こちらオルクセン参謀本部 兵站部糧食課 食品研究室 作:Hastur_1
『オルクセン王国史』の二次創作ネタバレを含みますので、原作本編読了後に読んで頂けると幸いです。
傾注! 原作小説『あたらしき土④』以降の内容を含みます。
原作Web版終盤の記述を元にした話になりますので、ネタバレへの配慮を強く注意喚起お願い致します。
お久し振りです。コミックマーケット! 始まります。
――書きたい、という欲望には逆らえ難い。
星欧諸国の中でもオルクセンという国家は極めて高い識字率を誇る。先王アルブレヒトⅡ世の御代にあっては(それは人間種の感覚では伝説と謳われるほどの大昔ではあるが)蛮族の群れとしか言い難い時代ではあったが、賢王グスタフ・ファルケンハインは数ある功績の中でもまずは農政の成功から安定した食生活を国民に提供できたこともありその実績を証明として学識学問学習の習熟を臣民に納得させることができた。
それは元よりフンザ同盟を基盤としたコボルト種たちの知恵やドワーフたちの出版技術にも助けられながら、ほとんどの者が文字を読み・書くことができ、あるいは詩吟などに接し通じる文化面にも触れることが出来ていた。
既に戦後3年が経過した本年に至っては、故郷を離れ商機を見出しあるいは稀にも面の皮が厚く良い根性をした白エルフたちもわずかながら街中に見出すことも増えて来ていた。そして、先の旧エルフィンド戦争において云わばオルクセン国内全域・各地方の人材および、ダークエルフたちも含めた各種族・地方文化を攪拌するかのような事例から、改めて自己を伝えよう隣人を知ろうという欲求あるいは義務感が、それはまるで、かつては味が無かった『キュウリ』の様だったとしても月につれ日につれ風味ある『ピクルス』の様に醸成されていた。
もとより戦争という生命を奪い合う悲劇にあって、生き残った者たちの何かを――それは経験であり記憶であり風景であり文化であり友情であり、もしくは敵意を残したいという何らかの衝動から筆を執る者は多く、公的だけでなく私的にも他種多様な手記が生まれていた。命の危機を越えて喪われた者を想い、何かを残したい書かずにはいられなかった者が多かったということであろう。
ここで、戦争を終えて若干の斜陽を迎えた業者が存在した。出版業である。
戦前戦中戦後において首都発行主要各紙、ディ・ツァイトゥング、モルゲン・ポスト、オルクセン・クロニクル、オストゾンネなどといった連日多数印刷される新聞文化は存在して輪転機が回らぬ日はなかったが、士官・下士官・兵卒・軍属たちに送る各兵種操典・必携書・研究書・説明書・地図類など、軍関連の書籍書類の戦中印刷量は参謀本部の教導もあって相当量があった。とあれば起こり得るは反動である。例えば、もはや平時では連日に連隊ごとに周知書籍が刷られる事はないだろう。
このままならば屋台骨が傾く業界ではあったが、その隙を埋めるように手記・書籍を綴る者があり「良きも悪しきも思うところがあれば書き残して心を保つのも良いだろう」という国王談話もあって、それらを自費出版することが流行した。
そこで、星暦八八十年一二月三十日。年の瀬も極まるこの日にオルクセン王国首都ヴィルトシュヴァインのフュクシュテルン大通りに新規建造された国際商業展示場『シュヴァインメッセ』で行われた、自費出版書籍即売会『第1回オルクセン・ブーフマルクト』通称:オルケットは、多くの人的事務的・苦難労苦を乗り越えながらも当日、多くの魔種族を迎えて盛況を迎えていた(何故か、キャメロット語が基準となっているが我が王の仰せである。そういう事になった。そのつもりで留意されたし)
なにもこのような日程にしなくても良かろうと感じる者は多かったが、およそ国が軍を動かしているのではない、軍が国を動かしているのだと嘯かれている本邦に有って、軍吏僚たちの人材ほど事務能力のあるものはいない。ましてや、一か国規模の企画運営・人材手配・周知宣伝・設備管理・書類精査等々が出来る者はなど国家全土を探しても早々は存在してしない。
もちろん、軍隊という多忙仕事ありきを選り分けた上で余暇を以って行える者という矛盾を抱えるならばそれは希少価値の最たるものであろう。それらを動かした目標として設定できる日程が年末でしかなかったという話である。
そんな稀有な人材たちであることのオルクセン陸軍参謀本部、兵站部の面々はその悉くをやってのけた。国王直々の指定もあらば本業の隙間(この時点で卓越した管理能力と言える)を駆使して、彼らは過重労働・睡眠不足・夫婦喧嘩(祟られた)の数ヶ月間をやり遂げ、萎びた胡瓜の様になった後、無償の義人または確保した雇用の人材に任せ『オルケット』当日はようやくぐっすり睡眠を取ることができたのである。倒れ込んだとも言う。総員各位、兵站部の参謀将校たちに敬礼!(明日から後片づけと次回の運営もよろしくね)
そして、その事務責任者であるジークハルト・ロートバルト中佐に家内安全と弥栄あれ!
