ダンジョンに強者面(ビビり)が来るのは間違いだ! 作:パーカス
「……アイズ」
少女は全力疾走した直後なのか、息が整わない。息を切らして
その調子で喋ろうとするものだから、ゆっくり深呼吸する様に促す。彼女は心臓の調子を整えるため、時間をかけてゆっくり深呼吸をして神経を鎮ませる。
ようやく呼吸が整い、いつもの華奢な顔立ちに戻る。
「……こんにちは」
「こんにちは。……ところで、何故にそこまで走って来た?」
クロの質問に、アイズは腰に掛けていた
「これ……お返します」
「あぁ、あの時の……」
アイズが差し出した剣は、
クロは素直に受け取り、鞘から引き抜き剣身を確認する。
剣身には亀裂など入っておらず、特に
だが、クロは疑問を覚える。
スロットが、消えてる?
偶然とはいえ《スロット》という概念が付与された筈の
あれは偶然の賜物だったのか?
暫くの間、剣身を眺め続けるクロに、アイズは不思議そうに声を掛けてくる。
「あの……大丈夫ですか?」
彼女の声に、ハッと我に帰り慌てて取り繕う。
「いや問題ない。礼を言おう、【剣姫】」
「アイズ」
え?と間抜けな声が漏れ、アイズはちょっと不貞腐れた表情を見せながら問い詰める。
「さっきみたいに、アイズって、呼んでください……」
狐につままれたような顔でぽかんと眺める。他にいたフィン達もアイズの大胆な行動に目を見開いた。クロは暫く唖然としていたが、風が吹くように微笑む。
「あい分かった。改めてよろしく頼む、アイズ」
アイズは虚を衝かれた様に驚くが、すぐはにかんだ笑みを浮かべた。
「今どんな気分だい?リヴェリア」
「何故私に聞いたかは聞かんが、アイズ也によくやった方じゃないか」
フィンは含みのある笑みでリヴェリアに問い掛けたが、フッと鼻息を鳴らしアイズの成長に微笑を浮かべた。
素直じゃないねと呆れるが、フィンも嬉しそうに彼女の答に頷く。ガレスはガッハッハッと豪快に笑い、その声でアイズが3人の存在に気付き、顔を朱色に染め上げ、頬を膨らましリヴェリアに子供のように叩きに掛かる。
「居たなら、声掛けてっ」
「最初っから居たさ。しかしあのアイズが名前呼びを強調するとは……フフっ」
「〜っ!!」
ポカポカと叩き、微笑ましそうにフィンとガレスが見守り、クロはその2人の席に同じく立ち一緒に見守る。
「アイズー!そんなに走ってどーしたの?」
彼女の同期仲間であるティオナが開けっ放しだった扉から顔を覗かせ、中のほんわかとした雰囲気を目にし、そしてその中にいたクロを見つけ声を上げる。
「あー!『
「ふぉてぃ……何?」
興奮した犬の様に1人で盛り上がるティオナに困惑していると、彼女に続き、ティオネが姿を現す。
「このバカっ!団長達が対談してる最中でしょうがっ!」
「でも扉開いてたもん!」
姉妹喧嘩が始まる雰囲気を察し、フィンが双方落ち着く様命令する。フィンに怒られたと勘違いしたティオネは涙目になりながら妹の頭を掴み、全力の謝罪を見せる。
フィンは彼女の誠意に困った笑みを見せる。
ティオナは抵抗し、彼女の手から逃れ、恨めしそうにティオネを睨む。
解放されたところを見計らい、フィンは気になる言葉が聞こえたので質問を投げ掛ける。
「ティオナ、さっき言ったフォティノ・ホースとはなんだい?」
「あの日の赤い光の事だよ!オラリオ中でそう呼ばれてるんだ!」
赤い光、その単語が聞こえこの場にいる全員から視線を向けられたクロはギョッと驚き、首をブンブンと横に振るう。
「知らん。今初めて聞いた」
「儂も初めて知ったのぉ、まさかオラリオ中にそんなに噂が立っておるとは……」
どうやらその噂はオラリオの一部だけ広まっているようで、ティオナもたまたま知り得ただけだった様だ。
だが、今の所そこまで困る様な事案にはなっていないので、スルー一択としてクロの中で結論付く。
用件も済んだので帰ろうと歩き出そうとした時、服を掴まれる。
振り返ると、アイズが裾をギュッと掴みどこかデジャブを感じた。
「……お願いが、あります」
「なんだ?」
彼女は息を吸い、覚悟を決める。
リヴェリア達はまさかと彼女の真意を察し、顔が引き攣る。
「私と……一戦、やりませんか?」
「……何?」
彼女の提案は、決闘のお誘いだった。
