よう実世界に転生した畜生系主人公が神室真澄に心を打ち抜かれる話 作:サンディエゴ
――ァアアァアアアァああああああっ!!
「はーい、大人しくしてねー。ふふっ、偉い偉い」
「にゃあァァ……ァ……」
「ジッとできて偉いニャー? よしよし、もう少しだからねー?」
天国。
あるいは楽園。
それはきっとここのことをさすのだろうと俺は確信している。
暖かな雨が降り注ぎ、俺の自慢の身体を濡らした。
大勢の猫と同じく、俺も濡れることは嫌いだ。
綺麗好きなことで知られては居るがそれはそれとして濡れた毛が張り付くのがとても気持ち悪いからだ。
そして、一度濡れると基本的には自然に乾くまで待つしかないわけで……だからこそ、野良であったことは苦手意識が強かった。
だが――今はちがう!!
風呂場に響き渡るのは女神の鼻歌、わしゃわしゃと丁寧に猫用のシャンプーを使って洗われる俺の身体、白魚のごとき指から与えられる刺激は言葉にできない気持ちよさだ。
そして、何よりも……何よりも、だ!
ここが風呂場であるということ! つまりは……あれだ! その……なんだ、風呂場と言うことはつまりですね――
「にゃーにゃーはやっぱりお風呂苦手なんですかねー? きゅーって目を閉じて……でも、大人しくできて偉いねぇ? もー、少しだからねー?」
「はーい、よくできましたー。さあ、すぐに乾かそうねー。よいしょっと」
そういって俺を抱きかかえたご主人。
当然、抱きかかえると俺の背中にとても立派なご主人のおもちが感じられるわけだが、その感触がいつもとちがう。
ええ、そうです。
ここはお風呂場なんだから裸なんてことは常識的に考えて間違っていないことであり、それはつまり我が主人であり、女神であらせられる神室真澄様の裸体がすぐ俺の後ろにあるということであり、豊かな胸とかセクシーなへそとかむっちりした太ももとかが惜しげもなく、晒されているわけであり、つまりそれはなんというか―――
バカめ、俺がご主人の痴態を詳しく描写すると思ったか! 必要な分は見せたということだ。
まあ、そんなこんなで地獄のような……いや、口が裂けても地獄なんて言葉を使うべきではないな、ちょっとまだまだ俗人ならぬ俗猫である俺にはレベルの高すぎた天国の時間は終わった。
えっ、今の俺は何をやっているかって? それは……。
「すんすん……はー。生き返るー、癒やされる。これが猫吸い……はまる人の気持ちがよくわかる。いつかきっと癌にも効くようになる」
ご主人に全身を吸われているところサ! 超絶美少女であるご主人に最初吸われたときはそりゃ緊張したものだが、今ではこの通り平常心でいられる。
一緒にお風呂に入って丹念に洗われることに比べたら……あっ、ふにゃふにゃになった女神のご尊顔のどアップ――
―――アッ!!!!!(尊死
……ふう、辛うじて致命傷で済んだぜ。
まっ、ともかく神室真澄のペットになった俺の日々というのはこんなものだ。
ずっと猫を飼いたかったのだろうウキウキで構いたがってくる彼女とのスキンシップを楽しんでいる毎日。
たぶん、俺は来世で地獄に堕ちるだろう。
バランスを取るためにそれぐらいないと釣り合わないと思う。
でも、いいんだ。
それでいっこうに構わないと俺は思っている。
「はー、いい匂い。変な学校に来ちゃったと思ったけどこれだけで十分に元取れた気分。あとはせめてクラスの中の変な派閥抗争みたいなのがなくなればな……。はぁ、まったく」
今の俺の使命は全身全霊をもってご主人を癒やすことただそれだけなのだ。
若干というかキャラ崩壊気味に俺の前で楽しそうなご主人だが、学校の方はどうやら上手くいっていないようだ。
原因はまあ、Aクラス内での派閥争いだ。
高校生で派閥争いってなんだよ、と思うが実際に起こっているのだから仕方ない。
簡単に説明すればAクラスには葛城と坂柳という二人のリーダー格の生徒がおり、それぞれが派閥を作ってわかれているという感じだ。
葛城は善良なるハゲで坂柳は邪悪なるロリで覚えておくといい。
それで原作だとご主人は坂柳の派閥だったわけだが……どうにも聞いている感じ違うらしい。
「派閥争いなんて勝手にやって欲しいわ。巻き込もうとするなっての」
なんというかどうやらどちらの派閥にも属していないようなのだ。
なぜ、こんな違いが起きたのかと考えれば――まあ、恐らく俺のせいなのだろう。
詳しいことは忘れたが原作では坂柳の付き人みたいなポジションだったご主人だが、そもそもの切っ掛けはご主人がなにを思ったのか万引きをやってその弱みを掴まれたから……みたいな感じだったはずだ。
なら、それが起こらなかったとしたらどうか?