「え、僕の出番は今回これだけ?(そうだよ)」
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――さて。即売会当日は、雨では無いもののわずかに雪がちらつく寒天になってしまった。その寒さを反転させたような熱気の天井高き展示場内はおおむねは幾ばくかの書籍が積まれた机が数多く並べられた間を縫うように多くの者たちが行き交っていた。とは言え、来場者の悉くがすべて書籍を執筆・出版できるまでの物書き・事務屋として力量を持った者たちではなく、むしろそのような者たちは流石に小数派であろう。
その少数派の出展側参加者たちは指示された場所の机に敷物を敷いた上、自らが書いた、あるいは置くのを頼まれた書籍と値札を置いて、されどあまり音立てることなく「買ってくれないかな」という空気を発散するだけに納めていた。対して、購入・閲覧側の参加者たちは書籍を手に取り、あるいは購入し、あるいは好みや財布事情が合わず軽い詫びと共に返却しており、相互に紳士淑女として振舞っている。
「ふわーすごい人との流れだね、ニリエナ」
「普段こういう所に私たち来ないからねぇ」
そんな、淑女の一人であることのグルティナ・エルモンド嬢は以前からの友人、ニリエナ嬢と共に会場を訪れて、多様な書籍を見聞していた。グルティナ本人は職業病ながらいわゆる農業書の類を求めてであり、ニリエナ嬢は所属していたアンファングリア旅団製パン中隊を先般除隊して、装備更新時に下取りに出された野戦炊事の牽引式パン焼き石窯を購入し、念願であった製パン屋台業を運営すべく経営書やレシピ集を求めてのことだった。尚、彼女たちの友人であり現在もアンファングリア旅団に所属しているシグルド嬢は何故か何やら苦悶の表情を上げながら同行を断っていた(伏線ですよ)
――会場は、出展している書籍の内容によって大枠を大別している。
その多くは、戦時中の手記が多かった。およそ、死ぬということは銃を頭に受けたことでも無ければ、病を胸に苦しんだことでもない。本当に死ぬということは皆に忘れられたことである。故に、自分たちは忘れていない、皆にも忘れないで欲しいという願いは文字となって戦場という悪夢から立ち返る心の整理にも役立つことであろう。
軍中手記の区画を越えれば、技術書や自分の趣味分野を解説する評論本といった区画である。この場所こそ彼女たちグルティナ嬢とニリエナ嬢の求める場所であったが、そこはある種のただならぬ緊張感が漂っていた。なにせ野生の本職、ガチ勢多すぎ問題である。
陸軍参謀本部で最も忙しい内の1名であろう某少将は義兄と共に『ロザリンド会戦再検証~負けたと書くだけでこの厚み?』などという彼ら以外が執筆すれば軍内外で確実に大揉めする自爆紛いの研究書を出しており、大量の桃色フリルを身に着けたロヴァルナ・ハウンド種のご夫人は『追放された小間物商の女将は経営再建して白エルフ共にザマァしました』などと恨み骨髄の自叙伝を出していた。良いんですかこれ。
……さて、同じ評論本という区画であっても多種多様な趣味分野が存在する。音楽や文芸詩吟・演劇歌劇の類であったり美術品の類であったり様々だ。このような異なる分野であっても会場の広さに物理的な限界が存在する以上、異なる分野の中でも比較的類似した分野が隣り合うことが多い。
それは例えば、キャメロット文学や演劇の評論本であったり、キャメロット人形や小型家屋模型の評論本である。だが、その隣り合う趣味分野ではなく、隣り合う人材にあまりにも、あまりにもな外見的な差異が異なる場合には、第三者たちは見なかった事をするしかない現象も存在する。
「……」
「……」
かたや大柄な山賊が如きオークの大親分。かたや小柄な人形の如き白エルフ美少女(的マジカル生物)である。
すなわちシュヴェーリン元帥とマルリアン元元帥は隣り合う出展机に何と言ったものか、見栄えが違い過ぎる体躯をお互い気遣って並び、なんか気まずい沈黙のまま縮こまっていた。敢えて描写するならば『元帥コラボ』と言えよう。
「「「「「「「「「「どうしよう……」」」」」」」」」」
