こちらオルクセン参謀本部 兵站部糧食課 食品研究室   作:Hastur_1

12 / 16
 食品と加工と栄養に関する与太話を書いて行きます。
『オルクセン王国史』の二次創作ネタバレを含みますので、原作本編読了後に読んで頂けると幸いです。

実際クロスオーバー回

                      /*/ 

今回は、阿羅本景さんの著書『クラフトビール読本』
https://hobbyjapan.co.jp/books/book/b611730.html
同人誌『ユイのリイニシャリセ ア・ラ・モード~オルクセン王国編』を大いに参考にさせて頂きました。
『今日もビールでがんばらない ~ユイとケイのカンパイリセット~』いつも楽しみにさせて頂いております。
https://championcross.jp/series/f6bb7e3ac3b45


10:ビール

――ヨーゼフ・フェルト軍曹は大変に不幸な牡であった。

不幸という物はおおよそにして端から見て分からない物も存在する。勿論、誰かの不幸が誰かの幸運である場合もあるし、不幸と幸運が相互に重なり合う事もある。それはエルフたちが詩的に修飾する言辞曰く、禍福は絡み合う枝の如し。例えば、彼が魔術通信の才能を持ち得たという意味では幸運である。

 

さて話は若干遷移するが、魔術通信とは遠距離間の意思疎通を可能にするものである。これまではコボルト族が持ち得た能力であり先般よりダークエルフ族も加わったそれは、人間族式の通信技術――電信同様、またはそれ以上に軍や民間で用いられている。オルクセン軍における魔術通信網は、大隊以上に最低でも一系統というところまで構築されていて、上部部隊との間に即時交信ができる。

 

この魔術通信だが当然ながら個々人が持つ魔術力によって能力の強弱がある。加えて能力の強弱があるのは距離だけではない。

例えば疲労度。同じ程度の通信能力を以って同等の時間と軍務を行ったとしても疲れやすさが個々人によって異なる事は大いに有り得る事である。更には聞き分け。他の魔術通信が多数紛れ雑音が多い戦域であっても伝え掛けや聞き分けの精度が異なる事もある。

 

そして発信力と受信力。つまりは放つ力と受ける力が異なって一定距離からは伝えられるが受け取れない事などがあるだろう。

 

フェルト軍曹の能力特性は、受信側としての聞き取り距離と精度である。より遠くより広範囲の声を聞き取る事が出来る。だが送信側としては極めて不器用である。

 

そしてそれは師団通信本営に所属するならば使い勝手が甚だ悪い物であった。最前線の部隊は常に異なる位置が変動する物であり、戦場後部の奥深い位置から一方向にしか伝えられないのであれば、部隊移動と同時進行で魔術通信を送ろうとも送信すべき方向が分かり得ないのだから。

 

結果、フェルト軍曹は前線に立った。黒毛なる大柄の体躯とクソ度胸、そして類稀なる大声の魔術通信を買われ、部隊でも希少な若い壮年の下士官として配属されていた。先行する偵察小隊にあって部隊周辺の『状況を感知器の如く』聞き取り、後方本部へ長距離一方的に伝える魔術通信兵が彼の本領である。

 

それ故、その姿と働きは部隊の兵卒からも士官からも称えられ、彼の『突撃喇叭』とも謳われた胴間声は部隊でも良く聴き知られる物であった。その声を以って後備第一旅団第十五師団では、各部隊を同時流動的に統率指揮管理する全力の管制戦闘が可能に成り得たのだから。

 

そして彼には、その声によって生死苦楽を共にした仲間たちがいる。

ベレリアント戦争時においてはリヴィル湖畔の戦い・ネニング平原会戦の包囲環・ストルステンブロウ防衛戦等と言う激戦区を駆け抜けた、後備第一旅団、第十五師団第三四擲弾兵連隊。一家の主など年配者が多い後備ないし予備兵で構成されていた同じ釜のパンを食べた仲の戦友たち。

 

言うなれば運命共同体。互いに頼り、互いに庇い合い、互いに助け合う。一人がみんなの為に、みんなが一人の為に。だからこそ戦場で生きられる。分隊は兄弟、分隊は家族――――――――嘘を言うなっ!

