よう実世界に転生した畜生系主人公が神室真澄に心を打ち抜かれる話   作:サンディエゴ

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畜生系主人公が神室真澄と裁判結果を知る話

 

 

 気配を消す、なんて言葉を創作の世界ではよく使われる。

 

 

 隠形の奥義のような意味合いで使われるが、俺から言わせてみればそんなものは嘘っぱちだ。

 

 

 たしかに気配を消すのは有用な技術ではある。

 だが、それは一定レベルまでの話だ。

 

 

 どこぞの小説でも出てきた話だが生きている以上、どうしたってその痕跡は残る。

 

 

 例えば呼吸する息とか動き時に発する音とか……まあ、色々だ。

 それを可能な限り抑えることはできても消し去ることはできない。

 

 

 だから、重要なのは気配を消すことではなく――気配を同化させることだというのが俺の持論だ。

 

 

 消し去るのではなく、同化させる。

 ここが重要なポイントだ。

 

 どれだけ頑張って気配を消しても……いや、消すほどに違和感というものができてしまう。

 

 例えばそうだ。

 一つの絵の中に一カ所だけ白い空白の部分ができていればむしろそこが際立ってしまうように、消せば消すほどに浮き彫りになってしまうことがある。

 

 

 だから、重要なのは同化だ。

 世界の色に己を馴染ませるように、ただの背景の一色になるように努めることこそ真の隠形というやつだ。

 

 

 見えているのにモブや背景としてしか認識できない。

 ドラえもん的に言えば石ころ帽子。

 

 

 それを目指すことこそ、真の隠形――即ち、に至る。

 

 

「ふ、ふふふっ、師匠……最近、私は心理学の勉強も始めました。ミスディレクションの技術を得るには必要かなって」

 

 

 間違ってはないけどそれでいいのか山村。お前がやってることはその方向性でいいのか山村。

 

 

「学術的に視線の誘導、意識の認識というものを学ぶにつれて私なりに師匠の隠形を分析したつもり……。即ち、真の隠形とは隠れるにあらず溶け込むことが肝要なのではないかと」

 

 

 おかしい、俺が猫生で習得した技術を理解し始めている気がする。

 

 

「この技の習得には想像を絶する努力が必要でしょう。まずは他者から向けられる視線や意識の感知が前提となります。まだまだ私はそこが甘い。物理的に隠れることでしか身をかわす術がない。これではとても師匠の領域にはたどり着けない。ですが、いずれたどり着いて見せる」

 

 

 むっちゃ喋るじゃん。お前そんなキャラじゃないだろ……というかどこを目指しているんだ。

 

 

「最近……影の薄さを利用するのにはまっちゃいまして」

 

 

 わかるわー。いい感じで絶《ぜつ》って動き回ると透明人間になれたみたいで気持ちいいよな。

 

 

 

 

「何者にも気づかれない――それって自由なんじゃないかと思いまして」

 

 

 大丈夫? キラキラとか求めて違法バトルとかに参加しない? いや、影の薄さという特徴をポジティブに捉えられるようになったのはいいことだと思うけど。

 

 

 

 

「それにこういった役割を任されると秘密エージェントみたいでかっこいい気がしますし。ふふっ、私は秘密エージェントガール……。最近は諜報活動もしまくって」

 

 

 うーむ、変に自信を与えてしまった結果、意欲がとんでもないことになっている気がするな。陰の実力者ムーブにはまってきているというか、まあご主人の迷惑にならないならいいか。

 

 俺はそう考えて山村の話を聞き流した。

 普段は無口なくせに動物相手なら人が変わったようにペラペラと喋る――あると思います。

 

 

 猫の前では心が開いてしまうものなのだ。

 

 

 まあ、それはともかくとして。

 邪悪なるロリの依頼を受けて俺たちはここ数日、石崎をストーキングしている。

 

 詳しいタイミングはわからなかったが、少なくとも次のポイントの配布前までには実行されるだろうと言うのが坂柳の読みだ。

 

