よう実世界に転生した畜生系主人公が神室真澄に心を打ち抜かれる話 作:サンディエゴ
「ひっく、なんでこんなことに……」
バカンス数日前のとある夜。
俺はとある場所へとお邪魔していた。
「うわー、ベロベロに酔っ払ってる」
「ストレスなんでしょう。……私も少し、ええ……疲れが」
「Cクラスも大変そうですもんね」
そんな言葉を交わすCクラス担任の坂上にBクラス担任の星之宮、始まったばかりというのにすでに酒がだいぶ入っているのが我らがAクラス担任の真嶋でDクラス担任の茶柱も混ざっている。
要するに一年の担任をしている教職員の飲み会なのだ。
「ええ、まあ……。それにしてもなんとか準備ができましたな」
「坂柳さんが急に入ったおかげで、色々とバックアップ体制を刷新しなくてはならないといけなかったから本当に大変だった」
「船の上で過ごしてもらうしかありませんからね。いざという時のための医療スタッフを増員したりとなかなか急で」
「ホームズだけならそんなこともなかったのに……」
「というかホームズをなんで連れてきているんだ」
「えへへー、来るときに近くをふらふら歩いているのを見かけちゃってー。ついて来たそうな目をしてたからさー」
「お前というやつは……」
茶柱が呆れたような目を星之宮に向けているが、星之宮を先に見つけなきゃ俺は茶柱を利用して紛れ込む気満々だったので結果は変わらなかったと思う。
女子学生とかもチョロいがそれ以上にチョロいのがストレスを抱えたアラサーあたりの大人だと俺は経験上から知ってる。
おら、甘えた声とスリスリ攻撃を食らうがいい!
「……これでも食べるか?」
疲れた顔をすこしだけ和らげて、茶柱は焼けた肉を渡してきた。
俺はそれを躊躇わずに食べる。
チョロいもんだぜ。
さて、俺がこんな酒臭い空間に来たのには理由がある。
まあ、当然のように情報収集のためだ。
坂柳の急な参加が決まり、色々と慌ただしく準備が進み、見通しが立ったあたりで星之宮の誘いで飲み会が行われることを俺は知った。
そこでこうして潜り込むことにしたのだ。
普段からちょくちょく媚を売って好感度を稼いでいたが、学校の中ではそれなりに気を張っているためみんな案外情報を漏らさない。
隙を見てパソコンの中身を探るぐらいしかできていないので、こういった機会をいかしてその内心を探っておきたかったのだ。
酒が入れば本心をポロッと漏らすのが大人というやつだ。
「それで無人島の試験、どうなると思うー?」
「Cクラスにはかなり厳しい内容となるでしょう。龍園は優秀な生徒ではありますが、そのリーダーシップはいささか過激すぎる」
「こういった試験だと不向きよねー。逆に一之瀬さんがいるうちのクラスは得意な内容だけどね」
「とはいえ、それで終わるような生徒でもありません。何かしら勝利を掴むための策を練るはず」
「へえ、期待しているんだ。結構な不良みたいだけど」
「厄介な生徒ではありますがその勝利への執念は本物です。甘く見ない方がいいでしょう。それにクラスとしての団結力云々をいうのであればDクラスの方が問題なのでは?」
「あはは、言えてるー。未だにリーダー的なポジションが居ないのはどうなのかなー佐枝ちゃん」
「……平田や櫛田、それに堀北がいるが?」
「それってつまり決まってないってことじゃん」
バチバチと茶柱と星之宮の間で火花が散ったような気がした。
うん、わかってたけど単純な飲み会っていうか試験が始まる前の腹の探り合い的なものだなこれ。話によると卒業時のクラスの順位で評価変わるみたいだし、担任同士も普通にライバル関係なんだよなこの学校。だからこうやってただの会話の中で普通に探りやらなんやら入れてくるし……競争は大事だと思うけど、担任までバチバチさせる制度ってどうなんだろうな。情報収集する身としては楽だからいいけどさ。
俺は気にしていない風を装って、聞き耳を立てながら焼き肉を処理することに専念する。
