ダンジョンに強者面(ビビり)が来るのは間違いだ!   作:パーカス

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弱者と屈辱、そして決意

ラフな格好をした糸目の女性が陽気な声で入ってくる。その後から冒険者の団体が来店する。

その団体に酒場は騒々しくなり、何事だとクロは盛り上がりの中心部である出入口の方を向く。

 

「ん?誰だ?」

「え、クロさん知らないんですか!?」

 

え、そんな有名人?と内心思い、思考を巡らせ原作を思い出そうとする。答え合わせと言わんばかりに、1人のエルフのウェイトレスが団体の前に立つ。

 

「お待ちしておりました。【ロキファミリア】の皆様、案内します」

 

その名を聞き、ようやく思い出す。

 

 

【ロキファミリア】

主神ロキが束ねるオラリオの最大派閥の一角。

ファミリアの団結力が非常に強く、どちらかと言えば()よりも()()としての力を重視しており、連携力の高さは全派閥の中でも随一とされている。

 

「都市最大のファミリアと出会す(でくわす)とは……こいつは運がいい」

 

騒然とする状況を酒の肴としてその様子を静かに見守っていると、隣に座るベルがロキファミリアから背を向け、静かに水をチビチビ飲んでいた。

理由はわかる。

おそらく【剣姫】アイズが原因なんだろう、と。

 

ヘスティアがベルに隠したスキルを把握している彼は、初々しいねぇと心の底から思っていた。

 

ロキファミリアの団員達は席に案内され、店内に収まりきれず外のカフェテラスを使い、ほぼ貸し切り状態になる。第一級冒険者である幹部達が店内で、他の団員達が外のカフェテラスに別れ座る。

 

「あれが【剣姫】……すげぇ可愛い……」

「リヴェリア様もいらっしゃるぞ!」

「キャアー!フィン様よ!」

「あれが歴戦のドワーフ、ガレス!なんとも逞しい身体だァ……」

 

酒場から黄色い悲鳴、憧れの眼差し、誰もが色めきだっていた。

ロキ・ファミリアの構成員は主神の性癖がそのまま反映されており、男女比は女性の方が圧倒的に多く、彼等彼女等は例外なく美男美女だ。

黄色い悲鳴が上がってもおかしな話では無い。

 

その間、ベルは耳を赤らめながら背を向け続ける。

席の位置は今は特に問題なくとも、ベル達が案内されたのはカウンター……。

立ち上がれば嫌でも目に入る。

バレたくない一心に景色と同化し、息を潜め黙り込むベルにクロは頭を掻きながら、同じく背を向け酒を飲む。

 

そんな彼らを他所に、ロキが音頭を取り、宴が行われた。

 

「よっしゃあ、ダンジョン遠征みんなご苦労さん! 今日は宴や! 飲めぇ!」

「「「おぉ!!」」」

 

 

顔を向けず、遠征帰りかと小さく漏らすと

 

「はい。今回は『遠征』の帰還を祝しての宴会をされるみたいで、前もってロキ様から予約をなされていました」

 

シルが説明を施し、クロはそいつはめでたいなと遠征の帰還を小さく祝した。

 

「今回の『遠征』はどうだったん?」

資料(レポート)は既に渡しているだろう?」

「せやけどな、直接聞きたいんよ。自慢の眷族(こども)達の活躍を直接な!」

 

宴会の肴として、自身の眷族(こども)から答えを聞いていく。勿論内容には、ファミリア外に聞かされない情報もある為隠してはいるが、それでも周りの冒険者達は興味津々で、ロキファミリアの会話に耳を傾ける。話が盛り上がるにつれ、料理の無くなる速度も増していき、ベルの隣に座っていたシルも駆り出される。

クロが一瞥すると、もう既に何人か酒が回り陶然とした表情を浮かべているのが見て取れた。

盛り上がりを見せる最中、彼らに聞き逃せない話題が上がって来た。

 

「でもさー、まさかミノタウロスが逃げるなんて思わなかったよね」

「こらっ、この馬鹿ティオナ。その件については箝口令が敷かれているでしょうがっ」

「あっ、そうだった。ついうっかり……」

 

しまったと、ティオナが慌てて口を閉ざす。そこに黄金色の髪色の小人族(パルゥム)が諭すように言った。

 

「ティオネの言う通りだ。少なくとも此処では出さないで欲しい」

 

だからごめんってばー!とティオナは謝り、小人族(パルゥム)はその謝罪を受け入れ、笑みを浮かべ酒に手を伸ばす。

 

ミノタウロスの話を耳にし、クロは徐々に原作を思い出しつつあった。

 

そういえばミノタウロスってアイズ達が逃がしたからベルの前に現れたんだっけ?確か外伝に詳細が描かれてたはずなんだけど……ん〜思い出せん!でも今ならこの後の展開は思い出せるかも!えーっと、次は確か……

