ダンジョンに強者面(ビビり)が来るのは間違いだ!   作:パーカス

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野猿(シルバーバック)と羨望、そして光

ふぅ……何とか逃げれたな……

 

クロは人気のない小道で、周りを見渡し安堵の表情を浮かべる。

 

彼はアイズに長剣(ロングソード)を投げ渡し、倒したのを見届けた後、装備収納(インベントリ)から“隠れ身の装衣”を取り出しすぐその場から離脱したのだ。

 

理由は簡単。───面倒事に巻き込まれたくないから。

 

脱兎の如くその場から駆け出し、誰にも見つかること無くメインストリートから脱した彼は、次にやるべき事を考える。

 

そういやベル達大丈夫か?逃げれてるといいが─────

 

クロが考え事をしながら歩いていると、ある場所に辿り着く。

 

……ダイダロス通り

東と南東のメインストリートに挟まれた第三区画にある貧民層の広域住宅街の通称とされ、その通りは複雑な迷路構造となり、オラリオの住人からはもう一つの迷宮と称される。

 

しかし何故こんな場所に辿り着いてしまったのか。

適当にぶらついたとはいえ、何かただらなぬ意味を感じた。

クロは顎を撫でるように手を動かし、理由を探る。

 

原作で確かあったはずなんだよなぁ……確か……

 

すると、奥の方で雄叫びが聞こえた。

微かにだが、怪物(モンスター)の雄叫びがクロには聞き取れた。

 

まさか逃げ出したモンスターがまだいるのか!?

 

クロは戦闘の気配を察し、全速力でダイダロス通りを駆け抜ける。

しかし、迷路構造がその行く手を阻む。どう通っても行き止まりに着き、また別の道を行けば再び行き止まり。

 

「埒があかねぇ…!ならッ!」

 

今の俺なら行ける!と壁を蹴り上げ、上へ上へと登る。

屋根の上まで登り、そのまま屋根伝いで駆け抜ける。下を見ずに。

 

そして、クロは思い出した。

この場で起きてる現状を。

 

クソっ!何で忘れてんだ俺!こんな大事な場面で、今更思い出しても遅いっつーの!

 

今、このダイダロス通りで野猿(シルバーバック)とベルが戦っている。

 

その事を思い出し、屋根の一部を破壊する程脚に力を入れ、走り出す。原作ならベルがボロボロになりながらも倒す事は知っている。しかし、こと現状におき、自身という異常(イレギュラー)が存在する事によって展開が変わってしまう。そう思い、彼は気が気でなくなり、焦りに見舞われていた。

 

確証はある。根拠もある。……だが、確信はない。

 

それでも、全力で走る理由がある。全速力で駆け出す理由がある。

 

 

……()を、……()()を、……()()を、奪われたくない。

 

 

単純な理由だ。そんな理由で、今から原作を壊すかもしれない。いや、元より壊れているのかもしれない。

 

そうなったら……まぁ、おいおい考えていけばいいさ

 

雄叫びが近くなる。怪物(モンスター)の咆哮に紛れる様に男の雄叫びが聞こえた。

 

ベルッ!ヘスティア様ッ!

 

目標の敵が見えた。

クロはすぐさま太刀:鉄鋸刀を背負い、柄に手を伸ばす。いつでも飛び出せる様に身を屈ませ、赤い稲妻が走り出す。

 

 

そして勢いよく飛び出─────せなかった。

 

 

足が固まり、身体が硬直する感覚に陥る。

 

何かの魔法か?または妨害工作の類か?

 

 

否。それは─────自身の気持ちだ。

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

「グゴアァァァァァァ!!」

「ハァァァァ!!!!」

 

怪物(モンスター)……野猿(シルバーバック)は巨大な体躯を生かした怪力による攻撃を繰り出し、ベルは紙一重で交わし、自身の武器───神様の刃(ヘスティア・ナイフ)野猿(シルバーバック)に切り付ける。

 

(もっとっ!もっと早くっ!)

