「予定通りだ」
無線機のヘッドフォンを外したバラリンクス(スーツにサングラスの人間態をしている)が
整列したPC達を見渡す。街中の集合地点から車に揺られること一時間弱(圧縮を解除しても数十秒はかかる)降ろされたのは山の中、というより山をくり抜くように敷かれた道路の上だった。
左右はまぶしい緑の山肌。正面に伸びるヒビ割れたアスファルトは数メートル先で途切れ、
二重の防護柵で塞がれている。建設中に放置された廃道路だろうか。背後には自分達を乗せてきたワゴン数台と、さっき通ったばかりの大きなトンネルが口を開けていた。
「
(……ラボって?)
すぐ前に並んでいた、378番がつぶやく。
《本部下層にある研究施設です。主に装備や改人の研究開発を行います》
(ミスしたら素材ってか……)
378の横で相方らしき380番がうめく。それが良くなかったようだ。
「378、380」
はい、と声でシンクロする二人。
「一番乗りはお前らにくれてやる。バスの運転席を制圧しろ。返事はダ・ベルベラだ」
「ダ・ベルベラ‼」と返事が響いたところで、むこうから低いエンジン音が聞こえ始める。
ほどなく黒いセダンに追い立てられるように、『あおばようちえん』と書かれたピンクの大きな車体が近づいて来る。トンネルの先で出くわした黒ずくめの集団に、驚いたように停車した。
「どうやって入るんだ」誰かが言った。
その疑問は出ていった二人も同様らしく、困惑したようにバスの周りをうろつく破目になった。
ドアは中から開くのだろうが、シートでは運転手ががっちりハンドルを握っている。
何かの拍子に急発進されたら、自分達たちが惨事になりかねない。
バスを前に顔を見合せる両人だったが、やがて380の腕がすっと上がる。
乾いた発砲音とともにフロントガラスにひびが入り、運転手が体を丸めた。
「へい運転席、ドア開けて」
巻き起こる甲高い悲鳴と子供の泣き声。続けて2度、3度の銃声で、プァンと前側のドアが開く。
まわりから、ちょっとしたよめきと拍手がわいた。
「もう録画してるの?」尼野が口を開いた。
「してるが、それがどうした?」村井が応じる。
「いや、全然実況しないから」「声は後から入れる。編集でな」「なんで」
「その方がグダらないんだよ。アドリブ苦手だから」「だから伸びないんじゃない?」
「おい」声を押し殺した645が割って入った。
「見つかるとあいつらの二の舞になるぞ」
「よおし、全員動くなよ」銃口を左右にふりながら、ちらちら様子をうかがう208。が、
無言の視線を受け、意を決したように車内へ乗り込んだ。
「じゃあドライバーはどいて、全員床に両手を」「いや全員は無理だろ」
言いながらステップを上がる378。リンクスがぐいと顎をふると、残りの接収班もそれに続く。
「やっぱり、そっちがいいか」
へ? と聞き返した自分に村井が続ける。
もはや
「動画さ。確かにメジャーどころはそっちが多い。編集もめんどくさいしな」
知らんがな。
「まあ…全部が全部じゃないし、編集だって人力でやらなくても」
「そりゃあその通りなんだが、やっぱりなあ、臨場感というか……」
どうん、とバスが揺れた。銃声ではない。車体の内側にぶつかる鈍い音。
目の前の光景を理解するより早く、第二の破壊音が足を止めた378を撃ち抜き、向かいの
白いガードレールへ叩き付ける。
「……死んだ?」「みたいだな」