 

 

と思考を巡らせ、そして思い出してしまった。この先の展開を。そして、それが今起きていることを

 

 

「それってトマト野郎のことだろ!」

「ミノタウロスを血を顔面で受け止めた奴だろ?」

「助けられた癖に礼も言わず逃げた弱虫だろっ!」

 

笑いが酒場全体に伝達する。

おそらく先程の小人族(パルゥム)の注意が聞こえていなかったのだろう。団員達がその話を持ち出し、嘲笑う。その話に釣られ、他の冒険者達も笑っていく。

 

地獄だった。

 

笑われている対象であるベルは、身体が身震いし始め歯を食いしばる。

 

「あの状況では、仕方なかったと思います」

 

アイズが反論し、緑髪の種族特有の細く尖った耳を持つ一人のエルフが団員達に注意する。

 

「いい加減にしろ。そもそも17階層でミノタウロスを逃がしたのは、我々の不手際だ。恥を知れ」

「あ?ゴミをゴミと言って何が悪い」

 

その反論に、灰色の毛並みをした狼人特有の耳と尻尾を持つ青年が噛み付いてくる。

 

ベルは耐えることが出来なかった。

 

彼は噛み締めた歯を緩まさず、立ち上がる─────

 

「──座れ」

 

の前に、声を掛けられた。

何故と言いたげにベルは声を出した彼に目を向ける。だがすぐに、言葉を失った。

 

「クロ……さん?」

 

 

 

彼はビビりである。

それはこの世界に来てからも本心は変わらない。

彼のモットーである、何事にも怒られず、喧嘩売らず、余計なお世話をしない。それは相も変わらず掲げている本心。

どんな事があっても笑って済まし、怒りを押し止めゲームなどで発散する。それが彼の()()()()での話。

 

では、今の彼はどうだろう

内なる心は同じでも、外側は己が創り出したゲーム(かみ)に与えられし肉体。この世界に来てまだ2日しか経っておらず、まだ肉体の制御は完全ではなかった。特に感情のコントロールが……

 

では、何が言いたいのか?

 

 

 

彼は今、“怒気”に満ちていた。

 

 

 

その怒りは、周りからも見て取れる程、怒気で溢れていた。

血管は浮きで、髪は逆立ち、身体から闘気が漏れだし、目は赤色に煌めいていた。

彼の心情を答えよ、という問いがあったとすればほぼ全ての人が答えられる程。

 

だが、彼が怒っているのを知るのは、正面にいるミア、そしてベルと隣に戻ってきたシルのみ。

別に怒りをぶつけられている訳でもない。だが、彼女らは冷や汗が止まらずにいた。息を飲み、言葉を発さず、静かに見つめる。

 

だが、彼から発せられたのは優しくいつもの声色だった。

 

「席に座れ。まだ食事の最中だろ」

 

彼の問い掛けにベルは理解出来ず、言われるがままに浮いた腰を下げる。

 

彼らの笑い声が聞こえる。

 

悔しさは留まらず、涙を流す。そんな彼に─────。

 

「漫然と口に物を運ぶな」

 

彼は、いつも表情に戻っており、フォークで巻いたパスタを見ながらベルに問い掛ける。

 

「何を前にし、何を食べているのかを意識しろ。それが命を食らう者に課せられた責任、義務と知れ」

 

 

果たしてこれは誰に対して言った言葉なのか?

 

悔しさのあまり、食事が喉を通らず、今にでも食べ残して立ち去ろうとしたベルに対してか───

 

怒りを抑えきれず、己を鎮める為の言葉として発せられた言葉なのか───

 

或いは、どちらの意味も兼ね添えたものなのか───

 

 

ベルはその言葉を受け取り、フォークでパスタを巻き、口に運ぶ。

 

──────────彼らの宴は盛り上がる。

 

皿を空にし、切り分けられた果実を齧る。

 

──────────酒の呑み比べで争い、賭け事で盛り上がる。

 

芯を残し、水を飲み干す。

ベルは手を合わせ、会釈を交わす。

 

「……ごちそうさまでした」

 

良し。彼は口に発してはいないが、ベルには聞こえ、今度こそ我慢出来ず店の外へと駆け出した。

その影にアイズは気付き、今のは……と呟くが周りの声にかき消される。

 

ベルが駆け出して行き、どうするのかとミアとシルは彼を見る。彼はパスタを食べ終え、フォークを皿に置き、口を紙で拭く。ご馳走様の会釈を返し、ミアの方を向き直る。

 

「貴女の言う通り、大変美味だった」

「……そうかい。なら次からはもっと注文しな!」

 

彼女は圧をかけ、彼は頷き立ち上がる。

 

「男に二言はねぇ。必ずや訪れよう」

「あのぉ……」

 

