昭和レトロMMO(仮)   作:700pack

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修正した2話の続きになります。


プロフィール

オリンピックが決まり、台風で五千人が死んだ年、俺が生まれた。たぶん。

たぶんというのは、自分が入れられた箱には数枚のタオルと名前らしきものの書かれた紙の他何も入ってなかったからだ。

 

 

 

 

採用通知書

有限会社島野工版 代表取締役社長 島野英雄

 

市川健一 様

 

このたび弊社の選考試験の結果、貴殿を弊社経理職に採用させていただくこととなりました。

貴殿の熱意と可能性がわが社の未来を切り拓く力になることを固く信じております。

 

「市川!」

通知書を渡しながら担任が言った。心なしか声が湿っぽかったのを覚えている。

「良かったな。一時はどうなることかと思ったが、本当に良かった」

「ありがとうございます」

素直にそう答えると、うんうんとうなずき肩をたたきながら次の生徒の名前を呼んだ。

 

進路指導室を出ると待ち伏せていたクラスメイト達が俺を取り囲む。男子も女子も不安と緊張の

混ざった表情でこちらを見つめている。俺が判決用紙よろしく手にした通知を広げると

わあっ、とみんなの歓声が上がった。

 

今どき普通の中学生の10人に9人は高校に上がるが、施設育ちはその逆で

大抵は16の誕生日を待たず(誕生日が分かっていればだが)寮を出ることになる。

お世辞にも優等生とは言えない自分には悪い話ではなかった。どうせ学で飯が食えないなら、

ましてこの不況のおり、さっさと稼ぎ始めた方が何かと都合が良いはずだ。

 

そんなわけで中学に入ってからは就職活動、すなわち内申第一の堅実な学校生活を心がけ

なんとか東京の印刷会社に住み込み付きの内定を得ることができた。はずだった。

 

 

 

 

日頃より島野工版をご贔屓いただきありがとうございました。

越年の材料費高騰により力及ばず事業をたたむことと相成りました。

長年のご愛顧心より感謝致します。

 

黒ずみ、はしがめくれ、まともに閉じないほどぼこぼこにへこんだシャッターの、やけに真新しい張り紙の前で、呆然と立ち尽くしていた。

「おう!」

いつからか自分に向けられていた太い声に気づき、ふらふらと振り返る。

丸刈りに派手な柄シャツのいかにもな風体の男がこっちを睨んでいた。

「お前ここのモンだな」

荷物を抱え立ち尽くす自分にがに股で歩み寄り、ソガ隊員のような強面を近づける。

「社長はどこだ?しらばっくれるとためにならねえぞ」

「おい。やめとけ」

後ろに控えていたもう一人が前に出る。パンチパーマにスーツとまたいかにも兄貴分らしい男は

丸刈りをいさめながら俺の肩に手を置いた。

「兄さん、ついてなかったな」

 

珍しいことではない。油価は跳ね上がり会社はつぶれる。内定先も例外じゃなかっただけだ。

ただ状況はわかっても、どうすればいいかは見当もつかなかった。

 

そこからについてはあやふやな部分も多い。

バス停のベンチに座ったり公園で水を飲んだり途切れ途切れの記憶はあるが、気付いた時には

荷物を背負って見知らぬ商店街を歩いていた。

今思えば方法はいくつもあったはずだ。なんとか中学や寮に連絡を取る。それが難しいなら

役所かどこかに相談に行くか、極端な話公園や路上で寝泊まりしたとしてものたれ死ぬようなこと

になる前に警官に声を掛けられるか何かして、どこかしらの施設か仕事を紹介されたりして

なんだかんだでそれなりのところに落ち着いていたかもしれない。

が、そのときの自分にそういう発想はまるで浮かばなかった。頭にあったのはとにかくこの背中の

負担をどこかへやってしまいたい、というほとんど衝動に近い思いだった。いっそその辺に捨てて

しまうか、となりかけたとき、その看板が目に入った。

 

古本  高価買取 悪品歓迎

 

背中にかけた学校指定のカバンを下ろしチャックを開ける。ぎちぎちに詰め込まれた衣類の底から

『実践簿記』と書かれた分厚い本を取り出した。

「いらっしゃい」

からからとドアの鈴が鳴る音に、奥に座る店主は顔も上げずに言った。

「あの、買取お願いしたいんですが」

カウンターに置いた本をベレー帽の店主は無言のまま、ペラペラとめくり始める。

あらためてみるとあちこち痛んで色落ちもひどい。いくらなんでも値段がつくのか。ページが

めくられるたび、持ち込んだ恥ずかしさの方がつのる。

すみませんやっぱり、と手が伸びかけたところで

「1500円」と店主が告げた。

「は?」

「併せて定価3000円の半額引きで1500円。いやなら」

「い、いえ、いいです。それでお願いします」

今にして思えば妙なことは他にもあった。客がいないのはおくとして買値のわりに本棚はガラガラで並べ方もバラバラ。しきりもなく本がいくつも横倒しになっている。それが気にならなかった

のは、高値に浮かれていたというより後ろの張り紙に目がいったからに違いない。

 

 

職員募集 人材求ㇺ  日当 壱万円ヨリ

事務・屋外作業 他  社員待遇アリ  三食・寮完備

 

                  スタア興産マデ 

 

 

 

 

 

 

 

 

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