ご主人は派閥争い云々に進んで絡みに行くタイプではないのでどちらとも距離を取った無派閥を貫いていた可能性は高い。
この世界のご主人は入学初日に俺と出会ってからはこっちに夢中だった。
恐らくその差異がこの結果を生み出したのだろう。
とくに原作に介入しようなど考えてはいなかったのに、まさかこんなバタフライエフェクトが起こるとは……。
でも、まあ、あれだ。
正直に言えばホッとしている部分もある。
悪いのは犯罪やったご主人なのはたしかだけどその弱みを掴まれて、いいように扱われる姿を見たら俺もいい気分はしないし。
ご主人が坂柳の仲間にならなくても別に大きな変化にはならないだろう……たぶん。
そこら辺はひとまず置いておくとして。
重要なのは今のご主人の立場だ。
そういったこともあって現状のご主人は無派閥で両派閥と距離を置いているようだが、そのせいもあってかどうにもストレスを抱えているようだ。
「うん? 慰めてくれるの? にゃーにゃーはいい子だねー?」
尻尾で軽く頬撫でて俺はご主人を癒やすことに専念する。
まあ、同じクラスの中で派閥争いなんてやられたらそりゃ年頃の女の子としてはストレスもたまるだろう。
大変だな、よしよし。
「すーはー、すーはー……ああ、いい匂い。やっぱり、高いシャンプーにして良かった。今度からこれにしよ。でも、さすがに今月は厳しいかな? ちょっといろいろ使いすぎた。でも、妥協はしたくないし」
すーはーしながら呟くご主人。
ご主人はまたお金――というかポイントのことを考えている。
『権利』の購入やペット用品の購入、餌代などでかなりの負担になっているのにもかかわらず、決して妥協するつもりがない姿勢に俺は感謝の念を覚える。
というかここってペットショップないから本格的なものは先生を通して外部から購入してもらう必要がある。
当然、その分割高になってしまう。
神室真澄は天使、女神……いや、それすらも超越した聖女とかそんな存在の生まれ変わりに違いないと俺は確信している。
そして、そんなご主人相手に愛でられるだけの駄猫では俺は決してない。
猫とは恩返しをする生き物だ。
俺がそう決めた。
ペットになると決まったときからいろいろと彼女の助けになると心に決めていたのだ。
……もう少しのはずだから、待っていろよ。ご主人。
―――
時にこの学校で生きていくにあたって重要なアイテムというのはなにか知っているかな?
そうだね、ボイスレコーダーだね。
えっ、なんでだって? そりゃ、この学校の制度って相手をはめるのが正義、裏切り上等みたいなところがあるから護身にしても武器にするにしても録音、録画最強なんだよね。
やはり、物的証拠こそナンバーワン!
