よう実世界に転生した畜生系主人公が神室真澄に心を打ち抜かれる話   作:サンディエゴ

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畜生系主人公が神室真澄と一日目を終える話

 

 

 

「にゃおん」

 

「よしよし、どうしたの? とても疲れた顔をして……変態に会った?」

 

「にゃむにゃむ」

 

「それは大変でしたね、ホームズ」

 

 

 夕方、俺はAクラスの拠点でご主人の膝の上で丸まって疲れを癒やしていた。

 高円寺のせいでいろいろと予定が狂い、結局他のクラスの様子まで見に行けなかった。

 

 俺は島を軽く散策した中で見つけたスポットの位置や食べ物の位置を大まかにご主人たちに伝えつつ、失った体力を回復するのに努めている。

 

 

「こことここと……ここですか」

 

「なるほど、この位置ならスポット班のルートに入れることも可能でしょう。もう少し伸ばせそうですね」

 

 

 俺が伝えた場所をマニュアルに描いた地図に書き込んでいく坂柳。

 マニュアルに書き込まれたこの島の簡易地図はご主人とAクラスの女子生徒の合作だ、展望デッキから見た島の全景から描いた非常に大雑把なものだがだいたいの形状と方角がわかるだけも十分すぎる。

 

 Aクラスは結構多芸な人材が多いなとしみじみと思う。

 

 というかご主人は勉強もできて運動もできて絵もできるとか凄すぎない? まあ、ご主人だしな!

 

 それはともかく、俺の情報をもとに坂柳は現状を分析しているようだ。

 俺はご主人に何かなかったかと問いかけた。

 

 

「ホームズが居なかった時に何かなかったか? んー、そうね。特に変なことはなかったけど」

 

「ホームズが気にしているのは他クラスからの接触のことでしょうね」

 

「他クラスからの接触って……一日目だし、どこもサバイバルの基盤を作るので精一杯じゃない?」

 

「真っ当に試験を突破するつもりならそうでしょう。ですが……」

 

「真っ当に試験を突破するつもりがないのなら、その限りではないということか」

 

「おや、葛城くん。帰ってきていたのですか」

 

「ああ、つい先ほどな。点呼の時間も近いし、余裕を持って切り上げてきた」

 

「全体の調子はどうでしょうか。葛城くんの所感としては」

 

「食料の方は思った以上に豊富だ。この場所がいいんだろうな、それほど遠くないところに野菜や果物など豊富にあった。水についても川があったからな。もちろん、拠点に運ぶ手間と労力はあるだろうが。今のところ、十分一週間は持ちこたえられそうな分を見つけることはできた」

 

「そうですか、ホームズの方で何カ所か見つけたようなのでそれもできれば加えてください」

 

「むっ、そうか。明日、確認しておくとしよう。量はあるがやはりバリエーションは豊富な方がいいからな。ともかく、食料や水に関しては今のところ問題はなさそうだ。調理道具と調味料をポイントで購入すればいいだろう」

 

「となると……一週間を過ごす上で必要なトイレやシャワーなどにポイント使って100CP以内で消費は抑えられそうな感じですか?」

 

「もう少し切り詰められそうでは……ある。まあ、まだ予断は許さないのであくまで今のところの予測としてはそんな感じだな。それで話を戻すのだが……」

 

「他クラスの動向に関してですね?」

 

「そうだ。俺は基本的に全体の指揮に従事するつもりだから、全体の方針の分析にしては坂柳に一任するつもりだが聞いておきたい」

 

「いいでしょう。真澄さんも言っていましたがこの試験は急遽始まった試験です。我々Aクラスはある程度予測していたとはいえ、その他のクラスからすれば寝耳に水といったところでしょう。いきなり始まったサバイバル生活、まず一日目は生活基盤を整えるだけで精一杯というのは正しい分析です」

 

 Aクラスのように役割分担を決めて、クラスとしての方針を決めて、組織的に動き始める……なんてことは心の準備ができていなかった他の三クラスには無茶な話だ。

 

「まあ、Bクラスは問題はないでしょう。あそこは一之瀬さんをトップとして統制が取れたクラスですからね。気持ちを切り替えてスムーズに試験に集中することが可能です。ですが、問題があるのは残りの二クラスです」

 

「CとDクラスか……。Dクラスはリーダーの不在が厳しいな。平田や櫛田、それと堀北などそれなりに人は居るが」

 

