ダンジョンに強者面(ビビり)が来るのは間違いだ! 作:パーカス
吐く息は荒く、視界はぼやけ、手足にはもう感覚がない。
それでも、歩き続けなければならない。
じゃないと───────
「ぼさっとすんなっ!さっさと歩けやっ!」
冒険者から拳が顔に打ち込まれ、勢いのまま倒れる。
「ちっ、寄生虫のくせにトロトロ歩きやがって」
「ごめんなさい」
彼女は笑顔を見せ、何事も無かったかのように立ち上がる。その様子に舌打ちしながら、先へ行く冒険者。
彼女はその冒険者に付いて行かなければならない。
じゃないと、死んでしまうから。
フラフラしながら歩く彼女に、苛立ちを覚えたのか遅せぇよ!と罵倒を浴びせ、小石を投げ飛ばす。その小石は彼女の頭部に直撃し、視界が揺れ、開いた傷口から血が垂れてくる。しかし拭う暇など与えられる訳もなく、奥歯を強く噛み締めながら歩く。
「おい、やめとけサポーターに関わるのは。伝染るぞ、病原菌が」
「確かにな!やっぱ近付いてくんな!もっと距離離せ」
無茶苦茶な事を平気で叫ぶ。
彼女は命令された通り距離を離し、そして魔石の回収を率先して行う。その間、冒険者達は談話し手助けする気配など1ミリも見せず、全て
サポーターとはダンジョン探索時に於ける非戦闘員のことを指す。“冒険者”のダンジョン探索の負担を少しでも減らすことが、“サポーター”の役割であり、“サポーター”とは才能がなく、戦う術を持たず、ファミリアからも憐憫の眼差しで見られ、嘲弄さえされる存在。
ギルドさえも“サポーター”の事など目を向けず、“冒険者”の方を優先するが故に、彼女達
彼女は魔石の回収を終え、冒険者の方へ報告に向かうと
「回収終わ─────
「遅せぇんだッ!!」
報告を聞く前に殴り付け、暴言を吐き散らす。才能がないから、戦えないから……才無き者だから受け入れるしかない現実。言葉でなら幾らでも言える。
しかし、彼女に反論など無意味なもので─────
「てめぇの今回の分け前は無しな」
「……わかりました!」
笑顔でそう返すしかない。
どれだけ悔しくても、どれだけ苦しくても
彼女───リリルカ・アーデは冒険者が、そしてそれ以上に『英雄』が嫌いだ。
だから彼女は何も期待しない。
この地獄は、永遠に続こうとも……
彼女の瞳に、未来など見出す光はなかった。
それが彼女の現実。誰からも救いの手など差し伸べられぬ現実。
自身が
自身が
自身が……私が、弱いからか?
彼女は笑顔という仮初の仮面を被り、今日も殴られ、蹴られ、石をぶつけられても、冒険者
それが彼女の、生きる道だから。
「モンスター多くなってきたな」
「ほんじゃまぁ、そろそろ
冒険者達は不気味な笑みを浮かべ、彼女の方へ目を向ける。
彼女は、またか……と心でボヤキ、分かりきってはいるが一応確認する。
「……仕事、とは……」
「そんなもん
ほら、やっぱり。
彼女は何も思わない。
悲しいとも、苦しいとも思わない。
思ってしまったら、自身が壊れそうな気がするから
思ったところで、助けなんて来ないから
彼女は笑顔を作り、
「かしこまりました!お任せ下さい!」
流石
そしてモンスターもこちらに気付き……いや、冒険者の1人が敢えて気が付かせ、彼女のヘイトを向けさせた。
そして、冒険者達とは別方向に走り出そうと足に力を入れた。──────が
「え─────」
彼女は前のめりに転ける。
怪我、または疲労による体力の限界か?