 

ベルは攻撃を繰り出す速度を徐々に上げていく。脚を止めず、次の手を考え、的確に野猿(シルバーバック)を追い詰める。

 

(クロさんが教えてくれた事……)

 

“視線、動き、位置。それらを把握し、相手が次何をするかを予測しろ”

 

クロが教えた言葉を思い出し、ベルは実践する。

練習無しの一発勝負。ミスればそこで何もかもが終わる。

だがベルは止まらない。

攻撃の手を緩めず、野猿(シルバーバック)の動きをよく観察し、次の一手を作り出す。

 

(少しでもっ!ちょっとでもっ!あの人に追い付く為にっ!)

 

憧憬は止まらない。

 

ベルが憧れを抱く人は、2人いる。

 

その内の1人……いつも傍にいて、どんな危機があっても冷静で、強くて優しくお父さんみたいな……クロ・ユート(あの人)に追い付く為─────。

 

 

ベル・クラネルは今日、冒険をする。

 

 

ベルは構える。

自身が思う最強の構えを。

 

あの日、ダンジョンで見た()()()()()を。

 

重心を低くし、右手に持つナイフを逆手持ちに変え、後ろに構える。

彼とは武器が違う為、構えが少し違うが今、ベルとあの時のクロの構えは合致していた。

 

「グゴアァァァァァァ!!」

 

野猿(シルバーバック)は全身に込めた一撃を、ベル目掛け振りかぶる。

 

ベルは動き出す。

振り下ろされる拳の軌道を読み、身体を捻る様にずらし、拳と入れ違いに野猿(シルバーバック)の心臓目掛け、ナイフを差し込んだ。

 

「ハァァァァ!!!!」

 

威力は当然ながら違う。ダンジョンを破壊する程の一撃はベルには出来ずとも、目の前の怪物(モンスター)を破壊するには十分だった。

 

 

野猿(シルバーバック)は、消滅した。

 

 

─────ベルが勝った。

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

一部始終を見届けたクロは、喜びはあれど驚愕していた。

 

確かに原作通り、ベルはヘスティア・ナイフを手にし、野猿(シルバーバック)を倒す事に成功する。なんの介入もなく、ただ目の前に正規の物語(ストーリー)が流れていた。

 

クロは、ベルの事を少し甘くみていた。

 

だが決して弱いとは思っておらず、必ず強くなり自分の事など置いていく、そう思ってすらいた。

 

 

彼が少年と出会ったあの日。

少年は言った。

“英雄になりたい”と。

 

彼はその言葉を聞いた時、“それは不可能だ”と心の底から思っていた。

 

彼は数多の英雄達を見てきた。

今の彼の身体も『英雄』と呼ばれる程の戦士だ。

そして、クロ・ユートの(こころ)は幾度の英雄(ハンター)と共に歩んできた。

 

厄災を退け、嵐を消し去り、焔を灯してきた英雄(ハンター)を、彼は奇跡(物語)として見届けてきた。

 

どれだけそのハンターを扱ったからと言って、自身が『英雄』になれるなど微塵も感じてなどいなかった。元よりそんな感情などなかった。

 

 

だが、()()はあった。

 

 

叶わないと知っていても、その奇跡(物語)を読み、自分もあぁなれたらいいなと抱き続けた。だが所詮憧れは憧れのままだ。争いを知らず、戦いを知らず、穏やかで平和な暮らしをしていた自分に成れる訳がなかった。

 

そしてこの世界に来てからも、変わりは無い。

 

憧れは抱くものの目指そうとはしない。

 

もしかしたら今の身体が、自身が描く“英雄の理想像”とほぼ一緒だから、もう諦めたのかもしれない……。

 

英雄に憧れ、英雄を()()()者。

英雄になり、英雄に()()()者。

 

対比はあれど、どちらも英雄に憧れを抱いていた。

たが進んだ道は、互いに違った。

 

諦めてそれでも尚、憧れるクロ()と憧れを抱き、今も尚目指すベル()

 

 

クロは周りの人達から褒められ、今も達成感に浸るベルを見つめる。

 

 

クロはベルに対し、憧れ────()()を抱いていた。

 

 