「クラス全体を統率できるかというと厳しいイメージがあるわね」

 

「Cクラスは龍園が統率しているが基本的には恐怖に縛り付けた体制だ。こういった協力を前提とする試験はたしかにもっとも苦手とするものだろうな」

 

「その通りです。その二クラスは場合によっては試験中に空中分解を起こす危険性が存在します」

 

 この試験において一番やってはいけないことはクラスの空中分解だ。

 ただでさえ、サバイバルなんて環境の変化でストレスがかかるというのに心の準備もなくさせられ、CPを得るためには節制を強いられる。

 

 人によっては集団生活をするだけでストレスがたまるものもいるだろう。

 溜まりに溜まったストレスの結果、サバイバル生活の最中に爆発してしまう――というのは最悪の展開で、そして十分にあり得る展開でもある。

 

「この学校では三年間クラス替えは存在しない。そういうルールです。となるとそんなことが起きてしまったら大変です」

 

「確執やしこりとなって今後に響いてくるだろうな。当然、クラス間での抗争にも影響を与えるだろう」

 

「それを避けるためにはどうするか。選択肢としてこの試験を捨てるというのも、一つの合理的な手段に入ると思います」

 

 坂柳の言葉に葛城は考え込むように顎をさすりながら同意した。

 

 

「……たしかにその選択肢もあり得るか。だが、試験を丸々捨てるというのは」

 

「試験を捨てると言ってもやり方次第ですよ、葛城くん。正確にいえばこの試験での勝利を捨てるという手段です。例えばそうですね、最初に与えられる300CP。これらを他クラスに使わせる代わりに、試験後に一部を返還して貰える契約を結ぶというのはどうでしょうか?」

 

 

 うーん、さすがは坂柳……。普通に気づいてくるんだな。

 

 

「えっと……つまり、例えば100CP分の物資を融通してやるから、試験後にその半分のCPを返せ――見たいな?」

 

「まあ、そんな感じです。クラスポイントか、あるいプライベートポイントでもいいかもしれませんね。レートも交渉で決めるとしたら……どうでしょう? 少なくとも取引するかどうか検討の余地はあると思いませんか?」

 

「……なるほど、たしかに。一考の価値はあるな。下手に試験をすることにこだわって空中分解してしまうリスクを負うよりも、最低限の利益を確保してリタイアしてしまった方が合理的という考え方もわかる」

 

「その方法をCクラスとDクラスはやる可能性があるってことね」

 

「まあ、とはいえやるとしたらCクラスの方でしょう。Dクラスは保有しているCPが少なすぎますから、少しでも欲しいと考えている方々も多いと思います」

 

「この試験を捨てるという判断を実行するのも難しい、と。そして、仮にCクラスがその作戦を実行するとしたら……」

 

「ええ、取引の相手に選ぶのはAクラスかBクラスかのどちらかでしょう。Dクラスは統制が取れていないのでそもそもすんなりと契約できるかが不安でしょうし」

 

 現状のDクラスには確固たるリーダーが存在しない。

 仮に平田なり櫛田なり堀北に持ちかけたとして、話が通ってもクラス全体が従うかどうかは未知数だ。

 

 これでは交渉相手になり得ない。

 だから、取引を持ちかける相手は二択になる。

 

「この作戦を実行するなら取引は早ければ早いほどいい。なので待っていましたが今日来なかったということは、Bクラスを選んだかあるいはその策を選ばなかったか……残念です。できれば持ちかけてきて欲しかったのですが」

 

 坂柳はとても残念そうにため息をついた。

 その様子にご主人が尋ねた。

 

 

「仮に持ちかけてきたらどう対応するつもりだったの?」

 

「300CPを残せるのは大きいですからね。ガリガリにレートを絞って契約をしようかなーっと」

 

「レートを絞りすぎたらBクラスと取引するだけじゃない?」

 

「取引しないならBクラスにも情報を流すって言えばいいんですよ。当然、Bクラスも似たようなレートでしか契約しないでしょう。Cクラスは真っ当に試験をクリアできそうにないからそういった奇策に走っている――という弱みをちゃんと認識していれば強気に行っても、向こうはそれで契約するしかないんですよ。立場的に有利なのはこちらなんですから」

 

 