 

酒精に澱んだ暗い瞳がへらへらと嗤う。麦酒、麦酒、麦酒、麦酒。どれ一つ取っても酒場では命取りとなる。それらを纏めて酩酊で括る。誰が仕組んだ痛飲やら。兄弟家族が嗤わせる。

 

お前もっ!

お前もっ!

お前もっ! だからこそ、俺の為に飲めっ!

 

「……うへへー。ぐんそー飲んでいるかぁ?」

「ビールもういっちょー」「もう飲めなーい」

「いいかー、軍人は飲む事を本文とすべしー」

「はーい、軍人は飲む程に快活となるべしー」

「おーれと貴様はー同期の柏葉ぁーうぇーい」

「……まずは起きて退いて欲しいでアリマス」

 

――かつて共に戦った同じ部隊の戦友たち――へべれけに酔い潰れたぼんくら共――にまみれた只中である。そして同じ部隊だったとは言え後備であった事から階級如何に寄らず年長者が多く、動員解除されて民間人となった彼らには階級のしがらみは半ば失われ、年長者から「飲んで」と言われたら断る理由も困難であろう。下士官に取って新米士官への教育と兵卒たちへの仕切りと配慮と気苦労という物がある……。

 

結果、彼は『国民の祝典日』由来の休暇日にも拘らず、その早朝の歓楽街脇に積まれたゴミ山に酒気と腐臭と吐瀉物と諸共で埋もれていた。

フェルト軍曹が如何にコボルト族にしては大柄な体躯を持っていたとしても、酔っぱらった戦友会の連中が幾重に積み重なったその最下部で下敷きになっているのは――およそ不幸と呼ばれるには違いない――

 

                      /*/ 

 

先日の一一月三日は近代オルクセンにおける『国民の祝典日』である。他国で言う建国記念日の様に扱われている。

 

正式名称として『諸種族平等宣言の日』と言う。星暦八一三年、アルベール・デュートネが率いるグロワール軍を打ち破ったグロースゲルシェンの戦いは、近代オルクセンを構成する諸種族の全てが参加した最初の戦いだった。故に『諸種族の戦い』とも呼ばれる。

 

そんな魔種族統一国家を誇るオルクセン王国においては、その様々な種族――主となる力と数のオーク族、商と才のコボルト族、技と鉄のドワーフ族、野を駆ける巨狼族、空を舞う大鷲族、そしてダークエルフ族など様々な種族がその能力的・外見体格的な差異と特性を尊重して構成されている。

 

例えばその異なる物とは衣料であり住居である。そして食生活をも異なるのが当然。オーク族ならば良く食べ良く飲むのが必然。例としてベレリアント戦争時にはオルクセン軍全兵卒に各自が食すための飯盒が標準装備と配されたが、ダークエルフ族のみで構成された勇名高きアンファングリア旅団においては、装備配された飯盒はその体格差から一般的な大きさの1/3ほどの物が作られたと言う。

 

そしてダークエルフ族の代謝力自体は高い。オーク族は勿論ドワーフ族もだ。更に明確な体格差を考慮すべきならば国王グスタフが直々に『食品研究室』に出した指令もむべなるかな――

 

「我が王から軍で消費するビールについて運用研究せよとお達しがあったよ」

 

ジークハルト・ロートバルト中佐は最早顔の作りからして笑っている。

ビールが嫌いなオークなんかいませんと輝く瞳であった。

 

「なるほど、今日は仕事で飲むと言う事であるな!」

「職場で飲んで良いんですか? 良いんですね!?」

「今日は農事試験場も閉めて来ましたので私も……」

 

いつもながらやっぱり居座っているグレーベン少将と、満面の笑みで確認するゲルズガルド少尉に、私も関係者相当で良いよね? とおずおずと手を挙げるモリエンド嬢。すなわち本日の『食品研究室』は喫茶店から居酒屋に配置転換と言う処であろう。

 

「みんなグラスは持ったか!?」

「持ちました!」「持ちました!」「持ったよ!」

「かんぱーい!」「かんぱーい!」「かんぱーい!」

「なので今日はもうお仕舞いです」

 

.

.

.

.

.

.

.

.

.

.

.

.

.

.

.

.

.

.

