ある病院にて
「これはすごいですね」
ある医者に個性診断を受けていた家族がいた。自身の息子が5歳になっても個性が発動せずにいたため、診せに来たのだった。
「すごいとは」
母親と息子の二人で、先生の話を聞く。医者は珍しい物を見たかのように少し興奮している様だった。
「確か、ご両親の個性は」
「私は、”超毛髪”自在に髪を操れます。」
黒く腰まである長髪が、重力に逆らって動く。
「夫は、”指示”指を向けた方向へ力を受け流す事ができます。」
少年の父親は、現役のヒーローである。
「なるほど、その個性で、未だに発現せず、しかし」
「えっと、息子はもしかして」
はっきりしない医者の物言いに、不安が募る。
「いえ、個性因子は確かに確認できています。しかも常人の何倍の量で」
「それって」
「聞いたことあるでしょ。世代を重ねるごとに個性は深化するって。それは誰にも言えることです。世代を重ねるごとにより強力な個性が出現する。現に、口から火を出す個性が、大人のそれと謙遜ない威力を発揮する子供いますからね。
つまり、息子さんはより強力な個性として覚醒する事になるって事ですね。」
「本当ですか!よかったね」
「うん!」
母親は、医者の言葉に安堵し隣に座っている息子に顔を向ける。
「しかし、なぜ、個性が発現しないのか色々検査しましたが不明ですね。もしかしたら、肉体の防衛本能が抑制している可能背もあります。個性事故を防ぐためにも通院をお勧めします。」
「なるほど、わかりましたお願いします。」
親子は、病院を出て、歩いて帰宅していた。
「通院しないとだめだけど、これで安心ね。でもどんな個性になるのかしらね。」
「僕ね、凄い個性に目覚めて、お父さんみたいなヒーローになるんだ!!」
「いい夢ね」
親子の楽しそうな会話。子供は無邪気に駆け出し、母親より先に行き、ヒーローごっこをし始め、ポージングする。そんなほほえましい光景は
次の瞬間に、
全て台無しになった。
甲高い音を響かせながら、巨大なトラックだものすごい勢いで、子供を巻き込みながら、電柱へと追突する。
そんな光景をただ茫然と眺めるしかなかった。
「あ、あ、あああああああああああ!!!!!」
辺りに響く絶叫、集まりだす野次馬。遅れて駆けつけるヒーローたち。
「え」
子供が一人、森の中にたっていた。
「こ、ここどこ?」
子供は突然その場所に出現した。鬱蒼とした森は、薄暗く怪しげで恐怖を掻き立ててくる。
「う、う、わぁぁぁぁぁぁん!!」
あまりの事態に混乱と恐怖から泣き出してしまう。少年の裂き声が周囲へと響き渡る。どこまでも続く広い森の中では空しく響くだけであり、人影は望めなかった。
数分か、数十秒か、泣き続けた少年、蹲り泣き続けた少年を影が覆う。
それに気づいた少年が、顔をあげる。
「ヒィっ!!??」
そこには、人型の豚の様な巨体が居座っていた。鼻息が荒く、口から滝の様に唾液をたらしていた。
「ブヒヒヒ!!」
下品な笑い声をあげ、右手に持つ棍棒を振り上げる。
少年は絶望した、どうしようもない非力な自分があまりにも無力。
恐怖で体が固まり、動く事もできない。
振り降ろされそうになった棍棒をみて、もうだめだと目を瞑る。
直後、鈍い衝撃が辺りを包む。
しかし、何時までも衝撃は少年に届く事無く、痛みをない。ゆっくりと目を開けると、そこには、蒼いマントをなびかせながら、一人の青年がたっていた。
「おいおい、どうして子供がここにいるんだよ?」
「ありゃホントだ。」
「ウム、捨て子かの?」
「こんな”魔獣の森”に?捨てに来た方が死んでるっしょ」
「なんて酷いことを、主よ救いを」
後方から、数名の人が喋りながら近づいてくる。
金髪で耳の長い青年、筋骨隆々の大男、髭の長い老人、赤毛の少女、金髪で女性が近づいてきた。
「何、これも運命さ。少年、安心したまえ、すぐに終わるさ」
そして目の前の青年が、安心させるように優しく少年へ語りかける。
「ブヒィィィっ!!!!」
自身の目的を邪魔された事に激昂して、再度棍棒を振り降ろすも、こんどは、振り上げた体制のまま、後ろへとひっくり返ってしまった。
「ん、じゃま」
怪物の後ろに、少年程の、白い髪の少女が、ナイフを両手にたっていた。
「さて、まだまだ、いるから気、抜くんじゃないよ」
木の上から、弓矢を構えて、森の奥を見据える褐色の女性がいた。
「分かっちょるわい」
根元に斧を構えた小柄の老人がいた。
「それじゃ、手早くすませようか」
青年の言葉を合図に、群がってきた怪物たちを鎧袖一触していく。そんな非現実的な光景を目に焼き付けて少年は気絶した。
「ついにおわりましたね。」
「ようやくじゃのう」
「ん」
「あぁ、ようやくだ」
ここに魔王討伐が完了した。無数の魔族を従え、人間の住む地域への斟酌を続けていた。その数千年にも続く人魔生存戦争が漸く終結した。
魔王を倒し、親人派の融和を行おうとしていた魔族の一団が新魔王として新たな秩序を形成していく。魔族国家の誕生をここに示された。
これまで生活が勇者の頭の過ぎる。
初めて魔法を使った瞬間。
「そうじゃ、それが魔力じゃ。お主は異世界の住人にしちゃえらく魔力が多いからの。覚えておいて損はないぞい」
剣の重さを初めて知った。
「ここじゃよくある事よ。でも、刃物への恐怖を忘れた奴から死ぬから、覚えておきな」
神にであった。
「ん~、君面白いね。いいよ加護を与えよう」
魔女に呪われた。
「絶対に離さない。」
掛け替えのない出会いがあった。
「私は第三王女、あなたは」
「俺は、魔王軍幹部、四元災怨の一人」
「うちのパンは世界一なんだよ」
忘れ難き別れを経験した。
「あなたは生きてください。ここは私が食い止めます。」
「フフフ、敵だってのに、ふざけやがって、これで借り貸し無しだからな」
「おいしいパン、ぱ、ぱ、パン、パン、パン!!!」
王を魅せられた。
「この国が滅びようと、人は歩みを止めん。ならばこそ、王が先に立ち示さなければならん。王とは、全てを踏み越え、先頭に立った者をいうんだ。例えその先が死地であろうと」
絶望を知った
「全てのこの時の為だ勇者。」
希望を思い出した。
「何のために、剣をとったのか忘れてはいけないよ。」
丘の上から、勇者は世界を見た。果てしない大地、永遠に広がる空。
その丘にはだれも立っていなかった。