よう実世界に転生した畜生系主人公が神室真澄に心を打ち抜かれる話 作:サンディエゴ
「初めましてと言うべきかな……キャスパリーグ。ああっ、私のことは知っていて当然だから自己紹介は必要ないだろうね?」
いや、まあ、知ってるから別にいいけどさ。っていうかキャスパリーグって――
「ふっ、さすがだ。そうとも私こそが高円寺六助。この世で最も最高にして最強の男さ」
名前言ってるじゃねーか。そうじゃなくて俺にはご主人からもらったありがたい名前が――
「君のことは前から知っていた。いつかこうして会ってみたいと思っていたところなんだ。だというのにキャスパリーグときたら、遠目にその姿を見せることはあっても目の前に現れることはないなんて」
だって、関わり合いになって噂されたら恥ずかしいし……。だから、そうじゃなくてキャスパリーグ云々って――
「だが、こうして機会が巡ってきたのはやはり私という存在が世界の寵愛を受けている証拠なのだろう!」
人の話……じゃなくて猫の話をほんと聞かねえな!? えっ、猫の話なんてわからないだろうって? いーや、違うね。雰囲気でわかる。こいつはこっちの意思表示をわかった上で流してるんだよ、こんちくしょう!!
高円寺は思った以上に話が通じない男だった。
独特の自分のペースを守ってこちらのことなどお構いなしに話し続けている。
よう実世界の中でトップクラスの奇人変人の部類に入るキャラだけのことはある。
ちょっと話すだけで疲れてきたわ。
「時にキャスパリーグ、君はこの島のことはどう思う?」
唐突に何の話だよ……。というかそもそもなんで上半身裸で島の中を彷徨いて――いや、いいや。高円寺だからということで納得するとしよう。
「自然と一体となるには己の肉体をさらけ出すのは当然だろう。天然自然に作られた私の肉体はこの太陽の光を受けて光り輝くのさ」
おい、やっぱわかってるじゃねーか。それなのに都合のいいところだけ反応しやがって……いや、よそう。なんか面倒になってきた。それでたしかこの島の印象……だっけ? まー、なんというかよくまあ金を費やしてこんな不格好な島を作ったなーって。
「ほう?」
俺の言葉に興味深そうに高円寺は笑みを浮かべ、話の続きを促した。
それに面倒そうな視線を返しながら、俺は今まで見てきた光景を思い浮かべながら答えた。
無茶苦茶、人の手を入れて整えられてるなって印象だな。軽く見て回った範囲だけどさ、動物の気配や痕跡がねーんだわ。いや、小動物ぐらいはいるんだけどそれを捕食する大型動物は影も形もない。それなら、天敵が居ない小動物が増えていてもおかしくはないんだけど、見た感じそれもない。たぶん、金と時間を使って排除したり間引いたりしてるんだろうな。途中で川があったからそこで魚取ったけど、あれ完全に養殖された魚だったわー。正直、ちょっと笑った。
他にも至る所に人の手が入った痕跡が俺の目に入った。
森の中も定期的に手を入れてないとおかしいほどに整備されていたし、水だって飲料可能に清められている。
その他いろいろあるが、要するによくここまで手を入れたなってぐらいには人の手が入った人工の無人島なのだここは。
まあ、一週間もの間、特に経験豊富でもない生徒たちをサバイバルで過ごさせるわけだし、それぐらいしてもらわなきゃ困るが……なんというかこれはあかんよなー? 隠すつもりなもうちょっとちゃんと隠して欲しいっていうか。隠すつもりないなら最初から自然豊かな無人島なんて言わずに、サバイバル専用特設ステージとかいっておけばいいものの。
「HAHAHA! それはたしかにそうだ。私としても憤りを覚えることはなかっただろう。まあ、それはそれとしてそんな場所は私に相応しくないだろうが」
どっちにしろ、文句言うんじゃねーか。まあ、本物ラベル貼ったイミテーションを見せられたらムカつく気持ちはわかるけどね。しかも、バカンスという名目で連れてきて急にサバイバルしろって……高円寺なら実は試験があるかもぐらい、予想できてそうではあるけど。
「どうだろうね。ただ、まあ仮に予想ができていたとしてそんな扱いを受けて苛立たないかは別の話だと個人的には思うね」
うーん、高円寺の癖に正論を……。まあ、リタイアしたらクラスに迷惑がかかるし、クラス内での立場が気になって試験には挑むけど――正直、アホらしいからリタイアしたいって思ってる生徒は多いだろうな。できないだけで……。
一週間も急にサバイバルをしろとかつくづく普通に酷い話だ。
「まあ、そんなことはどうでもいいのだ。たしかにここは私に相応しいイミテーションだが、ここには本物があった。私の無聊を慰めるに相応しい――本物が」
何故か俺の方を見ながら高円寺は言った。
「キャスパリーグ……君に勝負を挑もう」
なんて??
