ジョジョ×プロセカ『singing the World』 作:紙ふうせん
怖くて眠れなかった奏はミクに会う為にセカイに行こうとするのだが……。
『二人の囚人が鉄格子の窓から外を眺めたとさ。一人は泥を見た、一人は星を見た』
フレデリック・ラングブリッジ 不滅の詩
Kがログインしました
『もう皆んな来てるかな?』
『いいや? まだボクだけだよ』
『今日は瑞希が一番最初?』
『うん、二人も多分すぐ来ると思うな』
えななんがログインしました
『お疲れ様。ごめん、待った?』
『ほらね?』
『ほらね、ってなんの話?』
『そろそろえななんと雪……じゃなかった、えななんとまふゆも来るんじゃないかって話』
『ちょっと! なんで私だけそのままなのよ!?』
『えぇ〜? だってえななんってえなな〜んってカンジじゃん?』
『なにそれ!? 意味わからないんだけど!』
雪がログインしました
『ごめん、少し遅くなった』
『あっ! まふゆも来たみたいだよ?』
『お疲れ様、まふゆ』
『お疲れ様……』
『全員揃ったし、早速作業に取りかかろうか』
『りょうか〜い♪』
『その前に……ちょっと相談したいことがあるんだけど、いい?』
『えななんがそんなこと言うなんて珍しいじゃん!』
『茶化さないで! 凄い真面目な話なんだから!』
『絵名がそこまで言うなんて……なにがあったの?』
『……それ、私も気になる』
『まふゆが興味を持つなんて珍しいね? ほらせっかくだから話してみてよ』
『まぁまふゆがそこまで言うなら話すけど……これは今日の朝本当にあったことなんだけどね?』
『絵名……もしかしてそれ怖い話?』
『怖いっていうより不思議な話なんだけど……午前中はやることがないから久しぶりにアナログで絵を描いてみようかな〜と思ってスケッチブックを開いたの』
『もしかして知らない絵でも混ざってた!?』
『そういう訳じゃないけど……というか、瑞希はなんでそんなに嬉しそうなのよ?』
『早く続きを聞かせて』
『分かったから急かさないでよ!』
『それで、そのスケッチブックがどうかしたの?』
『何回数えても『スケッチブックのページ数より実際に書いた絵の枚数の方が多い』のよ』
『えっ?』
『それだけ? それって印刷ミスとかじゃないの〜?』
『私も瑞希と同じように最初は印刷ミスだと思ったんだけど……『白紙のページの枚数、裏に印刷されているページの枚数と全く同じ』なのよね』
※
第一話『繰り返す旋律』
カーテンの隙間から見える僅かな光で、奏はようやく夜が明けたのだということを知った。
その日の奏は作業を終えた後も、上手く眠ることができなかった。
それは長時間にわたる作業とブルーライトによって目が冴えているからでもあるが、それ以上に絵名の話を思い出してしまうからでもある。
描けば描くほどページの増えるスケッチブック。
それ自体は怪談としてよくある珍しくもなんともないような話なのだろうけれど、その手の話が苦手な奏からしてみれば堪ったものではなかった。
増えるだけ増えて何もないということもそうだが、なぜ増えているのか分からないというところが特に気持ち悪かった。
瑞希はそれについて『弟君』のイタズラなんじゃないか? と言っていたが、絵名曰くそういうまどろっこしいイタズラをするような人物ではないらしい。
思い出してまた怖くなってきた奏は、頭から布団を被って布で造られた無敵の要塞に引き籠った。
布団の中は暗くて静かで暖かい。
こうして布団の中に潜り込んでいると無性に安心するのはどうしてなのだろう?
仮にお化けなんて存在がいたとしても絶対に入ってこれないという自信がある。
もっともそんなものは存在しないし、存在しない方がいいのだが……そんな無敵の要塞にも弱点はある。
それは致命的に籠城戦に向いていないということだ。
「暑い……」
息苦しさと蒸し暑さでひょっこりと布団とシーツの隙間から顔だけ出した奏は、枕元にあるスマホに目を向けた。
「……ミクは今の時間から会いに行っても大丈夫かな?」
そうは言うものの、手は既にスマホをとって無数にあるアイコンの内の一つに指を添える。
『untitled』と書かれたその音楽ファイルを奏がタップするとシャラランという心地の良いサウンドと共に視界が眩い光に覆われて奏は目を細めた。
次に奏が目を開いた時、そこには先ほどの自分の部屋とは全く違う空間が広がっていた。
どこまでも続くかのような地平線と、時折地面から生えてえる無骨な鉄骨の群れ。
それがこの『セカイ』の全てだ。
人の気配も無ければ、物音一つしない『誰もいないセカイ』。
詳しいことは未だに何一つとしてわかっていないが、ここは元からこういう場所で、『朝比奈まふゆ』の強い想いから生まれた場所であるということは間違いないらしい。
「奏?」
ビクッと肩を震わせながら奏は名前を呼ばれた方を向いた。
「ビックリした……よかった、ミクか」
キョトンとした顔で奏の方を見ているのは、世界的にも有名なバーチャルシンガー、初音ミクによく似た容姿と声をした少女だった。
強いて言うならば髪の色と目の色が違うが、それでもその声は奏ほどの絶対音感がなくとも聞き間違えるはずもなかった。
「奏……どうかしたの?」
「うん、実はね……」
あまり気は進まなかったが、ミクは不思議とどんなことでも話したくなってしまうような……話しても良いと思えるような雰囲気があった。
奏は『今日の夜』に絵名から聞いた話をミクに同じように話してみた。
「奏、絵名は……他には何も言ってなかった?」
「え? 他には何も話してなかったと思うけど……それがどうしたの?」
「そのスケッチブックは、たぶん絵名の……」