当の本人たちを含めた周囲全員が戸惑いの統一見解を抱いているが、元はといえば面倒ごとは一か所に集めようという参謀本部の采配であり、その下手人たちは愛すべき布団または細君たちの膝上にて夢の世界に旅立っていた。両人が出展している評論本は専門家もかくやと言うべき良質の資料・評論書籍でありながら、手に取ろうとする者にとってその雰囲気に気圧されて難しく、なんかもう困るしかない。
「……」
「……」
「「「「「「「「「「どうしよう……」」」」」」」」」」
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――困惑の技術・評論本の区画を越えれば、自己執筆の小説の区画である。そこでは、個々人の理想や妄想を具現化した創作物や伝承集。麗しきあるいは切なき恋愛譚・くだらなくも腹を抱えるしかない艶笑譚・おぞましく恐ろしき怪異譚・勇ましくも誇り高き冒険譚・各地方で収集された御伽噺や奇譚話。それに地方特有あるいは陸海軍内での料理集など。
こそこそ。こそこそ。
そこには普段の才色兼備・紅口白牙・威風堂々としたオーク美人の印象とはかけ離れたゲルズガルド・ロートバルト少尉がおっかなびっくり、紙製の大袋を両手に抱えて偵察歩兵小隊の先行斥候のように辺りを伺いながらすり足で歩いており、グルティナたちを丁度見つけて驚愕に硬直した所だった。
「お、おはようございます! 今日は良い天気ですね!!」
「こ、こんにちはです少尉。ちょっと雪降ってますけどね」
なにやら誤魔化すような様子である。ちなみに現在地であることの彼女の周囲に並べられた書籍類は、なにやらむくつけきも勇ましい牡同士が絡み合ったり抱き合ったりしている絵柄の艶本ばかりであった。
「これはですね! そのですね! 牡の皆々様の勇ましさをですね!」
「えぇと、そのぅ……色んな趣味の方々がいらっしゃいますので……」
「この周囲は、赤い大佐×緑の中佐とか中佐×大佐などとありますね」
「すいません淑女同士の慣習では、前後の差異は稀に決闘沙汰になり得ますのでご注意ください!」
ゲルズガルド少尉は赤面して足早に逃げ去った。彼女の性癖はいざ知らずこの場は沈黙こそが吉であろう。因習村こわい。
――それぞれの分野分類に分かれながらも多種多様なオルクセン文学が花開こうとしている……その上で、小説の大区画の中には更に細分化された小区画があった。そしてその場所はほぼ全員がダークエルフたちで占められている。グルティナとニリエナが見るに、それらの書籍の題材もただ1人の女性を題材として書かれていた。
「「……ディネルース王妃様?」」
ディネルース・アンダリエル王妃。アンファングリア旅団・前旅団長にしてかのシルヴァン川の脱出行の前後においてダークエルフ族の臨時指導者ともいえる、種族的偉人とも言える人物である。その凛々しさ献身さ知勇兼務の美しさに恩義敬愛を持たぬダークエルフたちはいなかった。
しかしながら、彼女らの脳を焼くほどの熱量はある種の崇拝の域に達しており、この場はディネルース・プチオンリー・イベントエリア、即ち『ディネケット』故に美麗絢爛極まりない狂気の異界と化していた。例を取れば――
・ディネルース詩歌集
・ディネルース絵画集
・ディネルース讃美歌(怪文書)
・ディネルース写真集(隠し撮り)
・ディネルース評論誌(美辞麗句を並べたもの)
・ディネルース被服誌(着衣様相を褒め称えたもの)
加えて同じ衣装・装飾品・化粧品を再現しようと試みた者たちの中で極めつけは、褐色大理石彫刻の等身大ディネルース像である。
しかも神話伝承に出てくる女神か妖精の様な艶めかしく全身をくねらせた麗しき全裸。これ本当に公共の場に置いて良いのですか? グルティナとニリエナも半笑いで誤魔化すしかない。
「うん……みんなディネルースさま大好きだしね……」
「程度はあるけど……これはまた熱狂的すぎだね……」
「その通りだ。肖像権という物を行使せねばなるまい」
マジン『ディネルース』1体が現れた! 知らなかったのか大魔王(のヨメ)からは逃げられない。ゲドーマーボーコンゴトモヨロシク。まさかの唐突な御本人の惨状――参上に戦慄するディネ界隈。本人は既に退役しているはずなのに何故か国王官邸における艶やかなドレスから着替えており、ある意味ではかねてより着慣れて動きやすい肋骨服姿をしている。