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黄昏の館の庭にて、二人の冒険者が対峙する。
その戦いを見物としてガヤが湧き、ロキ・ファミリアは騒然と賑わっていた。
なんせ、Lv5VSLv1の圧倒的レベルの差による無駄な戦いであり、無謀な戦闘である筈なのに、ロキ・ファミリアの団長や副団長、ましてや幹部達が止める事無く乗り気で見物していたのだ。他のメンバーからしたら、興味がそそられない訳がなく、期待に声を弾ませる。
だが、その中でもこの戦いが気に食わず、舌打ちを鳴らし悪態つく者もいた。
「くだらねぇ……この戦いになんの意味があんだよ」
「なら別に見に来なくても良かったんじゃないの?」
ティオネを睨み付けるように、灰色の毛並みをした
それを他所に、アイズは目の前にいるクロを見つめる。
……凄い。隙が全くない。
彼女は彼と対峙し、理解した。
一切隙が見えない佇まい、蛇に睨ませた蛙の様な緊迫感、心臓を掴まれたように息を凝らす。
お互いまだ剣も抜かず、戦闘すら始めてないにも関わらずアイズの額には汗が流れ落ちる。
「この戦い、僕が
構わんとクロが吠え、それに答えるようにアイズが柄を両の手で握り臨戦態勢をとる。その行動が同意と捉え、フィンは右手を高く上げ──────
「始めッ!」
「ッ!」
振り下ろしと同時に、最速でアイズが動き出す。
クロはまだ腰に納めた
しかしその剣は空を斬り、アイズは視界からクロを見失う。
「なっ!?」
行動を行った彼女は咄嗟に動けない体の代わりに視線をゆっくりと下へと向ける。先程彼がいた場所で、上体を倒し
浮いた彼女は目が合い、その口角が三日月形に上がっていた。
「ッ!ハッ!」
通り過ぎたアイズはすぐ様体勢を整え、再び地を踏み込み、ゆっくりと体勢を整える彼目掛け、今度は縦に斬りつける。
背後からの攻撃。次こそ何か反撃が飛んでくると分析し、次の一手を考える。
しかし、
「ッ!?」
ただその場を退いただけ。
右足を軸に90度左に体を動かす。そんな単純な行動を取り、いとも簡単に避けられた。彼はまだ剣を抜かず、ただ彼女の攻撃を避けるだけ。
彼女は諦めず、勢いを殺さず挙動を変え再び横薙ぎに振るう。
それもまた、空を斬り伏せる。
アイズの視界には先程の様に、仰向けで回避している彼の姿はなかった。どこだと顔を動かし、彼を探す。
背後から圧を感じた。
ゾクッと心臓が掴まれる感覚に陥り、急ぎその場から飛び退き背後に立っていたクロに剣先を向ける。
今度はその場の回避ではなく、彼女の背後を取り再び佇んでいた。
「ハァ、ハァ……」
息切れを起こし、汗が滝のように身体を流れ、彼女に焦りが見え始める。戦闘が始まってまだ数分しか経過していないが、明らかにアイズが劣勢となってるのが目に見えて分かる。
それはガヤがどよめき上がるのも無理はなかった。
「まさかあそこまでアイズ相手にここまで手玉をとるとは……」
「ヤツからは底知れない何かをモノを持っておる。それだけしか今は言える事がないな……」
それはリヴェリアやガレスにも、動揺が見え始める。クロが強いのは報告書、そして談話した時でも感じ取れてはいたが、さすがにレベル差があるアイズに分があると思っていた。しかし目の前に広がる現実は、そんな差を感じさせず、剣を抜かずともアイズを圧倒していた。
「うっそー!アイズ押されてるよっ!?」
「ちょ、どうなってるの!?アイツまだ剣すら抜いてないわよ!?」
「あのアイズさんが……!」
ティオナ達にも動揺が伝わり、騒ぎ始める。
「ッ!チッ」
ベートも先程までの余裕な顔は無く、焦りと怒りが混ざった感情が垣間見える。それ程までに苛立ちが止めどなく溢れ出す。
「ハァァ!!」
彼女は一心不乱に剣を振り続ける。
剣は速く鋭く威力を増し、空を斬る音も鋭くなっていく。寸止めなど彼女にはもうそんな意識はなく、ただ
しかし、その剣は未だ彼に届かない。
「くっ……ハァァ!!」
全力で横薙でを振るうが、クロは大きく彼女との間合いを空け回避する。
肩で息を吸い、柄を強く握り締める。眼はクロを見遣るが、汗一つ流さず、平然と佇む彼に奥歯を強く噛み締める。
どうして!?なんで届かないの……ッ!