違う。
彼女が背負う大きなカバンを後ろから何者かに蹴られたからだ。
犯人なんて、炙り出す必要なんてない。
何故なら犯人は高笑いしながら、出口の方へ走って行ったのだから。
クソ……クソクソクソっ
彼女は内心で悪態をつくが、それで状況が変わる訳もなく絶対絶命な事に変わらなかった。
オーク、そしてインプ達がジリジリと彼女に歩み寄って来る。彼女は頭から流れ出る血を拭いながら、ゆっくり立ち上がる。
もう諦めてもいいんじゃないのか?
ここまでしんどいなら、もう何もしなくてもいいんじゃないのか?
彼女の中でそんな思いが生まれる。が、それを押し退ける様に気持ちが溢れ出る。
……生きたいっ
彼女は心の声を、口にまで漏らす。
「……生きたいっ!」
───ならば、しゃがめ
「え?」
どこからかそんな声が聞こえ、染み付いた服従本能に従いしゃがむ。
すると、モンスター達が一瞬の内に、灰と化した。
魔石が落ちる音がダンジョン内に響き、唖然とその場に佇む。すると彼女は後ろから歩く音が聞こえ振り向く。
そこには先程の冒険者達とは違い、鍛え上げられた肉体、頭一つ飛び抜けた高身長。そして、“鬼”の形相だと勘違いしてしまう程の強者面。
彼は彼女を見下し、懐に手を伸ばす。
殺されるっ!
本能がそう判断し、身体が震え上がり、目を閉じる。
いつでも殴られてもいいように、身体全体に力を入れながら、受け入れる体制に出る。
……だが、一向に痛みは来ず、すると彼女の頭部に何かが触れた。
恐る恐る彼女は目を開き、今起きてる現状に脳が思考停止する。
「大丈夫か?痛いところ、他にあるか?」
男は彼女の怪我した所に、優しく布で抑えつける。
先程の鬼の様な形相など微塵もなく、ただ優しくそして悲しそうな顔をして、彼女の頭を撫でていた。
「悪いな、包帯とか持ってなくて」
「い、いえ!大丈夫ですよ!」
ようやく彼女の思考が動き出し、話し合いできる所まで回復したので、何故助けたのか理由を聞いてみる。
「……何故、リリを助けたんですか」
「ん?」
聞き逃したのか、懐から何か弄っていた彼は何か言ったか?と逆に質問してくる。彼女は、もう一度質問する。
「どうして
少し強気に出てしまい、すぐに我に返り声のトーンを下げる。
男は訳が分からんといった顔をしており、彼女は訝しんでしまう。
「助けるのに理由がいるのか?ならばそんな理由など捨てろ。そんなもん述べた所で変わらん」
彼の答えに呆気に取られ、彼は呑気にお、取れたと懐から緑色の液体を取り出す。
「飲め。未知な物だと思うが、効能は保証する」
「え、い、いや大丈夫ですよ!ほら!こんなに元気に、……っ」
無理に元気アピールしようとしたが、血を流し過ぎによる貧血を起こし、立ちくらみを起こす。そのまま彼に倒れる形に身体が重力に負ける。
「無茶をするな。余計に傷が広がるぞ」
余計なお世話。
そんな事を口に出来ず、変わりに緑色の液体を飲ませてくる。
彼女は吐こうかと迷ったが、寧ろ毒ならこのまま死んでしまいたいと思ってしまい受け入れる。
だが、彼女が思っていた結果とは真反対なものとなる。
「えっ?」
自身の異常に驚きの声を上げる。
それもそのはず、頭の怪我だけでなく疲労感も吹き飛び、薄れそうだった意識が覚醒し出す。
「こ、これってっ!?」
彼女は、今自身が飲んだ物が
当の彼は、回復薬でもこれほどかとボヤいていた。
「あ、あの!こ、こここれ!エ、エリクサーじゃ!?」
「違うといえば違うが……だが回復薬なのは間違いない。……その様子だと全快したみたいだな」
「みたいだな、じゃないですよ!?何でそんな物を私なんかにっ!?」
言っただろ?と彼は立ち上がり、笑みを浮かべる。
