尼野はしばらく口を開かなかった。腕を組んで天井のファンを見つめる視線に、少なくとも
納得や満足の色は見えない。離脱の選択肢も当然考えただろうが、果たしてそれは正しいのか。
自分が置かれている状況は恵まれているのかいないのか。それを推し量るのは簡単ではない。
「とりあえず、そこまで急いで追いかける理由と、追いかけるためののアテを聞きたいんだけど」
一分近い沈黙を破り、尼野が言った。
「理由は単純さ。次回からは同じ『手術』を受けた奴が現れる可能性がある。というか
現時点で
言いながら村井はテーブルに置いた作戦内容のメモを引き寄せる。個人的には杞憂が過ぎる
としか思えなかったが、それが今のMMOだと言われれば、初心者に反論の余地はない。
「アテの方は正直、具体的なものは無い。とりあえず出くわしそうな作戦を選んで、
実際に出くわしたら」
「出くわしそうな作戦とは?」
「そりゃなるべくデカい作戦さ。こんな感じの」
村井がつまんだメモをひらひら揺らした。
5号作戦:もみじ川の青葉山ダムを爆破し、下流の市街地を水没させ、混乱ひき起こす。
「こういう序盤に成功したら逆に差し障りがありそうな被害規模の作戦なら、カウンターとして
強キャラが配置される可能性は高くなる。だからそういう作戦を選んで参加していけば、遠からず標的に辿り着くって寸法よ」
思ったより堅実なアイデアだったが、同時に短所も明確だ。
「急ぐ割には非効率ね」尼野が突っ込む。
「そこは仕方ない。ばらけたせいで各個撃破は最悪だからな」
「3対1なら安全なの?」
「安全とは言えないからこそのプランなわけだが、リーダーはどう思う?」
勝手に始めた話を妙なタイミングでパスしてリーダーも何もあるまいが、この手の明確な対立に
おいてよろしくないのは、中途半端な折衷案(間をとって2人と1人に分ける等)への妥協だろう。だったらコイントスでもジャンケンでもやってどちらの案かに決めれば済む、と考える一方
一人の反対を抑えたまま同じ行動を強いるのも、うまい手には思えなかった。結果が出なければ
不満が残るし、一緒に動いて全滅でもすれば目も当てられない。しかしバラければパーティーは
意味をなさないし、そんなことをした上で、もし自分が当たりを引いたら……
「2ー1に分かれるのはどうかな。間をとって」
今度は2人が黙る。どうやら折衷案がいただけないのは共通認識らしいが、こっちも
ただ保身に日和ったわけではない。
ジム、とコールしたのは少しでも説明の手間を省くためだ。
*前話について、間違えて古い下書きの内容をあげてしまったので修正しました。修正内容は前話のあとがきに入れています。