シルは心配そうな顔をし、出入口に目を向ける。

 

「ベルさんは……」

「心配することは無い。あいつがこんな事で挫ける程ヤワな奴じゃない」

 

クロはヴァリスが入った袋を置き、会計を済ませる。

 

「今お釣りを……」

「釣りはいい。迷惑を掛けた代金だ」

 

それと、クロは付け足す。

 

「ベルと……ベル(せがれ)とこれからも仲良くしてやってくれ」

「……はい!」

 

シルにそれだけ伝え、彼は出入口に向かう。必然とロキファミリアの横を通らなければならない為、少し早足で通り去る。

何人か目を向けられた気がしたが、それを振り切り外へ出る。

 

「さて……向かうか」

 

クロはベルがいるであろう場所……ダンジョンへ足を運んだ。

 

 

 

 

ダンジョンの階層を進み、行方を探していると─────

 

遠くで剣が弾く音が聞こえた。

 

遠くで雄叫びを上げる声が聞こえた。

 

近くで戦いの音が聞こえた─────

 

「うぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

白髪の冒険者がモンスターと激闘を繰り広げていた。

 

「やらなければ……何もかもやらなければ、そこに立つことさえ出来ないんだッ!」

 

彼の声に導かれる様に、怪物(モンスター)……ウォーシャドウが姿を現す。

彼は剣を持ち直し、そのまま特攻する。

 

「……やるんだ……やるんだ!やるんだ!!やるんだッ!!」

 

彼は止まらない。

 

「そこに辿り着きたいのなら……!」

 

雄叫びを上げ、血を流し、手を止めず、ただひたすらに剣を振り続ける。

 

そんな少年を見守り続けるもう1つの人影。

彼は腕を組み、ただひたすらにこの戦いを眺めていた。

助けようと思ったりもした。手を貸そうと剣を握ったりもした。

だが、それは却って邪魔になることに気付き、黙って見守り続ける。

 

「……そうだ、ベル。強くなりたくば、喰らえ」

 

聞こえずとも彼は少年に声を掛ける。真剣な面持ちで、少年の戦いを目に焼き付ける。

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

ヘスティアはただ1人、廃教会(ホーム)で彼らの帰りを待っていた。朝が迎えようとしているのに、誰1人帰ってこず、心配になり廃教会(ホーム)の入口で待っていた。

すると、遠くから人影が見えた。

見覚えのある体格の影とそれに抱き上げられている影。

 

ヘスティアは一目散にその影に近付く。

その影の正体はヘスティアの予想通り、クロとベルだった。

ベルは血塗れで抱き上げられていた。

 

「クロ君!ベル君!!どうしたんだいその怪我ッ!?」

 

ヘスティアは慌ててベルに近付く。そんなヘスティアにベルは声を紡ぐ。

 

「神……様……」

「え?」

 

クロは膝を着き、ベルをヘスティアと同じ高さまで下げる。ベルは笑顔を作り、今言える最大限の欲を口にした。

 

「僕……強くなりたいです……」

「っ!……うん……うんっ!」

 

ヘスティアは涙し、ベルの頭を撫でる。ベルはクロの方を向き、意識を失う前に、最後の言葉を告げる。

 

「クロさん……僕を……強く……してください……」

「……馬鹿言え。今のお前さんは十分に強い。ただ踏み込む段階が高過ぎただけだ」

 

クロはベルの心の強さに、嫉妬した。

 

何故あれだけ言われてまだ立ち続けられるのか?

何故そこで諦めようとしないのか?

 

自分の心よりも強いベルを前に、こんな事を口にする資格がないのは分かっている。だがこの肉体を持ち、知識を持った者が言うべきだと思った。

 

「お前が何を思い、何を成し得るか、俺にはわからん」

 

だが、とクロは告げる。

 

「強さを求め過ぎて自身の本質を見失うな。貴様は己の掲げた夢があるはずだ。その夢すら捨てるのは愚の骨頂……。使えるものは使えッ!邪魔する壁があるならぶっ壊してしまえッ!何を得、何を見、何を学ぶかはお前次第だッ!」

 

 

 

そしてクロは─────俺は、初めて自身の感情と共に叫んだ。

 

 

 

「強くあれッ、ベル・クラネル!全て喰らい、全てを狩り尽くせッ!!」

 

「ッ!……はいッ!」

 

涙を流す。

少年の眼には、彼がどう映っていたのか知る由もなく、彼の言葉に力強く返事を返す。

 

 

 

 

 

 

 

既に物語は、動き始めている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時計の針は、止まらない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────さぁ、ひと狩りいこうぜッ!!




次章、怪物祭(モンスターフィリア)








最近、刃牙の親子喧嘩を見まして、ちょくちょく刃牙ネタを挟んでます。もうタグに追加してもいいんじゃないかな?いや、もうしばらく様子見で……
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