こちらオルクセン参謀本部 兵站部糧食課 食品研究室 作:Hastur_1
『オルクセン王国史』の二次創作ネタバレを含みますので、原作本編読了後に読んで頂けると幸いです。
唐突なミステリー移行
――いや、本当に良くやってくれている。
オルクセン国王グスタフ・ファルケンハインは国王官邸自室にグレーベン少将とロートバルト中佐を迎え入れると穏やかに微笑んだ。
あくまでも非公式な席であって、既に日が沈んだ時間帯である。場所と地位を考えなければ商家の若旦那衆たちによる会合のような物かも知れない。敢えて状況報告の書面提出とせず寧ろ口頭での情報交換は、喫煙室での雑談連絡にも似て王は会話を楽しんでいた。
お茶請けにはにんじんのバターケーキ、米粉製の団子にエンドウ豆のジャム、クリームをたっぷりと使った甘藷の焼き菓子にかぼちゃのパイ。この時間帯にしては重たい甘さだが成年男子のお茶会には深煎りの珈琲が良く似合う。ただ奥様たちには内緒だよ。怒られちゃうからね。
「シュヴェーリンとブルーメンタールは未だ苦労しているようだ」
――話題の流れは北からの報告書に曰く旧エルフィンドでは尚も物資欠乏収まらず、寒冷・不作・貧困・疫病・倫理学識の不足・労働意欲の低下・物資物流の未発達、極め付きに麻薬問題。不運に賽の目が異なるもしもの世界線ならばオルクセン本土でも在り得た事態である。
曰く占領軍総司令部のシュヴェーリン元帥を語る処「殴れる敵を寄越せーっ」と戦時軍令部の督戦如く吠える姿を想像して紫煙と共に苦笑し、元帥の労苦を想い珈琲にて流し込んだ――正に食品にまつわる瑣末な要望・困難を解決する『食品研究室』は有用であった。正に、食はすべての根幹なれば。
「道洋や華国では、食事と医療は源を同じくすると説いているね」
――さらに話題は止め処無く移る。曰くイスマイル帝国が興る遥か古代の医師の記した『汝の食事を薬とせよ、汝の薬は食事とせよ』との故事に基づいて、軍糧食の量・味以外の考慮する滋養について持論の栄養論を補足するグスタフ国王にロートバルト中佐は問い掛けた。事は食の質には複数の事項が在るとの認識にグレーベン少将は黙して葉巻を吹かしている。
「我が王、御畏れながら御質問宜しいでしょうか?」
「良いよ、構わない」
かつてのベレリアント戦争の折、オルクセン各地から動員された兵によっては首都ヴィルトシュヴァインを初めて訪れた者も多く、大廈高楼立ち並ぶ姿には驚愕感動した者も多数存在した。ダークエルフはもちろん他の魔種族を始めて見た者もあろう。その初体験は土地であり種族であり技術であり服装であり、文化風習すなわち食事もそうであった。
戦地においては、コボルト種の玉ねぎのように種族・身体的な障害が無くば、兵卒はメシの好き嫌いなど言えぬ立場である。確実に量を、せめて滋養の有る物を、出来ればより美味い物を! 優先されるべき組織の都合はそこに在り、兵の地方文化によっては始めて味わう食事もあった事だろう。
「国家此れ軍隊たるオルクセンでは事実上、駐屯地での軍生活とは国民教育を伴う物でしょう」
「そうだね、続けて」
軍隊は一つの社会なればある種の学校的な側面を持つ。兵は地方より来たりて動員の解除にて故郷たる地方に帰り征く。その手に持たせるのは俸禄と経験、あるいは加えて不幸にも負傷があり、もしくは幸運ならば技術や知識も与えられる。つまり、中央の技術や知識を地方に持ち帰らせる事もまた、軍務の人的効果になり得ると言う事だ。
「我が王は、将兵に軍生活を通じ様々な物を食わせる経験を与えたいのではないでしょうか?」
「ジーク、それは兵卒に軍配食を通して多様な食材・料理の文化見識を与えると言う事か……」
つまり、知らない食材。食べた事の無い料理。異なる地方や外国の産地や文化風習。事例として既知たるにんじんやエンドウ豆。未知たる甘藷やかぼちゃ。未知を既知に、既知を更なる既知にせよ。無知は偏見となり差別となるから。その不見識が暴走した群衆となってしまえば多様な種族の寄り合い所帯として構成される魔種族統一国家オルクセンでは致命となり得る未来なのだからと。故にこれまでの『食品研究室』が扱って来た食材は、全て国王陛下の御差配であろうと――
「ふふふ、良く辿り着きました。と言いたい処だけど。そこまでは考え及んではいなかったね」
でも、それは本当に良い考え方だよ、花丸です。カルヴァトスの良い物を上げよう。と、国王が喜びながら棚から机上に酒瓶を移すところで、話題は変わり先の粗製魔術薬の捕物騒動の後始末に移る――
――なんと粗製エリクシエル剤の流通の元締めであったコボルト族の女将は、食材として粗製エリクシエル剤の材料を集め魔術薬を作り、余った部分は実際に提供する料理具材として証拠隠滅していたというから驚きであった。効率的と言うか悪知恵と言うべきか。
「依存性のある料理と言う訳か。そいつは本業の評判も上がろうな」
「そう言えばにんにくと一緒に薬をかぼちゃの中に隠してましたね」
「グラーシュは臭い消しも兼ねた『にんにく』沢山で元気が出ると」
「表現するならば犯罪的な『黒いグラーシュ』と言う所でしょうか」
コボルトたちも難儀な事だったなと、不謹慎ながら笑ってしまっている少将と中佐に釣られて微笑んでいたグスタフ王だが、ふと先の発言の一部に、既知は未知であったと言葉を失い思考する事になる。
――コボルト族たちが『にんにく』を食している……?
