《UTS》を知ったのは動画に挟まっていた広告からだ。
そこそこ注目されているらしいメーカーの、新作MMORPGオープンテスト。
実況その他による収益化も可。
ゲームの詳細はおろかイメージイラスト一つない求人情報のような広告だった。
締め切りから一週間後、届いたのはテストの日時とID,パスワードの記されたメール一通。
テストプレイヤーなんて初めてだったから,どんな面倒な条件や手続きがあるのかと思っていた分
拍子抜けを通り越して不安すら沸いてきたが、辞退する理由にはならなかった。
テスト当日、ディスプレイをつないでゲームを起動し、いつかの規約に同意した後、最後に現れた「完了」のアイコンを押すと画面が暗転する。タイトル、ムービー、ナレーションその他背景説明らしきものは一切なし。
ただ暗闇の中で、体が揺れていた。ごんごんと波打つような振動とエンジン音。
車か。
反射的に首を回すと、画面の視界も同時に動く。
動かすのと同じだ。
結論として、そこはコンテナの中だった。トラックに乗っている大きな四角いコンテナ。
その内側に沿って取り付けられた板に腰を掛けている、なんてことは知る由もない。
運転席から差す明かりにぼんやり浮かんだのは、決して広くはない空間にびっしりと並ぶ人影。
全員が黒い覆面に黒いタイツのような服装で、護送される囚人の如く無言で向き合い座っている。
「…」
腕を見る。左手首に巻いた時計以外は黒一色。そのまま足へ視線を下ろす。
どうやら自分も同じ格好らしかった。
「新入りだな」
話しかけてきたのは右隣の男だった。黒い目出し帽の額には“645”の文字。
「ひどい顔だ。気分でも悪いか」
覆面越しに顔色がわかるのか、と口にはしなかった。
「ぅはははは」
笑う男の手の中で、カラカラと回る音が鳴る。
それを見て自分の腰のあたりを探ってみると、皮に覆われた硬い感触が手に当たった。
留め金を外し、中身を引き抜く。
黒い、蓮根のような弾倉をのせた
「安心しろ。初めは誰でもそうなる」
カン、と音がして男の手から弾丸がバラバラと床にこぼれる。
「無駄口をたたくな!」野太い声が割り込んだ。
向かいに並ぶ覆面たちの左端に一人、明らかに場違いなシルエットが座っている。
右折の慣性に体が押され、差し込んだ西日が灰色のスーツとサングラスのオールバックを
照らし出した。
「貴様らだけじゃない。足を引っ張るものはその場で処分する」
「……」
落ちた球を拾い終えると645は静かに席に戻った。
車が少しずつ速度を落としそのままゆっくり停止する。
「よし、全員出ろ」
後部のドアが開き、まぶしい光のなか覆面たちがぞろぞろと外に
真昼のビル街。行き交う人と車。エンジンにクラクション。店や信号から流れる雑多なメロディ。
その古くさい街なみが、20世紀後半の日本がベースだと知るのはしばらく後のことだが、
VRPGの舞台として馴染みのない光景であることは確かだった。
「もたもたするな。さっさと歩け」
スーツの男が促すまま、脇の石段を上がり"あおば銀行"と緑字に青の文字でデザインされたドアの前に立つ黒ずくめの一団。
通行人はこちらを見ながらひそひそとささやき合うもの、無視するように足早に歩き去るものなど様々だった。
「良いリアクションだ」と声がしたが、周りは全員同じ格好でネーム表示もないためPC・NPCの区別はつかない。それでもよく見ると、自分と同じくあたりを伺ったり、小声で相談したりしている覆面がいるのがわかった。
「気を抜くな。手筈通りやれ」
灰スーツの言葉を合図に先頭にいた覆面二人(拳銃でなくライフルを持っていたことからNPCと思われる)が勢いよく扉を開け放つ。
「いらっし…」窓口の女子行員が絶句するより先に、銃声が天井の照明を吹き飛ばした。
「動くな」
呆然とする行内をぐるりと銃口が巡る。
「ここにある現金は全て我々が接収する。妙な真似をすれば命の保証はない」