こちらオルクセン参謀本部 兵站部糧食課 食品研究室   作:Hastur_1

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 食品と加工と栄養に関する与太話を書いて行きます。
『オルクセン王国史』の二次創作ネタバレを含みますので、原作本編読了後に読んで頂けると幸いです。

スパムスパムスパム……


6:エンドウ豆

――ここは戦後である。

オルクセン首都ヴィルトシュヴァイン新市街北西外縁郊外ヴァルダーベルク。緑為す豊饒の大地。母なる新しき故郷。日は暖かく土は薫り、最も若き白銀樹が接ぎ木・苗木の形とは言え、樹木医たちの尽力で芽吹いた日。

 

グルティナ・モリエンド嬢。ダークエルフの同胞たちと共にこの国に移り住みで最早3年を越えた大地の娘は豊富に実った作物、かつて痩せたエルフィンドの地ではおよそ見ぬ様々に生った作物を胸に、北の空へと想いを寄せた。この場所には彼女たちの確かな成果がある。

 

だが、彼女はある種の気後れを終戦一年を経ても未だに拭い切れないでいた。勇無き自分は戦地へ赴く行くことが出来なかったのだと。それは今やこの国の王妃となったディネルース・アンダリエルから農事なれば彼女を於いて他には無しと、信頼信託されていても尚。

 

もちろん、高潔な者が多いオルクセンの民衆や軍人は、後方だから銃後だからと謗るものはほぼほぼ皆無である。兵は食を銃は弾を食べ、列車や船舶は石炭を飲む物。食は全ての根幹であり、それを作りそして運ぶ者たちは国の在り方として相応に敬され……それでも。この胸に抱く緑色の豆すら食べれなかった者がいるのだと――

 

――翌日、既に馴染みのカフェ紛いの部屋と化す『食品研究室』へグレーベン少将が羽を伸ばしに来ると、本来部屋の面々であるロートバルト中佐・ゲルズガルド少尉・フェルト軍曹に加えて、モリエンド嬢と山の様に積み上がった『エンドウ豆』と幾つかの軍食用缶詰の姿があった。

 

「あっ、お邪魔しておりますね少将閣下」

「まぁ碌な軍機は此処に無いけどな……」

「部外者と言うには彼女の話は有用でね」

「そも間諜が入り込む環境に無いですわ」

「はっ、小官は等身大の警報でアリマス」

 

さて、この星欧列強においてオルクセン王国の防諜能力は正に最強と言っても良い。この国の人口を構成する魔種族としてオーク族・コボルト族・ドワーフ族に巨狼族・大鷲族があり、そして先年合流した闇エルフ族と、数年後は併合が完了するエルフィンドに住まう白エルフ族共がいた。

 

つまりは、今後将来の仮想敵国であるグロワールもロヴァルナも人間族で構成された人種国家で――かつて旧エルフィンドを攻略するに辺り人間の協力者を得ていたとしても――オルクセン王国の王族・政治家・官僚機構・軍関係者・大型商社に『人間族は存在しない』のだから、人間種族が魔種族の政権に対し不適切な関係を持ち込んだり物理的に関係各所に入り込む事例は極めて困難である。なにせ背格好の時点で目立つ。密偵として致命的な要因であろう。

 

「まぁ俺らに対して美人局は無理だよな」

「全くだね。およそ人選を間違えている」

 

ゲラゲラと下品に笑う少将閣下と中佐殿は愛妻家にして恐妻家にしてあることから、色仕掛けの諜報活動など多義的な意味で不可能。彼らの奥方たちを保有武力的にも知っている美人少尉は苦笑するしかない。

 

とはいえ、軍糧食の農作物を納めている大規模農業事業者の棟梁格と言えど、ダークエルフの一民間人が参謀本部の一室へ、するりと燻製前のうなぎの如く入ってしまえるのは警備的にどうなのだと思うが、聞けばディネルース王妃の指示で軍属の待遇で参謀本部への入庁入室許可証を得ているとの事である。

 

