昭和レトロMMO(仮)   作:700pack

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不慣れ

「へい、またそれかよ。こっちはアカウントまで教えたのに」

村井の言葉に、424は無言のまま腕を組んでいる。ご丁寧にマスクもタイツも子供サイズだ。

「まあまあ。よくわからんが、突っつき合うのはやめようじゃないか。仮にも仲間同士」

「関係ない」

はねつける様な視線が645(おっさん)を刺した。

「識別は番号で十分でしょ。それ以上の情報を教える必要があるの?」

すん、と空気の冷える音が聞こえるようだった。

 

「別にいいよ」

思わず言葉が口をついた。もめ事に割って入るという、普段の自分なら考えられない行動に走った

のは、逃げるに逃げられない状況での気まずさを回避したい欲求からだ。

「一回組んでみてダメだったら抜ければいい。死んだって大して困らないし。

名前も呼ばれたいように名乗ればいい。ちなみに自分は市川健一で、番号は」

…そういえば、いくつだ。チュートリアルでもここに降りてからも、鏡は見ていない。

「593」

424が告げた。額に記された番号の下から、二つの瞳がまっすぐこちらを見る。

「番号はわかる」

「ああ、そうね。…それで問題あるかな?」

 

「無いな」村井が答える。

「せっかく当選したんだし、できるなら快適にプレイしたいと思っただけさ。なあ?」

「尼野ひろみ」

どちらを向くでもなく424が言った。

「なんて?」と聞き返す村井に、表情(エモート)ひとつ変えず続ける。

「名前。尼野でもひろみでもお好きなように」

 

「じゃあ、とりあえず四人で、申請してくるから」

左腕の端末を使わず、わざわざ洞へと戻る645。その背中が遠くなるのを見届け、

村井がこちらを向く。

「あれはAI、いや“プログラム”か」

「…サポートNPCって聞いたけど…」

「あー、言ってたなそんなの。まあいいか」

肘を曲げ、背伸びのように体をしならせる。プリセットであれマニュアル動作であれ、恵まれた

体躯による可愛らしいポージングを間近で見せられると、名状しがたい気持ちになる。

 

「こっちも確認しときたいことがあるんだ。自分は配信やってて、わかるよな配信?」

「プレイ動画をあげたいってこと?」

尼野が言った。すでに声からとげのようなものは消えている。

「ご名答。まあ、大して見られても無いんだが、ゲーム画面は原則すべて録画してる。

当然キャラは映るし、やりとりを何だったら面白おかしく切り貼りするかもしれない。

もちろんできる限りの配慮はするつもりだけど、要望に100%応じるのは多分不可能だ」

反応を探るように村井が続ける。

「だからそれに関してもさっき言ってた、不都合があればいつでも離脱OKってのがお互い

便利だと思うんだが、その辺りどうだ?」

 

いつでも離脱OKと言った覚えはない。ないが、正直どう答えたものかわからなかった。

MMOほぼ未経験の自分からすれば、パーティーを組むということ自体がそっもそも想定外で

前もって聞かされれば、まず却下したに違いない提案だ。

ただ()()()()()()()パーティーを組むメリットは大きいはずだし、何より自分が既にホストの

ようになってしまっている以上、ここで「無かったことにしてくれ」と言えるはずもなかった。

配信うんぬんについても気になる点はあったが、どうあれ話がまとまりかけているときに

あれこれ尋ねるのも何となく気が引けていた。

 

「で、こっちの取り分は?」

そういう点からして、尼野の存在は幸いだったと言える。

「取り分って、出演料のことか?」

うなずく尼野。村井の返事は早かった。

「いいぜ。どうせ全然回ってないからな。三等分してもジュース買えるかどうか」

「契約の有効期間は?次の作戦まで?」

「おれの方はそれでいいぜ。離脱自由ったって何かしら区切りは要るしな。細かいことは一回

やり終えてから決めても遅くない。だろ?」

同意を求めるようにマスク越しの笑みを向ける村井に「もちろん」と応じる。

こっちが初心者だと察し、自分からイニシアティブをとろうとしているのなら、初心者としては

願ったりで、あえて逆らう理由も無い。

「決まりだな」

三人の輪の外に、いつの間にというかやはりというか、645(おっさん)が立っていた。

「話もまとまったところで、懇親会といこう」

 

 

 

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