トンネルを抜けしばらく走ると、山なみにぽつぽつと家が目立ちはじめ、やがて住宅の
点在する田園地帯の風景が現れた。
「痛い」後ろで目を覚ました村田がうめく。
「いや、正しくは痛みと錯覚するくらい腰のあたりがじんじんする、か」
「おかしいな。ちゃんとブレーキ踏んだけど」
「何もおかしくないんだよなぁお前以外。
尼野が窓を開けると、流れ込んだ堆肥のにおいが後ろへ抜けていく。どうやらエフェクト修正の
対象外のようだ。
「デフォルトでプレイしてるからでしょ。ポイント目当てに」
「
「実況的には大当たりじゃない。初手からレアエンカウントで」
「そんな甘いもんじゃない。少なくとも俺としては期待外れだ。悪の組織VS正義のヒーローって
ありきたりな
ありきたり。割れた窓。首のない身体。残像を押しのけるようにジムを呼び出す。
「645番は死んだのか?」
《はい。頚部挫滅による失血死です。新たなサポートキャラの申請は次回の作戦までできません》
「なんだ。サポート切っちゃったのか」
村井がのぞき込むように顔を寄せる。
「まあ流れはわかったし、もういいか」
「いいの? 任務失敗なのに」
「馬鹿言うな。あの負けイベントから生還したんだぞ。普通にA評価だろ」
<それでは、これより論功を執り行う>
うす暗いホールに将軍の声が響く。場所もモニターに映るひげ面も前回と変わらないが
PCの数は明らかに減ってみえた。
<まずは一号作戦。バラマンモス指揮下の一号部隊は『昭和警備保障』の現金トラックを拿捕し、一億七千万の資金獲得に成功した。作戦に従事した同誌諸君の貢献をたたえる>
にわかにあたりがざわめいた。
(50点…)(50点か)
ささやき合う声からは、点数のようなものが加算されたらしいこと以外なにもわからなかった。
<次に二号作戦。指揮官バラローズ及び二号部隊は警視庁昭和南署を制圧、武器弾薬等
物資の確保と迅速な撤収に成功した>
(警察署に武器庫……あったなグレネードとか)(接収したやつは、点数と換えられるのか?)
ばつんと唐突なスポットライトがPCの一人に向けられる。
照らされた本人は戸惑ったようにあたりを見回した。
<なかでも作戦の過程で警察幹部一名を含む警官五名を排除し、我らに更なる躍進をもたらした206番をはじめ、参加した同志一同の貢献をたたえる>
遠慮がちに拳をかかげる208番とは対照的に、周囲の仲間(と思われる数人)はえらく
盛り上がっている。
「みろよ。MVPにはボーナスだ」
笑いながらばしばし肩をたたく村井に、尼野は無言のままモニターを見つめている。
<では続いて問責に移る>
「問責?」
村井の声と同時に照明が切り替わり、強烈な光が自分たち三人に降り注いだ。
<本日午後四時、作戦遂行中の三号部隊が襲撃を受け、バラリンクス以下数十名の部隊は壊滅。
生存者はわずか数名足らずの痛恨事となった>
壊滅、の単語に再びざわつくホール。
はっきり数えたわけではないが、作戦に参加した
九割以上いかれた計算になる。
<このような状況下において、そこに並ぶ108番、424番、593番の三名は早々に任務を放棄し
交戦中の同志たちを見捨て、作戦用の車両で逃亡を図った。弁明はあるか。108番>
あれが戦闘だったのかという疑問はあったが、黙っていた。
「お待ちください将軍!」
案の定、大仰な仕草で村井がモニターに歩み寄る。
「指揮官が爆散、いや死亡し、命令系統が不在の状態で作戦の継続は困難です。あの状況では…」
「作戦継続が困難というなら、本部の指示をあおぐべきではないか。通信機は持っているだろう」
画面が切り替わり、手首に巻かれた腕時計が大写しになった。
(まじか。いちいち電話探したのに)(なんか周波数とかあるぞ。使い方出せる?)
初耳だったのは自分たちだけではなかったらしい。装備についてプログラムに確認
しなかったプレイヤーの自己責任ということか。
「…いや、ですが」
「仮にそれが不通としても、他にとり得べき手段を全力を
画像はヘッドフォンのついた平たい無線機に切り替わる。確かにあれをリンクスが使うのは
全員が見ていた。つまり最適解へのヒントは少なからずあった、と言いたいわけだ。
「ぐぬぬぬ」村井が声に出して唸った。
「負けイベントどころか、BADルート入ってない?」
尼野は反論に加勢する気配もなく、面倒くさそうに腕を組んでいる。
BADルートのあるMMO。実に
「ならば以上をもって、108番以下三名を第一級逃亡罪にて処断する」
将軍が指を鳴らすと、ぐるんと足元に大きな黒い穴が開いた。