戦意が未だ感じ取れない彼に、相手にされていないと脳裏に分からされるアイズだが、強く頭を振り否定する。
まだ……あの人をやる気にさせる何かがある筈……考えろ……っ
クロから攻撃が飛んでこないので戦いの最中でも思考を巡らせる時間がある彼女は、その時間を使い真剣に頭を悩ませる。
雨後の雫のように汗が滴り落ちる。そのせいか鈍り始める思考と視界。照らし出す太陽がより汗を要求し体内の水分が失うのが感じ取れる。
……やるしか、ないっ!!
怒られようが今は何も考えず、自身の全力を出す。
彼女は剣を
「【
彼女は魔法を発動させ、先程よりも速く飛び出す。
「なっ!?あの馬鹿ッ!」
遠くからリヴェリアが焦りの声が上がるが、アイズの耳には届かず勢いのままクロに突きつける。
これで、どうだッ!
アイズが持つ切り札を使い、クロの動向を観察する。まだ彼は動かない。アイズは苛立ちを覚え、自身が誇る最速を以て敵を穿つ。
しかし──────
「……えっ」
刹那の一瞬。稲妻の如く眼前へと接近した彼に、アイズは間抜けな声を上げる他なかった。だが、その声は次に苦痛の声へと変わる。
「がはっ!?」
腹部へ強烈な一撃が見舞われ、彼女を纏う風は消し飛び、その衝撃に逆らえず後方へと吹き飛ばされる。
外壁に叩き付けられ、めり込み、肺に溜まった空気が漏れ出す。
ズリ落ちるようにめり込んだ壁から離れ、うつ伏せに倒れ込む。
「勝負あり……だね」
フィンは結果に愕然としながらも、冷静な
「勝負───
しかし、一つの影がそれを遮る。
影がクロ目掛け、背後から右足を蹴り噛ます。
だが、クロはまるで分かっていたかの様に振り返り、右足の軌道を読み、肌を滑らす様に避ける。
「チッ」
舌打ちを鳴らし、クロに対峙する影……ベート・ローガが睨みつけ、眉間に皺を寄せ怒りを表す。
「ベート!流石に横暴が過ぎるぞ!」
「うるせぇ!!」
仲間からの叱責に吠える様に反感で返す。
ベートは許せなかった。
一方的に舐められ、一方的に叩きのめされたアイズを見て、苛立ちが抑えられなかった。
「俺とも殺ろうぜ……インチキ野郎ッ!!」
「……ほう」
殺意を以て
クロはベートと対面する。その行動を確認し、フィンは上げた手を下ろし再び始まる戦いを見届ける。
「ッ!オラッ!!」
先手を打ったのは、ベートだ。
高く飛躍し、叩き付けるように踵を落とす。脳天目掛け落とされた足は、クロがその場を退き、地面に落とされる。だが、先程までアイズとの戦いを見ていた彼がその行動を読まない訳もなく、すぐ様落とした足の逆足で
蹴り噛ますが、意図も容易く避けられる。
「クソッ……がッ!」
何度も攻撃を繰り出すが、当たらない。
段々苛立ちは増していき、そして遂に我慢の限界が訪れ
「いい加減にッ……くたばれやァァァァ!!」
全力の一撃を繰り出す。
そして相対するクロも、攻撃に転じ同じく蹴りを繰り出す。
互いの足が交差し、激しくぶつかり、爆発にも似た爆音が辺りに鳴り響く。
しかし力の差は歴然で、数秒も持たずに弾かれ、腹部に蹴りが炸裂する。
「ゴハッ!?」
弾丸のような勢いでベートの腹部を穿いた足を、勢いを更に増し、振りかぶる。
「フンっ!」
力みの声を漏らし、その声を以て足からベートが離れる。
蹴り飛ばされたベートは先程アイズ同様、壁へと叩き付けられ上半身を壁に預け、力無く項垂れる。
勝負、あり。
先程まで騒然ととしていたガヤだが、既に静寂と化し、クロを見つめる目が好奇心の目から畏怖する目へと変わっていた。
あれは、絶対に戦ってはいけない相手だ。