 

――どたばーん!「そんな訳あるかーッ!!」

 

ドアを蹴り開けて入室するドワーフ族の将官に驚愕恐縮する一同、なにせ現在この牡は室内で階級が最も高い。グレーベンよりも。

 

国軍参謀本部兵站局長ギリム・カイト中将。かの白銀作戦における後方兵站総監の長にしてオルクセンという国家軍隊における鉄道利用研究の専門家。安全で効率的な鉄道運用として列車運行図表を引く――いわゆるスジ屋の博覧大家である。

尚、蹴り開けたのはこの牡も多忙があるが故か何故かヴルストをパンにはさんでトマトケチャップとマスタードを掛けたホットドッグ(中将閣下はあれからトマトケチャップ派)を両方の手に持っていたからである。

 

「閣下、流石に歩きながら食事をするのは如何なものでしょうか」

「あと両手が塞がってるとは言え廊下から足でドアを開けるのは」

 

「まず、ビールと鉄道ならばワシを呼ばずして何となるか! いいか、ビールにとって振動は炭酸ガスや味わいのバランスを不安定にする要因となる。持ち運びや輸送などの過程で味わいにムラが出る事になる。いや、例えオークたちは分からずともワシらドワーフには味の違いが分かる! もちろん戦時戦場の軍で贅沢を言える状況は無い。積み下ろしと送り状との差異があるかの検品と事故落下対応と破損数修正と受領証明があって、天気と気温と乾燥と日差しに気を付けた上で配分しつつ先入れ先出し出来る様に倉庫を組み換える積木遊びの如く行う煩雑さ! 兵站とは組織の力による国力の発揮であり実直・適確・重厚なその運用こそは、まるでオルクセンの精神が形になったようだ! 必要な物を必要な量で適切な場所に適切な時間で輸送と後送を行うために多種族に配慮しつつも、ものごとは単純に――失敗しなければそれでいい。要はビールの味に関わるのだ!」

 

……話が長い。一応は、期待されている。たぶん、きっと。

だがカイト中将の熱弁とは対照的に、どうしようかコレと顔を見合わせるグレーベン少将とロートバルト中佐。緊張しつつ拝聴するも引いているゲルズガルド少尉とモリエンド嬢。

そして極め付けとして――室内で最も階級が低いがために最も廊下側に立ち、位置関係としてドアを蹴り開けて登場したその真横、カイト中将が自らの演説に納得して去るまで至近距離の大声で聞く羽目になった――ヨーゼフ・フェルト軍曹は今日も不幸であった。

 

「耳がキーンとするでアリマス」

 

                      /*/ 

 

それでは『ビール』について論述する。ビールは麦芽酵素により麦のデンプンを糖化させ、その糖液をアルコール発酵させる酒の一種である。古代では麦芽を乾燥粉末した物を水で練って焼きパンにしてから水に浸す事で麦芽の酵素でアルコール発酵させていた事から『液体のパン』とも言われていた。

 

現在では麦と麦芽を煮て柔らかくした物を合わせて酵母を添加して発酵させる方法で、炭酸の清涼感とホップの苦味を特徴とするラガーが主流になっているが、ラガーはビールの歴史の中では比較的新参でありそれ以外にもエールなどの様々な種類のビールが世界各地で飲まれている。

 

後世に名高きビール評論家ミヒャエル・ヤクソンが著した『星欧ビール大全』『ミヒャエル・ヤクソンの地ビールの世界~多彩な味わい~アルビニー・ビール』にある処、古来のオルクセンにおいて先王アルブレヒト2世大王が、常に不足する食用小麦がビールの原料に転用される事を防ぐためとして『水と大麦とホップのみを醸造に用いよ』という『ビール純粋勅令』を発し、低温の洞窟で熟成させるラガービールの製造が始まったという。

 

そして現在のオルクセンビールはその良い水と技術力(低温殺菌・炭酸加圧・魔術冷蔵輸送)によって一大文化を築いていた。

 

尚、話はズレるがアルビニービールとアルトビアは間違えやすい名なので注意したい。多様性があるアルビニービールに対し、アルトビアはオルクセンでは珍しい上面発酵でデュッセルドルフ系で琥珀色の苦みが強いビールである。

 

「ヴァルダーベルクのみんなは白ビールにヴルストですね」

「ゴルドシュヴァインのラガーの方が鉄板じゃないかぁ?」

 

