よう実世界に転生した畜生系主人公が神室真澄に心を打ち抜かれる話   作:サンディエゴ

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一巻
畜生系主人公が神室真澄に出会って心を奪われる話 ★


 

 

 いったい、俺は前世でどんな罪を犯したのだろうか。

 

 輪廻転生という概念がある。

 

 

 ぶっちゃけ詳しくは知らないが、要するに()()()()()()という考え方だ。

 

 

 命は死ぬとまた別のなにかに生まれ直す。

 とても素敵な考え方だと俺は思う。

 

 

 死んだらそれで終わりってのよりは、夢があるだろ?

 だから俺も、前世があったならそんな風に生まれ変わっていたらいいなー、なんて考えていたのだが……。

 

 

 

 うん、まあ、あれだ。

 

 

 結論から言えば、転生自体はあった。

 問題があるとすれば、転生した「先」だった。

 

 

 

 

 

 なぜか俺は――人ではなく、《猫》として生まれてしまったのだ。

 

 

 

 

 

――――

 

 

 

 朝焼けが校舎のガラス窓に映り込み、やわらかな金色の光が静寂を割くように差し込む。

 桜の花びらが、時を忘れたように一枚、風に乗って舞い降りてきた。

 

 

 

 俺はその花びらを、じっと見ていた。

 

 

 

 別にセンチメンタルな気分だったわけじゃない。

 風に乗ってふわふわと舞い降りるその動きが、本能を刺激して、やたらと気になって仕方がなかったのだ。

 

 

 

「にゃあ」

 

 

 

 思わず声が漏れる。いや、「鳴く」というべきか。

 柔らかい四肢、愛くるしい肉球、しなやかな背骨、そしてまるでセンサーのように機能する耳とヒゲ。

 

 それらを備えたチャーミングな小型哺乳類らしい鳴き声だった。

 

 

 

 ……本当になんでこんなことになったんだか。

 

 

 

 吾輩は猫である。

 名前はまだ無い。

 

 

 なにせ野良だからな、野良。

 せめて家猫として生まれることができれば、もうちょっとマシだったんだろうが、二度目の俺の人生――いや、猫生は、生まれたときから苦難に満ちていた。

 

 ただの野良ではなく、おそらくは捨て猫だ。

 親猫もおらず、気づけば河川敷の粗末な段ボール箱に、小さな黒猫の俺は居た。

 

 ただの猫だったら、たぶん生きていくことはできなかっただろう。

 だが、俺は生き延びた。

 

 普通の猫とは違い、俺には「知恵」があった。

 それを駆使して、人間社会の片隅で、なんとか生き延びてきた。

 

 目的もなく、ただ日々を生き抜くだけの猫生。

 そんな日々に変化が訪れたのは、とある捨てられた雑誌のページを見たときだった。

 

 

 

 その雑誌のページには、こんな言葉が書かれていた――《高度育成高等学校》。

 

 

 

 単語を見た瞬間、前世の……人間だったときの記憶が蘇った。

 

 ほとんど人間であったということと、継ぎ接ぎだらけの記憶の残滓しか残っていなかったはずなのに、あることを思い出した。

 

 

 

それは、俺が前世で読んでいた「物語」のこと。

つまり―――

 

 

 

 

 

「にゃあああああ!?」

 

 

 

 

 

 ここは『ようこそ実力至上主義の教室へ』の世界……ってこと!?

 

 

 

 それに気づいてからの俺の行動は早かった。

 

 どうせ特に目的もなく惰性で生きている野良の猫生、ただ燻って生きているくらいなら原作の舞台に突撃してぇよな!? しました!

 

 

 ここが『よう実』の世界だと知った途端、俺は高度育成高等学校へと向かった。

 反省はしているが、後悔はしていない。

 

 よくよく考えると、そもそも原作軸の時間なのかも分からないし、ただの野良猫でしかない俺には確かめようもなかったが、重要なのは「パッション」だ。

 

 

 勢いって大事だよね、うんうん。

 勢いのおかげで侵入できたし。

 

 

 えっ、なんだって? そんなに簡単に潜入できるものなのかって?

 

 

 そりゃ、人間がこっそりと侵入するのに比べて、今の俺はただの猫だ。

 やろうと思えば特に難しくはない、猫は液体だし。

 

 それに野犬ならともかく、野良の猫が入り込んでいたとしても、たいした騒ぎにはなりやしない。

 

 実際、至る所に仕掛けられた監視カメラを興味本位で「おー、これが例のSシステムの……。あっ、ここにもある」みたいな感じで見て回ったので、存在自体は認知されていたはずだが、それでも特にアクションは起こらなかった。

 

 まあ、猫だからな。

 猫ならば仕方ないのだ。

 

 犬とは違うのだよ、犬とは。

 

 それはともかく。

 そんな風に俺は気ままに、かつて読んだ物語の舞台を楽しんでいたわけだが――

 

 

 俺はその「始まりの日」、運命の出会いをすることになった。

 

 

 その日、校舎近くのベンチの下で、しっぽをぱたぱたと振りながら眺めていた。

 大勢の新入生の生徒たちが、歩きながら談笑していた。

 

 高笑いの男子生徒、無表情の男子生徒、美しい黒髪の女生徒。

 それらを確認し、俺はようやく確信できた。

 

 都合のいいことに、ちょうど原作が始まった時期らしいことを。

 

 そのことにホッと安堵の息を吐きつつ、さてどうしたものかと俺は悩んだ。

 正直なところ、勢いでここへは来たものの、原作に介入したいとかそういった目的があったわけではないのだ。 

 

