ラボを切り上げ戻ってきたスナックの個室に、サラリーマンがいた。
背広にメガネに七三分けの、それはもうサラリーマンとしか言いようのない風体で、こちらに手を振っている。
「待たせて申し訳ない。ちょっと手間取ってね」
「……村井か?」
面くらいつつも問いかけると、サラリーマンはうなずいた。
「正確には武藤っていうらしいけど、ややこしいから村井ということで」
自分としては見た目の違いよりも、口調のほうに引っかかったが、それを解消するには至らなかった。
「変身!」とだし抜けに村井が叫んだからだ。
声はひとしきり部屋を反響し、消えた。
「この通り、別人になって能力もなくなってる。ま、残ったところではあるが」
額に落ちる前髪を払いながら、村井は言った。
「で、これからどうするの。束になっても勝てなさそうって話だけど」
村井を待つ間、何度も話にのぼった現時点でのイ号についての認識を、尼野がぶつける。
「そこは同意だな。確かに数やチームワークでどうなる相手じゃない」
「じゃあ『完全なフラグ』は撤回するわけ?」
「個人的に撤回の必要は感じないが、こちらが追い詰められつつあるのは間違いないな。プランも
「ほとんど」におかれた明確なアクセント。確かに外見は変わっても、中身に変化はない
らしい。
「この期に及んで勿体つけるからには、よほどのプランが残ってるみたいね」
本題に入り始めたとみるや、村井に尼野が切り込んだ。
「勿体つけてるわけじゃない。ただ真っ先にやられた人間から、仲間に偉そうに指図するような作戦は切り出しにくくてね」
「偉そうに指図するようなアイデアしかないわけ?」
「なにせこっちはほぼ戦力外だ。どうしても自分以外に頼よらざるを得ない」
こちらを向いた尼野と目が合う。
おまえも何か言え。こいつを黙らせる対案はないか。
実のところプランはあった。特に創意や工夫を凝らすでも、画期的なひらめきを洗練させるでもない。ここまでの経緯とゲームの仕様、その他諸々の条件を考慮し消去法的に突き詰めていけば、おのずとたどり着くであろうシンプルな結論。
「聞いてから決めればいいんじゃないかな。とりあえず」
それを口にせず発言を促したのは、予感があったからだ。
戦闘員にヒーローを倒す方法があるとすれば、それは。
「変身前を狙えばいい」
案の定、村井は言った。