「この大理石像を作ったのは誰だァ!?」
「はーい、私が1年間かけた力作でーす」
「貴様かァ、ラエルノア・ケレブリン!」
ひょっこり人ごみの中から現れたアンファングリア旅団作戦参謀にしてあざといエルフこと、ラエルノア・ケレブリン少佐(戦後昇進)は、職務の合間を縫って彫り作り上げたのだとドヤ顔で堂々と応えて見せる。騎兵将校が余暇の趣味とは言え何やってるんですか本当に。
「姉様の美しさを永遠に閉じ込めたく!」
「美しいです姉様」「女神の様です姉様」
「なるほど、なるほどな……どっせい!」
青筋を立てながら毒花の如く微笑んだディネルース王妃は、大地に根を下ろす白銀樹のように腰を落とすと自分自身の等身大像を後ろから掴み、鮮やかな虹橋の如き美しい弧を描くオルクセン・スープレックスホールドで大理石の上半身を爆砕してみせた!(ぼぐしゃあ)
「ああっ! 私のディネルース女神像が!」
「他の風紀紊乱いかがわしい書物も没収!」
「「「「「あぁん、公権横暴ー!」」」」」
王妃殿下は会場内に数多存在するディネルース本の摘発収奪のため、古巣から年末休暇中の旅団兵をかき集めており(その扱き使われる中にはグルティナたちの友人であるところのシグルド曹長も胡乱な目をしながら巻き込まれていた(伏線回収))公私は混同するものだと、粉砕した『自分』の大理石像の右足部分を掲げ、年末労働に文字通り振り回すこととなっている。
……これは事実上、お上による法的根拠なき検閲であり、言論統制と言うべきか焚書坑儒と言うべきではあるが、愛情湿度が重すぎる魔導書や特級呪物を煉獄の業火でお焚き上げる、いわば王宮機密費による浄化供養であった。焼き払えー。
もっとも、国家侮辱罪や王室不敬罪の法的整備はなかったとしても、開かれた王家を目指しながらも、肖像権は必要だよねということで以後、法務屋たちで真面目に検討されるようになったのは余談である――特に! 王妃様のボディラインは! 我が王のみが知る国家機密!!
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――どたんばたんと狂乱と破壊の会場から逃走――転進したグルティナとニリエナの前には寒空ながら空き腹に匂いも香しく多くの露店が並んでいた。興行には付き物の出店である。会場付近に出展料理区画を定めるこの辺の手配に関してはオーク族やコボルド族は非常に手堅い。オルクセンは食の国。
牛肉と香味野菜の湯気が漂うグラーシュを煮込んでいる店もあれば、定番の焼きヴルストにマスタードとトマトペースト添える店舗もある。ヴルストはパンに挟んだホットドッグは勿論、熱い珈琲に野菜やハムやベーコンを挟んだキャメロット式サンドイッチも悩ましい。
最近はセンチュリースター式にさわやかな挽肉のステーキ(フリカデッレ)を円盤状のパンへチーズと共に挟んだ物も流行りになりつつある。並ぶビールは喉越しも宜しいピスルナーかヴァイスかシュヴァルツか。白ワインならば焼きどんぐりや焼き甘藷も合うだろう。
店舗は簡単な天幕を張った物だけでなく移動式の屋台もあり、軍から払い下げられた野戦炊事車を引っ張ってパンを焼いて売る豪の者もいる。
「あー、同じ売り方を考えてたのにー!」
「闇エルフのパンは付加価値らしいよ?」
「そうなの? 腕と種族は別じゃない?」
販売方法の先行者がいた事に悔しがるニリエナに、農事従事者ながらの論を呈すグルティナ。そう言った意味では長命ながら世間擦れもまだまだな2人である。年明けからの移動パン屋『ふらいんぐ白パン』が美人ダークエルフお手製パンとの風評で爆売れ多忙の毎日になる事を理解していなかった。
そんな店舗群の中に異彩を放つ1台があった。列車機関を馬車大に小型化したような車両で、軽金属の横壁が大鷲族の翼のように上に開いている。列車同様に炭を燃やして蒸気で走るのだが、その窯の熱を利用して調理も出来、ちょうど『いま』さっき横に開いた窓から料理を売れる様になっている。