ゴルドシュヴァインはオルクセン首都ヴィルトシュヴァインの旧市街広場から徒歩5分ほどの位置に在る老舗ビアホールである。メニューを見せられる前にビールが出て来るという豪の店でもある。確かに味に自信があるのだから問題はあるまい。

 

対して抱くエルフたちが好む白ビールの生産は、現王グスタフ・ファルケンハインの優れた農政によって安定した小麦の生産が行われる様になると『ビール純粋勅令』が廃されビール原料に小麦使用が解禁された後に行われ、幾つもの醸造所で生産されていた。

 

「ここで何故、我が王がビールについて御指示した理由を考えてみようか」

 

軍において酒は多義的に用いられる。指揮の維持や高揚や景気付け・あるいは寒冷地や負傷時などでの体温保持や気付け薬代わり・果ては消毒に至るまで。

ビールは最早、普段から常飲する物と言えるだろう。なにせ、禁酒を強要しよう物なら反乱が起きかねない。とは言え泥酔した体調で大砲弾薬などの危険物を扱わせる訳にはいかぬ。それ故ほどほど……の酒精飲料として扱われる。

 

「室長、発言宜しいでアリマスか?」「軍曹から発言は嬉しいね、どうぞ」

「飲酒出来ぬ者も少数にてオリマス」「コボルトの個体差か! そうだな」

「みなさん各自体格が違いますもの」「普通に体質に合わない者もいるね」

 

例にして恐縮だが同じコボルト族でも、参謀本部通信局長シュタウピッツ少将は小柄なダックス種であり、眼前のフェルト軍曹は大柄なセントバーナー種である。体格が異なれば代謝器官の効率も異なる。

 

加え大食漢が服を着て歩いているオーク族や、酒精を燃料に生きているようなドワーフ族とは、飲めぬとは言わずとも種族差からして酒精の消化能力が違い過ぎた。先日のフェルト軍曹が戦友会で醜態を晒した理由もそこに在るのだ。コボルト族がオーク族と飲み比べするのは無謀の限りなのだから。

 

「酒精への強さを敢えて階級別にすると……ドワーフたちが最強で、オークが続いて、コボルトたちは体格差があって、いないとしても人間種が最弱と言うべきか……アルヴィン殿やラインダース少将は飲めたかな? いや、それ以前にダークエルフたちは何処の位置になるのかな? 王妃様を見るに無限に飲めそうだけど」

 

「ディネルース姉様はダークエルフの中でも例外的に強いので……」

「立てば呑ん兵衛、座れば底抜けた柄杓、歩く姿は八岐のうわばみ」

「我が王を多義的に食べちゃってるのだから大虎ではあるだろうね」

「オルクセンの法律に不敬罪ってありましたかしら……」

「小官、耳目をそばだてて機密警戒に徹するでアリマス」

 

バレたら怖い。話を戻そう。

 

「酔わないビールが在れば良いね」

「需要以前に可能なのかそんな事が」

「みんなで飲めるなら有難くアリマス」

「少尉、発酵の意味は知っているかい?」

「えぇと、薄い本とかで殿方同士の……?」

「言い方が悪かった。発酵と腐敗の違いだね」

 

発酵と腐敗の違いとは、およそ生ける者にとって役に立つか立たないかの違いでしかない。つまり現象としては同じ物だ。酒種に限っては醸造に失敗すれば腐ってしまう。もっとも、腐らぬ水としての低酒精醸造酒は古来より存在したため、これを応用する酒精抜きビールはいくつかの方法が考えられる。

 

一度ビールを製造してから酒精分を除去した物。

同じビール製造を調整して酒精分を押さえた物。

ビールの味や風味を持たせて炭酸を封入した物。

 

「要はビール味のジュースなので……麦芽にホップを加えて煮込んだ麦汁を濾過した物を元に、カラメルで味と色を付けて炭酸を加えて泡を含ませて……」

 

「ビールは冷たさと風味が残らない喉越しのキレだな!」

「麦芽のコクと味わい、ホップの香りと苦みもですね!」

「この黄金色の色味と爽やかな泡もビールでアリマス!」

 

