よう実世界に転生した畜生系主人公が神室真澄に心を打ち抜かれる話   作:サンディエゴ

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三巻
畜生系主人公が神室真澄が展望デッキで宣戦布告を受ける話


 

 

 

「クルーズ船は本当でしたね」

 

「坂柳……」

 

 

 白い雲、青い海。そして豪華客船。

 ついにバカンスの皮を被った特別試験がやってきたわけだ。

 

 現在は船に乗り、目的地へ向かっている途中だ。

 既に出航し他のクラスは思い思いに過ごしていることだろう、これから特別試験が起こることなど知るよしもなく、ただバカンスに浮かれている――はずだ、たぶん。

 

 ちょっとAクラスが準備を重ねてきた結果、ちょっと頭のいい連中は疑ってる節はある。

 クラス単位で体力トレーニングとかしてたから、だいぶ怪しかったからな。

 

 

 とはいえ、多少勘づかれていたところで準備を重ねてきたAクラス相手には誤差の違いでしかない。

 肉体作りだけじゃなく、特別試験の具体的な内容がわからなくても対策をしておこうって話し合いになったとき、誘導してサバイバル知識とかも覚えさせたからな。

 

 

 クラス単位でできることは入念にやって今日という日を迎えたわけだ。

 

 

 そして、来るべき日が来たということで真嶋に頼んで船内の大きな部屋を借りて、Aクラスは最終チェックミーティングを行っていた。

 

 原作では居なかった坂柳も一緒という状態で。

 身体のこともあり、少し不安視されていた坂柳だが……車椅子に乗っている状態で笑顔で毒を飛ばす坂柳は、実に坂柳をしていて元気そうだった。

 

 

 真嶋先生が泣いているでしょーが! まあ、どうせ特別試験が始まったら「わかっていたことだけどやっぱり……」みたいな感じで株価下がるんだけどさ!

 

 

 それがわかりきっているせいか、真嶋の顔はどこか僧侶のような悟りに満ちた顔だった。

 哀れな……。

 

 

「全員聞いてほしい。既に全員知っていると思うが、俺たちは今から一週間無人島のペンションで生活し、その後一週間この豪華客船で宿泊する――予定になっている。試験が行われるとしたらやはりこの無人島での生活だろうな。あるいはその後の豪華客船での一週間の宿泊でもなんらかの試験が行われる可能性もある」

 

 

 チラリっと葛城が視線を向けると真嶋はそっと顔を逸らしたのだった。

 

 

「訂正しよう。この二週間で二つの試験が行われると考えられる

 

 

 真嶋先生ぇ……誰も突っ込まない、悲しさよ。

 

 

「船上での試験は少し予定外だが、それでも俺達Aクラスは誰よりも準備と対策を行ってきた。団結して立ち向かえばきっと勝利を掴めるだろう。どんな試験になるかはわからないが、それでも俺達は勝利する」

 

「圧倒的な勝利を、Aクラスに相応しい勝利を目指しましょう」

 

 

 光のリーダーと邪悪のリーダーの宣誓が終わると軽い指示が出されてその場は解散となった。

 

 無人島についてからが本番、そのために心身を整えることこそが今のAクラスには求められる。

 俺はご主人と共に坂柳と一緒に船内を回ることになった。

 

 

「ありがとうございます、真澄さん」

 

「別にこれぐらい、いいわよ」

 

 

 坂柳は普段と違い、車椅子の姿だ。

 杖だとさすがに不安定なため、危ないと判断されて車椅子で船内は移動するようにとなったのだ。

 

 その介助にご主人はついたのだ。

 ご主人は面倒見がいいからな。

 

 

「ホームズも落ちないようにね」

 

「にゃー」

 

「我が物顔で私の膝に座るなんて……生意気ですね」

 

 

 潮風に当たって体調を崩すんじゃないぞ、邪ロリめ。

 

 

 そう返しながら俺達は船の中を散策した。

 

 

「船上での試験に備えて船の中を調べておく必要がありますからね」

 

 

 などと坂柳は言っていたがどう見ても探検気分で楽しんでいる。

 まあ、それは俺もなのだが……。

 

「本当に凄いわね、ここ……。なんでもあるじゃない」

 

 いや、ご主人もそうか。

 ご主人も別に上流階級の出身というわけではないからな、そりゃこんな光景は初めて見るか。

 

 

 船の中とはまるで思えないほどだなー。シアタールームやレストラン、プールがある船なんて乗ったことがないぞ。あー、試験とかなければなー。ご主人と一緒に楽しめたのに……。というか俺の許可が出ているって事は普通にペットオッケーなのかな。というかこの船って試験以外の時はどうなってるんだろ。貸し出しでもしているのか? いや、この船を借りてるのか?