エッセンヴァーゲン――後に料理販売車両(フードトラック)とキャメロットとセンチュリースターでは言われる様になり、星欧中でオルクセン料理文化を広めた移動販売店の初号機である。当然ながら実働実験中であるこの車両は早々に外部へ出ない存在ではあったが、まずは動かして見ねば始まるまいと猪の一声で乗り込んだばかりか料理頒布している牡がいた。
「やぁ、お嬢さんたち。今から販売の新商品を買わないかい?」
「「わっ、我が王!? なにをしていらっしゃるのですか?」」
「この場所でやることは料理と販売だね。まぁ、食べてみてよ」
唐突な国家最高権力者の登壇にリアリティグスタフショックを受けるグルティナとニリエナ。1個50レニだよと言われるまま銀貨と引き換えに渡されたのは、焼いた豚肉と溶けたチーズを熱く圧力を掛けたサンドイッチの様な物である。
普通に考えられる薄切りのサンドイッチは低温または常温だが、この熱いサンドイッチは厚切りのパンにバターとマスタードを塗り、ローストした豚肉と味の濃いチーズとディルのピクルスを、鉄板で挟んで熱して焼き目を付けている――美味しい! 寒い空気の中にバターの香りが漂い、パンの表面がわずかにカリカリして、溶けたチーズの旨味とピクルスの酸味が程良く組み合わさっている。
空いた小腹も相まって大き目だった熱いサンドイッチを一気に頬張る。なにせローストした豚肉の柔らかい事! ロースト前に肉繊維をほぐすため柑橘でマリネしているのだろうか? この味はひょっとしたら以前、喫茶店『イーディケ』で食べた――?
「こいつは『キューバサンド』と言うんだ。本来は南部センチュリースターの料理で、豚肉はオレンジとレモンで味付けしている」
未だオレンジとレモンは高級食材の類のはずだが、グスタフは微笑んで「我が王による手ずからの料理」と、次から次へと押し寄せる市民の為に料理を作り、背後に控えるコボルド族の執事と共にみなに手渡して行った……。
食べ終わった2人が周囲を見やれば『オルケット』の展示会場内は盛況に終わりつつあり、書籍や小物を楽しそうに抱えて行く人々や、早めに撤収し始める出展側の人々が展示場から吐き出されつつある。今年もそろそろ終わり。来年も豊饒の大地に幸あらんことを。出来れば仕事も趣味も目出度く良い感じで回りますように――
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……ところで、グルティナには気になった点が1つ。
「――そう言えば、我が王。この『キューバサンド』の『キューバ?』 って何なのでしょうか?」
そう言えばと首を傾げるニリエナに反して、グスタフは酢を飲んだ様な一瞬の沈黙の後、絞り出す様に応えた。
「あ、えーと、それは『キューカンバー(キュウリ)ピクルスサンド』の略なんだよ」
そうなんですかー。と、納得する2人のダークエルフの淑女たちに反して、彼はひっそりと冷汗を流していた。
そう。読者諸氏においては御存知かとは思われるが、この世界に『キューバ』は存在していない。今はまだ。
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◆はすたさんの与太話。
ぼんくらダークエルフの描写・性癖・暴走振りに関しては、
我が盟友、かさぎ修羅さんの『あるなもなきくろのしょうどぉ』を参考にしましたありがとうございますw
https://www.pixiv.net/artworks/133656169
国際商業展示場『シュヴァインメッセ』で行われた、自費出版書籍即売会『第1回オルクセン・ブーフマルクト』通称:オルケット >
コミックマーケット107お疲れ様でした!(爆笑)
「え、僕の出番は今回これだけ?(そうだよ)」 > かわいそうw
「買ってくれないかな」という空気 >
ジャンルによってかなり雰囲気が違いますが、大声の呼び込みは推奨されません(みんな引いちゃう)男性向け創作とかだと違うんですが……。
なお、買ってくれないかな。のくだりは、ボーイミーツガールSF戦記ラノベ『星界の紋章』外伝が元ネタですね。広大な宇宙を旅する技術力があっても同人誌即売会をやってるんかいw
某少将は義兄と共に『ロザリンド会戦再検証~負けたと書くだけでこの厚み?』 >
グレーベンは何をしてるんですかw
まぁ、再検証は必要でしょうし彼にしかできないのでしょうけれど。