そう言う意味では、最早『食品研究室』に持ち込まれる案件は、軍関係のみならず経済・物流及び国家案件を扱うのを王家から見込まれているとの大袈裟事と想定出来るが、敢えてそこまで気が付かない素振りを見せるのも参謀将校と言う巨大組織に勤める者たちの処世術と言えよう。

 

道洋は『世界と我が身を一続きとする軽小説群』があるらしいが、一介の中佐に何をやらせるつもりだろうか。まぁ、世の中には気が付かない方が良い事もある。知覚と発想判定に失敗。正に物事に擁する関連性を思考から取り除いたのは旧き神々の恩寵であり――

 

                    /*/

 

――さて、オルクセン王国有数の知恵者たちであろうと目の前の難問を片付けなければならぬ。山の様に積み上がっている『エンドウ豆』――キャメロットやセンチュリースターにおいては『グリーンピース』と呼ばれる食材と幾つかの軍食用缶詰である。

 

「で、今回の厄ネタは『エンドウ豆』か」

「友よ、無茶振りなのが分かって来たか」

「貴様なら何でも何とかすると思ってな」

「これは新手の惚気なのでしょうかー?」

「叔父さまは聊か素直になれない性質で」

「はっ、小官には何とも分かりカネマス」

 

参謀本部兵站局長ギリム・カイト中将は、ドワーフ族特有の気難しい顔ながらそれなりに隷下の者たちに気を配る牡であった。もっともそれでなければこのオルクセン総軍の中で栄達などは出来はせぬ。戦時より苦情の数々を受けた『エンドウ豆』ばかりで飽きた問題に着手しようと言う事である。やっとそこにまで手を付ける余裕が出来たという事でもあったが、戦時より日を重ねて『缶詰の賞味期限』という尻尾に火が付いたという事でもある。

 

――ここで缶詰の定義から解説する。缶詰は製造過程として『容器に密封して加熱殺菌』必ず行う。それは食品を腐敗させる雑菌が缶中に存在しないので『未開封であれば半永久的に喫食可能』と言う事になる。理屈の上では。だが『賞味期限』という点で保存食と言えど定期的に入れ替えねばなるまい。特に軍隊と言う官僚機構において予算と在庫事情が絡み付き、実際にそれは長期間と言うだけの消耗品である。加えて納入業者の都合も加味される。

 

オルクセン最大の缶詰メーカーであるブラウフラッゲ社はこの『エンドウ豆』の水煮缶を大量生産し、この戦役でずいぶんと大きな会社になっていた。だが戦争という流れは急に止まれない。終戦協定という命令と書類は履行されたが生産中の物資の流れは早々に切り捨てる訳にはいかぬ。故に余った。

 

ある程度は旧エルフィンドでの戦時中の物資欠乏――貧困――食糧援助に流用されたとしても。余りに余り戦時から数えて賞味期限は過ぎようとしていた。そして『エンドウ豆』の新物がヴァルダーベルクを含めてオルクセン各地にて生った頃の話となる。

 

「そもそもブラウフラッゲ社のケツが重いのが問題だ」

「まぁ、ファーレンス商会と比べてはしょうがないよ」

「桃色バアさん(イザベラ女史)は商機があるからな」

「ブラウフラッゲ社は率先して青旗を振って

『どうぞ先に進んでください』と早めに言って欲しかったねぇ……」

 

――戦時のブラウフラッゲ社はとうとう『エンドウ豆』以外の水煮缶の生産に間に合わなかった。

 

先日、ヴィルトシュヴァインで起きた『ひよこ豆のペースト』のちょっとした流行にも完全に乗り遅れ、姑息にも『エンドウ豆のトマト煮』『エンドウ豆のクリーム煮』など、新製品の軍食用缶詰として小手先の小細工に走って当然の如く、改めて余らせている。

 

要は将兵に同じ物を食わせ続けて閉口させたのが問題であるのに、事の本質を誤っていた。もっともその抜本的な解決をギリム中将に丸投げされているのがロートバルト中佐と言う訳なのだが。

 