 事件が発生し、訴えられ、裁判に至るわけだがその判決次第でクラスポイントに影響が出てくる。

 

 その反映がどう行われるかも知りたいと考えるのが自然だと。

 

 つまりは事件が例えば月末に発生し、訴えが受理されたのも六月としよう。

 

 そして、そのまま月を跨いで次の月になるわけだ。

 新たな月になったのでポイントが配布されるわけだが、この場合はどんな処理が行われるのか――たしかに気になる話ではある。

 

 六月のうちに裁判をして判決を出せていれば問題はないが、時間的に無理という場合はそりゃあるだろう。

 

 その場合、どうなるのか。

 俺は原作を知っているので知っているが、この場合は一時的にポイントの配布が延期され、裁判結果を踏まえて改めて処理がされる。

 

 だが、龍園はそこまで知っているわけではない。

 事件発生日を起点において処理がなされるのか、あくまで裁判の日程を起点として処理がされる――つまりは例の場合だと八月から裁判結果の反映が行われる可能性もあるにはあるのだ。

 

 ここら辺はかなり微妙な問題なので龍園としても確認しておきたいところ。

 だからこそ、六月の後半に行われるのではないかと坂柳は予想したのだな。

 

 

 うーん、この……邪悪なるロリじゃなければ素直に尊敬できる天才っぷり。完全に読まれてしまっているではないか翔くん。

 

 

 そんなこんなで時期的にそろそろではないか、と俺と山村は注意を払って石崎をストーキングしていたわけだが――

 

 

 

 

「やっちゃいましたね」

 

「にゃー」

 

 

 

 山村の言葉に俺は同意した。

 原作通りに石崎とその仲間の須藤の暴行事件でっち上げ作戦は成功してしまった。

 

 

 カメラのない場所に誘き出された須藤は石崎たちに因縁をかけられ、諍いになったあと最終的には石崎を殴ってしまったのだ。

 

 一応、擁護するならさすがにマズいという感覚はあったらしく、さっさとその場を去ろうとはしたのだがそこに「逃げる気か」の挑発に加え、石崎渾身の殴る振りが発動。

 

 須藤は結果的に反射的に殴ってしまったのだ。

 

 

「どう思う?」

 

 うーん、まあ……正当防衛といえなくもない? いや、無理だろうな。

 

 

 ギリで言い訳の余地を残した須藤の行動だったが、そのあとの行動がいけない。

 目的を達して捨て台詞を吐き逃げていった石崎たちを眺め、須藤は「ちょっとだけやってしまった」という顔をしたものの、殴った結果相手が逃げてしまったことに気分を良くしたのか機嫌をなおした様子で去って行ってしまったのだ。

 

 

「これは……仮にDクラスにこの映像を証拠に渡しても無罪放免はやはり難しそう」

 

 それなー、せめて反省している様子とか悔いている様子があればな……。それですぐに先手を取って教師や友人に相談するなりしていれば心証もよくなったかもしれないけど。

 

 

 第三者の立場としてその様子を伺っていた俺と山村の意見としては――「アレはない」だ。

 はめるための標的に選ばれたのは可哀想だが、暴力をふるったことを完全に気にしていない振る舞いだ。

 

 

 山村が撮っていた映像を見せられても、須藤の無罪はまずあり得ないな。Cクラスから攻撃を仕掛けた事実を加味してもやはり喧嘩両成敗の形で、どちらからもクラスポイント没収で結論が出そうだ。

 

 

 仮に須藤がやっておらず、完全に冤罪だった場合はDクラスに味方することもあったかもしれないが……これでは無理すぎる。

 

 やはり、当初の予定通り。

 Aクラスは第三者の立場からこの映像記録を証拠として提出、そして両クラスの非を責めることになりそうだ。

 

 

「裁判の結果は予測がつきましたね」

 

 そうだな。坂柳の独壇場になりそうだ……。

 

 

 絶《ぜつ》りながら現場の様子を撮影し、証拠の確保に成功した俺たちはしばしのかくれんぼで遊んだあと解散となった。

 

 

―――

 

 

「にゃー、にゃー、にゃー♪」

 

「にゃー、にゃー、にゃー♪」

 

 

 あー、ご主人と二人っきりで一緒に歌いながら過ごす時間……癒やされるんじゃー!

