたのか。どっちでもいい。結果として、彼は私のものになったんだから。

 

 私は彼の頭を撫でてやった。よしよし、いい子だ。視聴覚室を出て、廊下を歩く。足取りが軽い。鼻歌が出そうになる。

 

 散らばったお金、拾ってたなぁ。あの必死な姿、滑稽で可愛かった。ふふ。ざまあみろ。あの生徒会長も、理緒先輩も、静先輩も、知らないでしょうね。彼が最後に選んだのが、この私だってこと。彼が一番ひどい目に遭わされて、それでも一番深い契約(ちぎり)を結んだのが、私だってこと。

 

 私の勝ちだ。イージーモードの日常に、最高のスパイスが手に入った。

 

 スマホを取り出し、スケジュールアプリを開く。明日からの予定に『センパイ回収』というタスクを追加する。覚悟しておいてくださいね、会員番号0番。天使の笑顔と小悪魔の毒で、骨の髄までしゃぶり尽くしてあげますから。もう、よそ見なんて絶対にさせませんよ。

 

 ……あーあ、早く明日にならないかな。どんな顔してジュース買ってくるか、今から楽しみで仕方ないや。




俺馬鹿だからわかんねぇけどよ、これが犬系彼女ってやつだろ?

ここから先の展開について、どういう方向性が見たいかのアンケートです。参考程度なので確定ではないです。

  • このままヒロインを増やし続ける
  • 主人公取り合いルート(親友視点)
  • 主人公取り合いルート(ヒロイン視点)
  • 各ヒロインルート書く
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