美少女たちが金を払えば耳かきをしてくれる。しかも好感度が高い   作:三重知貴

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化学教師・蓮見響子。耳かきパート

 

 

 完璧な生徒会長、活発な陸上部エース、静謐な図書委員、あざとい小悪魔アイドル。この学園が誇る美少女四天王(僕が勝手に認定した)を制覇し、僕の耳はもはや文化遺産レベルの聖域と化した。普通なら、ここでゴールだ。ハッピーエンドのエンドロールが流れ、僕は満足げに夕日に向かって走り出す……はずだった。

 

 だが、男の欲望とは、天井知らずのバベルの塔だ。同年代の少女たちによる癒やしは、確かに素晴らしい。しかし、彼女たちには絶対的に欠けている要素がある。それは、「年上の包容力」と「社会人の疲弊感」、そして「教師と生徒」という絶対不可侵の境界線を踏み越える背徳のエクスタシーだ。

 

 若さゆえの張り詰めた空気ではない。もっとこう、熟れた果実のような、あるいは少し発酵が進んだアルコールのような、芳醇でダルそうな「大人の女」の空気。「ダメな大人」に甘やかされたい。その弛緩した空気に身を任せ、共犯者となって堕落していきたい。

 

 僕は生徒たちの喧騒が消えた放課後の校舎を歩き、北棟の最奥、理科準備室へと向かった。そこは、魔女の住処であり、学園の治外法権エリア。

 

 重たい引き戸を、ガララ……と開ける。

 

 鼻をつくのは、微かな薬品の匂いと、濃いコーヒーの香り。そして、どこか退廃的な埃っぽさ。夕日が乱雑に置かれたビーカーやフラスコを照らし、怪しげな影を落としている。その混沌の中心、書類と実験器具が地層のように積み重なったデスクの奥に、彼女はいた。

 

 化学教師、蓮見響子(はすみ きょうこ)。28歳、独身。

 

 長い黒髪は無造作に束ねられ、白衣の下には少しヨレたシャツと、サイズの合っていないタイトスカート。整った顔立ちはモデル顔負けの美人だが、その瞳は常に死んだ魚のように濁り、目の下には薄っすらとクマがある。「残念な美人」。それが、生徒たちが彼女につけた愛すべき(?)異名だ。

 

 彼女はパイプ椅子にだらしなく座り、天井を仰いでいた。手には冷めきった缶コーヒー。口からは「あー、帰りたい」「働きたくない」「石油王と結婚したい」という、教育者にあるまじき呪詛が漏れ出ている。

 

 これだ。この気怠さ(アンニュイ)。この生活感と疲労感のハイブリッド。僕が求めていたのは、この「ダメな大人」の懐なのだ。

 

 僕は音もなく近づき、書類の山脈の隙間から彼女の前に顔を出した。響子先生は、焦点の合わない目で僕を捉え、億劫そうに眉をひそめた。

 

「……んあ? 何よ、あなた。補習ならまた今度にして。今、エネルギー残量3%なの。省エネモード中。」

 

 挨拶代わりの拒絶。ご褒美である。僕は無言で財布を取り出した。ここまでの行脚で、財布の中身はかなり軽量化されている。残金、七千円。僕の全財産であり、今月の生活費の命綱だ。

 

 僕はその全てを、乱雑なデスクの上に叩きつけた。バシッ。諭吉ならぬ英世たちの扇が、実験レポートの上に広がる。これこそが、僕の覚悟。僕の魂の重さだ。

 

 響子先生の死んだ目が、一瞬だけカッ!と見開かれた。現金な反応。いや、実際に現金なのだが。

 

「……は? 何これ。賄賂? 成績なら上げないわよ、面倒くさいから。」

 

 僕は首を横に振る。そして、自分の耳を指差し、次に先生の白衣に包まれた太ももを指差す。さらに、入り口の鍵を指差して「完全個室」を要求する。

 

 教師に対して、金で膝枕と耳かきを要求する。停学、いや退学ものの狼藉だ。だが、僕には勝算があった。彼女は「教師としての矜持」よりも「目の前の臨時収入」と「面倒くささの回避」を優先する人種だと信じているからだ。

 

 響子先生は、七千円と僕の顔を交互に見た。数秒の葛藤。その脳内ではおそらく、「教師倫理」と「プレミアム・モルツ1ケース」が天秤にかけられている。そして、勝敗は決した。

 

「……はぁ。あんたも物好きねぇ。」

 