「でも、まあ……やっぱ注目株はAクラスよねー。一クラスだけ試験の存在に気づくなんてズルすぎないー? しかも、対策としてクラス単位で身体を鍛え始めるなんて」
「俺は情報を漏らしてなんていない!」
「あっ、うん、ごめん」
「……職員会議で思いっきり詰められたのが辛かったようですね」
星之宮の言葉に過剰反応したのはビールジョッキを手放さない真嶋だ。
四月の段階で暴いて大量のプライベートポイントを確保したご主人や過去問を早い段階で確保していたこと、バカンスでの試験バレについて担任である真嶋は自分のクラスが有利になるように情報を漏らしたのではないか――という疑いをかけられたらしい。
当然、そんな事実はない。
原作知識を持っている俺の働きと坂柳の頭が良すぎるのが原因なのだが、今のところAクラスが独走状態なので疑いをかけられてしまったのだろう。
坂柳関係ならどっちかというと理事長の方が怪しくね、と思わなくもないがそこは上司にあたる存在なので疑いを向けられなかったのだろう。
その分、「一年のAクラス調子良すぎじゃね? 真嶋なんかやった?」みたいな理不尽な言いがかりをつけられてしまったのだ。
本当にそれだったら真嶋先生がこんなに落ち込んでるわけねーだろ! 見ろ、これがトップ独走しているAクラス担任の姿か? 普通ならSSRのクラス担任になってウッキウキになっていてもおかしくないのに……。
「……クラスのな、連絡事項を……リーダーの葛城に言うんだ」
「は、はあ」
「そしたらな……疑ってくるんだ。なんでもないただの連絡事項なのに……裏がないか探ってくるんだ。……あんなに素直な子だったのに」
「…………」
真嶋先生ぇ……。
基本的に真嶋はまともな先生だ。
少なくともどこかの生徒を脅迫したりするDクラス担任や酒飲みのBクラス担任より全然マシな先生なのだが、やっぱり学校側の人間と言うだけで今のAクラスにとっては疑いの対象にしかならない。
所詮は一介の教師でしかないのだから学校側の大きな方針には逆らえないのは仕方ないことではあるのだが、やはり生徒からすれば担任教師というのは自身の味方であってほしいものなのだ。
それなのに今回の試験のようなバカンスという建前の騙し討ちに加担しているとなると……うん、まあ、なんだ。
葛城みたいな優等生タイプに疑われる。信頼されてないってわかる態度されるの辛いよな……うんうん、わかるぜ。かといって学校の方針に影響を与えるほどの権力もないし。
上と下に挟まれる立場の人間というのはいつだって辛いものだ。
それを理解した上で俺は真嶋の肩に飛び乗って励ますようにポンと手を置いた。
でも、大人ってクソだぜ。学校はクソだぜで一丸となってるクラスの雰囲気はいいのでそのためのヘイトタンク――頑張ってね!
どこからか俺のことを畜生と呼ぶ声が聞こえた気がするが、まあ俺が畜生なのは事実なので仕方ないね。
俺の気持ちがたぶん、全然伝わっていないが真島は泣いた。
「ホームズ……慰めてくれるのか。お前はいい子だなぁ!」
「神室さんが100万も費やしたとき、文句を呟いていた記憶があるんだけど」
「気のせいだ」
「え」
「気のせいだ。……なっ?」
「はい」
ある意味、真嶋は天国から地獄への気分を味わっている。
勝ち組と言っていいAクラス担任になったのに、完全に自身の手綱から外れ邪ロリが支配して好き勝手にやっているからな。
俺の存在が真嶋の貴重なストレス緩和剤になっているというわけだ。
その役目を果たすために、俺もアニマルセラピーを頑張っている。
諦めるな真嶋先生! 頑張れ真嶋先生! 真嶋先生以外の誰がAクラスの担任をやるんだ! いくら優秀なクラスだからって職員室ダイレクトアタックをしまくったから、たぶん代わってくれる先生がいないんだ! だから、頑張ってくれよ真嶋先生! 俺は真嶋先生を信じているんだ! あっ、無人島の試験勝手に参加するけどいいよね真嶋先生!