ほとんど実験室での薬量調整の如くだが、可能な限り現用のラガースタイルに寄せる事が出来た。後は以下に大量生産するかでしかなく企業家に任せよう。

 

副産物として気が抜けたビールも後から炭酸を含ませる技術が出来た。個々の瓶には不可能だが駐屯地でのまとまった大樽提供なら可能であろう。酒の違いに論ずるカイト中将たちドワーフ族の方々にご納得頂けるかは未来への課題として――

 

                      /*/ 

 

――無酒精ビールの試作が終わった後、白身魚と馬鈴薯に小麦粉と卵の衣をつけて揚げ始めた。小麦粉と卵を溶くのは水ではなくビールである。オルクセンではビールを揚げ物に使う事はまず無いが、グスタフ王によるとビールの発泡性によりふんわり揚がると共にビールの苦み旨味が出ると言う。

 

さて、オルクセンの法令下では、子供でも親や親権者が同席で許可があるなら低酒精のビールやワインを飲む事が許されている。赤子が生まれにくい魔種族社会の中だからこそ聊かの過保護になり得るが祝う気持ちも同列に存在するのだ。すなわち『あなたの脚が私のテーブルの下にある内は……』と――

 

「でも私、実は苦いビールが苦手ですの……キャメロットのは特に」

「あぁ、それならアルビニーの多様なビールを参考にするべきだね」

 

ビールの苦みと香りと泡は、アサ科のつる性多年草である『ホップ』の雌花によってもたらされる。味と風味だけでなく雑菌の繁殖を抑えて保存性を高める働きが注視されて大半のオルクセンビールでは用いられるが、キャメロットでは長い航海の飲料として用いるためキャメロットペールエールを作り出した。

淡い色のエールと言う意味だがオルクセンラガーの下面発酵と違い上面発酵であり、防腐作用を前面に押し出したため酒精度数が高くホップを大量に用いて香り高く苦みが強い。

 

これに対してアルビニービールは、下面発酵のラガーが主流であるものの上面発酵のエールと自然発酵のランビックの多様さが他国と比べ多種多様であり、原料は大麦とホップだけでなく砂糖・果実・香辛料・薬草類も使用する。完成したビールを再発酵させる場合や生の酵母を濾過せず楽しんだり他のビールとの配合を行う手法もとる。

 

「アルビニーのパブに行くとね……頼めばビールと一緒に、砂糖やサクランボの果汁を混ぜて飲むらしいよ」

「自由過ぎませんか!? ほとんどジュース寄りのカクテルじゃないですか。出張の機会は無いですか!?」

「サクランボの産地なのでクリークが多いらしいが、他にはフランボワーズや桃やカシス味があるらしいよ」

「キャメロットの駐在武官たちに聞いたら、ジンジャーエールやレモネードを向こうでは混ぜると聞いたぞ」

「オルクセンでも甘くて温かいビールがありますな。砂糖に生姜に乾燥果実・シナモン・クローブなど……」

「それこそアルブレヒト2世大王の『ビール純粋勅令』以前はページ裏の如くに『無法地帯』だったからね」

「まずは手持ちのビールとジンジャーエールで試してみますわ!」

 

無法地帯。何でもアリとも言う。ビールは自由だ!

まぁ、昔気質のドワーフたちには怒られそうだが。

平均化した装備要望が強い軍用としてもでもある。

 

「ドワーフ族たちには怒られそうでアリマスが、年季の入った下士官たちにはオーク族やドワーフ族が多く含まれる宴会中での『技』があるのでアリマス」

 

そう言ったフェルト軍曹は手に取った複数のグラスを手品の様に、手から手へと差し替え、背に回し、中身すら入れ替える妙技を見せる。無法には無法を。

無理な飲ませ方なら無理な飲み躱し方を。およそ同調圧力の強要じみた宴会の空気であっても、だからこそ互いの立場を慮って場を濁さぬ様に。何故ならば下士官は下たる兵卒を指揮し、上たる新米士官を教育する立場なのだから。

 

曰く、注がれるまで飲まない。注がれる際に二・三割飲んでその分を埋める様に注がせる。空のグラスと入れ替える。ビールに似た色の無酒精の飲み物を入れて手放さない。座る位置も重要だ。