「助けるのに理由なんかいらねぇ、てな」
彼女には理解出来なかった。
そんな彼女を他所に彼は散らばった魔石をみてどうするか悩んでいた。
「しかしどうするか、これ……」
彼女は閃く。
今、彼と共にいれば少なくとも今は助かるはずだ、と。
「もし宜しければ、リリがお手伝いしましょうか?」
「ん?おぉ、そいつは助かるが……」
ならば動くが吉です!と魔石を慣れた手付きで掻き集める。その速さには彼もおぉと感嘆のため息が漏れる程だった。
そして一緒になって落ちた魔石を掻き集める。
「……そういえば名前聞いてなかったな」
「あ、そうでした!」
彼女は改め、彼に頭を下げる。
「私、
「俺は新米冒険者のクロ・ユートだ。よろしく頼むぜリリルカ」
「リリとお呼び下さい!クロ様!」
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「流石クロ様ですね!あんなにいたモンスターを一撃で仕留めてしまうなんて!」
「それを言うならリリにも驚いたぜ。そんな小さい体して万力の持ち主だったとはなぁ」
「そんな褒めても何も出ませんよ〜!」
先程の絶対絶命だった状況とは一転変わって、2人は談話を楽しみながらオラリオに帰っていた。
道中、何故かあまりにもモンスターが現れず、やること無く手ぶらな2人は話し合いを始めたのだが、まさかの盛り上がりをみせていた。
「しかし話を聞けば聞くほどお前さんは随分と苦しい思いをしてたんだなァ」
「いえいえ、これがリリの選んだ道ですから!後悔はしてないですよ!」
先程のリリの経緯を聞き、クロが呆れていると、彼らの前に男組の冒険者が待っていた。
その冒険者達を目にしたリリは、しかめっ面を浮かべる。
「よぉ待ってたぜぇ、荷物持ち」
「……お逃げになったのではないのですか?」
男は笑い、リリが背負う大きなカバンを指さす。
「俺らの金をてめぇが持ってんだよ、使えねぇゴミの癖に」
「てか何で傷が治ってんだよ。……まさかお前、こいつにポーション使ったのか?」
そう言うと彼らは爆笑する。
リリは奥歯を強く噛み締め、顔を下向ける。
男はクロに近付き、背中をバンバン叩く。
「おまえ馬鹿だろ!?こんな奴に貴重なポーションを使うなんて、どこぞの英雄様気取りですかぁ〜?」
「なら俺らも怪我してんだわぁ〜。俺らにくれねぇか?」
笑いながら、手を差し出す。
クロは黙ったままその手を見つめ、そして手を差し出す。
リリはまさかと思い、驚愕な目をクロに向ける。
クロはその左手で男の手を支え、そして──────
「人の努力を嘲笑うこの手が悪いッ」
思いっきり右手で叩き付けた。
鋭い音がダンジョン内に響き渡り、男の手が血は出ずとも赤く染まる。
叩き付けられた男は悲鳴を上げ、その場で転げ回る。
それもその筈、クロは手加減したとはいえ、今の彼は
「てめぇッ!」
もう1人の男がクロに殴り掛かる。
しかし、逆に男の拳が砕け、内部出血を起こす。
「きゃぁぁぁぁぁ!?」
今の彼は無装備に在らず、見えない鎧を纏っていた。
それは
彼らは不運にも鎧を脱ぎ忘れたクロを前に威張ってしまったのだ。
例えるなら、彼らがアリで、クロが龍。
どう足掻いても勝てる筈のない戦力差。
クロはトドメに叩き付けた男に駆け寄り、口を思いっきり抓る。
「それともこっちだったか?」
「あがァ、いででぇ!」
そして圧力を増し、彼らを脅しにかかる。
「貴様らは彼女に荷物を託したのにも関わらず、逃げたし囮にしたそうだな。そんな奴に返す物があるのか?」
拳を砕かれた男は涙しながら首を思いっきり横に振る。
「……リリ、こいつらの戦果を返してやれ」
「は、はい」
リリは言われた通り、男達の戦果を返す。