慰め用の猫パンチ。
肉球パワーでストレス値を下げながら、俺はそんなことを念じていた。
「うっ、ぐすっ……」
「まあ、情報漏洩まで疑われたのは可哀想よね。それならあんな騒ぎになるはずがないのに」
「まったくだ。担任教師からの情報漏洩はバレれば厳しい処罰がある。そんなリスクを犯すはずがないというのに」
でしょうね、ボーナスとかの査定に関わるらしいしそこら辺は厳しくチェックされているのだろう。
じゃなきゃ、担任がどれだけ上手く情報を自分のクラスに流せるかのゲームになってしまうし、チェックも厳しくそしてバレた場合のリスクが大きいのだろう、教師側からの情報漏洩というのは。
「そ、そうだな……」
ただし、すでにやらかしてその証拠を掴まれている状態は除く。
どうして、冷や汗を書いているんですか? そこのDクラス担任……。
たぶん、綾小路の奴隷というか手駒になっているだろう茶柱。
そのせいか顔色が悪いことがよくある。
がっつり情報漏洩しているんだろうな。
そりゃストレスが溜まって仕方ないだろう、真嶋並の急ピッチでビールをかっくらっている。
基本、問題児しかないDクラスの担任という立場だからそのストレスだろうと放置されているが俺からすると恐らくそれで間違いないはずだ。
最悪、職を失うかもしれないことをやっていると思うと可哀想に思えるがやったのは茶柱が先だし……ほら、綾小路の立場からすると手駒で先生という立場は便利だから三年間は大丈夫じゃないかな。
卒業した後のことまでは知らないけど。
「おー、佐枝ちゃん。今日は進むねー」
「黙ってろ」
しかし、この様子だとやはり主導権の方は綾小路が握っているのは間違いない。
なら、無理にAクラスを目指す理由が綾小路にはないわけで……。
となると、どこまで特別試験をやるかだな。
綾小路にしてもクラスポイントが減りすぎるのは困るだろうから、それなりには動くかもしれないが原作よりもモチベーションは低いはず。
※なお
坂柳には悪いがこれも作戦のうちなのさ。
綾小路がやらかし始める切っ掛けは茶柱のやらかしの影響が多い、なら初期の段階でそれを排除してやれば綾小路の機械化を遅らせることができるんじゃないかってな。
だからこそ、茶柱の弱みをパスったわけで。
茶柱を無力化できれば綾小路は「事なかれ主義」を貫くはずだ。
平々凡々のスクールライフを楽しむはずだ、きっと。
そりゃ、どうしても普通の学校生活を楽しむにはDクラスは環境が悪すぎるからどうしても動かなければならないときはあるだろうけど――
学習厨の綾小路が興味を惹かれることなんて早々ないだろうし、大人しくしているはずだ。
※なお
坂柳には悪いけど……いや、坂柳がちょっかいをかけるなら狙われる可能性はあるのか? まあ、その時はご主人が巻き込まれない範囲で観戦すればいいや! 俺には関係ないだろうしな!
※なお
原作ほど切羽詰まっていないはずだから、無人島の試験は大人しくサバイバルしてるんじゃないかなたぶん。事なかれ主義だし? ……事なかれ主義だし!
「うーん、特別試験どうかなー? 一之瀬さんが上手くやればいけると思うんだけど」
「団結力はBクラスは高そうですからね」
「ふっ、団結力ならAクラスだって負けない。なにせ共通の敵が居るからな……うっ」
「んにゃー」
まあ、そう気にするなよ。
俺は水の入ったコップを真嶋に押して飲ませた、まだまだ潰れてしまっては困るのだ。
「おおっ、助かる。ホームズ……お前はいいやつだな」
「今年の試験はどうにも嫌な予感がしますね」
「怖いこと言わないでー。はあ、Aクラスの躍進のせいで情報統制には気を遣えってなじられるし」
「どこからかある程度漏れているのは間違いないんじゃないか? そうでないと少しAクラスの行動は説明がつかないというか」
脅されて流してるやつが何か言ってるぞ。
「だから、俺じゃないんだって!」
「わかったわかったから」
そう言っているが星之宮の目はどこか疑わしげだ。
坂上もそうだ。
やっぱりこんな高校で教職に就いていると疑り深くなるんやなって……。飲み会でもいちいち腹の探り合いをするなんて大変だな、おい。
茶柱たち高育卒業生組はもうそれが癖になっているのかもしれない、こんな大人にはAクラスのみんなはなって欲しくないなーと思いながら俺は切に思った。
「そういえばホームズって無人島の試験の時ってどうするの?」
「まあ、船で預かることになるんじゃないか? 神室は文句を言うかもしれないが仕方ない」
「ホームズは船でお留守番かー。よーし、たっぷり可愛がってやるからねー」
あっ、プリズンブレイクして勝手に上陸する気満々だからお気になさらずー。