昭和レトロMMO(仮)   作:700pack

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第1回 方針決定会合

<ダ・ベルベラ!>

「ダ・ベルベラ‼」

 今やホールに響く大音声となった(一部の)PC達による敬礼に、ベルマン将軍が満足げに頷く。

<意気軒高まさしく是。諸君らの煥発(かんぱつ)たる才智(さいち)を期し、作戦部より重要な伝達事項がある>

 手袋の指が鳴り、モニターはぼやけた影のような画像に切り替わる。

<これは先日の三号作戦の際、全滅した記録班のフィルムを復元したものだ。襲撃犯は我々の

油断を誘うべく、バスの運転手とすり替わったと(もく)されている。ただし、事前の調査ではこの

運転手を含む職員及び園児、その他関係者周辺に犯人との(つな)がりらしきものは確認されなかった。

つまりこの画像が、現時点で唯一の手がかりということになる>

 

 (つな)がりらしきものが何なのかはおくとしても、肝心の画像の方は黒か緑かも判然としない、

今朝のニュースのモザイクの方がいくらかマシに見えるレベルで、実物を知らなければ無意味

どころか逆効果にすらなりそうな代物だった。

「ただ今よりこれを標的イ号と呼称する。イ号の存在が今後の計画にもたらす弊害は計り知れず、

その排除は各種作戦の遂行と並ぶ優先課題であるとの決定がなされた。これに基づき本日より

イ号の捕獲あるいは抹殺を成し遂げた者に、特別褒賞が与えられる運びとなった。今後も作戦部

においては、諸君らの益々の貢献を期待するものである」

 スピーチが終わると将軍の姿は消え、画面には前回と同じ作戦計画の封筒が映された。

 

 発令された三つの作戦の概要とブリーフィング場所をメモすると、他のプレイヤー達が動きだす

前にホールを出る。記憶をたぐりつつ廊下を進み、多少迷いながらも前回と同じエレベーターに

たどり着いた。ボタンを押し、酔いを誘うような上昇の感覚がしばらく続いた後、扉が開く。

 

 もはやお馴染みの店内の奥のソファには、すでに先客の姿があった。

「よう。半日ぶり」

手を挙げたのは大柄な男の方で、黒いレザーのつなぎにグローブを嵌め、ベルト付きの(いか)つい革靴を履いている。

「ずい分フォーマルだな。ま、何着たって同じだが」

 そこでようやく自分がアジトに入る前のシャツとスラックスに戻っていることに気がついた。645(サポート)がいないからか、それとも別の理由があったのか。

 

「目立つよりいいと思うけど。職質されたら放って逃げるから」

 向かいに座った尼野が言う。白いポロシャツにサスペンダーのスカート。テーブルにはご丁寧に赤いランドセルが置かれている。ある程度予想していたとはいえ、よりによって小学女児。

「お互い偉そうなことは言えないと思うがな。少なくとも補導される心配はないぜ」

 確かにこの二人が平日昼間に並んで歩けば、警官の方が放っておかないだろう。

そのとき浮かんだ事と言えば、あとはせいぜい「授業は抜けても気づかれないのか」

「そもそも小学生が組織に入る経緯とは何なのか」という程度で、そのゲーム的意味について

考えるには至らなかった。

 

「で、どうするの。続けるのこれ」

「これってのは俺達のパーティーのことか? 別に抜けたきゃ勝手に抜けりゃあいい。なあ?」

 村井の作為的な笑顔をよそに、尼野が続ける。

「パーティーなら情報も共有することになると思うけど、『能力』のことも共有するわけ?」

「そこはこれから決めればいい。まずは全員座ろうぜ」

 促されるまま、窓側のソファに腰を下ろすと、四角いテーブルの三辺が埋まった。

「じゃあまずは現状の確認だ。二人ともこれはもらったよな」

 村井が取り出した、くすんだピンクの一枚紙をテーブルに置く。

 

 

 識別番号 I-1038 『ムスタング』

 

 ムスタングは北米に生息する野生化した馬

 嗅覚・聴覚・一部筋力に優位 不可逆型

 使用時:通信機の中央を強く押し込み、時計回りに回転させる

 

 

 書かれていたのはそれだけ。紙の色形から不親切さまで、朝に自分がみたものと共通している。

「この嗅覚だの不可逆だのAIに訊いても全く要領を得なかったんだが、お宅らはどうだった?」

 

《回答する権限がありません》

 それが今朝のジムの返事だった。

筋力とは、聴力とは、何と比べどの程度優位なのか、答えはすべて同じ。

 

「なるほど。だったらサポートモードも何も関係ない、全プレイヤー共通の仕様というわけだ。

とりあえず『能力』の元ネタは昆虫や動物で、俺はウマってとこだな」

 村井が紙をたたんでポケットに入れる。そっちも開示しろ、と言わなかったのは配信を見越し、

あるいは話の主導権を握るための戦略だったのかもしれない。

「じゃあそれも踏まえた上で、まず『イ号』への対応について。前回みたく逃げるか、戦うか」

「ちょっと」と尼野が手を挙げた。「戦うってどうやって」

「そりゃ三人がかりに決まってる。そういうためのパーティーだ」

「三人なら勝てるわけ? プレイヤーが倒せるようには見えなかったけど」

「褒賞がでるってことは倒せるってことだろ。しかもこっちは他のプレイヤーより明確な

アドバンテージがある」

「根拠になってない。ステータスもわからないのに」

「その通り。イ号も俺達もどれくらい強いかは変身して戦ってみないとわからない。それしか

知るすべが無いんだ。こいつに訊いたって答えないし。なあジム?」

《はい。権限を越える質問には回答できません》

 

 村井の極論にも理屈はあった。確かに数値データが見られない状態で変身して、その辺のNPCをいくら相手にしようとも、トレーニングモード以上の意味はないだろう。イ号に対して勝算があるかどうかは結局、本人と戦う以外に確かめるすべはない。

「そもそもタイミングが違ってたら? 弱体化イベントとかアイテムが必要とか」

 村井は運ばれてきたコーヒーをいっきに飲みほすと、これ見よがしに大きく息を吐いた。

「考えてみろよ。ボスが顔見せして、負けイベントからの討伐依頼を経て、パワーアップまで

したんだぞ。これは完全なフラグじゃないか」





*48行目の『パイソン』を『マスタング』に修正し、それに併せて50から64行までの関係部分も修正しました。
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