「そうだな、勝負方法は――ああ、そうだ。あっちの方角の先、森を抜けた先にスポットの機械があった。まあ、私には関係ないから放置したのだがあの機械をゴールとして競争と行こうじゃないか」
待て待て待て、いや、ほんと話を聞けよ高円寺。
「ルールは至って簡単だ。先にその機械にたどり着いてタッチした方が勝利。あとはそうだな敗北条件として私に捕まったら負けというのも条件に加えよう」
なんで俺がそんな勝負を受けないといけないんだよ。
「先ほど、君を捜し回っていたティーチャーに出会ってね。キャスパリーグの確保を手伝って欲しいと頼まれたのだ。学生である私としてはティーチャーの助けになってやりたくてね」
嘘つけ、お前がそんな理由で動くわけがないだろうが!
そんなこと天地がひっくり返ってもありえないことだろうに、いけしゃあしゃあと笑う高円寺を俺はジト眼で睨んだ。
「HAHAHA! まあ、そんなことはどうでもいい。それで受けるのか? それとも受けないのかキャスパリーグ」
再度の高円寺の言葉に俺は内心でため息をついた。
どうにも高円寺は俺に何故だか興味を持っているようだ。
俺はちょっと原作知識という名のこの世界の知識を、前世の記憶として持ってるだけの元人間の現ペットの一般猫なのにどうして……。
嘆いたところで現状はどうにもならないので俺は切り替えた。
高円寺のようなタイプに目をつけられたとなると下手に逃げるよりさっさと付き合った方がいいだろう。
変につきまとわれた結果、ご主人にまで迷惑がかかってしまうかもしれない。
それだけは避けたい。
「ふっ、安心したまえ。私は女性には優しいことで有名でね。キミのクールな飼い主に迷惑をかけるような真似はしないさ」
お前みたいなキャラが普通に話しかけるだけで、ご主人には迷惑なんですけどね。ご主人を怒らせるなよ? ご主人は本気になったらやるときはやる女……玉が惜しければ変なちょっかいはやめることだな。
「玉……ボール、か。――……やるのかい?」
ご主人はな……躊躇いなく蹴り上げるぞ。必要とあらば。
「そうか……そうか、なるほどとてもお転婆なエキセントリックガールのようだ。気をつけよう」
取り繕っているがちょっとだけ声のトーンが下がったのを俺は敏感に察した。
牽制はどうやら成功したらしい。
高円寺もやはり男と言うことなのだろう。
怖いものぐらいはあるようだ。
「んっ、んん! まあ、ともかく勝負ということで。やるとしようかキャスパリーグ!」
仕方ないな……やるだけやってやるか。
「私こと高円寺六助は――この世で最も最高にして最強の人間であることを証明してあげようではないか」
そんな風に不敵に笑う高円寺に対し、俺は一つだけ忠告をすることにした。
「にゃーご」
高円寺……お前が自分にどれだけ自信を持っていようが好きにすればいい。――あくまで
「ほう? ……というと?」
そんなこと決まっているだろう。最高にして最強の男、ならいいが……最高にして最強の人間であると自称するのは我慢ならん! 何故なら――
最高にして最強は俺のご主人! 神室真澄ただ一人だからだぁああああ!