廊下の間際に座る。窓を背にする。観賞植物の鉢が在れば最高だ。隙を付いて捨てる事が出来る。飲み屋の女将に予め心付けして味方にしておくのも良いだろう――

 

「アイツら、裏で捨ててたのか!」

「勿体無いとは思いますけど……」

「醜態を晒すよりマシなのですわ」

「言ってくれれば代わりに飲むよ」

 

確かに真の呑兵衛は、無理に飲ませるぐらいなら自らで飲むと言う。お互いに気持ち良くなるのが酒ならば、酔う者も酔わぬ者も楽しい宴会にするのが多種族の相互理解という物であろう――

 

「ところで軍曹。外から怒鳴り声がするよ」

「えぇっ、も、申し訳ないでアリマスッ!」

 

妙技がてら廊下に逃がし置いたはずのグラスを蹴っ飛ばして周囲をビールまみれにしたカイト中将の罵声から予測するに、魔術通信の感度が幾ら高かろうとも魔術力を持たぬドワーフ族には耳目至らず、また加えてカイト中将は両手がホットドッグで塞がっていたと見え、その原因たる――ヨーゼフ・フェルト軍曹は大変に不幸な牡であった。

 

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

 




◆はすたさんの与太話。

この魔術通信だが当然ながら個々人が持つ魔術力によって能力の強弱がある。
 > それはそう。軍隊でなるべく平均的に能力を配したい人事課の苦労を察するに余りある><

各部隊を同時流動的に統率指揮管理する全力の管制戦闘
 > フルコントロールエンカウント! ログ・ホライズンですね。作中のフレンドチャット・ネットワークも。
フェルト軍曹の魔術通信は最外周の探知器役だった訳です。

――嘘を言うなっ! > 肩を赤く塗りましょうかw

スジ屋 > 列車運行図表(ダイヤ)を作成する輸送計画担当者の昔ながらの通称です。

国軍参謀本部兵站局長ギリム・カイト中将
 > 昇進されてますね。こういう仕事の出来るオッサン大好きです。
元々スジ屋さんと言う事と、話が長いというのは、この作品独自の設定ですのでご注意ください。

積み下ろしと送り状との差異があるかの検品と事故落下対応と破損数修正と受領証明があって、天気と気温と乾燥と日差しに気を付けた上で配分しつつ先入れ先出し出来る様に倉庫を組み換えパズルの如く行う煩雑さ!
 > 実話(真顔)また『先入れ先出し』とは『FIFO(First-In First-Out)』とも言って、倉庫に保管されている商品を古い物から順番に出庫し、保管する期間をなるべく短期間に抑え、商品が劣化しないようにする管理方法の事です。実際にやるとタダの等身大パズル。ゲームの『倉庫番』だこれ。

オルクセンの精神が形になったようだ! > ノイエ・ジールですねw

ミヒャエル・ヤクソン
 > マイケル・ジャクソン(Michael Jackson)は、イギリスの世界的なビール評論家です。ウィスキーとベルギービールの大家。
アメリカの著名ミュージシャンとは同姓同名の別人ですよ。人呼んで『ホップの帝王(ポップではない)』
阿羅本景さんの同人誌『ユイのリイニシャリセ ア・ラ・モード~オルクセン王国編』でネタになってます。オススメ。

ビール純粋勅令
 > ビール純粋令とは、1516年にバイエルン公ヴィルヘルム4世が制定した法で、
『ビールは、麦芽・ホップ・水・酵母のみを原料とする』という一文がある、食品関連最古の法律ですね。
ビールの品質の向上と、小麦やライ麦の使用制限を目的として、価格制限や違反醸造業者への罰則も定められています。

ゴルドシュヴァインのラガー
 > チェコ・プラハにあるビールの名店『黄金の虎』のピルスナーウルケルが元ネタです。
漫画『もやしもん』でも紹介されてました。
こちらも阿羅本景さんの同人誌『ユイのリイニシャリセ ア・ラ・モード~オルクセン王国編』のネタです。

子供でも親や親権者が同席で許可があれば低酒精のビールやワインを飲む事が許される。
 > ドイツの法令上では、14才以上ならこの条件の元で飲酒することが出来ます。一人で行くなら成人してからですよw

