昭和レトロMMO(仮)   作:700pack

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下宿にて

布団の中にいた。

見たことないほど薄っぺらい、100均で売り出せそうな布団。

 

体を起こしてあたりを見回す。うす暗い部屋。広くはない。せいぜい数メートル四方。

右手に見える窓にはカーテン。ほころびた生地の間から白い光が差し込んでいる。

 

《現在サポートモードを起動しています》

"ジム"の声が響く。

《音声・映像その他ゲームの動作に関して問題はありますか?》

「さっきのは?」

《申し訳ありませんが、質問によっては圧縮率の調整が必要となる場合があるため進行上

できれば先に動作確認を…》

「……」

無言で立ち上がりカーテンを開ける。古い木造の二階から朝の通りが見えた。まだ人気のない道にボーボーという鳥の音や魚の焼ける匂いがただよっている。

「問題ないと思うけど」

《承知しました。テストプログラムを続行します》

 

トントンと短い足音が階段を上り、部屋の前で止まる。

「あ」

引き戸を開けると、戸口に立った昔風の、いわゆるおかっぱの少女が声をあげる。

《吉野りえ 10歳 小学四年生 あなたの下宿先の一人娘です》

「お母さん、ケンちゃんもう起きてる!」

ドンドンと下る足音が遠ざかったあと、ゆっくり戸口へ進んで外の様子をうかがってみる。短い

廊下の突き当りに急な階段が続き、一階からテレビの声が聞こえてくる。

《階段を降りることでイベントが進行します》

引き戸を閉じるとジムが言った。

《ただしゲーム全体もリアルタイムで進行しているため、他のキャラクターの行動で状況が変化

することがあります》

確かに、さっきのチュートリアルと比べるとはるかに親切だ。というか無しで成立するのか?

「それで、この家は」

《ここはあなたの下宿です。下宿とは他人の》

「それは知ってる。ゲーム上でどういう役割があるのか?」

《ゲーム内ではあなたのPCである市川健一の行動拠点となります》

 

ようやく肝心なことを思い出す。

「で、結局さっきの採用通知とか本屋とか、あの夢みたいのは」

《プロフィールです》ジムが言った。

《今のところ、市川健一が現状に至るまでの最低限度の情報のみですが、ご要望が》

「待て。 市川って自分の名前?決まってるの?」

ゲームを開始して以来、外見・ステータスのメイクはおろか、名前入力すらした覚えがない。

《正確にはあなたのPCの苗字です》

落ち着け。訊き方が良くなかっただけだ。そうに違いない。

「そういう設定は最初から決まってるのか」

《はい。本テストのシナリオは管理プログラムによって一元管理されており、これに基づいて

すべてのキャラクターの設定が行われ、プレイヤーに対しては原則ランダムで割り振られます》

「つまり自分のキャラの外見もステータスもランダムで、自分ではいじれない?」

《少なくとも本テストにおいてはその通りです》

 

このゲームの開発元である『造山計画』は日本のメーカーではない。《UTS》のメインスタッフは日本人もいるらしいが会社の本籍はコモロ諸島、つまり国際的な表現・AI規制の外にある

e-ヘイブン企業だ。娯楽産業におけるAI規制とそれに伴う表現規制が始まって以降、eh(イーヘイブン)

おける"プログラム"は脱法(イレギュラー)AIやAIの不適切使用を取り繕う言葉に過ぎない、

なんて議論はいちテストプレイヤーの領分ではない。

今やAIによるシステム管理や24時間対応をうたうゲームは増えつつあるが、クエストやシナリオ

だけでなくPCを含む全キャラクターの生成まで一任するというのは聞いたことがない。

そもそもそれで本当に面白くなるのか。そこもやはりテストプレイヤーの領分ではないだろう。

 

ただ、頼みもしない怪文章(フレーバーテキスト)を勝手に流されるのはいただけない。

 

「ジム」

《はい》

「プレイに関係ない情報を見せるのは、同意をとってからにしてくれ」

《承知しました》

 

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