「わたくし、恐縮ながら前線の肌感覚が

 掴めないのですけれど、当時はどの様な物だったのでしょう?」

「要するに「なんだまたエンドウ豆か」と『エンドウ豆』ばかりで食傷だったのでアリマス。それに小官たちコボルト族の一部の種について、豆は喰い難いのでアリマス」

 

ゲルズガルド少尉の疑問に向かってフェルト軍曹は自らの口吻を「にぃっ」と指で横に広げた。この辺、口周りから鼻先にかけての部分、即ちマズルの長さはコボルトたちの種によって若干の違いがある。つまり豆の様な粒状の食材は『横に零れる』大型セントバーナード種の軍曹ではそれが顕著であった。

 

とまれ相当な恨み節でもある。オルクセン軍名物である、ベーコンと各種野菜を煮て味付けた所に大量のエンドウ豆で嵩増しを図った『エンドウ豆スープ』は兵站危急時期の第三軍にはやたらと配食されていた。

 

なにせあの時期は食い物の種類に余裕が無い。調理兵たちも懸命であったのだ。具材や味付けで違いを持たせて様々な工夫をしていたのだから……。

 

                    /*/

 

そもそも『エンドウ豆』とは何か。キャメロットなどでは『グリーンピース』と呼ばれる文字通り緑色をした若干の窪みがある球状の豆である。実エンドウとも称する。イスマイル帝国の南東部を原産とするマメ科の園芸上では一年草または二年草で、イスマイルにおいて華国の古名を名前の由来とする。

 

基本的に10・11月の秋に種を播き、苗の状態で越冬させてから、6・7月の晩春から初夏にかけて収穫する。取れ立ての新物は風味・甘味・香りが格別だが、缶詰等に加工されるため直に味わう事は産地の者の特権とも言えよう。

 

野菜としては糖質が多く各種栄養価も高い。主に煮炊きして具材として用いられるが、将来において莢が柔らかい軟莢種の未熟な薄い莢を食用にすべく品種改良が続けられており茹でてサラダなどに使用すべく検討が続けられている。

 

「要は、食べ飽きた印象を払拭すべく、慣れ切った野菜以外の運用として、

 しかも大量消費できるエンドウ豆の使い方を模索すれば良いんだけど……」

「なんせ戦時中に食い飽きた印象が悪すぎるからなぁ……」

「やっぱり、前線に出た者とそうでない者は違うのですね」

「小官思いますに、戦場に向かぬ者は仕方ないでアリマス」

「そうだな逆に言えば、銃後が無くば兵は戦う気が起きん」

 

正直、戦時中での意識差に気落ちしたモリエンド嬢を気に掛けるフェルト軍曹とグレーベン少将を支援する様にゲルズガルド少尉が空気を換える。

 

「いっそ文化的にも地理的にも全く異なって紛争事に関わりの無かった

 諸外国でオルクセンとは違う豆の使い方をしている事はありませんの?」

「想像の及ばぬ豆の使い方ねぇ……

 そう言えば道洋に派遣したクレメンス・ビットブルク少佐はどうしてる?」

「ビットブルクか! 実家の酒が飲めぬ高いワインが飲めぬと渋る奴を

 陛下の勅命紛いに船倉に詰め込んで送り出したが、昨日手紙が来たぞ」

 

オルクセン国王グスタフ・ファルケンハインは博識多趣味と謳われるが、

なぜか行き過ぎの道洋趣味とも言われていた。この辺は後年でも謎とされる。

 

「どうやら道洋の連中は、豆で作ったテリーヌに豆で作ったソースをかけ、

 豆を塩漬けにしたペーストでグラーシュとスープを作る民族だそうだぞ!」

 

「豆だけで生きて行けるのですか?」

「向こうは向こうで大変でアリマス」

「いや、向こうは米が主食なんだよ」

「詳しくはビットブルク少佐の手紙を読み返すとしよう。

 少尉、作戦部にいる俺の副官に伝えて少佐の手紙をもらって来てくれ」

 

俺が自分で行くと帰って来れなくなるからな! と嘯く作戦次長の命を受けたゲルズガルド少尉が手紙を携え戻ると、ロートバルト中佐は『世界料理大全』『図説道洋百科事典』『道楽者の食卓』『道の上の雲』などと言った書籍を広げている。