キャメロットペールエール
 > 『IPA:India Pale Ale(インディアペールエール)』が元ネタです。
インディアといっても、インドに持って行くビールだから『India』なのですね。
有名な銘柄なら『インドの青鬼』が、コンビニかスーパーなどで手に入ると思います。

アルビニービール
 > ベルギービールですね。個人的には『ヒューガルデンホワイト』と『ドゥシャス・デ・ブルゴーニュ』が面白くて好きです。
リンデマンス醸造所の、カシス・フランボワーズ・クリーク(さくらんぼ)・ペシェ(桃)・ファロ(キャンディーシュガー)などは、ビールが苦手な方でも楽しめるお勧めのフルーツビールですよ。

レモネードやジンジャーエール > ラードラーやシャンディガフですね。この時代でもそろそろあるかな?
温かいビール > グリュービアですね。湯煎でゆっくりと泡立てない様に作るのがコツだそうです。

ページ裏の如く無法地帯 > ほら、コミックスの……w

無理な飲ませ方なら無理な飲み躱し方を。
 > この辺の技は先達たちに教えてもらいました。手品かよ。
とは言え、無理に(善意で)飲ませる方々への対処は昔から大変だったようです。

真の呑兵衛は、無理に飲ませるぐらいなら飲むと言う。
 > 本当だよ!w 無理に飲ませるなら私が飲むよ!w

                      /*/ 

◆今回のボツネタ。

ラエルノア「みなさん本日はお忙しい中を多数ご参加下さいまして誠に有難うございます。まずはみなさま方のご長寿と繁栄を祝して乾杯いたしましょう、かんぱーい!」

「「「「「「「「かんぱーい!」」」」」」」」

麦酒が飲める火酒が飲める葡萄酒が飲めるぞー。

冬月(一月)は、新年で目出度いから、
酒が飲めるぞー。麦酒が飲める火酒が飲める葡萄酒が飲めるぞー。
雨月(二月)は、寒くて温かいホットビールが美味いから、
酒が飲めるぞー。麦酒が飲める火酒が飲める葡萄酒が飲めるぞー。

春月(三月)は、ヴィルトシュヴァイン国際会議で、
酒が飲めるぞー。麦酒が飲める火酒が飲める葡萄酒が飲めるぞー。
芽月(四月)は、魔女祭(ヘクセンナハト)で、
酒が飲めるぞー。麦酒が飲める火酒が飲める葡萄酒が飲めるぞー。

牧草月(五月)は、エルフィンド戦争戦勝記念日で、
酒が飲めるぞー。麦酒が飲める火酒が飲める葡萄酒が飲めるぞー。
休耕月(六月)は、デュートネ戦争戦勝記念日で、
酒が飲めるぞー。麦酒が飲める火酒が飲める葡萄酒が飲めるぞー。

干草月(七月)は、子供祭(テンツェルフェスト)で、
酒が飲めるぞー。麦酒が飲める火酒が飲める葡萄酒が飲めるぞー。
収穫月(八月)は、暑くて冷たいビールが美味いから、
酒が飲めるぞー。麦酒が飲める火酒が飲める葡萄酒が飲めるぞー。

大麦月(九月)は、豊穣祭(エルンテンフェスト)で、
酒が飲めるぞー。麦酒が飲める火酒が飲める葡萄酒が飲めるぞー。
葡萄月(十月)も、豊穣祭(エルンテンフェスト)で、
酒が飲めるぞー。麦酒が飲める火酒が飲める葡萄酒が飲めるぞー。

霧月(十一月)は、諸種族平等宣言の日で、
酒が飲めるぞー。麦酒が飲める火酒が飲める葡萄酒が飲めるぞー。
雪月(十二月)は、冬至祭(ユール・フェスト)で、
酒が飲めるぞー。麦酒が飲める火酒が飲める葡萄酒が飲めるぞー。

オルクセンどこでも酒が飲めるぞー。
麦酒が飲める火酒が飲める葡萄酒が飲めるぞー。

イアヴァスリル「私たちもだいぶ染まったな」

                    /*/

お気に入り登録、評価やご感想、読了ポストを頂けますと、とても励みになります。よろしくお願いします。
PixivFanboxにも連載しています。https://hastur.fanbox.cc/
こちらでは作中の『レシピを限定公開』しています。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。