だからこそ、彼は思う。

ベルの隣なら、まだ微かに残る願望が芽を出すかもしれない、と。

自分も英雄(ハンター)達の様に、誰かの助けになれたなら、と。

 

 

クロは笑みを浮かべ、ベルに称賛を送る。

聞こえずとも、今はか弱き英雄に対して─────。

 

 

ふと視線を感じ、そちらに目をやる。

その視界の先には……

 

 

今も睨み続ける黒い毛並みの猫人(キャットピープル)と────

 

 

こちらをジッと観察する()()()()の姿が見えた。

 

 

その姿を確認した時、堪らず苦笑いを浮かべ全速力でその場から逃げ出した。

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

「チッ、逃げやがった」

 

アレン・フローメルは一目散に逃げ出したクロに悪態をつき、その後隣に立つオッタルを睨みつける。

 

「おい、猪野郎。本当にフレイヤ様の命なのかァ?」

「当然だ。でなければ俺もこの場におらん」

 

オッタルが放った言葉は、あながち嘘ではない。

オッタルはフレイヤの命により、クロが手助けするなら妨害しろと言い渡され、戦いが終わるまでオッタルはジッとクロを見つめていた。

 

実際はオッタルがフレイヤに進言し、ワガママを聞いてもらった、といった形にはなる。

 

では何故彼が動いたのか?

 

それはオラリオ全体を包んだ()()()を目にし、すぐ犯人を確証し確認に出た次第だった。勿論フレイヤ自身も、その光が気になりワガママを聞いたというのもある。

 

現場に着き、アレンと合流する前にそれは目撃した。

 

今にも飛び出しそうな()()()()を走らせるクロを見つけた。

 

その時、確証は確信へと変わった。

 

……間違いない。この男は。

 

オッタルはそれからベルの戦いを脇目にクロを観察し続けた。

戦いは終わり、するとクロはまるで初めから知っていたかのようにオッタルの方を一瞥し、不敵な笑みを浮かべて行った。

 

オッタルは、やはりと不敵な笑みを浮かべる。

 

「いずれ……戦いを」

 

いつか訪れるであろうその日まで、彼の渇きは止まらない。

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

事態は無事に終息へと向かい、オラリオは再び賑やかな街へと戻る。

 

事の顛末を告げよう。

今回の祭りによって住宅の被害が数十件、怪我人多数、死者ゼロと記録され、怪我人の殆どはディアンケヒト・ファミリアの団員達の協力により救助された。

その時に用いられたポーションの内、怪我が酷い人に緑色の液体が支給されたそうだ。その液体を飲んだ患者は自身が不足している血液、欠陥した細胞、失った腕を再生させるといった()()に等しい効能を見せたという。

 

後にこの緑色の液体は“万物を癒す薬”とディアンケヒト・ファミリアの主神ディアンケヒトがそう名付けた。

 

そんな効能、冒険者達が欲しがらない訳もなくその薬を求め、ディアンケヒト・ファミリアに買い求める客がいたそうだ。

 

だが、その薬は製造できないと発言されている。

 

そしてもう1つ。

 

同日中、オラリオ全体に()()()が覆い尽くされた。

その光は一瞬。

だが、その光は誰もが魅力され、そして忘れる事はない()()であった。

 

ある人は、それは男の冒険者だった、と。

 

ある人は、屈強な戦士だった、と。

 

ある人は、何も無い所から大きい刀を取り出していた、と。

 

 

聞く人は数多で、だがどれも全貌が明らかにはなっていない。

 

だが現場にいた者は、彼に救われたと感謝していた。涙した者もいる。

 

 

後に、オラリオに照らした()()を人々はこう呼んだ───────

 

 

 

 

 

 

 

──────『オラリオの赫耀(フォティノ・フォース)』と。

 

 

 

 

 

 

 




お待たせしました!
べ、別にモンハンとFGOやってたから遅くなった訳じゃないっスよ‪ ‬

さて今回は2人の対比を書いてみました。
英雄を目指す者と英雄に憧れる者……
2人が織り成す奇跡(物語)は、まだ始まったばかりだ



ちなみ“フォティノ・フォース”とは、ギリシャ語で『赫い光』と読みます。
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