よう実世界に転生した畜生系主人公が神室真澄に心を打ち抜かれる話 作:サンディエゴ
「情報は出揃いましたね」
「例の件、Cクラスの実行犯が石崎ってやつらって話か? 真澄ちゃんからの情報だけどさ……」
「なによ、なんか文句であるの?」
「いや、その……なんていうか確証というか根拠というかそこら辺を教えて欲しいんだけど」
橋本の言葉にご主人はどこか自慢げな様子で答えた。
「ホームズがやってくれたのよ」
ご主人、説明になってないぞご主人。いや、まあ、ボイスレコーダーでの録音の件は言えないからそう言うしかないのもわかるんだけどさ。
いや、でもこれご主人ってばこの説明だけでいけるって顔してるな。「これで十分でしょ」みたいなそんな雰囲気だわ。
さすがに無理が――
「ホームズなら仕方ありませんね」
「ああ、ホームズなら仕方ない」
ご主人の言葉にそう同意をする坂柳と葛城。
邪ロリに関してはなんか天才ならではの妙な察しの良さというか勘の鋭さを見せるのでいいとしても、葛城はそれでいいのか……いや、鬼頭のやつも頷いているな。
やだ、俺の信頼度高すぎ……?!
でも、正直嬉しい。Aクラスは仲間なんだ!
「いや、それで流して良い話か!?」
やっぱり橋本はダメだな。
いや、たぶん橋本の言っていることの方が常識的には正しいんだろうけど。
「なんですか、私のライバルに不満があるとでも?」
「姫さんは猫をライバル視していることに疑問を持とうぜ??」
「はあ、これだから凡人は」
「姫さん??」
「ともかく、真澄さんからの報告は信じます。その前提で話を進めるのであしからず」
橋本が「えっ、俺が悪いのか?」みたいな顔をしているがみんな気にせず話を進めることになった。
「ともかく、Cクラスの実行犯がわかったのなら事件に介入するのはそう難しい話ではなくなりました」
「ふむ、その件なのだがな……。正直な話、Aクラスが介入するべき話なのか? 他クラス同士の話なわけで」
「……ただの諍いならともかく、わざと事件を起こそうとしているのは少し違うんじゃないか」
「むっ、鬼頭」
「おやおや、鬼頭くんがこういった場で口を開くのは珍しいですね?」
「別に」
やめてやれよ。どう考えても佐倉への影響を考慮して言っただけだろ。狙いは須藤とはいえDクラスを標的しているなら巻き込まれる可能性があるからな。
わかっている癖にみんなの前でそんなこと言うとか……このメスガキがよぉ!
「ふふふっ、そういうことにしておきましょう。だからホームズ、うずうずしないように。飛びかかる体勢を取らないように。いいですね?」
「ふむ、よくわからないがたぶん坂柳が悪いんだな。それだけはわかった」
「葛城くん??」
「話を進めなさいよ。今日の幹部会の招集はアンタがやったんだから」
「わかっていますよ、真澄さん。まあ、葛城くんの言うこともわかります。ですが鬼頭くんが言ったように、今回のCクラスの行動はわざと事件を起こさせようという策謀の部類。標的こそDクラスですがこれがうまくいき、味を占められてしまっては困る――そう思いませんか?」
「それは……たしかにな。一度成功してしまえばその成功体験から何度も行うようになる。次に狙われるのはAクラスかもしれない。そう考えると対策は必要か」
「現時点でも対策はしていますが万全の対策というのは難しいですからね。できれば割が合わないと認識してもらわないと困ります。……まあ、同じ手を何度も使うかは些か疑問ですが」
「姫さん?」
「……いえ、まだCクラスのリーダーのプロファイリングができていないだけです。ともかく、Cクラスの策謀を成功させるわけにはいきません」
「だから介入すると……。標的にされたDクラスが対処する可能性は?」
「現時点では難しいでしょうね。平田くんや櫛田さんではうまく対処できるかどうか……私は難しいと考えています」
「現時点では……というと?」
「Dクラスはまだ未知数ですからね。あるいは誰か別の実力者が指揮を執るなら話は変わってくるかもしれません。ですが、それはあくまで可能性の話」
「坂柳の予測ではDクラスの自力解決は難しい、と」
「そもそも今回の事件、Cクラスのやろうとしていることは酷く単純です。カメラのない場所におびき寄せて事件を起こす。とてもシンプルなだけに起こってしまえば対応することは困難を極めます、それこそ偶然事件現場を見ていた証人などが居なければやったやられたの水掛け論にしかなりませんから」
「けどよ、裁判にまで持っていく事件にはそれなりに重大な問題にしないといけない話じゃないか。だから、傷害事件をでっち上げるって話のようだけどその須藤ってやつが挑発されても殴らなきゃ事件にならないんじゃないか?」
