「警察以外に邪魔されるとかは?」
「警察以外とは、自衛隊のことか?」
「いや…ヒーローとか」
「ヒーロー?米軍か何かか?」
「……」
押し黙ったのは213だけではない。これ以上の質問に意味はないと、全員が悟ったかのような
沈黙が流れる。
「むろん、諸君をいたずらに危難にさらすつもりはないが、いかに入念に準備された計画にも
リスクは存在する。虎穴に入らずんば虎子を得ず。人の陰に隠れて逃げ回るばかりでは、
出世はおぼつかんぞ」
広い洞と洞をつなぐ細い横穴、学校で言う渡り廊下のような回廊に出ると、入れかわりに
外にたまっていた戦闘員たちがリンクスの洞へと入っていく。時間内なら説明はいつでも
受けられるらしいが、早めに来たせいかどこも異様に混み合っていた。
「今ので最後だな。で、どれにするんだ」
洞を出るなり645が言った。最初のホール以来、
《サポートNPCは死亡するまであなたに付き添います》
先回りするように、ジムが言った。
645はさっきと同じく、時間が停止したようにこちらを見つめたまま動かない。おそらく
自分が応じない限りずっと。
《NPCによるサポートはプログラムの進行によって段階的に解除されますが、プレイヤーによる
解除も可能です》
「これにしますよ。バス襲撃」
「よし。ちょっと待っててくれ」
そう言うと混み合う通路を引き返し、もと来た方へ戻っていく。何を待つのかわからなかったが、話すには好都合だ。
「ジム、サポートキャラしか知らない攻略情報とかあるの?」
《いいえ。助言や質疑応答に関してはすべて私にも可能なものです》
「ならNPCは次の作戦まででいい。あと、しゃべる以外でやりとりできないのか。チャットとか
メッセージとか」
《製品版についてはお答えしかねますが、本バージョンではそうした機能はございません》
「じゃあ、いちいちこうやって、声に出して、聞くしかないと?」
《その通りです》
つまり、例の仕様ということだ。なら気にしてもしょうがない。
「参加の決定はどこでやるんだ?まさか担当のとこまで伝えに戻るのか?」
《それでも可能ですが、参加の決定はその腕時計型端末から行えます》
…考えるのはやめよう。
「よう、待たせたな」
大きく手を振りながら歩いて来る645。およそ不自然な動きだが、そうでもしないと似たような恰好が多すぎて、区別できなかったに違いない。なので、おっさんの後ろにもう二人、別の戦闘員が連れ立っているとわかったのは、三人がかなり近づいてからだった。
「…そっちの二人は?」
「なんだよ。話が通ってないのか」
口を開いたのは108番、二人のうち背の高い方だった。
「そのおっさんに誘われたんだ。組まないか、って」
がっしりした体格と、吹き替え映画の悪役のような通る声。
「前回のこともあるし、数は多いほうがいいと思ってな。同じ目当ての連中に声かけたんだ」
そのまま自己紹介でも始めそうな645に先んじて、確認すべき質問をする。
「二人は…NPC?」
108が首を振った。
「俺は108番で、はむ夫。あ、はむ夫はアカウントな。PCの方は村井って言うらしいけど、
まあ好きに呼べばいい。そういやそっちは聞いてなかったな、名前」
村井が隣のもう一人に視線を向ける。
その体がひどく華奢に見えたのは、横との対比効果だけではなかった。
「424番」
子供の声だった。