 

 

 時間は跳んで七月に入った。

 須藤の事件が発覚し、Dクラスは大荒れ。

 

 ポイントの振り込みが停止し、出費が多かった生徒の悲鳴がチラホラ。

 

 裁判の日程が進み、今日がその最終日という状況。

 俺はご主人と一緒に部屋で過ごしてマスミニウムを補給していた。

 

 

 男のケツを追っかけることに時間を割き、マスミニウムの不足が起こっていたからな回復しないと……。

 

 えっ? もうそこそこストーキングやめて時間経ってるから回復しているだろうって? マスミニウムはいくら補給しても問題ないんだからいいだろ!

 

 

 本来であればこの日のAクラスはそこそこ忙しい。

 忙しいと言っても主に幹部メンバーぐらいだがな。

 

 

 なにせ、今日は最終日というのもあり――邪ロリが出陣する日だからだ。

 

 

 生徒会には既に例の映像の件で交渉を終えており、最終日に証拠と参考人として出廷の日程が決まっていた。

 

 ぶっちゃけ、映像という証拠がある以上、裁判にそれほど意味はない。

 そんなものあるなら一番最初に出せば終わるだろうって話だが……そこは坂柳の口八丁が炸裂した。

 

 

 ようするに彼らの主張を聞いてから裁定しても問題ないのではないか、と。

 

 

 坂柳がついたポイントはそこだ。

 例えばこの事件の事実は「須藤が石崎を殴った」、だが「石崎たちが先に難癖をつけてそして殴ろうとした」というものがある。

 

 Dクラスの論点が須藤が暴行をした事実を認め、その一方でCクラスの動向がおかしいこと主張し減刑を求めるなら、それは正当の主張だ。

 

 自らの非を認める一方、向こうの非を指摘することで減刑を狙う。

 これは正攻法だ。

 

 非があったことを認めるならその行為は認められるべき行いだ。

 

 Cクラスとてそうだ。

 Cクラスの組織的な策略についてはともかく、当時の自分たちの行動にも非があったが殴られたのは事実なので罰して欲しい。

 

 これも正当な訴えといえるだろう。

 

 すでに事実を確認できる証拠があったとしても、両者が主張を訴える機会を取り上げるべきではない――と坂柳は生徒会に訴え意見を通したのだ。

 

 

 

 まあ、普通に邪悪なるロリの罠である。

 

 

 

 たしかに完全に事件の全容が把握されているなら、さっさと自らの非を認めた方が心証は良くなるだろう。

 

 だが、両クラスは全容がわかっていないという前提で裁判に挑むのだ。

 その状況で自らの非を認めるのは心証の悪化にしかならないと考えるわけだ。

 

 自分は悪くない、相手が悪いと主張すればするほど生徒会視点での心証は悪くなる。

 まあ、なんというかさすがは坂柳だなという手腕だ。

 

 最終日ということで出廷する坂柳はウキウキだろうな。

 それに付き添う幹部メンバーはお疲れ様。

 

 

 葛城にホームズも来ないかと誘われたけど……まあ今回はいいかなって。

 

 

 状況的に詰んでるから裁判の結果も見えているからあんま興味がないんだよね。

 正義と大義で武装した坂柳は無敵だから心配はしてないし。

 

 あいつはマウンティングの女だからな、正義と大義で武装したときはあくまでその範囲の中でしかマウンティングをしない。

 

 やり過ぎた結果、反撃の余地を作る隙を作るのはバカのすることだからな。

 暴走せずに安全に反撃の余地も許さずに一方的に相手を殴るのが最高なのだ。

 

 うーん、このカス!