「須藤くんが殴ってくれれば一番いいですけど、殴られなくても別にいいんですよ。怪我なんて自分で作ってしまえばいい。重要なのは須藤くんとカメラも人目のない場所に行った事実、それと負わされた怪我さえあれば主張はできます」
「そ、そこまでするか」
まあ、龍園ならやるね。そんなわけで須藤が耐えたところで意味が無いんだよなー。誘き出された時点でもう条件は達成しているようなもんだ。
「須藤くんの風聞が悪いのも印象が悪いのも影響しますね。というかだから狙っているのでしょうけど。橋本くんが調べた範囲だと入学して何度か上級生と言い争いをしたり、怒声をあげていたところ目撃されていたとか?」
「ああ、そうだぜ姫さん。かなり普段の態度が悪いやつだな。ただスポーツに関しては案外真面目な態度らしいけど……」
「おや、そうなんですか? スポーツに関しては真摯に向き合っていると。それは意外でしたがやはりここで問題となってくるのは普段の態度ですね」
「スポーツをしているときは真面目など同じ部活仲間ぐらいしかわからないことだろうからな」
「怪我のあるCクラスと普段の態度が悪い須藤、やったやられたの水掛け論に持ち込まれたらどうなるか」
「まあ、難しいわな」
橋本がそう締めくくった。
実際、そうなんだよな。原作でも正規の手段ではどうあがいても勝てる要素がなかったから相手に訴えを取り下げさせる手段を実行したわけで。
普通に詰んでたんだよね、あの場面。
「証人がいない、当事者だけしかいない場所で起こった事件の解決なんてものは一般的にも困難を極めるものですからね。やはり自力解決は難しいと判断するしかありません」
実に真っ当な思考だな。裏技に近いとはいえ、あれをなんとかできた綾小路がおかしいのであって……って、ん? あれれ?
「そこで我々Aクラスの出番です。Cクラスとしても他クラスの介入は想定の範囲外のはず。その謀略を突き崩し、Dクラスを助けて差し上げましょう。そう――つまりは善行、これは義挙なのです」
「坂柳――変なものでも食べたのか?」
「葛城くん、私は知ったのです。正義や大義を背負ってとっちめた方が楽しいのだと」
「よかった。いつもの坂柳だ」
うーん、この坂柳の扱いよ。だいたい、凶悪なことしかいわないからな……。
「で、具体的な方法は?」
「極めてシンプルな方法を取ります。実行犯である石崎という生徒を監視して事件の現場を撮影、あるいは録音して証拠を掴むのです」
「ようするにストーキングして犯行現場をおさえるってことか。けどよ、石崎だって危ない橋を渡ってる自覚はあるだろうし周囲の警戒くらいはするんじゃないのか」
「問題はありません。私には秘密兵器がありますから」
「秘密兵器? ……誰のことだ?」
「隣に居ますよ? 橋本くん」
「えっ――うおっ!?」
坂柳の言葉を聞いて隣を見た橋本は女の子の存在に気づき飛び上がった。
女の子に失礼だろうが橋本ォ! というか気づいていなかったのか橋本ォ! ……まあ、葛城や鬼頭、ご主人もビクッとしてたけどそれは許してやろう。(依怙贔屓
というか「絶」に磨きがかかってきたな。
「最初から居ましたのに……。それにしてもなかなか磨きがかかってきましたね」
「ふっ、ふふっ。でも、師匠には気づかれた。私もまだまだ……」
「にゃおん」
「次は負けない」
彼女の名前は山村美紀。
またの名を幻のシックスガールMIKIだ。
いや、まあ嘘だけど。
凄いシンプルに説明するならむっちゃ影の薄い特徴を持つ女子生徒だ。
そのステルス性能は凄まじく、結構可愛い顔をしているのにちょくちょく存在自体を無視されている。
自己主張しないのも悪いのだが、天性の才能というべき影の薄さを彼女はもっていた。
とはいえその才能も所詮は人間レベルでのもの。
俺には到底通用せず、見破るのだが……どうにもそのせいで妙なライバル心を持たれるようになってしまった。
『影の薄さという特徴を無くしたら私はただの地味キャラ……負けない』
いや、影の薄さから脱却しようと頑張ろうぜ。
まあ、そんなこんなあってオートで発動していたステルス能力をむしろ意識して使うようになった山村。
それを見破る俺。
ちょっと面白がって気配の遮断を教える俺。
なんか習得し始める山村。
足音を消す歩法を教える俺。
なんか足音を消し始めた山村。
……自分で教えておいてなんだけど、コイツは何処に行きたいんだろうか。
いや、いつの間にか師匠呼びまでするようになったあたり楽しそうなのは間違いないんだけど、努力の方向性を間違えてないかな? かな?