 大きな溜息と共に、彼女はデスクの上の金を鷲掴みにし、白衣のポケットにねじ込んだ。倫理が敗北した瞬間である。

 

「鍵、閉めてきて。……誰かに見られたら、あんたが無理やり押し入ってきたことにするから。」

 

 責任転嫁も忘れない。さすが大人だ。僕は光の速さで入り口の鍵をかけ、準備室のブラインドを下ろした。完璧な密室。理科準備室という、学園ミステリーや官能小説の舞台として定番のこの場所で、僕と先生だけの秘密の課外授業が始まる。

 

 響子先生はパイプ椅子を蹴り飛ばし(行儀が悪い)、奥にある簡易ベッド代わりの長ソファへと移動した。仮眠用に使っているのだろう。毛布が丸まっている。彼女はそこにドサリと腰を下ろすと、白衣の裾を広げ、無造作に太ももを叩いた。

 

「ほら、さっさとしなさいよ。……サービスなんてしないわよ。適当にやって適当に終わるから。」

 

 その「適当」がいいのです。僕はソファの前に跪き、白衣の裾をかき分けて、その禁断の領域へと頭を預けた。

 

 ――すごい。頭を乗せた瞬間、脳が溶けるような感覚に襲われた。女子高生たちの太ももとは、明らかに質が違う。筋肉の張り? そんなものはない。あるのは、運動不足による極上の柔らかさと、肉感的な厚みだ。マシュマロというよりは、低反発の高級枕。沈み込むような包容力があり、一度ハマったら抜け出せない引力がある。

 

 そして、匂い。白衣から漂う薬品の鋭い匂いと、柔軟剤の香り、そして微かな煙草の残り香(先生、校内禁煙ですよ)。それらが混ざり合って、むせ返るような「大人の女」のフェロモンとなって鼻腔を刺激する。僕は懐からマイ耳かきセットを取り出し、震える手で差し出した。先生の指先が触れる。冷たい。薬品を扱う化学教師の手だ。爪は手入れされているが、マニキュアは剥げかけている。そのズボラさが愛おしい。

 

「……ん。これ使うの? 面倒ねぇ……指じゃダメ?」

 

 ダメです。彼女は渋々といった様子で耳かき棒を受け取ると、僕の頭をガシッと掴んで固定した。力加減が雑だ。理緒の時のような「不器用な強さ」ではなく、「手加減するのが面倒くさい」という類の強さ。

 

 ゴソッ。いきなり突っ込まれた。

 

「……動かないでよ。鼓膜破っても労災降りないから。」

 

 脅し文句までダウナーだ。響子先生の耳かきは、一言で言えば「気まぐれ」だった。カリカリと優しく掻いたかと思えば、急に奥をグリッと攻めてくる。ツボを狙っているわけではない。単に彼女の手癖なのだろう。だが、それが逆に予測不能で、スリリングな快感を生んでいる。

 

 教師に見下ろされ、膝枕をされ、耳を弄られる。この状況だけで、僕はご飯3杯はいける。

 

「……ん?」

 

 不意に、先生の手が止まった。白衣越しに、彼女が鼻を鳴らす音が聞こえる。またか。この学園の女性陣は、なぜこうも嗅覚が鋭いのか。

 

「……あんた、何その匂い。カオスなんだけど。」

 

 響子先生は呆れたような声を出した。

 

「高い香水に、制汗スプレー、古本のカビ臭さ……それに、安っぽい甘ったるいバニラ?」

 

 全問正解、かつ毒舌による成分分析。先生は耳かき棒で僕の耳たぶをペチペチと叩いた。

 

「……成分分析完了。結論、あんたはとんでもない女たらしのド変態ね。」

 

 否定はできない。だが、先生の声に嫉妬の色はない。あるのは、ただの呆れと、少しの面白がり。「若いっていいわねぇ」という、おばさん臭い(失礼)感想が聞こえてきそうだ。

 

「ま、いいけど。……どうせ全員食い散らかしてきたんでしょ? 元気があってよろしい。」

 

 寛容だ。さすが28歳。高校生の恋愛遊戯など、彼女にとっては子供の遊びに過ぎないのだ。この「どうでもいい」と切り捨てられる感覚。これこそが、大人の包容力(投げやりとも言う)。

 

 先生は再び耳かきを動かし始めた。今度は、さっきよりも少しだけ丁寧だ。

 

「……で? 結局、最後はここ(私の所)に来たわけ?」

 

 先生が身を乗り出してくる。白衣の胸元が目の前に迫る。眼鏡の奥の瞳が、気怠げに、しかし妖しく光っている。

 