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◆はすたさんの与太話。
お茶請けにはにんじんのバターケーキ、米粉の団子にエンドウ豆のジャム、クリームをたっぷり使った甘藷の焼き菓子にかぼちゃのパイ。
> パウンドケーキ・ずんだ団子・スイートポテト・パンプキンパイ。
行きつけの洋菓子店のパンプキンパイが甘さ控えめで美味しくてですね。生クリームを乗せて食べるのです。
イスマイル帝国が興る遥か古代の医師 > 古代ギリシア、コスのヒポクラテス
「医食同源」と言う言葉は、中国の「食薬同源」の思想を元に1973年の日本で発祥したのです。なので陛下はちょっと早回しの知識になってしまっていますね。
不運に賽の目が異なるもしもの世界線 > ファンブルw
「殴れる敵を寄越せーっ」 >
参加しているマルチバース国家運営プレイバイウェブ『電脳適網アイドレス』にて、有力プレイヤーである是空とおるさんが発した台詞。一時期の戦うべき対象が貧困とか麻薬問題とかだったので解決が困難でして……治療魔法の中毒症状ってなんだよ(顔を覆う)
軍配食を通して多様な食材・料理の文化見識を与える >
食育(食に対する心構えや栄養学、伝統的な食文化についての総合的な教育)の概念に辿り着きましたね。
オルクセンの幼年教育の程は分からないのですが、学校給食法第2条の実施目標6・7辺りを参考にしています。
黒いグラーシュ > ブラックカレーッ!(わかる人は笑って下さいw)
――コボルト族たちが『にんにく』を食している……?
> 実は、原作者である樽見京一郎先生におかれても、にんにくに関しては設定が無いのです。
ですので、ここで原作設定ギリギリの大法螺を吹かせて頂ければと思います。ぶおぉぉーっ♪(法螺貝)
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◆かぼちゃのグラーシュの作り方(4人分:粗製エリクシエル剤抜き)
(想定読者である道洋の人間種基準に再計算済み)
<材料>
◎ かぼちゃ:200g(Lサイズ1/8個(種が付いた状態)
・ にんじん:150g(Lサイズ1本)
・ 鶏むね肉:200g
・ バター: 10g
・ 薄力粉: 15g(大さじ1杯)
・ 牛乳:200cc(0.2リットル)
・ 水:400cc(0.4リットル)
・ サラダ油: 15g(大さじ1杯)
・ 塩: 3g(小さじ1/2杯。不足なら好みで追加)
・ 胡椒: 1g(ひとつまみ。不足なら好みで追加)
<作り方>
1:フライパンを温めバターで薄力粉を焦がさずに炒める。
2:炒めた小麦粉のフライパンに牛乳を入れ混ぜふやかす。
3:かぼちゃはヘタを切り落とし中の種とワタをくり抜く。
4:にんじんはヘタを切り落としたらピーラーで皮を剥く。
5:かぼちゃとにんじんと鶏むね肉を一口大に切り分ける。
6:鍋にサラダ油を入れ野菜と鶏むね肉を炒めて火を通す。
7:鍋に水を加えて野菜と鶏むね肉が煮えたらアクを取る。
8:鍋にフライパンの小麦粉と牛乳を溶かして馴染ませる。
9:塩と胡椒を加えてからしばらく煮て味を染み込ませる。
10:オークや人間用は玉葱200g(Lサイズ1個)を加えて煮ても良い。
11:気合を入れるならば蒸したかぼちゃの中にグラーシュを入れても良い。
https://hastur.fanbox.cc/
今回はPixivFanboxで限定公開している様なレシピ集を乗せています。
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お伝えするのを失念しておりましたが、私ことHasturは管理栄養士資格を保有しております。
いえまぁ、最近その職責をしていないのですが。
グスタフ陛下は転生者であるため知識の程度はありますが栄養の概念と必要さを知っていると判断しております。
聊か私個人の代弁になって恐縮ではありますが、まさに食はすべての根幹なのですから。
そして。次回から第三章:コボルトの呪いに移ります。
オルクセン王国史の設定にて、謎とされていた『とある部分』の独自解釈と解決法となります。
一つの解釈としてですがお楽しみ下さいますよう、ご笑覧頂ければ幸いです。
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あと、こちら本文に全く関係が無いですが、
先日与太で描いた5巻発売記念ムービーです。見てってください(ぇーw
https://www.youtube.com/watch?v=ME2sKJOIJsM
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