 

 

 本で読んでいたときはあまり気にしていなかったことが気になりながら、俺はご主人と坂柳の会話に耳を傾けた。

 

 

「坂柳って上流階級の出身でしょ? こういうの珍しくないんじゃないの?」

 

「上流階級……といえばそうでしょうね」

 

「こんな船を用意できる学校の理事長の娘がなに言ってるのよ」

 

 ワクワクとした目で周囲を見渡している坂柳に対してご主人が尋ねた。

 一般ピープルなご主人とただの一般通過元野生猫の俺とは違って、坂柳はブルジョアなので根拠は慣れてそうな気がしたのだ。

 

 それにしてはどこか坂柳はウキウキとしているような雰囲気だった。

 

「まあ、そうかもしれませんが身体が身体ですからね。あまり、色々な場所にいくことができないんですよ。ですのでこういったところに来るのはあまりなくて」

 

「ふーん、そうなんだ」

 

 坂柳の言葉にご主人はそう納得した。

 そこそこ元気そうであるが、やはり身体のことで苦労はあるようだ。

 

 かといってあまり身体のことで同情するような雰囲気をしても困らせるだけだと思ったのだろう、ご主人はサラッと気のないふりをして話を流した。

 俺も仕方ないので尻尾を伸ばして顔を撫でてやった。

 

 

「むっ、なんですか……もうっ! でも……ふふっ、少し無理をして来てみた甲斐がありました」

 

 

 楽しそうだなー。そんなに綾小路との勝負が楽しみなのかね。

 

 

「それもありますけど……皆さんや真澄さんと一緒に来れたのが嬉しくて。一人残されるのはちょっと、仲間はずれみたいな感じで寂しかったですしね」

 

 

 

 バカな……坂柳が! 坂柳が可愛らしいことを言っている!?

 

「熱でもあるんじゃ……!」

 

 あるいは船酔いの可能性もあるぞ、ご主人!

 

「たしかに!」

 

 

 

「おい、こら」

 

 

 

 俺とご主人の反応に坂柳はよほどご立腹らしい、そう一言だけ言うとそっぽを向いた。

 

 

 って、おい! 俺の尻尾を握るな! 引っ張るな! ぺちぺち頭を叩くなって!

 

 

 その様子を見ながらご主人が笑いながら坂柳に謝った。

 

「ふっ、ごめんって」

 

「知りません。真澄さんもホームズも」

 

「にゃー!」

 

「ふーんだ」

 

 坂柳も自分らしくないことを言ってしまったという思いがあるのだろう、顔が赤いように見える。

 

 

 船の上の開放感というやつか、それともバカンスで気分が上がってしまったか、そのせいで口を滑らしてしまったと……ふーん? 坂柳がぁ? ふーーーん?

 

 

「にゃふー」

 

「くっ、凄いニヤニヤしている気分がします。こいつめ、こいつめ!」

 

 照れ隠しのためか、俺の身体をなで回し始める坂柳。

 いつもなら反撃してやるところだが、今日ぐらいは許してやらないこともない。

 

 

 はーん? 坂柳がー? へー、ほーん? しょうがないちょっとぐらい優しくしてやるかー

 

 

 そんなやり取りをしていると不意にアナウンスが鳴り響いた。

 

 

 

『生徒の皆様にお知らせします。お時間がありましたら、是非デッキにお集まり下さい。間もなく島が見えて参ります。暫くの間、非常に意義ある景色をご覧頂けるでしょう』

 

 

 

「このアナウンスは……」

 

「試験の始まりのようですね。恐らく、島の全景を把握しておくことで有利になる試験なのでしょう。真澄さん、展望デッキへお願いします」

 

 

 

 ご主人は坂柳の指示通りに展望デッキへ向かった。

 道中で同じように展望デッキに向かう他のクラスの生徒にチラチラと見られたので、俺は挨拶をしておく。

 

 

 

「にゃー」

 

「きゃー、ホームズだ」「ホームズも乗ってるんだ」「ホームズさん、おはようごさいます」「こっち向いてー」

 

 

 

「……人気者ですね」

 

「ふふん、ホームズだからね」

 

「……真澄さんがそんな自慢そうな顔をしなくても。というか一応隠しているのでは」

 

 クールの顔がボロボロなのが可愛いんだろぉおおっ!! ギャップ萌えってやつだ。ただ女子が「神室さんいいよね」「いい……」する分にはいいんだけど、「神室っていいよな」「いい……」って男子がやってるのにはな……危機感を覚える。どうすればいいと思う?

 

「知りませんよ、そんなの……。というかホームズに夢中でそういうのには興味なさそうなのでいいのでは?」

 

 そうかな? そうかなぁ? いや、それは嬉しいんだけどさ。俺としてやっぱりご主人には幸せになって欲しいから、いい彼氏さんを見つけて欲しい気持ちとやっぱりまだ作って欲しくない気持ちが二つあるっていうか――

 

「面倒臭」

 

 

 

 

「何か言った二人とも?」

 

「いえ、別に」「にゃいにゃい」

 

 

 

 

 そんな会話をしつつたどり着いた展望デッキ。 

 船内アナウンスの言葉通り、展望デッキからの眺めはたしかに有意義なものであった。

 

「来たか」

 

 先に到着していた葛城が双眼鏡を一つ坂柳に手渡した。

 Aクラスが持参して持ってきたものの一つだ。

 それを使って坂柳は詳細に島の様子を観察している。

 

 