ブルーメンタールさんは巻き込まれたのか、嬉々として付き合ってるのかは不明です。
桃色フリルを身に着けたロヴァルナ・ハウンド種のご夫人 >
追放系だこれ。ザマァの湿度が重い。
『元帥コラボ』> 本人たちもそうだけど周囲が大変。
赤い大佐×緑の中佐 > 色んな意味で大人気。
「すいません淑女同士の慣習では、前後の差異は稀に決闘沙汰になり得ますのでご注意ください!」 >
受けと攻めの取り扱いは本当に注意しようね。
『ディネケット』 > ディネルース・オンリーイベントですから。
マジン『ディネルース』1体が現れた! 知らなかったのか大魔王(のヨメ)からは逃げられない。ゲドーマーボーコンゴトモヨロシク。 >
女神転生・ペルソナシリーズと、ダイの大冒険のネタがごた混ぜになってますね。
鮮やかな虹橋の如き美しい弧を描くオルクセン・スープレックスホールド >
流れるようなジャーマン・スープレックスホールドにココだけ空気が、女子プロレスになっています。
愛情湿度が重すぎる魔導書や特級呪物 >怪文書すぎる。腐ってたんだ焼き払えー。
『ふらいんぐ白パン』 > ニリエナのハンドルネーム(コミックス巻末参照)
さわやかな挽肉のステーキ(フリカデッレ)を円盤状のパンへチーズと共に挟んだ物
>
静岡県のみで展開するファミリーレストラン『さわやか』では、ハンバーグが有名ですがハンバーガーも美味しいのです(地元民の主張)
料理販売車両(フードトラック) >
映画『シェフ~三ツ星フードトラックへようこそ』という、父と息子の傑作ロードムービーがあります。超オススメ。
唐突な国家最高権力者の登壇にリアリティグスタフショック >
お偉いさんが急に顔を出すとビックリする。アイエエエエ……!
『キューバサンド』>
先の映画の主人公である親子が作るんです。めっちゃ美味しそう。我が王この映画を見たことあるんじゃないかなぁ……。
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◆我が王風『キュー(カン)バ(ー)サンド』の作り方(2人分)
(想定読者である道洋の人間種基準に再計算済み)
<材料>
<ローストポーク>
・ 豚肉の塊:400g(肩ロース)
・ 塩: 5g(小さじ1杯。不足なら好みで追加)
・ 胡椒: 1g(ひとつまみ。不足なら好みで追加)
(マリネ液)
・ オレンジ果汁:200g(1カップ=200ml)
・ レモン果汁: 15g(大さじ1杯)
・オリーブオイル: 15g(大さじ1杯)
・ にんにく: 10g(2片ほど)
(香辛料:あれば)
・ ローズマリー: 3g(小さじ1/2杯)
・ クミン: 3g(小さじ1/2杯)
・ タイム: 1g(ひとつまみ。無くても良い)
(ロースト用)
・ サラダ油: 15g(大さじ1杯)
<キューバサンド>
・キューバンブレッド:180g(1/2本=30cmほど)
(無ければグロワールパン風バケット)
・ ロースハム: 60g(スライス4枚)
・ チーズ: 60g(スライス4枚:有ればエメンタール)
◎キュウリのピクルス: 40g(中2本)
・ マスタード: 30g(大さじ2杯)
・ 有塩バター: 15g(塗る用)
・ 有塩バター: 15g(焼く用)
<作り方>
1:豚肉の塊に味が染み込む様にフォークで数回刺して塩・胡椒をすり込む。
2:密閉できる袋に塩胡椒をすり込んだ豚肉・皮を剥いて薄切りのにんにく・
香辛料各種・オレンジの果汁・レモンの果汁・オリーブオイルを入れて、
冷暗所(冷蔵庫)で一晩寝かせるマリネをする。
3:味を漬けた豚肉の塊を袋から出してマリネ液の汁気を切り、
室内に移して30分ほどで常温に戻したら、1cmほどの薄切りにする。
4:フライパンにサラダ油を入れて中火で熱したら、豚肉の薄切りを入れる。
豚肉に焼き色が付けて裏返し、豚肉に火が通るまで弱火で5分ほど焼く。
(切る前にオーブンでじっくり30分ほど焼いてから薄切りにしても良い)
5:バゲットは小麦粉・水・塩・パン酵母と基本的な材料のみで作られるが、
キューバンブレッドはバゲットに似ながらも、シュマルツ(ラード)を