 

彼の手紙――つまり現地の学生から『馬鈴薯オヤジ』と綽名されているビットブルク少佐は、軍事教官として派遣されると同時に、道洋における地理的文化的な知見人脈を深める駐在武官、もしくは諜報官としての側面を持つが、彼は飲兵衛の口振りは兎も角真面目な牡であり、手紙には直接軍事に関係が無い事まで様々な記録を記してくれていた。これらを総合して『食品研究室』の面々は1つの知見を得たのである。

 

「道洋は小豆と言う豆を甘く菓子にしているのか」

「星欧には豆を甘くする発想はあまり無いからね」

「甘い物ならオルクセンの者はみんな好きですよ」

「ペーストなら小官の口でも食い易いでアリマス」

「甘く潰した豆を白パンにでも織り込むかな……」

 

そしてオルクセンの朝食文化に肉と野菜を挟んだサンドイッチとは異なる菓子パンが出来上がった。全くの異文化な甘い豆ジャムパンではあったが、国内の軍組織で試験的に配食したところ、甘味好きオーク種たちにも酒飲みドワーフ種たちにも好評であり、口脇から零れぬとコボルトたちにも好評であった。

 

後に「ベーレン・ゾネ」というオルクセン警察の物語にて、張り込み中の刑事たちが牛乳と菓子パンで食べていた姿から、比較的に金のない若い学生たちに愛される事になった――

 

                    /*/

 

――先日、ロートバルト中佐の机上に積まれた『エンドウ豆』は、モリエンド嬢の手によって目出度く全て甘味に化けた。

本日は甘く潰したエンドウ豆が珈琲に合わんモノかと、苦心する事しばしではあったが好みに寄り過ぎると結論付けた所である。

 

「姉さ――王妃様を見て思っていましたが、

 軍隊社会というものはある種の独自文化を持った社会環境なのですね」

「そうだねぇ……フェルト軍曹。

 あの歌を知っているだろう? ちょっと歌ってみてくれないかな?」

「はっ、小官の胴間声で宜しければ不肖ながら」

「当時は良く聞こえたな。いっちょやってくれ」

 

モリエンド嬢の疑問に、ロートバルト中佐は不思議な指示を出す。囃し立てるグレーベン少将を受けて、フェルト軍曹が体格に見合った渋く朗々とした声で軍歌を響かせる――

 

 ――今日も埃まみれの猛訓練だ、

 骨まで軋む、そしてまた怒鳴られる。だから自分に美味しいご褒美だ、

 泥まみれの教練の後には、野戦炊事車からエンドウ豆とベーコンのスープ!

 泥まみれの教練の後には、野戦炊事車からエンドウ豆とベーコンのスープ!

 

 ――朝だ夜明けだ大地の息吹き、

 うんと吸い込む緑色、胸に若さ漲る我が誇り、汗拭きニッコリ大砲手入れ。

 精強な軍隊の食物がある、野戦炊事車からエンドウ豆とベーコンのスープ!

 精強な軍隊の食物がある、野戦炊事車からエンドウ豆とベーコンのスープ!

 

――後備のはずだが最前線、

ミヒャエル親父の喇叭響く、旗は鳴る鳴る兵隊稼業に、素晴らしい御馳走。

 グラッグストン詰め撃て、野戦炊事車からエンドウ豆とベーコンのスープ!

 グラッグストン詰め撃て、野戦炊事車からエンドウ豆とベーコンのスープ!