 まあ、そんなこんなでいつもみたいな暴走は心配はしていないのでそこのところは安心していいと思うぞ葛城。

 

 

 問題があるとすれば他の件だが……うーん、関わり合いたくないな! やっぱりご主人と一緒に家でゴロゴロしていた方がいいや!

 

 

「ホームズ、裁判の結果はどうなると思う?」

 

 ご主人が話しかけてきた。

 やはり、ご主人も気になるのだろう。

 

 

 時間的にもそろそろ結果が決まってその報告が来る頃合いか……。

 

 

 ただ、何度も言っているがすでに状況は詰んでいる。

 というか証拠映像を確保した時点でCクラスとDクラスの喧嘩両成敗で両方処罰という結末になるのは火を見るより明らかだ。

 

 精々、どれくらいポイントが減るのかが気になるぐらいだよなー。原作で使ったCクラスを脅迫しての訴えの取り下げ、あれも今回の場合は使えないし。なにせ事件の証拠は残っているからな。

 

 仮にCクラスが訴えを取り下げたとしても暴行事件の映像が証拠として提出されている以上、今度は生徒会が主導となって処罰が下されるだけだ。

 

 なにせことが暴行事件だ。

 被害者が訴えなかったので証拠もあるけど処罰しません……という話にはならないわけで。

 

 あれが原作で通ったのは当事者にしかわからない事件だったからだ。

 だから、被害者と主張していた人物が訴えを取り下げてしまったら生徒会からすればどうしようもないが――今回に関しては事件の状況が判明しているのだから。

 

 

 というか訴えを取り下げるための脅迫自体が難しいんだよな。原作ではBクラスの助けもあったからできたけど、今回の一件Bクラスあまり関わってないからなー。原作と違って。

 

 

 変化が起きたのはAクラスが情報を流したからだ。

 

 

 例の事件の証拠をAクラスは握っている。

 内容は言えないがどちらも処罰されることになるだろう。

 

 

 そんな内容の情報を橋本が流した。

 Bクラスの動きを封じるためだな。

 

 原作でもDクラスに協力したのはどちらかというと対Cクラスという意味での協力だった。

 やりたい放題やってたCクラスが増長されては困るから。

 

 別に暴行を実際に行った須藤とかを守りたいというわけではない。

 というかDクラスとCクラス以外の人間からすれば「どっちもさっさと処罰されろ」が共通認識だ。

 

 

 Cクラスが処罰されるなら……そう考えたBクラスからすれば、Dクラスを助けるために動く理由はなくなるわけで。

 

 

 つまりはどうあがいても訴え取り下げ作戦は不可能だし、そもそもやる意味がない。

 

 

 うーむ、やっぱり詰んでる。まあ、Dクラスの生徒はドンマイ! 切り替えていこうぜ!

 

 

 そんなことを考えながら俺はご主人のマッサージを受けてリラックスした。

 

 

 そうそうこういうのでいいんだよ。

 Aクラスのことは好きだし、助けになってやりたいとも思う。

 

 それに働くことも嫌いってわけじゃない。

 

 それよりもご主人とこうしてイチャイチャしている時間の方が大切ってだけで――ん、なんだ電話か?

 

 

「なんか妙に遅かったわね。なにかトラブルでもあったのかしら。予定よりだいぶ遅いけど坂柳からね。どれどれ……」

 

 結果なんて見えきっているけどなー。まあ、これで裁判は終了。少しは羽を伸ばせるかなー!

 

 

 そんなことを身体を起こし、グイっとノビをしながら俺はご主人からの報告を聞いた。

 

 

 

「なるほどね。Cクラスはクラスポイントが40ポイントの減額。悪質性が認められたのかしら?」

 

 まあ、妥当……か? 相場がよくわからない。

 

「それでDクラスは――え?」

 

 ご主人?

 

 

 

 

「Dクラスが減らされたのは……0ポイント? つまりは無罪に? そうじゃなくCクラスと同様に処罰自体はされた? その上で最終的に減額が0という結果に――」

 

 ……??

 

 

 

 

「どういうことなの?」

 

 どーしてそうなるの???

 

 

 

 

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