ダンジョンに強者面(ビビり)が来るのは間違いだ! 作:パーカス
ガキインッ!
──────────剣が弾く音が響く。
ドゴォンッ!
──────────打撃音が木霊する。
ロキ・ファミリアの
「ハァァァァァッ!」
アイズは剣を素早く振り、残像を起こす程の乱舞でクロに斬り掛かる。クロもそれに応戦し、同じ速さ、同じ力量で、相殺する。
剣と剣がぶつかる度、金属音を響かせ、激しさを増す。
だがクロが相手しているのはアイズだけでは無い。
「ウォォォォッ!」
ベートが高く飛躍した位置から
気配を感じたクロは一度強く剣を弾き、アイズのバランスを崩させた後、ベートへと向き直る。そして彼の攻撃に合わせ回し蹴りを食らわす。
力比べでベートが押し負け、勢いを殺され空中でバランスを失う。
「クソ、がっ!」
しかし
クロはベートへの反撃を繰り出した後、すぐ後ろまで接近したアイズの剣を受け止める。
「くっ……!」
アイズは分かりきってはいたがこうも簡単に受け止められ、呻き声を漏らす。
クロの反応速度、反射神経はイカれてる程ずば抜けており、次の一手、次の一手へと脳よりも先に身体が反応する。故に第一級冒険者二人がかりの攻撃でも即座に対応出来てしまうのだ。
より最適解を導き出す有様は、ハンター業で培った賜物なのかもしれない。
そんなイカれてた
アイズの剣技を弾いては、ベートの蹴り技を受け流し、交互で繰り出される攻勢に難なく対処するクロに、遠巻きで見物するフィン達も息を呑む。
フィンはクロの事を目で追い続ける。
あの戦いに自身が参加していたらどう立ち回るか?脳内で
どこか嬉しそうに笑みを浮かべながら……
「くっ!」
「チッ!」
どうやっても彼にダメージを与える事が出来ず、受け流されては反撃を貰う二人は悪態が漏れ出す。
「バケモンかよ……っ!」
「強過ぎる……!」
汗一つ垂らさず悠々と立ち尽くすクロに対し、こちらは魔法を使い、自身の
どう足掻いても詰められない力量差に、
今でも劣勢となってる戦況で、ベートは一つ思い出した事があった。
「……おい、おっさん」
「おっさんって……俺まだ25……」
話を
「てめぇ……まだ隠し玉があんだろ……出せよ」
“隠し玉”とベートは言った。
それはアイズ達から聞いた話、“何もない所から剣を取り出した”と突拍子もない噂にもなっている可笑しな話。ベートも最初聞いた時は鼻で嘲笑い馬鹿にしていたが、今ならこの噂を信じられる、そう確信していた。
この男ならやりかねない……
そう感じ取らせるものがあったのかもしれない。
クロは黙り込み、ベートをジッと見詰める。
ベートもその視線から目を逸らさない。強者と戦う上での本望として、クロの全力が見たい。どれだけ勝ち目がないとしても、どれだけ無駄な事だったとしても……
クロは目を瞑り、剣を
二人はその行動に驚き、体が少し浮き上がる。
「確かに……本気と言った手前で、俺はスキルを使っていなかったな……」
実際
だが、目に見えてのスキルは一つも使ってはいない。
クロが目を瞑り、数秒が経過する。
────────圧迫感が辺りを制圧する
アイズやベート、そして他の幹部メンバー達も身構え始める。
この感じは、《恐怖》。
未知の敵が唐突に目の前に現れたのと同意。
彼は告げる。
「────装備、セット」
演唱か否か分からない。だが、その言葉を
その霞はみるみる形取り、
否、あれは棍棒なのか?一目見た瞬間、自分達が知る棍棒とは一味違う物だと気付いた。
出現した棍棒を手馴れた動きで振り回し、構えをとる。