 自信満々の坂柳、実際Cクラスが来たらケツ毛までむしるようなレートで契約して、ついでといわんばかりにガチガチで条項で縛っていただろうことが窺える。

 伊達に学校側相手にカツアゲを実行した強請の坂柳ではない。

 

 

 そういった意味ではAクラスを避けたCクラスは英断なのかもしれない。

 

 

「まあ、Cクラスの動向についてはすぐに明らかになるでしょう。真っ当に試験をクリアするつもりなら、それはそれでいいですし。統制で手一杯になるでしょうからね」

 

「ふむ、そうだな。明日以降ならある程度、余力も出てくる。動向を探るために派遣させるのもいいか」

 

「それがいいでしょうね。Bクラスはともかく、CとDクラスの動きは把握しておきたいですし。それからスポット班のことですが」

 

「そっちも問題はないだろう。鬼頭たちには苦労をかけることになるが」

 

「試験後に労うことにしましょう」

 

 

 今回の試験、キーカードを持っているのは鬼頭だ。

 スポットの占有ポイントを確保しつづけるとなると体力勝負になってくるからな。

 

 いくら一度占有してしまえば次までに八時間の猶予があるとはいえ、占有するスポットが多くなれば動き続ける必要がある。

 幸いこの洞窟の拠点は立地がいいせいか、ある程度固まってスポットがあるため回りやすいとはいえ、一週間続けるとなるとかなりの大変だ。

 

 鬼頭とそれをサポートするスポット班は体力を使うことになるだろうが、それでも彼らが頑張れば頑張るほどAクラスのCPは多くなる。

 

 是非とも頑張ってほしいものだ。

 

 

「今のところ話し合うべき点はこのくらいか?」

 

「そうですね。既に手を打っている以上、我々としてはサバイバルを無理なくこなして過ごすことです。スポットの占有も無理をしない範囲で最高率を狙っていきましょう。あとは――」

 

 

 光のリーダーと邪悪のリーダーが話し合っている間、俺は睡眠を取ることにした。

 高円寺のせいで無駄に体力を使ったせいだ。

 

 

 

「ん、お眠? よしよし、お休みホームズ。あと……気をつけるようにね?」

 

 ヤバそうな動物も居なかったし大丈夫だよ、ご主人。

 

 

 ウトウトしだした俺をポンポンと撫でてくるご主人に対し、俺はそう返すと目を閉じた。

 

 少し体力を回復させる必要がある。

 

 

―――

 

 

 

 

 夜も更けた頃合い。

 俺は目を覚ましてそっと洞窟の拠点から出た。

 

 

 月と星の輝きが近い。

 とてもいい夜だ。

 

 

 そんな中、俺は何処に向かっているかだって?

 

 

 そんなもの当然、他クラスへの襲撃に決まっている! いや、まあ、襲撃と言ってもそんな大層なことじゃなくて、ちょっと近づいて様子を見てなんならキーカードを探し当ててリーダーを見つけちゃおうってだけの話でね。

 

 えっ? お前それはいくら何でもズルくないかって? でも、Aクラスの勝利……ひいてはご主人の勝利のためだから! 俺はご主人の役に立ちたいんじゃ!

 

 まあ、ほら俺って既に学校側からも諦められて黙認されている存在である意味ルール外の存在だから反則じゃないし。それに言っておいてなんだが簡単にリーダーを見つけられるほど、上手く行くとは思っていない。

 

 あくまで拠点に侵入するだけじゃ、さすがにわかるわけがないだろう。全員の荷物あさるわけにもいかないし。

 

 ただ、俺には原作知識がある。

 Bクラスは知らんがCとDの原作のリーダーはわかっている。

 

 その二人が今回もリーダーなのかリーダーじゃないのかぐらいかは調べられるはずだ。

 

 龍園は怖いからまずは堀北だ。

 まあ、堀北だってことがわかっても結局は綾小路が変えちゃうんだろうけど、それはそれでいい。

 

 問題は堀北だと思っていたけど堀北じゃなかった場合だ。

 そこらへんはケアしておくべきだろう。

 

 

 というわけでいざ鎌倉! なーに、ちょっと侵入してさっと逃げるだけだ。綾小路がちょっと怖いが俺の潜入能力をもってすれば――何やつ!!

 

 

 Dクラスの拠点があるであろう場所に向かっていた俺は咄嗟に警戒姿勢を取って周囲を警戒した。

 

 

 

 

 何かが……居る!!

