どういう意味かは作中でお確かめを!
〈若い『ブロック』構成員〉
私は今悪夢を見ている。
内容は至って単純。目の前で次々と仲間たちが死んでいく夢だ。
殺されていくのではなく、死んでいく。自らの影が直径50cmくらいの綺麗な円形に変形したと思ったら、次の瞬間には自分も影と同じ円形に圧縮されているのだ。まるで、『物体は影と同じ形をしていなければならない』とでも言うように。
当然そんな状態で生きている人間がいるはずもない。断末魔を上げる間もなく、球体の肉塊となった。内臓や骨が所々から露出し、血やよくわからない液体でびちゃびちゃになった形だけは綺麗な球体。夢の中であるはずなのに吐きそうになった。
動揺からいち早く脱して解決を図ろうとする人もいたが、原因がわからない以上どうしようもなく球体に。脱出を試みた人は、何人いようと一瞬で球体に。混乱を通り越して混沌となった場を収拾しようとした私の上司も、球体に。
ちなみに、私たちのリーダーである佐久辰彦は、球体が20を超えた辺りでいの一番に逃げ出した。彼は付き合いのほとんどない構成員でもよく知っているほどの利己主義者だ。おそらく組織と自分の命を天秤にかけて後者を選んだのだろう。彼のカリスマ性が乏しかったのか、そのことに関して私は特に動揺しなかった。
もっとも、怯えて走り回っている途中に佐久らしき球体が広間の出口付近に転がっているのを見た為、生きてはいないだろう。天国にも行けていないに違いない。
球体の数が300を超えた。
もう残っている構成員は20人しかいない。
私といえば、奇跡的にまだ生き残っていた。しかし、もはや騒ぐ気力もなく、呆然と下駄り込んでいる。どうせ夢なのだ。死んだっていい。
1人減った。私にいつも馴れ馴れしく声を掛けてくる奴だ。私のことが好きだったのかもしれない。
2人減った。よく上司に怒られていた人と、逆に褒められていた人。この2人が同時に死ぬのは、どこか皮肉めいていた。
3人減った。昨日すれ違った人たち。とても楽しそうに話していた姿が印象に残っている。
4人減った。まったく知らない4人。でも死に際の表情は、数十分前から飽きるほど見てしまったそれだった。
9人減った。多すぎて確認する間もなかった。でも、悲しくはない。親友は数分前に球体になっている。
残り1人。つまり私だ。生き残ってしまったのは、私の夢だからだろう。私が死ぬと夢も終わるのだろうから。
気づけば周りは球体と血で埋め尽くされている。その中にただ1人佇む私。不謹慎ながら、こんな場面映画で見たなぁなんて考えてしまう。
何故こんな夢を見ているのだろう。最近嫌なことも起きていないし、ストレスも溜めこんでいない。体だってどこにも異常はないはずだ。それとも、これが私の潜在的欲求だとでもいうのか。
益体もないことを考え始めると人間止まらないもので、このような状況だというのに考え込んでしまう。
そのことに気づいたのは、数分後。さすがの私も我に返る。だから、違和感に気づいてしまった。
どうして私はまだ死んでいない?
仲間たちの死の間隔からすれば、私はとうに死んでいるはずだ。本当なら今頃球体になって床に転がっていないとおかしい。
私の夢だから、と思考停止するのは簡単だが、何故かそうじゃない気がする。夢なのに。
ならばこの惨状に意味があるのか。そう考えが行き着いたその時、私じゃない何者かの足音が耳に届いた。
カツンカツンと余裕のある足音。誰か生きていたのか? 違うだろう。構成員はほぼ全員成人している。この足音は軽く、とても大人のものとは思えない。
では誰なのか。その答えはすでに目の前にあった。
「・・・・・・女、の子?」
そう。女の子。それも美少女といっても過言ではないほどの14歳くらいの女の子。予想できていたことだがやはり『ブロック』の構成員にこのような子はいない。完全な部外者だ。
一般人だろうか、と考えてすぐ首を横に振った。一般人がこの地獄絵図を見て平然としているはずがない。
この場にいたら死ぬ。女の子にそう言おうとして言えなかった。その前に女の子が口を開いたからだ。
「よし。予定通り1人残したし、これで終了だ」
今何て言った?
まるで男のような口調で放たれたその言葉を、驚愕のあまり私はすぐに呑み込めなかった。
予定通り? 一人残した?