「さぁ、第二ラウンドといこうかッ!」
アイズ達はゆっくり立ち上がる。彼女らの顔には痙攣のような薄笑いが浮かんでいた。
「デケェ刀だけじゃなかったのかよ……っ」
「まぁな、“能ある鷹は爪を隠す”と言うだろ?もしかしたらまだ扱える物があるかもしれんな」
まるで他人事の様に三日月形に口を歪ませ、構えを解く。
「しかしちょっと
クロは棍棒を見ながらボヤける。
彼が取りだした武器は、操虫棍:エスペラロッド。
発動スキルが超会心Lv5、砥石高速化Lv2。
そして、猟虫が
何故だか猟虫が出現せず、ただの棍棒と化してるが気配自体は感じているからいずれ合流する筈だと結論付ける。
「お望みの本気、貴様らに耐えれるか……」
二人は身構える。いつでも防御し反撃が出来るように、目を逸らさず……
「────試させてもらおうッ!」
次の瞬間、彼が踏み込んだ音を最後に姿を見失う。
目を逸らした訳でもなく、見逃さない様にしっかり見つめていたはずだった。
ベートの脇腹に衝撃が走る。
「ガハッ!?」
唐突に自身の身体が歪み出し、苦痛の溜め息が漏れ出し、衝撃に逆らうこと無く吹き飛ばされる。
アイズは一瞬の内にベートが飛ばされ、体感
「っ!?」
咄嗟に剣を振りかぶり攻勢をかけるが、操虫棍で受け止められそのまま滑らす様に流され、頬に強い衝撃が掛かる。
操虫棍の刃の無い丸みを帯びた部分で叩かれ、地面に転がり倒れる。
操虫棍を回し、肩に乗せる。
「どうした?一撃で終いか?」
煽るように、挑発するように、不敵な笑みを浮かべる。
二人は睨み、我先にと駆け出し反撃に出る。
操虫棍を巧みに扱い、時に槍のように、時に鈍器のように、多彩に使いこなし二人を圧倒する。猪の如く、捨て身で突き進み、獣の如く咆哮を上げ手や足を緩める事無く立ち向かう。
「【
アイズが再び魔法発動し、纏う風を竜巻の如く荒らし突きつける。
「ハァァァァァッ!!」
ベートを蹴り飛ばし、アイズに向き直ったクロは操虫棍を、
彼女の剣は手で止められる。否、彼女を纏う風が彼の手とぶつかり合う。
そして彼は
──────
彼女を纏う風は一瞬で消し去り、勢いを失い呆然としたアイズは彼の追撃に反応出来ず、地面に叩き付けられる。
「ガハッ!?」
クロはアイズを叩き付けた後、獲物を狙う狼のように詰め寄ってきたベートに目をやる。
しかし、ベートに後ろから何やら凄まじい速度で飛んでくる物体がいた。間一髪でベートは回避に成功する。が、その物体は彼の腕に捕まり、何か与えていた。
「何だぁ……その虫は?」
「こいつは猟虫って言ってな。本来ならこの操虫棍とセットだったんだが、どうやら何処かに飛んでたらしいな」
クロは何故か呆れながら、その猟虫を撫で操虫棍を軽く振ると再び猟虫は飛躍する。
「こいつをただの虫とは思わんことだ。行くぞぉ〜」
気の抜けた台詞とは裏腹に、操虫棍に捕まり放り投げられた猟虫は一瞬でベートに近付き、攻撃が飛んでくる。
「ッ!?クソがッ!」
応戦するが、彼の言う通り。猟虫はベートの蹴りを物ともせずタックルを噛まし、頭、腕、足と順序よく部位を狙ってくる。
猟虫にボコられる中、忍び寄ってきたアイズに一瞥した後、操虫棍を突き刺し、跳躍する。彼女の剣は何度目かの空を斬り、回し蹴りを
アイズが飛んでくるのと入れ違いに猟虫がクロの元へ帰って行く。
ボロ雑巾の様に完膚無きまでに倒され、立つことすらもう出来ない。
そう思わせる程、彼女らはボロボロだった。
流石にフィン達もこれ以上は危険と判断し、
「この勝負、クロ・ユートの勝ちッ!」