ミクがそこまで言った直後、急に背後から冷気を感じて奏は振り向いた。
「あぶない!」
ミクの警告よりも早く、何かが奏の頭の横を掠めていった。
あまりにも速すぎて、一瞬ソレがなんなのか全く分からなかった。
だがすぐに頭の横を掠めたのは操り人形のような外見をした怪人の拳であることに気がつく。
「まふゆ?」
無意識の内に奏はその人形にどこかまふゆと似た雰囲気を感じていた。
このセカイで初めて会った時のまふゆの冷たさのような、そうでなければ初めてまふゆのアレンジを聞いた時の静かに降り積もるような絶望のような……そんな印象を奏はその人形から感じた。
「フロム・マイ・ディスパイア……それがその子の名前」
「絶望の中にいる? もしかしてその名前をつけたのって……」
このセカイにあるものにそんな名前をつけるような人物は一人しかいない。
間違いなくこの人形はまふゆに関する何かで、奏には今までで一番まふゆの想いに近い存在のように思えた。
しかし次の瞬間、耳元で聞こえたパキッという音が奏を想像の世界からセカイの現状に引き戻す。
あまりにも近くで聞こえたので、思わず自分の髪を触ろうとするが髪があるべきはずの場所に髪が存在しない。
というよりむしろ、それ以上に……。
「冷たい?」
「離れて奏! その子に触れられた物は、どんなものでも簡単に凍っちゃう!」
ミクにそう言われても奏は動こうとしない。
「私が今しなくちゃならないことは逃げることでも戦うことでもないよ。私にできることはいつだって音楽を作る、それ一つだけだから……それにまふゆを一人になんてさせられない」
奏は凄い才能を持っているよ。きっと、音楽に愛されているんだ……奏は昔父親からそう言われたことがある。
そして、奏は奏の音楽を作り続けるんだよ……とも。
その言葉を忘れたことは一度だってない。
壊れたラジオのように何度も何度もその部分だけを繰り返し思い出す。
忘れないように、楽になってしまわないように……。
奏がそう強く思った瞬間、奏の体をぐるりと取り囲む様に鍵盤のようなものが現れる。
「それが……奏のスタンド?」
「スタンドっていうのはよく分からないけど……たぶんあの子と同じ私の強い想いから作られたものだと思う」
「こんな時に聞くのも変だと思うけど……その想いに名前はあるの?」
それはもう最初から決まっていた。
現在に至るまで、『宵崎奏』という人物を構成する原点。
誰もいなくなった部屋の中で鳴り続けるオルゴールの音色……繰り返す旋律。
「きっと、名前があるならリピートオブリフレインだと思う」
奏のスタンドに、戦闘力は欠片も存在しない。
だがまふゆのフロム・マイ・ディスパイアと戦う場合は別だ。
何処からともなく音楽が聞こえてくる、それは奏が作曲している最中のものだった。
作りかけであるために粗削りではあるが、例えるならなにもない暗い場所に一筋の光が差し込んでいるような……そんな曲。
少しだけフロム・マイ・ディスパイアの動きが鈍る。
まるで躊躇うような、迷っているようなそんな動きだ。
先ほどまでの攻撃性が嘘のように、ゆっくりと奏の方に手を伸ばす。
その様子はまるで、どこか奏に助けを求めているようにも見えた。
それに応えるように、奏も手を差し伸べる。
少し離れた位置からミクはそれを見ていた。
まふゆの『触れた物体を凍らせる』能力がある以上、奏がその手を取れば凍傷になったり……最悪の場合は手が壊死してしまう可能性だってある。
基本的に本体に戦闘する意志がない限り、スタンドが勝手に人を襲うようなことはあり得ない。
だがまふゆが自分のスタンドを拒絶したことで、暴走したためにまふゆ自身にも能力の制御ができなくなってしまったのだ。
周囲のものを手当たり次第に破壊するためにセカイに閉じ込めるという対処をせざるを得なかったのだが、どうしてかミクには奏なら大丈夫だろうという確信があった。
戸惑うように彷徨っているスタンドの手を———本来ならすり抜けてしまうだけで触れないはずのその手を奏はしっかりと握った。
しかしどれだけ時間が経っても奏の手が凍り付く気配はない。
「奏は、どうやってその子に触ってるの?」
「物体を凍らせるためには温度を下げる必要がある。ということは、それより早く温めれば凍らないんじゃないかなって思ったんだ」
奏には熱を操るような能力は一切存在しない。
奏の能力は自分で言っていた通り音を奏でる能力―――正確には『録音』した音を『編集』して『再生』する。
本来ならソフトや機材を通さないと行えない音の『編集』をその場で行う事ができるというのが奏のスタンド、リピートオブリフレインの能力だった。
「電子レンジと同じって言ってもミクは知らないよね……音は振動だから、人に聞こえないくらい周波数の高い音を断続的に流せばそこに熱が生まれるんだよ。だから凍ってしまうよりも早く温めれば凍らない」
その一連の奏の声と手のひらの感触は、同時刻のまふゆも感じていた。
それは奇跡でもなんでもなく、スタンドと本体の感覚が共有されるという特性があったからでしかないのだけれど、その言葉と手のひらの温度はまふゆにもう一度、『本当の自分』と向き合う勇気を持たせるには十分だった。
to be continued
スタンド名−「リピートオブリフレイン」
本体−宵崎奏
破壊力−E
スピード−C
射程距離−C(30m)
持続力−A
精密動作性−A
成長性−B
能力−本体の耳で聞いた音を『保存』し、好きなタイミングで『再生』することができる。
この能力で『再生』する音はピッチや音程、音量など様々な『編集』を施すことができる。
ただし本体が聞こえない音域の音、もしくは覚えていないような遠い昔の記憶の音は『録音』することができない。