もう三が日どころか8日ですけども!
〈美夜〉
この日のイベントは初登校だけではありません。
『シャドウ』メンバーとしてのテストを兼ねた仕事も行います。
内容は『本日午後、第七学区の○○通りに現れることを予測される笹川洋子を殺害。及びその遺体を抹消せよ』というもの。
笹川洋子とは、第七学区の高校に通うただの女子高生。成績、容姿、身体機能、能力、人格、どれをとっても他と大きな差はなく、本当に平平凡凡な一学生です。ただ、一つだけ一般の人間とは違うことは、『偶然暗部に関わる実験を目撃してしまった』こと。それだけです。
おそらく、このテストの目的は『ただの一般人を殺せるか』、『その上で平常心を保てるか』、『無関係な人間に悟られず仕事を完遂できるか』でしょう。腕には心音をモニターいている小型の機器が取りつけられていますし。
ちなみに、笹川洋子が見てしまった実験とは『学園都市第一位がとあるLEVEL5のクローンを2万人殺し続けること』だそうです。最近始まったばかりの実験ですが、一体どういった意味があるんでしょうか。シルエットならば喜んで首を突っ込んでいきそうなものです。興味本位だけで。統括理事長が許可しないのでしょうけど。
おっと。
そうこうしている間に笹川洋子が来たようです。今、私の前方10メートルほど先の角を曲がってきました。学生服に鞄・・・・・・。帰路についているところだと考えられます。
しかし、この場で殺してしまうわけにはいきません。目立ってしまうし、何より『無関係な人間に悟られずに仕事を完遂できるか』という条件を破ってしまいます。
考えられる行程は3つ。
其の壱。『事故を装う』。殺人と疑われることはありませんが、やはり目立ちます。事後処理も大変です。
其の弐。『路地裏等に連れ込む』。事後処理も楽である上、目立ちません。が、連れ込むのに失敗したり、悲鳴を上げられたら仕事の達成が危うくなります。
其の参。『同行し隙を窺う』。ある程度時間はかかりますが、最も確実で安全です。
・・・・・・やはり『同行し隙を窺う』が適当でしょう。今回は特にタイムリミットも定めれていないのですから。今日中に終了すれば問題ありません。
では、まず話しかけてみましょうか。
私は今、ターゲットたる笹宮洋子とカフェテリアというらしき飲食店で菓子をつついています。何故か柵川中学の制服を着た佐天涙子という少女も一緒に。
完全に予想外の展開です。
これでは仕事がやり辛い。暗殺も何もあったものではありません。
問題解決の為、ここまでのことを順を追って思い出してみます。
まず私は『笹宮洋子の兄に世話になった人』を装い、お礼をしたいと申し出ました。
例の実験を見てしまった為か明らかに憔悴した様子ではあったが、彼女は特に訝しむことなく受け入れました。一般人にしては精神の安定性が高いようです。
場所を移そうと一緒にカフェテリアに向かう途中、そこで問題が生じました。
間が悪いことに、そのカフェテリアの前で佐天涙子という少女と出くわしたのです。
客観的に見て私の容姿はそれなりに目立ちます。どうやら噂好きであるらしき佐天涙子は私を『今日付けで転校してきた高レベル能力者の美少女』と判断。噂と遭遇した興奮に目を輝かせながら私に話しかけてきました。いくらなんでも噂が流布されるの早すぎます・・・・・・。
駆け引きや交渉に弱い私は案の定、同席したがる佐天涙子に言い任されました。
・・・・・・ということがあって今の状況に至ります。
どうしましょうか・・・・・・。状況の経緯を思い出しても解決策が思い浮かびません。暴力で黙らせることができない以上、交渉でなんとかするしかない。しかし、私は話術を得意としない。私、こういう相手は苦手みたいです・・・・・・。
こういう時どうしたらいいんでしょう?
〈佐天涙子〉
いやー、まさか噂の転校生に出会うとは。
初春が来れなくなっちゃったから一人で新しくできたカフェに来たけど、どうしよっかってなってたけど・・・・・・。来てよかった!