フィンが宣言し終えた瞬間、仲間達が駆け寄りだす。
「アイズ!大丈夫っ!?」
「急いで
「ベートさん!しっかりしてください!」
ティオナ達が二人に寄り添い、その間クロはフィン達と対話する。
「悪い、やり過ぎたみたいだ。自身の力量すら見れんとは情けない話だ。謝罪する」
「いや、気にする事はない。僕達が先に切り出した戦いだ。彼らも悔いは無いと思う」
とはいえ、第一級冒険者二人がボロボロで駆け出し冒険者のクロが無傷で終えた戦い。明らかに異常事態だ。この事が明るみに出た時、オラリオは疎か、神が黙っていないだろう。
特に、フィン達の主神……ロキは間違いなく彼の出処を嗅ぎ回る。
この始末をどう片付けるか悩んでいると
「ちょ、まだ立ち上がっちゃ駄目だって!」
「2人とも落ち着いてくだ────うわぁ!?」
仲間を押し退け、フラフラで立ち上がる二人。
「ジャマ……だ、ハァハァ、どけ……」
「ハァハァ、わた、しは、ハァハァ、……まだ、やれます」
肩で息継ぎしても酸素の供給が間に合わず、朧気な視界、自身の体重さえも支えきれず、フラフラと蹌踉めく有り様。
そんな二人を一瞥し、近付き口に何かを飲ませる。
「「むぐっ!?」
緑色の液体が彼女らの体内へと流れていく。
仲間は焦り、引き離そうとするがフィンがそれを阻止する。
飲み終え、空瓶を懐に仕舞い彼女らから少し離れていく。
心配そうに見守られる中、アイズとベートは徐々に正常な意識へと戻る。
「……どこも痛くない」
「どうなってやがる……」
傷も殴られ跡も消え、万全な身体へと戻った二人に仲間が駆け寄りぺたぺたと触りながら確認をとる。
「嘘〜!もう傷ないよっ!?」
「信じられない……まさかエリクサー?」
「そういえば、あの時も怪我した民間人に緑色の液体を渡してたような……」
レフィーヤの発言にそれだァ〜!と叫ぶアマゾネス姉妹。
それを他所にアイズとベートは自身の身体を見渡していると
「お前達の意志、よく伝わった」
最初の立ち位置で仁王立ちするクロがうんうんと頷きながら、二人を一瞥する。
「貴様達は最後まで食らいつき、そして最後まで諦める事無く戦う意志を見せた」
クロの言葉に耳を傾ける。
言葉は発さない。ただ只管に黙って話を聞く。
「故に諦め切れず、まだ立ち向かうその度胸。……こちらも答えねば無作法というもの」
クロは笑う。
歓喜極まっての笑いか、自身の途轍もない無謀さに嘲笑いか
「この一撃を以て
彼は手を広げる。
「─────己が全てを出し尽くせッ!」
目一杯に身体を広げる。
「─────最早後先考える必要性なしッ!」
目を見開き、高らかに吠える。
「貴様らの一撃で、俺がくたばるか耐え忍ぶかの勝負だッ!」
黄昏の館に彼の声が木霊する。
「最後の決着だッ!掛かってこいッ!!」
先に動き出したのは、ベートだった。
全力で地を蹴り飛ばし、自身の全力の一撃を奴に食らわす。その事しか頭にない。これは相手の煽りでも、挑発でもない。
これは、“覚悟の証明”だ。
「くたばれやオラァァァァァァッ!!!!」
足に微かな
地面を引き摺るように後ろへと仰け反るが、ニヒッとニヤけ顔を見せる。
ベートはこの時、ようやく初めてクロに攻撃が成功して気が付いた。
コイツっ……硬すぎるッ!?
蹴り入れた足は激痛が走り、じわじわと痛みが押し寄せる。
硬さの推定は岩を超え、“鉄塊”そのものだった。
ベートと入れ違うようにアイズが駆け出す。
「【
先程と同じように風を纏わせる。しかしこれでは足りない。
もっと強く……もっと激しく……もっと速くッ!