「これで話は終わりだ。荷物は返したんだ、文句は言わさん。だが忠告はしておこう。これ以上リリには近付くんじゃねぇぞ?こいつは俺の仲良くなった
リリは
クロは手を離し、リリの方へ目を向ける。
「行くぞ」
「え、あ、はい!」
リリは切り替え、彼のあとを付いて行く。
友……
だが、彼女の心にクロが放った言葉が残り続けた。
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いやぁ、無事帰って来れたぁ
クロはダンジョンからようやく帰還し、ギルドで換金し、オラリオの朝日を拝んだ。
そう、この男。
あの日、オッタルから逃げ出し今日に至るまで、ダンジョン内に篭っていたのだ。
そしてダンジョンに逃げたはいいものの逃げ過ぎて下の階層でしばらくの間迷子になっていた。そして紆余曲折を経てリリが襲われている場面に出くわしたのだった。
てか、あのギルドの職員さん、リリの事を馬鹿にした目をしてたからちょっと睨んじゃったけど……そっから対応がめっちゃ丁寧だったなぁ……
ギルドで換金をお願いしてる際、ギルドの職員がリリに対し見下した目をしていたのを目撃し、少しムスッとした感じで睨んだのだが、その職員にとってそれは鬼が睨んできたのも同一であり、心も体も恐怖で震え上がり、機嫌を損ねない様に丁寧な対応を行ったのだ。
「クロ様クロ様」
「ん?なんだ?」
「本当によろしいのですか?」
そう聞きながら彼女は手に持った物を前に差し出す。
それは袋であり、中には先程稼いだヴァリスが入っている。金額でいえば10000ヴァリス入っている。
「山分けだと言っただろ?仕事を成した者に褒美を与えるのは当然だ。その仕事がちっぽけなものだとしても、そいつにとってそれがどれだけの助けになるか。貴様はそれに見合った仕事をした。故に褒美が必要だ」
それにリリが居てくれたから、ダンジョンを抜け出せた訳だし……
かっこ悪い事は口にせず、ただ思った事は伝えそして呆然とするリリの頭を乱暴に撫で回す。
いきなり撫で回され、わぷッと小さく悲鳴を漏らし、されるがままに
「今日はありがとう。また会おう」
「……はい!またお会いしましょう!」
クロはその場を立ち去り、自身の
その後ろで、変な人……とリリがボソッと呟いたが、彼には聞こえてなかった。
てか、ベルと会う前に出会っちゃったけど、これ物語上問題ないのか?
クロが
「今帰った───────
しかし、
だがその代わり、知らない女性が我が物顔で椅子に座っていた。
「おや、おかえり〜」
「……誰だ、貴様」
勝手に人様の家に入る奴程、正常な人である筈がない。
クロは最小限警戒し、睨みを付けながら問い掛ける。
しかし当の本人は、ふむふむと何かに頷きながらクロを一瞥する。
「遠目で見てはいたが、
「成功、だと?」
一体何を言ってるのか理解出来ず、クロは警戒度を上げる。それに気付いたのか、彼女は椅子から立ち上がり、自己紹介を始めた。
「初めまして。ボクは『ラケシス』。運命の神様だよ?そして──────
────貴方をこの世界に送り込んだ張本人だよ
「─────は?」
彼は固まった。
その様子を悪戯が成功した子供みたいに笑みを浮かべ、手を差し伸べる。
「じゃあお話しようか、
彼女は告げる。
“運命”という大きな歯車が、神の手によって回り始める。
─────さぁ、
リリとの冒険を終え、ようやく帰宅したクロ。
そこにはクロをこの世界に送り込んだと言う“運命の女神”ラケシス……
果たして、彼女が告げる彼の
次回、『神は告げる。始まる彼の
と、これからこんな風に次回予告をしてみようと思います!
まぁ、書かないパターンもあるかもですが……