 

「――オルクセン軍歌<エンドウ豆とベーコンのスープ>でアリマス」

「わぁ、ちょっと可愛い軍歌です」

「割とヤケに聞こえますわね!?」

「本当にボヤキだったんだよ……」

 

ちなみに<エンドウ豆とベーコンのスープ>は旅団毎に若干一捻りがある事が常だった。先の歌詞はフェルト軍曹が従軍した第四軍団後備擲弾兵第一旅団版という訳である。何の因果か最も歩かされた旅団と言う実績と誇りと愚痴と、旅団長ミヒャエル・ツヴェティケン少将への敬意と想い入れがそこにあった。

 

「ところで『エンドウ豆』のスープと言うと、

 他にはポタージュ状にしたシュメーケンロー社のがあるんだけど」

「エンドウ豆のヴルストか」

 

これはオルクセンの調味料メーカーであるシュメーケンロー社による加工食品である。エンドウ豆のペースト・牛脂・ベーコン・塩とスパイスで構成された円筒状に油紙でまとめられた調理済みの食材であり、適量に切って湯で溶けばスープになるという優れものである。とは言え。

 

「妻が作ったスープと比べるくもない!」

「友よ、それは奥方に直接言いたまえよ」

「素面で言えるかこんな恥ずかしい事を」

「これは新手の惚気なのでしょうかー?」

「叔父さまは聊か素直になれない性質で」

「はっ、小官には何とも分かりカネマス」

 

少将殿の奥方お手製のエンドウ豆のポタージュは丁寧に裏濾した豆をクリームたっぷりで仕立てるのだと機密暴露する中佐の証言を受けて、生温かい微笑みを交わす『食品研究室』の面々の前に、グレーベン少将は「用事があった!」と極めて下手な虚偽により可及的速やかな撤退に成功した。

 

帰宅前に先触れを出し、花の一つも不器用に買って帰り、帰宅に合わせて、

温かな食事を用意する辺り、夫婦共に素直でなく夫婦共にマメな事であった。

 

――なお、エンドウ豆の花言葉は『必ず来る幸福』である。

 

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◆はすたさんの与太話。

『世界と我が身を一続きとする軽小説群』< セカイ系ラノベ
『缶詰の賞味期限』< 残り1年ぐらいになったら更新しないと。
ブラウフラッゲ社 < ドイツ語でアオハタ社w 原作でもこの名前ですね。

ビットブルクか! 実家の酒が飲めぬ
< モデルのメッケル少佐は史実で実家がビール醸造家だったそうですよ?

「道洋の連中は、豆で作ったテリーヌに豆で作ったソースをかけ、
 豆を塩漬けにしたペーストでグラーシュとスープを作る民族だそうだぞ!」
< 豆腐に醤油で、味噌に鍋と味噌汁w

『世界料理大全』『図説道洋百科事典』『道楽者の食卓』『道の上の雲』
< 原作巻末の参考文献を参照w

「甘く潰した豆を白パンにでも織り込むかな……」
< と言う訳で、オルクセンのアンパンはうぐいす豆ですw
  史実では、1817年頃の日本で甘く煮た豆の記述があります。

「ベーレン・ゾネ」< 太陽にほえろw

エンドウ豆のヴルスト< 史実では昔のクノール社が作っていたのです。
シュメーケンロー社< 味の素社はクノールからライセンス買ってるのですw

                    /*/

今回のボツネタ。

「先週、エルフィンドへ視察に行った時の事なんだがな……」
グレーベン少将がエルフィンド旧首都ティリオンでのベレリアント半島占領軍総司令部近くにあったホテルに滞在した折である。終戦よりしばらく経過したこの時期であってエルフィンドの物資欠乏は未だ深刻であった。現地宿泊した翌朝の少将殿はホテル付のレストランでシェフにモーニングを頼んだのだが。

「おはよう、今朝は何がある?」「卵とエンドウ豆です」
「……他には?」「他には、ヴルストとエンドウ豆です」
「その他には?」「卵とヴルストとエンドウ豆です」
「夜ならロブスターのグラタンと卵添えエンドウ豆乗せです」
「エンドウ豆が無いのは?」「卵とソーセージとエンドウ豆は少なめです」
「グリーンピース馬鹿!」

あまりの食事事情の果て、叔父様たちが唐突に揶揄して歌い出した。

「「おぉ、ピスピスピース! ピスピスピース! ピスピスピース!!」」
「お下品ですー!」

怒り出すゲルズガルド少尉だが、キャメロットで『ピス』という言語は、
つまり俗語でそういうシモネタであった。この辺、翻訳が出来ぬモリエンド嬢は分かっていない。

「お下品ですー!」

                    /*/

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