よう実世界に転生した畜生系主人公が神室真澄に心を打ち抜かれる話 作:サンディエゴ
「あー、あー……。全員、静粛に」
先生たちの雰囲気は物々しく、どう見ても今から楽しいバカンスですといった顔ではないため、他のクラスの生徒たちも事態を理解したのだろうどこか陰鬱の表情をして指示通りに整列している。
バカンスって聞いててこれはやっぱり酷いよね。
一応、試験の説明までは許されているのかご主人の肩に乗ったまま、俺はことの成り行きを眺めていた。
我らがAクラス担任、真嶋が台の上に立ちメガホンで語り掛けている。
本人的には「よりにもよって……」という気分なのかもしれない。
Aクラス+三クラス分の視線が真嶋へと向いている。
俺には何故か真嶋が内心で泣いているように見えた――気がしたがきっと気のせいだろうと目を逸らすことにした。
「今日、この場所に無事につけたことを、まずは嬉しく思う。それでは――本年度最初の特別試験を行いたいと思う」
突然告げられた冷酷な一言に他クラスがざわつき、Aクラスから向けられる「やっぱりなー」的な視線の濃度が増した。
Aクラス内での真嶋の株メーターがまた下がった。
わかってたことだったけど。
真嶋も視線の温度というかそう言うものを察しているのだろう、なんとか冷静さを取り繕いながら話を続けた。
ルールは以下の通りだ。
まずは基本的なルール。
・支給品はテントや懐中電灯、マッチと言った最低限度にも満たない物品のみ。
・テントや衛生用品は最低限配られる。
・それ以外の物資などは購入する必要がある。
購入に必要なポイントは最初に試験専用の300ポイント配布される。
アイテムや食料などは配られたマニュアルに記載されたポイント消費することで購入可能。
・配布された腕時計は1週間後試験終了まで外すことなく身につけておかなければならない。
この腕時計は時刻の確認だけでなく、体温や脈拍、人の動きを探知するセンサー、
GPS、緊急ボタンも備えている。
などがある。
そして、試験終了時に各クラスに残っているポイントはその全てがクラスポイントに加算される――というルールだ。
要するにポイントを残して試験終了を迎えろというのが基本ルールだな。
そして、次の分が追加ルールとなる。
・スポットを占有するには専用のキーカードが必要である。
・1度の占有につき1ポイントを得ることができ、占有したスポットは自由に使用可能。
・スポットの占有権は8時間しか効力を持たず、更新しないと自動的に権利が切れる。
・キーカードを使用することが出来るのはリーダーとなった生徒のみとなる。
・正当な理由無くリーダーを変更することは出来ない。
・七日目の最終日、点呼のタイミングで他クラスのリーダーを言い当てる権利が与えられる。
・その際、見事他クラスのリーダーを的中させることが出来た場合、
的中させたクラスの数だけ+50ポイント。
他クラスのリーダーを間違えた場合は-50ポイント。
そして、当てられたクラスは代償として-50ポイント。
面倒そうだが要するにより大きな利益を得るためにはスポットを得て加算するか、リーダー当てを成功させるしかないという事だ。
消費を切り詰めてポイントを残そうとしても、そんなのは他のクラスもやるわけで差がつきにくい。
ここで追い上げたいのであればこの追加ルールを上手く利用して、最終日を迎える必要があるだろう。
そして、最後はペナルティについて。
・著しく体調を崩したり、大怪我をし続行が難しいと判断された生徒は-30ポイント。
また、対象者はリタイアとなる。
・環境を汚染する行為を発見した場合、-20ポイント。
・他クラスが占有しているスポットを許可無く使用した場合、-50ポイント。
・毎日午前8時及び午後8時に行う点呼に不在の場合、一人につき-5ポイント。
・他クラスへの暴力行為、略奪行為、器物破損などを行った場合
対象者の所属するクラスは即失格となる。
また、対象者のプライベートポイントも全て没収される。
と、まあルール説明はあくまでこんな感じだった。
細かいルールについては詳細は尋ねる必要があるだろう。
だが、問題はそこではなく。
「……なるほど、無人島サバイバルですか。仮説の一つには上がっていましたが」
Aクラスが見つめるのは坂柳のことだ。
身体に疾患のある坂柳にはやはり無理な内容の試験に思える。
つまり、坂柳は最初にリタイアして残りで試験に挑むことが最適解。
みんなそれがわかっているというのに口に出すことはできない。
何故なら坂柳はAクラスの影のリーダーであり、そして仲間だからだ。
「仕方ありません、可能性は高かったですしね。私は――」
「坂柳は私が背負う。それでいいでしょ?」
残念そうに語る坂柳の言葉をぶった切ったのはご主人だった。
「……真澄さん?」
「最初から-30CPを捨てることもないでしょ。そりゃ、車椅子は無理だろうしこんな場所じゃ杖で歩くのも厳しいだろうけど……それなら私が運ぶからいいでしょ?」
ご主人!