脳裏に刻み込まれ、自身が戦っている訳では無いにも関わらず既に敗北が体で覚えてしまう。
Lv5二人を意図も容易く倒した彼を、フィン達もさすがに冷や汗を流さずにはいられなかった。
戦いに勝利したクロは自身の手を見つめ、やはりと何か呟くがその声は誰も聞こえない。
「……フィン。
「……あぁ。そうだね」
呆然と眺めていたフィン達だが、息を飲み込みリヴェリアがフィンに合図を促す。フィンもその事を理解しており、痙攣のような薄笑いを浮かべながらも審判を下す。
「グッ……!」
アイズがフラフラと重心のバランスを崩しながらも立ち上がる。仲間がその様子にハラハラと見守る中、クロはただ立ち上がる様子を眺める。
「……
クロはようやく口を開く。
それは問い。この戦いの意味、或いは彼女の真意を問い質すもの。
クロは待つ。彼女の答えを。
アイズはようやく重心を正し、目を瞑り、深く深呼吸した後目を見開く。
「強く、なるためです」
真っ直ぐな見開いた瞳には、決意が垣間見えた。
……それもある。しかしこと現状におき、今はただ──────
「────貴方を、超えたいっ!」
彼女の力強い声に、突風が巻き起こりクロの肌を射るように吹き刺さる。
リヴェリアは驚きを顕にした。これが我が子の成長を見届ける感覚なのか。そう感じ取った彼女は自然と笑みを浮かべ、アイズを見守り続ける。
クロは風を肌に感じながら笑う。
ただひたすらに強く在りたいと願う少女に、どこか自身と当て嵌める部分があったのかもしれない。本心かどうかそれはクロには分からない。だが少なからず、彼女は今“本音”をぶちまけたのだと悟った。
クロは問い質す。
「……なるほど。強く在りたいと願うか。その前座として俺を超えると?」
「はい」
真っ直ぐな回答に、ならばとクロは───────
「─────すまなかった」
「えっ」
頭を下げ、謝罪した。
その意図が理解出来ず、素っ頓狂な声を出してしまうが、クロは続ける。
「強く在りたいと誓い、戦いを願い出してくれたにも関わらず、俺は貴様に舐めた態度をとってしまった。恥ずべき行為だ、謝罪する」
「え、あの……」
頭を下げ続けるクロに焦りを見せるアイズ。
故にっ!、と高らかに声を上げ、アイズが体を強ばらせる。
クロは、
「ここからはお互い、全力を出し合おうじゃないかッ!」
彼から発せられる風圧に耐え凌ぎ、アイズは強く柄を握り締め構える。
アイズは、笑っていた。
彼女から見て、最強の頂きに据える彼と全力でやり合える事を。
お互い、相手の間合いには入らず、相手の動向を観察する。
するとクロの後ろからドゴーンッ!と瓦礫が弾ける音が響く。
ベートが肩で息を吸いながら、クロを睨みつけていた。そんなベートにアイズ同様に問い質す。
「貴様にも問おう。
「へっ、決まってンだろッ!」
ベートは吠える。
強者であり続ける為に、今目の前にいる壁へとぶつかりに向かう為に。
「テメェをぶっ飛ばすためだッ!!」
その瞳に、もう見下す差別は存在しない。
ただ強者を目指し、果敢に強者に挑む者の瞳だ。
なるほど、とその瞳を受け止め二人を交互に見合わす。
「ベートさん……」
「文句は聞かねぇぞアイズ、テメェ一人になんかにいい思いはさせねぇ」
アイズの何か言いたげな目にベートは反感する。
アイズは諦め、今から一人じゃなく
二人が戦意に満ちていると感じ取ったクロは、フッと笑い二人に向け手を大きく広げる。
「最早言葉は不要、か……であれば来いッ!己が全力を出し尽くしてみせろッ!」
「「ッ!ハァァァァァッ!!」」
二人は駆け出し、聳え立つ“強者”へ挑む。
前編、~完~