「ふっ、言ってくれるじゃないか。ならば、キャスパリーグが勝った暁にはエキセントリックガールのことをゴッデスガールと呼ぶとしよう!」
おっ、それいいな。ついでに坂柳のことはデビルガールで頼むわ!
「この私が呼び名を強制されるとはね……。だが、いいだろう。所詮は私に勝てたらの話。夢を語ることぐらいは許してあげよう。さて――合図は
おう、問題ないぜ。ご主人のペットである俺の負けはご主人の負け、敗北を背負わせるなんてペット道に反する行為! 勝ってみせるぜ!
朗らかにそんな会話をしながら、俺達は戦意を高め――そして、合図を待った。
合図はすぐにやってきた。
ガサガサと藪を抜けてきた疲労困憊状態の星之宮とその他のこの試験の関係者たち、彼女たちがよろめきながら前に出て口を開いた。
「ほ、ホームズ……ようやく見つけ――」
「えっ、ちょっ、待っ」
―――
「その程度かい! キャスパリーグ! これでは私が先にゴールしてしまうなぁ!」
高円寺の哄笑が森の中に響き渡った。
高円寺の言ったとおり、競争はやつの方が先に進んでいた。
本来であればただの人間より俊敏に動ける猫である俺、並大抵の相手なら……それも森の中という障害物の多いフィールドで負けることなどまずあり得ない。
考えもしなかった。
整備されたグラウンドを走るのとは全然違う、多少人の手が入っているだけの森の中は当然のように足場が最悪だ。
人のような二足歩行をする生き物にとって走るには足場の状態というのはとても重要だ、なにせバランスの問題ですぐこけてしまうからな。
その点、猫のような四足獣は安定性抜群。
この程度の足場の悪さは問題にならない。
だから当然、森の中を抜ける競争なんてものは俺が有利なはずなのに――ここに例外があった。
「はっはー!」
ええい、ターザンかあいつは! たしかそんなことやってた描写はあるけどさ!
高円寺は空を飛んでいた。
正確にいえば木から木へと飛び移るように、パルクールとかターザン的な動きでだ。
足場の悪さなど知ったことかと言わんばかりにぐんぐん進んでいく。
恐るべき速さだ。
あいつの前世は原始人だな、間違いない!
そんな確信をしつつ、俺は全身をバネのように使って高円寺を猛追する。
ご主人のペットである俺が敗北なんて……そんな無様を見せるわけにはいかねぇな!
地面を走ってはらちがあかない。
そう判断した俺は進行方向の木の一つに突貫。
「やるな!」
跳躍するとその木の幹を足場にして、次の木へと飛び移った。
そして、次の木を足場に次の木へ。
その程度のこと、俺にできないと思ったか!
高円寺の動きを真似するかのような動き。
俺は高円寺との距離を縮めることに成功する。
「だが、それでも私の方が早い。そして、ゴールはもう見えてきたぞ!」
高円寺の言葉通り、俺達の進行方向の先に森の木々が途切れた場所があった。
その場所の中心に見るからに人工物の機械――あれこそが今回の競争のゴールであるスポットの機械なのだろう。
しめた、ゴールの機械は拓けた場所の中心にある! 従って高円寺のターザン跳びでたどり着くのは不可能!!
どうしたって最後には地面に下りる必要がある。
それならば――
「――この私に勝てるとでも思ったのかい! キャスパリーグ! その発想はナンセンスだ!」
俺の考えを読んだようにそう叫んだ高円寺は勇ましく地面に降り立ったかと思うと、完璧なフォームで猛然とダッシュした。
な、なにィ!? なんだあの速さは! あいつ本当に人間か?! なんて速度で走りやがる!
「最高にして最強の私は当然のように! 走りだって最高にして最強だ! この私の速度に追いつけるかな?!」
ネコ科動物を舐めてるんじゃねぇえええっ!! 直線スピードで負けていられるかぁああっ!