練り込み焼いた物で、気泡が少なく柔らかサクッとした軽い食感になる。
6:キューバンブレッドを半分に切った内両面にマスタードとバターを塗る。
7:ピクルスをチーズの薄さ同様にスライスし、チーズ・ロースハム
・ローストポークと共に、キューバンブレッドの間に具材として挟む。
8:洗ったフライパンに、焼く用のバターの半分を入れて中火で加熱し、
具材を挟んだキューバンブレッドを入れフライ返しなどで押し付け焼く。
9:焼き色が付いたら裏返し、残る焼く用のバターの半分を脇に入れ同様に
フライ返しなどでキューバンブレッドに焦げ目が付く様に押し付け焼く。
あつあつに焼き溶けたバターと香辛料の風味と共にかぶり付きましょう。
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◆今回のボツネタ。
「腹が減ったでアリマス」
その頃、下士官官舎でヨーゼフ・フェルト軍曹は空腹を抱えていた。またである。
ついつい、その場の勢いで近所の子供たちへ甘い食い扶持、隧道風シュトレンを渡し過ぎてしまった。
年末と言えど、今年からは国際展示場で軽食の屋台が出ていたのであったが、実務能力の高すぎるロートバルト中佐は業務外の事で部下に心配を掛けさせるわけにはいかぬと、同室で仕事をするフェルト軍曹に即売会の詳細や関連する軽食の屋台について一切漏らせなかった。故に軍曹は知らない。かぐわしき香りがそこまで漂っていることを。
――すなわち、ヨーゼフ・フェルト軍曹はまたも不運であった。
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◆今回のボツネタその2。
――後日。グルティナ嬢から我が王のサンドイッチの件を聞いた、ゲルズガルド少尉は「我が王を挟んだり挟まれたり食べたり食べられたりするんですの……!?」と、謎の懊悩を浮かべると、何を考えたか大量の鼻血を吹いてぶっ倒れた。
――オルクセン最初の王室不敬罪が適応されるのは彼女かも知れない。
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お気に入り登録、評価やご感想、読了ポストを頂けますと、とても励みになります。よろしくお願いします。
PixivFanboxにも連載しています。https://hastur.fanbox.cc/
こちらでは作中の『レシピを限定公開』しています。
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この話は、本作第二部に用いる予定だった話を、
今回コミックマーケット107で頒布された、オルクセン王国史アンソロジー『オルクセン博覧会』に参加・転用したものです。
https://x.com/Ork_an_kikaku/status/2001254455543783564
今回、許可を得て追記と共に(だってゲルズガルド少尉は、お外にお出しする作品に出せないですからね)アップさせて頂きました。多数の参加者さんによる珠玉の作品群ですので、是非にご興味頂ければ幸いです。
また、前回までのお話は『こちらオルクセン参謀本部 兵站部糧食課 食品研究室』
https://weekendwizard.booth.pm/items/7338136
上記まとめてありますのでご笑覧頂ければありがたく思います。
さらに余談として、ファンダジー飯の評論本も書かせて頂いております。
『同人作家に送るゲーマー的 幻想食品論』
https://weekendwizard.booth.pm/items/7322600
現在、オリジナルTRPGシステム『近代戦記 LastCavalry』の開発を行っております。オルクセンの様な銃砲と騎兵での戦闘世界観で遊べる仕組みを書こうと思っています。私事にて恐縮ですが、第二部の開始と共々しばらくお待ちくださいますよう、よろしくお願い申し上げます。
最後に、お気に入り登録、評価やご感想、読了ポストを頂けますと、とても励みになります。よろしくお願いします。
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