アジトの地下の奥深く、何故か密林の生い茂る沼沢地。
その緑灰色の沼のほとり、霧に包まれた湿原を見渡すように、バラ
苔むした岩の鎧から二本の腕をはやし、とぐろを巻いた太い尾が上体を持ち上げるその背後で
白い蒸気のスクリーンに、作戦区域の地図が投影されている。
「以上が4号作戦、電力接収計画の概要だ。疑義等あれば」
言い終わる前に、もやの奥で手が挙がる。それを褐色の魚眼がゆっくりと正面に捉える。
「424番。何かあるか」
どうあれ、やるべきことは変わらない。
「作戦内容について具申があります」
尼野が答える。
「…よろしい。発言を許可する」
向けられる視線とざわめきを意に介さず、ゆらめくスクリーンの前に出る。
「接収地点を現在の予定地から11㎞北上した、この三番配電塔へ変更することを提案します。
理由はこの青葉山ダムで行われる5号作戦との連携により、更なる成果が期待できるからです」
通信機のダイヤルを回すと画面いっぱいに広がっていた地図が一気に縮み、中心の④の上方、
等高線で囲まれた緑のエリアに⑤のマーカーが現れる。
「5号作戦の標的となるダムには発電機能がありません。ダムの管理事務所と警報局はこの配電塔から電力供給を受けており、これが遮断されれば一帯の警報システムは機能しなくなります」
予想通りPC達の反応は薄い。頭上に浮かぶ無数の「?」が見える気がした。
《ブリーフィングでプレイヤーが具申した意見は、作戦内容に影響を与えることがあります》
ジムは確かにそう言った。「手術」の内容についてあれこれ質問する内、たまたまた出くわしたこの情報を、この時点でどれほどのプレイヤーが知っていたのか、今となっては知る由もない。
「なるほど。警報を無効化した上でダムを決壊させれば、確かに成果は甚大なものになるだろう」
イールの首がぬるりと伸びる。
「で、それが
同僚=競合相手というのは、この手の組織にありがちなパターンだ。なら却って話は早い。
「我々にとっての利点は、作戦地点が近づくことです」
ぐるりと周回する様にのぞき込む700系のような顔に目もくれず、尼野は続けた。
「配電塔からダム管理事務所はすべて1㎞圏内にあり不測の事態にはすぐ駆けつけることが
できます。例えば……」
沼地に漂うむせ返る様な静けさ。だが肝心なのは、伝えるべき相手に伝わるべき内容が
届いたかどうかだ。
「よかろう。同志424番の提案に基づき、作戦地点を変更する」
宣言するように、イールは告げた。