たしかに高円寺は早い。
だが、それは所詮二足歩行をする人間という括りの中でのことだ。
瞬発力なら圧倒的にこちらの方に分がある。
俺は全身を使って大地を蹴り、高円寺との距離を縮めることに成功する。
が――
くっ、これは……ルートがない!
ゴールである機械との距離を考えると最短ルートを取らなければ先行する高円寺をゴールする前に追い越すことはできない。
それがわかってしまう。
つまり、最適解は高円寺のすぐ隣を抜き去るルート。
だが、そこで思い出すのは始まる前に決めたルールだ。
この競争の勝敗は先にゴールしたものが勝者。
だが、敗北にはもう一つルールがある。
それは高円寺に捕まってしまった場合だ。
「ふっ、この私に敗北を想像させるとは……。キャスパリーグ、最後の勝負といこうか!」
同じことを考えていたのだろう。
隣を抜けられてしまってはゴールに先に着くのは俺の方、それがわかったからこそ先行するゴールに背を向けて俺を迎え撃つ体勢に入った。
俺を捕まえることで勝利を得る――という選択。
ここで俺がルートを変更し、大回りのルートを選べば高円寺はすぐさま切り返してゴールへ向かうだろう。
高円寺を避けて大回りのルートを選べば、俺は速度を殺さなければならない。そして、大回りするルートを選んだ以上距離も増加し間違いなく距離的に近い高円寺が先にゴールへとたどり着く。つまり……俺が勝つためにはこのままの勢いで高円寺を抜くこと! それが勝利への道!
もとより、ご主人のペットとして勝負から逃げるような真似なんてするつもりはない……正面からぶち抜く!!
「――来い!!」
俺を迎え撃つ体勢の高円寺は腰を落とし全神経を集中させている。
それはまさしく鉄壁の城塞を思わせるオーラを放っている。
高円寺の異常なほどの反応速度と先読みの力、それを掻い潜るのはまさしく至難の業。
だからこそ、俺は研ぎ澄ます。
思い出せ、あの日々のことを……。
やつら相手に行った
「右――いや、左だ!!」
「なん……だと!?」
ふっ、それはただの残像……だ。
高円寺が幻の俺に引っかかった瞬間、無防備になったサイドを走り抜け……俺はゴールにタッチダウンした。
そして、すぐさまそのままの勢いで逃走を開始した。
っしゃあ!! 勝ってやったぜ馬鹿野郎!! 俺の勝ちだぜ、高円寺ー!! というわけでサラダバー!
これ以上、絡まれてはたまらないとばかりにその場をあとにした。
幸い、高円寺は追っては来なかった。
満足してくれたんかな? なんか笑い声が後ろから聞こえてきたし、たぶんそうなんだろう。付き合った甲斐があったぜ!
それにしても疲れた。
予定が高円寺のせいで散々になってしまった気がする。
というかよくよく考えれば高円寺ってリタイアするはずだったんだから、別に無理して付き合うこともなかったな……。あー、それにしても疲れた。近くに川があったからそこで身体を冷やしてから散策に戻るとするか。全くやれやれだぜ。
そんなことを考えながら、俺はスポット探しに戻るのだった。
<人物紹介>
●ホームズ
→デビルニャットゴーストを解禁したただの猫。デビルキャットゴーストではないのがこだわり。足さばきと視線によるフェイント、それプラスに気配のコントロールまで混ぜ合わせた高等技法であり、常人であれば何があったかもわからずに幻影の猫を見てしまうだろう。天才だとその原理を見破ることは可能かもしれない。仇敵相手だとゴーストからのハリケーンを使わないと逃れることができない。
●高円寺六助
→デビルニャットゴーストに引っかかったが、冷静に分析することでその原理を分析の成功する変人であり、奇人ありやっぱり天才。神室をゴッデスガールと呼び、坂柳をデビルガールと呼ぶことが決定した。