「彼女は山村美紀さん。我らがAクラスの秘密兵器といえる存在です」
「山村……美紀? うっ、たしかそんな名前が」
葛城ー! しっかりいたせー! リーダーとしてちゃんとクラス全員の名前と顔は覚えたはずだろうがー!
俺は葛城の肩に乗ってペシペシと頭を叩いた。
するとどうにか記憶を掘り起こすことに成功したらしい。
「ああ、そうか思い出した。山村美紀か。俺としたことがど忘れするなど……申し訳ない」
「いえ、ちょっとステルスをし過ぎてしまった私が悪いので」
「にゃー」
「はい、すみません師匠。注意されたのに」
次に山村へと飛び移ると俺はしっかりと叱っておいた。
まったく、何をやっているのか……。このバカ弟子め、ぷんぷん!
「えっ、ステルスが……なんだって? 姫さん?」
「――とまあ、彼女は影が薄いという才能を持った人なんです。美紀さんならこの任務を確実に成功させてくれるでしょう」
「なるほど、たしかにこの影の薄さなら監視、追跡にはピッタリね」
「えっ、いやっ、影が薄いって言葉だけで済ませていいのかこれ。あと師匠??」
「師匠に色々と教えてもらいましたから……。ともかく、依頼の方は承りました」
「報酬はきっちりと私の方で払いますのでよろしくお願いします」
「むっ、待て坂柳。こういった話なら一人だけに出させるというのは……俺も支払おう」
「いいんですよ、臨時収入もありましたしね」
カリスマ力アップを狙う坂柳は学校からせしめた資金力で金払いの良さアピールに余念がない。
「えっ……あれ、スルーなのか? 俺スルーされた? というかこのまま話を進める感じ?」
「橋本うるさい」
「にゃー」
山村ならやれるだろうとは思うけどちょっと心配だな……。ご主人の平穏な学生生活を守るためにはならず者のCクラスには大人しくしていて欲しいし、ここは俺も参加するぜ!
「むっ、ホームズも参加するのですか? たしかにいくらストーキング能力に優れている美紀さんといえども、一人だけだと不測の事態の対処は難しい。もう一人ほど居た方が万全ではありますか」
「師匠も参加なら百人力……」
「にゃー」
あっ、でもタダ働きはごめんだからな。報酬はきっちりともらうからな! ご主人の方に振り込んでおいて。
「仕方ありませんね。では、それぞれ報酬は5万ポイントでどうでしょうか? 時間的な拘束がどれくらいかかるかわかりませんのでそれなりに色をつけたつもりですが」
「あれ? なんかホームズは普通に戦力扱いなのか? いや、いくら賢くても猫……っていうかホームズも雇う感じなのか?! いや、猫相手に雇うも何も――」
「では、この金額で進めさせていただきます。前払いで送金しておきますね。真澄さん」
「んー、ありがと」
当然のようにご主人に送金する坂柳。
そして、それを受け取るご主人。
まあ、話は通ったからな。
「ちゃんと晩ご飯までには帰ってくるようにね、ホームズ」
「にゃー!」
「待って。今のやり取りで何があった? なんか当たり前のように姫さんが真澄ちゃんに送って、それを真澄ちゃんが受け取って……えっ、今の短いやり取りで話は済んだ感じなのか?」
橋本、うるさい。
「ふっ、これで成功は間違いなしですね。犯行の一部始終を記録した証拠さえ手に入れてしまえばあとは煮るやり焼くなりなんでもできてしまいます。Dクラスにどれくらいで売りつけてやりましょうか」
おかしいなさっきDクラスを助けるみたいな話を言っていた気がするんだが……。
「Cクラスを脅す材料にするのも悪くありませんね。悪質性が明らかになれば下手をすれば退学者が出る可能性もありますし。秘密にする代わりにポイントを搾り取ることも」
それじゃあ、実質Cクラスに加担してるじゃねーか!