「……若い子じゃ満足できなかった? それとも、もっと汚れたかった?」

 

 ドキリとした。見透かされている。僕が求めているのが、清らかな癒やしではなく、共犯関係としての堕落であることを。

 

 先生の指が、僕の頬をなぞる。冷たい指先。

 

「……物好きねぇ。こんな干物女(わたし)のどこがいいんだか。」

 

 自虐を言いながら、彼女は少し嬉しそうだ。耳かきの動きが、甘く、粘着質になる。カリ……と、耳の奥を優しく撫でられる。それは掃除というより、愛撫に近い。

 

「……いいわよ。七千円分、きっちりダメにしてあげる。」

 

 先生の太ももが、僕の頭を深く沈み込ませる。心地よい闇。薬品とコーヒーの匂い。

 

 「……どうせ暇だし。このまま寝ちゃおうかしら。」

 

 先生のあくびが聞こえる。耳かきの動きが徐々に遅くなり、やがて止まった。けれど、棒は抜かれない。耳に入れたまま、彼女の手が僕の頭に重く乗せられる。

 

「……動いちゃダメ。私、寝るから。……あんたも、ここで寝なさい。」

 

 それは命令であり、誘惑だった。理科準備室のソファーで、教師と生徒が重なり合って眠る。そんな背徳的なシチュエーション。先生の規則正しい寝息が聞こえ始める。胸の上下動が、頭に伝わる。ああ、ここは地獄の底か、それともエデンの園か。

 

 だらしない大人の、だらしない誘いに乗って、僕は意識を手放していく。もう、頑張らなくていい。この人と一緒に、溶けてしまえばいい。そんな甘美な破滅願望に満たされながら。

 

 ◇

 

「……んあ? チャイム……?」

 

 下校時刻を告げるチャイムで、先生が目を覚ました。僕も慌てて身を起こす。外はもう真っ暗だ。理科準備室は深い闇に包まれている。

 

「……よく寝た。……あんた、まだいたの?」

 

 先生はあくびを噛み殺し、伸びをした。白衣がはだけ、中のシャツがめくれ上がっているが、気にする様子もない。僕は耳かきセットを回収し、お礼の会釈をした。

 

「……あ、そうそう。」

 

 帰り支度を始めた僕に、先生が声をかけた。ポケットから、さっきの七千円の一部を取り出して、ヒラヒラと振る。

 

「これ、今日のビール代にするから。……残りは、次回分としてキープしとくわ。」

 

 次回。その言葉に、僕の心臓が跳ねた。

 

「……またエネルギー切れたら、充電させなさいよ。……膝くらいなら、貸してやるから。」

 

 先生はニヤリと笑った。いつもの死んだ目ではなく、少しだけ艶のある、悪戯っぽい大人の笑顔で。

 

「……あと、他の女の匂い、消しといたから。感謝しなさいよね。」

 

 そう言われて自分の匂いを嗅ぐと、確かにあのカオスな混合臭は消え、代わりに強い薬品とコーヒーの匂いが染み付いていた。マーキングの上書き保存。しかも、一番強力で落ちにくいやつだ。

 

 化学教師、蓮見響子。攻略……なんておこがましい。僕は完全に、彼女の「ダメ人間製造ラボ」の実験体として認定されてしまったようだ。

 

 僕は理科準備室を出て、夜の廊下を歩き出した。耳はスッキリしているはずなのに、体は鉛のように重く、そして心は羽のように軽い。完璧な生徒会長、活発なエース、クールな図書委員、小悪魔アイドル、そしてズボラな女教師。

 

 学園のあらゆる属性(フェティシズム)を巡る、僕の長い一日は終わった。財布は空っぽだ。明日のパンを買う金もない。だが、僕の心は満たされている。耳の奥に残る5人の感触と、それぞれの「愛」の形。それさえあれば、僕は生きていける。

 

 ……たぶん。

 

 「あ、やべ。ましろにジュース買う金もねぇ。」

 

 新たな地獄(ご褒美)の予感を噛み締めながら、僕は夜空を見上げた。月が綺麗だ。僕の耳も、きっと今、世界で一番綺麗だろう。




豆知識 ここまでの経過時間わずか1日

ここから先の展開について、どういう方向性が見たいかのアンケートです。参考程度なので確定ではないです。

  • このままヒロインを増やし続ける
  • 主人公取り合いルート(親友視点)
  • 主人公取り合いルート(ヒロイン視点)
  • 各ヒロインルート書く
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