「試験を勝利するなら坂柳の頭はどうしたって必要になってくる。そうでしょう?」
などとご主人は言っているがそれだけが理由ではないなんてわかりきっていた。
ご主人ー!! うぉおおおっ! ご主人格好いいよぉ! 惚れ直すぜぇ!! 人の心がなそうな邪ロリでも仲間はずれにされると寂しいという人並の感情を僅かにでも持っていることを知っているもんな! うぉおおおっ!! ご主人ー! 格好よくて可愛くて美しくて無敵すぎるよ、ご主人ー!!
坂柳もご主人の優しさに感動しているようだ。
この調子で人の心を取り戻すんだ、最初からあったのかは知らんが……。
「真澄さん……あと余計なこと考えたホームズは覚えておきなさい」
なんでや!!
格好いいご主人の行動にテンション爆上がりでその場でぐるぐる回っている俺を放置して真嶋が口を開いた。
「しかし……だな。やはりそれは難しいんじゃないか? もしもの時もある」
「そのためのこの腕時計なんじゃないですか? これで体調は確認できるんでしょ? 無理はさせません」
「いや、まあ、それはそうなんだが」
さすがに注意してくる真嶋だったがご主人は反論する。
安全管理のために腕時計をつけるんだから、これがあれば無理をしない程度に参加できるでしょ、いざとなったら緊急で呼べるわけだし……という理屈だ。
あんま作中で意味があった気がしないけどもな。堀北の体調不良とか暴行されてもとくにアクション起こしてないし。
それほど精度良く状態を監視できていないか、あるいはしていても本人が申告しない限りはスルーなのか。
学校の制度的に恐らくは後者なんだろうと思う。
色々とどうかとは思うが、わざわざつけさせておいて実は体調不良とか測れませんということはないだろう。
それなら一応、保険として有効活用できるはずだ。
こういったものがないのならさすがに坂柳にサバイバルなんて無謀すぎる話だが……。
「……わざわざ最初から-30CPを捨てることもないか」
「葛城くん」
「Aクラスが目指すのは完全なる勝利だ。そのためには坂柳の頭脳が必要だし、なにより坂柳はAクラスの仲間だ。彼女が欠けた状態で勝利してもAクラスの勝利とは言いがたいな」
そう我らが光り輝くリーダーである葛城が言ったことで話の方向性は決まった。
Aクラスの生徒からは続々と賛成の意が表明された。
坂柳の頭脳に頼れるというメリットがあるとはいえ、身体が不自由な人を加えてのサバイバルなどかなりの負担だ。
誰かが坂柳のフォローに回る必要があるため、ぶっちゃけ三十九人でやった方がいろいろと動きやすいだろう。
だとしても坂柳と一緒にこの特別試験を挑みたい。
何故ならAクラスはワンチームだからだ。
「で、どうするの?」
「……負担になるかもしれませんが」
「まあ、他クラスへのハンデくらいにはなるんじゃない?」
「ふふっ、そうですか。では、ハンデだけで終わらないように働きで返すとしましょうか。――真嶋先生」
「はあ、わかった。だが、体調には気をつけること。場合によっては強制的に介入することも伝えておこう」
そう言って真嶋は折れた。
学校側が用意した安全管理対策の一環である腕時計を盾にされては真嶋としてもあまり強くいえないのだろう。
これがあるから危なくなったらわかるでしょ。
じゃあ大丈夫だよねー、と言われたらどうしたって否定することは難しい。
それに担任教師として坂柳だけ参加できないというのは思うところがあったのかもしれない。
まあ、一番大きい要素としてこの「みんなで坂柳を支えて一緒に試験に勝とうぜー! おー!」みたいな空気の中、やっぱりダメですといえる勇気が出なかったからかもしれないが……。
まあ、それはともかくとして。
真嶋からの無理そうだったらリタイアするという条件の下で許可が下り、坂柳は正式に無人島の試験に参加することになった。
「坂柳さん!」「坂柳さんがいれば一騎当千! 一網打尽! 他クラスなんて邪悪パワーでイチコロだね!」「やめなよ」