「なるほど、たしかに無人島のようですね。……いえ、そのように見えると言った方が近いかもしれませんね。ホームズはどう思いますか?」

 

「にゃー」

 

「……ふむ、まあそうでしょうね。いくらなんでも本当の無人島というわけではないでしょう。事故でも起きれば問題ですし、見せかけているだけで人の手は入っているとみるべきですね」

 

「管理された島ということか。そこでの試験……」

 

「島全体を一周するように動いているということは、恐らく島全体を使った試験のようですね。なかなかに規模の大きな試験となるでしょう」

 

「そのようだな……。いかんな人が増えてきた。あまり多くいても他のクラスの邪魔になるか。坂柳と神室はそのまま島の様子を見ていてくれ、俺は少し下がらせる」

 

 

 意識の違いか展望デッキに集まった生徒の割合はAクラスが多かった。

 しかも、アナウンスを聞いてすぐやってきたせいで展望デッキを占有する形になってしまっている。

 

 別にそれは違反でもなんでもないし、試験のことを考えるなら妨害という意味でも放置しておいてもいいのだが……こういうところに気が利くのが葛城という男だと常々思う。

 

 お人好しというべきか好漢というべきか。

 Aクラスの人間がある程度下がったため、他クラスの生徒が俺達の周囲にやってきて島の様子を伺っている。

 

 

 

「試験って何のことかしら?」

 

 

 

 そんな言葉が不意に投げかけられた。

 

「今、話していたわよね。試験がどうこうって」

 

 俺達に向けられたものとは気づかなかったため、ご主人も坂柳も反応が遅れたがそんなこちらの様子など無視して続けて話しかけられた。

 

 

 

 振り向くとそこには長い黒髪の美少女――堀北鈴音がそこにいた。

 

 ぬぉっ!? コンパスガール! コンパスガールじゃないか! 一通り原作キャラ巡りをしようと思って、割と回ったけど近づかなかったコンパスガールじゃないか!

 

 

 

 堀北鈴音。

 原作だとメインヒロイン的な存在だけど、初期の堀北はコンパスで刺してくるやべー女イメージが強すぎて避けていた女キャラだ。

 

 

 あとは周囲に綾小路が出没するし……。

 

 

 思わぬ接触に驚く俺を他所に坂柳が口を開いた。

 

 

「おや、誰かと思えば堀北さんではありませんか」

 

「ええ、お久しぶりね坂柳さん」

 

「裁判以来ですね」

 

 

 ああ、そういえばこの世界では面識はあるのか。坂柳が裁判に出たから……。

 

 

 今更だが原作とは乖離してるなーっとしみじみと俺は思った。

 やりたい放題やっておいてなにを言っているんだと言われるかもしれないが。

 

 

「それで……試験というのは?」

 

「恐らく考えているとおりですよ。今更答える必要はないかと」

 

「それは……」

 

「焦らずともすぐにわかりますよ。すでに始まっているようですしね」

 

 

 意味深な坂柳の言葉に堀北は考え込んだ。

 その様子を面白そうに眺めるドSロリ。

 

 葛城と話しているときに普通の試験の話を出したのは、当然ミスとかそういう話ではなくもう情報を隠す意味がないからだ。

 

 意味深なアナウンスに「試験」の単語、ちょっと頭が回ればそれらを結びつけることは難しくはない。

 見ればBクラスの生徒が状況に気づいたのか一之瀬を中心として話し合っている。

 

 

 とはいえ、もうこの段階になっては意味のない行為だ。

 坂柳は驚いて慌てる姿を見たくてわざわざ口に出したのだろう。

 

 

 さすが坂柳だぜ。

 

 

「ただのバカンスなんて嘘を信じていたんですか? これから始まるのは特別試験――クラスポイントの動く、クラス対抗試験です。Dクラスにも期待していますよ?」

 

 

 堀北に向けているようでその言葉はその向こうのX――綾小路へ向けている言葉だ。

 堀北がその言葉をどう受けた取ったのかはわからないが、少なくとも挑発の類であることは察したようだ。

 

 

「まあ……できればの話ですが」

 

「そうね、少なくとも――」

 

 

 何故か坂柳の膝に座る俺に視線を向け、堀北は答えた。

 

 

「真剣な試験だとわかっているのに、ペットの猫を連れてくるようなクラスに負けるつもりはないわ」

 

「あっ?」

 

「真澄さん、ステイ」

 

 

「ホームズはAクラスの仲間にしてマスコット」「そうです、同人のネタも供給してくれるんです」「そういう言い方――やめなよ」

 

 

 言葉が聞こえたのかAクラスのみんなが応戦する。

 

 

 みんな擁護してくれて俺は嬉しい……なんか、変なのあったけど。妙に庇うAクラスに堀北が変なものを見るような顔になっているな。俺達の一致団結っぷりを知らないと妙に見えるのかもしれない。

 

「と、とにかく……どんな試験であろうと私は負けるつもりはないわ」

 

「そうですか。私たちAクラスも――負けるつもりはありません」

 

 

 そう口にすると少しだけ寂しそうに坂柳は続けた。

 

 

 

 

「……できれば私も参加できるような試験であってくれればと思います」

 

 

 

 

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