これでは彼女がこの状況を作り出したみたいじゃないか。
そう考えると、ありえないとか非現実的だとかいう疑問よりも、誰でも持つとある感情が湧いてくる。
そう。殺意だ。
〈シルエット〉
大量殺戮や殲滅の仕事を受けた時、俺はいつも1人は残しておく。
理由は保険。もし依頼主に裏切られた時に有効活用するのだ。調教して部下とするのもよし。身売りさせるのもよし。場合によっては扱い方次第で裏切った依頼主を破滅させることもできる。
当然のように今回もそうした。
とはいっても、この学園都市は何かしらの手段でアレイスターに見張られている。監視から逃れるのは難しいだろう。だが、今この時に限っては俺が何をしようと奴にはばれない。仕事前から俺と残した1人に特殊な結界をかけている。これは俺がとある結界専門の魔術師に習ったもので、如何なる魔術・科学であろうとも対象を感知することができないというものだ。効果時間は2時間が限界。
余談だが、やはりというかなんというか、残した1人は殺意満々の様子で俺を襲ってきた。いつものことである。気持ちは察するなど口が裂けても言わないが、一応毎度こう言っている。
「恨みたきゃ恨め」
自己満足以外の何ものでもないが、つい言ってしまうのだ。俺にも罪悪感というものが多少なりともある証拠なのだろうか。
さて。このまま生き残りをどこかに監禁したところで、いずれアレイスターに見つかる。ならばいっそのこと隠さずに、学園都市の外へ出そう。もちろん、ただ逃がすのではなく、用ができるまで意識を失ってもらうが。
そこまで考えた俺は、気絶させた生き残りを担いで学園都市の外に出た。
そのまま知り合いの魔術師に渡し、手数料を払って海外に逃がす。
後はその魔術師が闇医者なりなんなりに連れて行ってコールドスリープにでもしてくれるはずだ。割と長い付き合いなので信用はできる。
結界が解けるまで残り1分。俺は今、先ほどの仕事場にいる。なんとか間に合った形だ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・よし。1分経過。結界は解けた。これで俺の様子はアレイスターに伝わり始めただろう。
prrr
狙ったように電話がかかる。いや、実際狙ったんだろう。
「はい。もしもし。こちらシルエット」
「仕事はやってくれたようだ」
やっぱりアレイスターかー。となると俺の結界にも気づいてるよなー。何をやったかまでは気づいてないだろうけど。一応、生き残りの奴の分の代わりの死体は別から調達してきたはず。
「請け負った分はこなすさ。信用第一ってね」
「報酬は振り込んである。迎えをよこそうか?」
「いや、いいよ。片付けはそっちに任せても?」
何度も言うが、片付けは別料金だ。やらせるならきちんと別途で金を貰う。
「いいだろう。しかし、それより次の話だ」
「?」
「君に消してもらった『ブロック』を引き継いでもらいたい」
おいおい。どういうことだそりゃあ。反乱分子を潰したかっただけじゃないのかよ。
「・・・・・・ああ。そういうこと」
「理解を得られて何よりだ」
どうやらまんまとはめられたらしいな、俺は。アレイスターは最初から俺を暗部組織に組み込むつもりだったらしい。してやられたぜ。これで学園都市の暗部がらみの仕事を優先的に受けなきゃならなくなる。顔写真やこの仕事現場を握られているしな。
あーあ。やらかしたなぁ。こんなミスしでかすなんてなぁ。シルエットの名乗り始め以来かぁ。魔術が関わらないって聞いて正直嘗めてたわ。まさか本人とは思わないが、伝説の魔術師と同じ名を持つだけはある。いつか絶対復讐してやろう。
「これで俺に首輪を掛けれたなんて思ってないよな?」
「当然だ。いざとなったら顔を変えてでも逃げるのだろう?」
「もちろん」
今時その手の逃亡手段なんて魔術関係なしでもいくらでもある。
「メンバーとルール、あと組織名は俺が決めても?」
「構わない」
「サンクス。ある程度は好きにやらせてもらうぜ」
もう用はない。俺は逃げるように電話を切った。
メンバーかー。外部から呼んでもいいけど、それだけじゃ面白くないよな。できれば学園都市内部からも集めたい。学生で血を見ても大丈夫そうな奴。
人数は俺含めで3人でいいや。それ以上増えると組織が重くなる。
1人は本拠から借りてきて、1人はここで確保と。はは。ボスに怒られそうだな。
名前はー・・・・・・そうだな。こうしよう。
「『シャドウ』」
『ブロック』は『シャドウ』に生まれ変わりました!
暗部抗争編が楽しみです!
ちなみに次回はついにあのウニ頭が出てきます!
乞う御期待!