「か、神室さんが疲れたら私が代わりに坂柳さんを運びますから」
「山村美紀の体力では無理なのでは?」
「た、体力はついた……つもり?」
「クラスみんなでフォローすればいいさ」
歓声が上がって口々に迎え入れるAクラスの様子に俺は感動を禁じ得ない。
なんだろう……吹いている気がする。友情の風が吹いている……っ! クラスが一丸となって試験に挑む、この光景は正しく青春! うぉおおおっ! よう実世界とは思えないほどの爽やかな青春の一ページだ! 完璧なる友情と絆! 円陣組もうぜ! それでさあ一斉に――
一丸となって試験に挑もうとするAクラスの中に交ざろうとテンション爆上がりの俺だが、そんな俺を捕まえる手が一つ。
「それと試験になるため、ホームズは一旦預からせてもらう」
「えー、そんなー」「ホームズは私たちの仲間なのに」「やめなよ」
真嶋の言葉に非難の声が上がった。
とはいえ、まあ真嶋の言っていることは正しい。
試験にペットを持ち込んではいけません。
くそっ、なんて普通のことを言いやがるんだ。
「これは特別試験だ。ペットの同行は認められない。たしかに学校に通わせる権利こそ売ったが、それとこれは別のため抗議をされても認める気はない。いいな?」
念押しするようにご主人と坂柳に向けて言う真嶋。
今までの経験上、どう考えても文句をつけてくることが予想できるからな。
先手を打ったつもりなのだろうが……。
「それじゃあ、仕方ないですね」
「うん……うん?」
「それではホームズのことをよろしくお願いします。キチンと預かっていてくださいね?」
「責任を持ってホームズのことは預かるのですよね?」
「それは……もちろんだが」
思いのほか、なにも言ってこないため警戒していた真嶋は困惑している。
それはAクラスも同様だった。
「いいのか? 神室」
「いいのよ」
「ホームズには坂柳を頼む予定だったのだが……」
「前から思っていたのですが葛城くん。もしかして、私よりホームズのことを信頼していませんか?」
「…………」
「おい、こら」
おかしい、完璧なる友情と絆があっけなく崩壊しそうになっているが……まあ、それはともかくとして。
俺は真嶋の手によって大人しく確保されたままご主人たちの方へ顔を向けている。
「ほ、本当にいいのか? あとで文句を言わないよな?」
「真嶋先生こそ、キチンとホームズのことよろしくお願いしますね。なにかあったら監督義務違反で訴えますから」
「あ、ああ……それはもちろん。責任を持って学校側で預からせてもらうが」
よし、言質取った! ごめんね真嶋先生!! でも、たぶん一週間もご主人分――マスミニウムの補給が滞ったら、俺どうなるかわからないからさ!
特に抗議をしてこないご主人をどこか不気味そうに見ている真嶋を尻目に、俺は尻尾を大きく振るのだった。
「それではホームズのことをよろしく頼む」
そう言って俺は星之宮に預けられ、その場から引き離されていく。
できれば開始直前まではここには居たかったのだが、それはどうやらダメみたいだ。
いよいよ特別試験が始まろうとしている中、俺は星之宮の手によって船の中に連れ込まれていく。
大人しく捕まりながら、坂柳とご主人の方へと顔を向けると坂柳が口パクをしていることに気づく。
――さっさと来なさい。待ってますよ。
坂柳は口パクで、ご主人は無言で親指を立てて俺に対する信頼を伝えてきた。
いやー、仕方ないなー! そこまで信頼されちゃなー! よーし、ちょっと頑張って脱走するとかなー。ご主人と無人島生活だぜー。
そう決意を新たにし、俺は用意されたペットゲージに入れられ――
「ちょっ、ホームズが居ない!? なんで!?」「ちゃんと鍵はかけたのか!?」「どこにいった!? 船の中を――」
プリズンブレイクしたのだった。(過去形
けっ!! 俺を閉じ込めておくには温すぎるんだよ、ぺっ!! うぉおおおっ!! 自由への逃走だぜぇ!!
俺は海へとダイブしたのだった。