せっかくだからいろいろ訊いちゃおう。
「鳴上さんは前はどこの中学にいたの?」
「○○中学です」
「聞いたことないなぁ」
「マイナーな学校ですから」
欠片も表情を変えずに答える鳴上さん。
そんな姿も物語に出てくる妖精めいている。皮肉とかじゃないんだけど、美少女ってすごいな。
「趣味とかある? 私は音楽とか聞いてるけど」
「ありません」
「好きな食べ物は?」
「ヨーグルトです」
「嫌いなのは?」
「ありません」
「好みのタイプは?」
「ありません」
うーん・・・・・・。当り障りなさ過ぎるかな?
じゃあ・・・・・・
「好きな人いる?」
「・・・・・・黙秘します」
「おっ!」
わざとらしく目を逸らした! いるよねこれは!
「どんな人!? どんな人!?」
「・・・・・・黙秘します」
ほんのちょっとだけどほっぺが赤くなった! 相当好きなんだなぁ。
「誰にも言わないから!」
「・・・・・・黙秘します」
くっ・・・・・・。ガードが固いっ! ならばっ!
「スーパーのヨーグルトのクーポン券あるんだけどなー」
「・・・・・・・・・・・・黙秘・・・・・・します」
揺れた! もうひと押し!
「10枚以上あるんだけどなー」
「・・・・・・・・・・・・黙秘・・・・・・できません」
勝った!
(すみませんシルエット・・・・・・。機密を漏らします)
「え? 何か言った?」
「いいえ。それよりも私の好きな・・・・・・いえ、愛する男性について、ですね」
「う、うん」
あ、愛するって・・・・・・。思ったより進んでる?
「名前はプライバシーを守る為話せませんが、彼は私を救ってくれました。そして、それが私と彼の出会いということになります」
救ってくれた? それはいったいどういう・・・・・・
私がその疑問を口にするより先に、鳴上さんが口を開いた。
「それよりも笹川さんが気分が優れないようなので、少しお手洗いに連れて行って介抱してきますね」
あ。そういえば同席してたんだった。確かに気分悪そう。
「では、行ってきます」
そう言って鳴上さんは笹川さんを支えながらカフェの入り口近くにあるお手洗いに向かっていった。大丈夫かなぁ。
〈笹宮洋子〉
白髪の細い男が中学生くらいの女の子を嗤いながら殺している。
1週間前に見たその光景を思い出して吐き気を堪えていたところ、―――兄に世話になったという―――鳴上さんが声を掛けてくれて、お手洗いに連れて行ってくれました。
兄の世話になったというが、私も世話になりっぱなしね・・・・・・。
「ありがとう鳴上さん」
「礼には及びません。それより、あなたに言っておきたいことがあります」
「? 何かしら?」
彼女は私の目をじっと見つめ、
「さようなら」
何故か別れの言葉を言った。
「え――――――」
体が過去に戻っていくような感覚と共に五感が失われていく。
しかし、それを感じたのは一瞬で気づけば何も感じなくなっていた。
そう。
私が最後に見たのは機械のような顔をした少女とその瞳に浮かぶ『I』という文字だけ――――――――――
〈美夜〉
笹川洋子は、中学生に戻り、小学生に戻り、幼稚園児に戻り、やがて胎児に戻り、最後には受精卵になりました。
もはや蟻よりも小さくなったそれを、私は何の感慨もなくちり紙で掴みとり、便器に流します。
・・・・・・やはり能力の発動速度が速まっていますね。対象指定も少しスムーズになったような気がします。
しかし、これで仕事完了です。
誰にも見つからず、動揺せず、至って計画通り一般人を殺しました。当初の目標をクリアしたといえるでしょう。
さて、トイレから出て佐天涙子に『笹川さんは帰った』と伝えますか。
またもや短い! もういっそのこと短くていいや!
そういうわけで皆さん今年もよろしくお願いします!