「いえ、もっとうまく使うのはどうでしょう? CクラスにもDクラスにも事件現場を記録した証拠があるということを知らせれば、それを手に入れようと抗争を激化させることも可能……。いえ、いっそのことCクラスに思うところがあるであろうBクラスも巻き込んでグチャグチャに引っかき回して」
「ホームズ……頼む」
「にゃー!」
とりあえず、俺は坂柳の頭にへばりついて猫パンチを連打で叩き込んだ。
どうしてこの娘は……どうしてこう……っ! おら、ブレイクしろ!
「くっ、おのれホームズ……! また私の頭に乗って……あうっ! パンチするのやめなさい! この機会をいかして私はいろいろと取り戻すんです!」
普通に頑張りなさい! どうしてすぐにこうドS邪ロリ方面になろうとするのか……。優秀なんだから、やればできる子なんだから怠けずにちゃんとしなさい! 全くもう!
「なに目線ですかそれは!? あっ、ちょっ、こら背中に回るな! ちょっ、手が届かな……ま、真澄さーん」
俺vs坂柳の何度目になるかわからない戦いは当然のように俺の勝利で終わった。
そもそもシンプルに貧弱な坂柳では俺の実力行使になすすべなどありはしない、今日は背中に回られてへばりついた俺を引き剥がせずにご主人に助けを求めたことで俺たちの戦争は終結した。
「あー、そうだな。あまり敵意をもたれない方向性で使うべきだと思うんだが」
Aクラスの極めて日常的な光景にペットボトルの茶を飲んで一息ついていた葛城がそう坂柳に言った。
実質的なリーダーは葛城なので葛城が決めてもいいような気がするが、今回の案件はほぼ坂柳が掴んできたものだ。
だからできるだけ坂柳を尊重したいのだろう、諭すような口ぶりだ。
「……仕方ありません。あまり益はありませんが第三者の立場として裁判になったら証拠を提出しましょう」
「第三者の立場として?」
「ええ、どちらにも味方をしない。例えば事件が須藤くんが殴らず、事件自体をでっち上げたのなら話は別ですが。Cクラスの思い通りに須藤くんが呼び出され、挑発されて殴った展開になった場合……互いの非はどうなりますか?」
「それはどっちにもあるでしょ。Cクラスの悪意はもちろん、それはそれとして殴ってしまった以上は須藤の非も明確……。ああ、だからどちらにも味方をしないっていうことね」
「ええ、あくまで第三者の立場としてどちらの非も追求する形です。そうすればそれぞれ処罰される形で決着はつくでしょう。当然、どちらからも印象は良いものではないでしょうが。Dクラスからすれば一方的に負けるところを痛み分けという形で決着することができた以上、助けられたと言えば助けられた形になります」
「Cクラスからは恨まれるとは思うが……どのみち干渉して相手の思惑を破綻させるつもりな以上、そこについては仕方ないか」
「どのみち、どちらの味方もせずにこの立場を取ればAクラスを批判することはどちらのクラスも不可能です。なにせ一切悪いことをしていないわけですからね。どちらにも悪い部分があったのでそれを指摘して批判しただけ……」
「CクラスもDクラスも両方攻撃しつつ、自分たちは安全な立ち位置を確保できるってことか」
「ローリスクの代わりにリターンも少ない策ではありますけどね」
「いや、十分だろう。Dクラスを貶めようとしたCクラスのやり方を明らかにしつつ、暴行に対してもキチンとした処罰を求める。処罰を受けたことでし難くなってくれれば将来的にAクラスがそういった事案に巻き込まれるリスクも減る。どのみち、俺たちは部外者の立場だったんだ。無理にリターンの最大化は狙わなくていいだろう」
「……仕方ありませんね。正義と大義を背負って弾劾することでおさめるとしましょう」
しょうがない、と言わんばかりに坂柳はため息をついた。
どんだけマウントを取りたいんだこのロリ……。その飽くなきマウント癖はいったいどこから? 坂柳有栖という生物がそういう生態なのかな?
やっぱり気を抜くとなんか悪さを始めようとするな……ちゃんと経過観察しないと。
というかコイツもしかして自分で裁判に参加する気なのか?
いや、するに決まってるか……。
証拠提出してハイ終わりってわけにはいかないからAクラスを代表して誰か証言台に立つ必要がある。
そんな絶好のマウンティングの機会を坂柳が逃すはずがない。
他クラスからのカリスマパワー供給も兼ねているだろうし……。それはわかる。それはわかるんだけど――
「では、ホームズに美紀さん。あとはよろしくお願いしますね」
「任せてください。ね、師匠」
「……にゃー」
それってつまり……まあ、遅かれ早かれではあるか。同じ学校なわけだし……どうせ、たいした変化にはならないだろう! へーきへーき!