 これが仮に人間だったら考えたかもしれないが、今の俺はただの野良猫でしかない。

 

 喋ることすらできない畜生の分際で、どうしろと。

 やれることといえば、原作の様子をこの目で眺めながら、こっそりと悦に入るぐらいだ。

 

 ――それでいいと思っていた。

 

 だが、そんなときに彼女が現れた。

 

 菫色の美しい長い髪をサイドテールに束ね、涼しげな目元とやや鋭いラインの眉が特徴の美少女。

 

 

 凛とした、少しきつめの雰囲気をまとった彼女の名は――神室真澄。

 

 

 原作に登場していた女の子だ。

 そして、俺の推しでもある。

 

 きつめの美人というキャラデザが、すごく刺さった記憶がある。

 そんな彼女が――

 

 

「………」

 

 

 今、目の前にいた。

 

 

 

「………」

 

「………」

 

 

 

 現在の時刻は、日が落ちるか落ちないかという頃合いだ。

 ぶらぶら歩いていた俺は偶然、神室と出会った。

 

 

 完全な不意打ちでの出会いだった。

 実物の神室はとても美人で、俺は魅入られたように動けない。

 

 

 

 はえー、すっごい美人。

 

 眼福、眼福……。

 

 

 

 そんなことを考えながら俺は彼女を眺めていたのだが――

 

 

 

 あ、あれ……? おかしくない? なんかこっちをジッと見つめて……こ、怖っ!

 

 

 

 なぜか神室はこっちに視線を向けた状態でピクリとも動かない。

 彼女は雰囲気がちょっときつめの美女なので結構目力が強い、なのでジッと見られると落ち着かない気分になるのだが俺はなんとか耐えて彼女を見返した。

 

 

 

 な、なぜだ!? なぜ俺を見て動かないんだ? 俺はなんてことのないただの黒猫……チャーミングな黒猫なのに――って、はっ!?

 

 

 

 俺の脳裏に一筋の電流が走った。

 確かめるためにおそるおそる口を開き、

 

 

「にゃあ」

 

 

 と鳴いてみた。

 すると神室はピクリッと肩を揺らし、急に辺りを見渡すと慎重に距離を詰めてきた。

 

 

 その表情にはどこか緊張の様子が窺えた。

 

 

 それを見て俺は確信した。

 

 

 

 

 やはり――やはり、そうだったのか! 神室真澄、所詮お前も女の子ということか……! いいだろう、存分に愛でるがいい。

 

 

 

 それなりに猫生を生きてきたからこそわかる。

 

 

 猫とは愛でられるものだ。

 とくに女の子からの受けがいい。

 

 

 生きていく上で俺は最大限にそれを生かした。

 他の野良猫たちとは違う、毎日の身だしなみのチェック、毛繕いに労力を割いた俺の身体は飼い猫にも劣らない気品と清潔さがある。

 

 

 その武器を駆使して俺は厳しい野生の世界を生き抜いてきた。

 数々の女の子を骨抜きにし、そして餌を恵ませた。

 

 

 その毒牙に神室はかかってしまったということだ。

 いや、今からかかってしまうというのが正しい表現だろう。

 

 

 近づいてくる彼女に対し、逃げもせずに待っていると神室はどこか期待感に満ちた目をしながら膝を折ってしゃがみこみ、手を差し出してきた。

 

 

 

「かわいい……けど、また逃げられちゃうかな?」

 

 

 

 不意に彼女が呟いた言葉に俺はピンとくるものがあった。

 

 

 それは彼女が猫には避けられる体質の人間であるということだ。

 

 

 猫になってみてわかったことだが猫は動物の中でも結構感覚が鋭敏な方だ。

 なので邪念というか、ちょっとばかし触りとか愛でたいみたいな意識が強すぎるとそれを察知して逃げ出すことが多い。

 

 

 彼女もそういった類いの人間なのだろう。

 実際、俺も圧力のようなものを感じたし。

 

 

 しょうがないな、サービスをしてやるか。その代わり、ちょっと弾んだ餌を頼むぜ?

 

 

 シニカルな笑みを浮かべながら、俺は差し出された手のひらに鼻を寄せた。

 そして、優しく頬ずりをする。

 

 

 自分は逃げないぞ、というアピールをするように。

 

 

 彼女の目が、みるみる丸くなっていく。

 

 

「え……逃げないの……? うそ……うそ、でしょ……?」

 

 

 おそるおそるといった風に神室は俺の頭を撫でた。

 緊張と驚きで、指先がわずかに震えているのがわかる。

 

 

 彼女の声には隠しきれない喜色が混じっているのを察し、俺は甘えるように鳴いた。

 

 

 

「にゃあ……」

 

 

 

 普段のクールな表情などどこにいったのか驚きに目を丸めている神室を見て、

 

 

 

 ふっ、堕ちたな……。俺の魅力にかかればこのぐらいなんてこと――

 

 

 

 そんな勝利宣言を内心で呟いた瞬間のことだった。

 

 

 

 ふわりっとあどけない顔で神室は笑った。

 そして、

 

 

 

「にゃーにゃー、この子……かわいすぎる、にゃー」

 

 

 

 ………?

 ……………???

 ……………………?????

 

 

 えっ、なんて?

 

 

 神室が? 神室真澄が? クールで美人系のサイドテールちゃんの神室真澄ちゃんが?

 

 

 

 

 にゃー? にゃーにゃー? にゃーでにゃーがにゃーにゃーで猫にゃー……???

 

 

 

 

 

 ―――アッ!!!!!(尊死

 

 

 

 

 俺はこの日、運命に出会った。

 女神に心を打ち抜かれたのだ。

 

 

 

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