 

 

 

 

「HAHAHA! さすがにバレてしまったか。やはり察知能力はそちらの方が上か」

 

 

 むう、この昼間にも聞いた高笑い……まさか! 何故貴様がここに居る!? リタイアしたのでは??

 

 

「不思議そうだねキャスパリーグ。たしかにその通り。ここは私が居るには相応しくない場所だ。さっさと船にでも戻りたいところなのだが」

 

 

 それなら、遠慮せずに船に戻っていただいて。

 

 

「ふっ、それはできない相談だねぇ。この高円寺六助……美しくないものは嫌いでね」

 

 

 それと船に戻らないことに何の関係が?

 

 

「関係は大ありさ。だってそう――」

 

 

 

 

 

 

 

「――負けっぱなしは美しくない」

 

 ははーん……つまり、高円寺がリタイアしてないのは俺のせいってこと!?

 

 

 

 

 

 

「情報提供は感謝する。それで君も参加するのかい?」

 

「黒猫を自由にさせていると勝負にならないからな。さすがにそれは防がせて貰いたい」

 

 高円寺の言葉に木の陰から出てきたのは綾小路だ。

 

 

 ってお前かい!? もう一人居るなって思ったけどさ! なんでそんなにやる気なんだよ! ことなかれ主義はどうした、ことなかれ主義は!

 

 

「オレの知らない未知、こうして相対する機会は希少だろうからな。譲るつもりはないぞ、高円寺」

 

「ふっ、入学当初は退屈な存在だと思っていたが……なかなかどうして。まあ、今はリターンマッチの方が先さ。逃げるのなら追わないがどうするかね? キャスパリーグ」

 

 

 

 ええぇ……。なんか妙に綾小路がやる気というか、オレをターゲッティングしてない? 俺はただの原作知識としてこの世界の知識がある前世人間の今はペットな猫なのに―――って、おや?

 

 

 

 

 

 もしかして俺って普通に存在がアレなのでは???(今更

 

 

 

 

 

 衝撃の真実に気づいた俺だったが、それで現状がどうなるわけでもない。

 目の前には綾小路と高円寺というDクラスの最強タッグが俺の目的を阻もうとしている。

 

 

 正直、ここで尻尾巻いて逃げてもいい気がするが。

 

 

 ご主人に成果出してくるから待っててね! と言った手前、帰るわけにもいかない……。

 

 

 それに、だ。

 

 

 

「にゃーご」

 

 

 

 何を勘違いをしている?

 二対一だからそっちが有利――そう思っているのだろうか?

 

 それならば片腹が痛い。

 

 愚かなる人間どもよ。

 偽りの光を手に入れ、夜の世界を制したとでも思っているのか?

 

 ここには偽りの光はなく、ただ月と星の輝きが降り注ぐのみ――つまりは真なる世界。

 

 夜の世界、真黒なる刻は人の世界ではないことも忘れてしまったらしい。

 

 その刻は、世界は人ならざるものの領域。

 恐れるがいい、知るがいい。

 

 

 

 愚かで矮小なる人間どもよ! 思い出すがいい! 夜は貴様らの領分にあらず! そのことを畏れを持って刻み込め!!

 

 

 

 俺は一声、鳴くと同時に二人に目掛けて突進し――そして……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いや、やっぱり天才二人には勝てなかったよ(四時間の死闘の上、すごすごと逃走

 

 

 

 

 




〈人物紹介〉

●ホームズ
→遂に真実を知ってしまった自分をただの猫だと思っている猫。冷静に考えてその世界を読み物として知っている前世人間の猫はただの猫じゃない。天才と呼ばれる一握りの存在はその真実の一端に気づけてしまう。その際に変なダイス判定みたいなものが発生したりしなかったりする。なお、ご主人である神室真澄はホームズが何をやろうが親バカパワーで全部踏み倒すので判定は発生はしない模様。

●高円寺六助
→敗北に言い訳をしない男。それは美しくない。なのでリターンマッチ。

●綾小路清隆
→ホームズの存在でホワイトルームって案外大したことないのではないかと思っている主人公。思いっきりホワイトルームで学んだことでは説明のつかない存在が居るし……。まあ、それはそれとして未知の存在があるということは学べる余地があるということで、即ち成長できる余地があるということ。興味津々。とりあえず、オカルト関連や民俗学に手を出し始めている。
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