風は嵐に変わり、速度も飛躍的に上昇していく。
嵐を前に、クロは何も構えない。迎え撃つ気も感じられない。
ただ只管に、受け止めるのみ。
彼女は、自身の全力を叩き込む。
「【リル・ラファーガ】ッ!!」
彼女は神速の勢いで突撃し、大型級モンスターすらも容易に貫く風の螺旋矢と化し、疾風の如く飛び掛る。
この時、アイズは初めて驚愕の顔をしたクロを目撃した。
直撃した嵐は大地を吹き飛ばし、砂煙が辺りを充満させる。
アイズはベートがいる位置まで後退し、砂煙の中にいるはずのクロを見据える。
手応えはある。間違いなく自身の全力を出し切った。二人は肩で深呼吸を繰り返し、ジッと見詰めて動かない。
ロキ・ファミリアの面々が結末を見届ける。
「……あ、あそこ!」
一人が叫ぶ。
指さした方向に人影が現れる。
砂埃は徐々に収まり、クロが姿を現す。
顔を俯き、受け止める構えを取りながら、ピクリとも動かず立ち尽くす。
息を呑み、ザワザワと団員達が話し始めた直後、ピクっと彼の身体が動き始める。
ゆっくりと姿勢を戻し、顔を上げる。
「……」
喋らない。
ただ黙って、二人を見定める様に一瞥する。
そして─────────
「お見事ッ」
彼は笑みを浮かべ、一撃を食らった腹部を摩る。
ゆっくりと二人に近付き、頭を乱暴に撫で回す。
「貴様らの一撃、確かに実感した。……いい一撃だった。これからも精進していけッ!アッハッハッハッハッ!!」
やめろっ!と手を弾くベート、わぷっとされるがままのアイズ。
二人は今度こそ認めた。
完全敗北を。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
「随分と長居した。今度こそ帰らせてもらうぞ」
「ありがとう。アイズ達の我儘に付き合ってくれて」
気にするなと告げ、門へと向かう。
「よく言うわい。もし時間があればお主も戦おうとしておったくせに」
「あはは、バレたか」
「全く……お前は油断も隙もないな」
リヴェリアとガレスに言い当てられ、全く反省の無い笑みを浮かべるフィン。流石長い期間共に過ごした仲間だった。
あれだけ戦った癖に疲労すらしてないクロに若干引き気味な面々だが、決して忘れる事の無い戦いを目にし、彼ら彼女らの戦意欲は掻き立てられた。
結果的にロキ・ファミリアの戦意を高揚させる形にはなったが、クロが知る由もない。
門を抜けようとした時、袖を引っ張られる。
何度目かとふぅと溜め息を吐き、振り返る。
「何だ、アイズ」
アイズはジッとクロを見つめ、寂しげに問う。
「また……会えますか?」
「そうだなぁ……早くて遠征の日には会うな」
そう言うとアイズは微笑み、袖を離す。
「それまでには、強くなります」
短期間で強くなる宣言に鼻で笑ってしまうが、頭を撫で何も言わず今度こそ立ち去る。
「アイズ〜、アイズにとってあの人ってどんな人?」
彼の姿が見えなくなった後、ティオナが興味津々で聞いてくる。
他の団員も気になり、耳を傾ける。特にレフィーヤはジッとアイズを見詰める。
アイズは沈黙し、そして微笑みながら空を見た。
「……厳しい、師匠みたいで、優しいお父さん、みたいな人……かな」
今晩、二人のステイタス更新した時、ロキがド肝抜く程の飛躍的なステイタス上昇していたという。
後にクロはこう語る。
「流石にやり過ぎたから一発殴っていいよって言ったら、殺しにかかってきてびっくりしました」
遠征の事をヘスティア達に伝えるクロ!
その過程で、ベルからお願いが!
「僕を、鍛えてください!」
次回ッ!
『修行開始ッ!目覚める新たな力!』