そんな感じでこの学校で生きていくためには一種の必需品じみた存在――それがボイスレコーダーくんだ。
そして、俺の目の前にあるのがそのボイスレコーダーくん。
「あら、これどうしたの? どこかで拾ってきた?」
「にゃあ」
「にゃーにゃーは賢いから、私が学校に行っている間に外に出るのは止めないけど危ない真似はしちゃダメだからね? それにしてもこれなんなのかしら? もしかしてボイスレコーダー……ってやつ? まさか勝手に取ってきちゃったの? 違うの?」
俺は首を振って答えた。
盗んだのではない、拾ったのだ。
なんか明らかに隠されてた場所にあったがきっと気のせいだろう。
これは盗んだのではない、落ちていたの拾ってそしてちょっとばかし有効活用しただけなのだ。
というわけでポチッとな。
『それで……どうです? 今年の一年は』
『優等生のAクラスはさすがと言ったところですね。Bクラスもリーダー格の生徒を中心にまとまっていて期待が持てそうです。Cクラスは少々お転婆が過ぎる気がしますが……』
『まあ、Dクラスよりはマシでしょう。このままでは歴代最低評価になりそうですな』
「これって……もしかして先生たちの声? それに……評価? なんかDクラスがヤバいみたいな話は聞くけど」
ボイスレコーダーが流れ出した会話の内容にご主人は興味がひかれたようだ。
ただの雑談ではなく、微妙に気になる内容も含んでいるからな。
だが、重要なのはこの辺りの会話ではなくその後だぞ……ご主人。
流れ出る音声はそのまま次の話題に移った。
『クラスポイントにまでたどり着きそうな生徒はいましたか?』
『チラホラと気づいていそうな生徒はいましたね。坂柳や葛城、一之瀬、それに龍園あたりはなにかありそうなことに気づいていそうな節がありますが……』
『確証を持って確認に来るほどではない、と』
『神室が来たときにはもしかしてと思いましたが、まさか野良猫を飼う権利の交渉とは……』
『まあまあ』
『上級生たちにも口止めをして五月までは決してバレないようにしているわけですからね。早々、バレてしまっては困ります。というか四月の時点でそこまで見抜けた生徒なんて……』
「なに? なにかを学校側は隠してるってこと?」
気になるワード盛りだくさんの会話に神室は真剣に考え込み始めた。
『たしか四月の時点で見抜かれた場合ってどうなるんでしたっけ?』
『たしかマニュアルでは――』
その後、長々と続く教師たちの会話。
茶柱たちではなく、一般的なモブ教師たちの会話だが「ちょっと情報管理なさすぎでは?」と思われた諸君、安心して欲しい。
正直、これに関してあまり教師たちは悪くない。
この会話は職員室の中で行われたもので当然、生徒の耳には入らないように注意した上での会話だ。
その辺りはさすがにちゃんとしていた。
まあ、生徒ではなく俺という子猫が――しかも、ボイスレコーダーを持ち込んで潜んでいたなんて想像もつかなかっただろうが。
いや、本当に大変だったんですよご主人! 褒めてくださいよ、ご主人!
どうご主人の助けになろうかと考えた。
そして、思いついたのがこれだった。
この学校で生活していく上で一番大事なのは――即ち、情報!! 情報支配するものは世界を制する! 古事記にもそう書いてある!
だから、俺はいい感じの明らかに盗聴用に隠されていたボイスレコーダーを拝借し、ご主人が学校に行っている間、ずっと諜報活動に従事していました。
この学校の特性上、人の気配に敏感な人は結構居たが野良の猫まで気にするような人間はいないし、そもそも猫である俺は本気になれば隠密活動だって得意だ。
なのでこっそりと誰にも気づかれずにするりと職員室の中に入ったり、つけ回したりしてボロを出す瞬間をじっと待っていたのだ。
その成果がこれである。
本格的にクラス間の争いが動き出す五月前の段階。
その段階でのクラスポイントの存在やSシステム、そして示唆された特別試験の存在の情報……その価値は計り知れない。
この情報を元手に葛城や坂柳を相手に渡して地位を作ったり、あるいはマニュアルとやらの手続き通りに口止め契約を結ぶ代わりにポイント得たり、やり方は様々だ。
全てはご主人次第! ……いやー、いい仕事をした。我ながらこれはやりきったと……褒めてくれていいんですよ、ご主人――ご主人?
「…………」
自信満々な俺とは裏腹にご主人――神室の反応はおかしかった。
まるであり得ないものを見るような反応。
「アンタ……これを? もしかして私のために……?」
「にゃ……ぁ……ッ!?」
そこで俺は気づいた。
これってもしかして普通の猫がする行動ではないのでは?
どこからともなく持ってきたボイスレコーダーを器用に使ってためになる情報を盗聴して持ってくる。
そんな行動をする猫がいるだろうか? いや、いない(反語)
おっ、おわったぁあああ!? 女神のためを思ってと行動したせいかやり過ぎちまったぁあああ!? も、もうおしまいだぁ……こ、こんな行動をする気持ち悪い猫なんかご主人も気味悪がるに決まってる。
「やだ……嘘……」
心が痛い、ご主人に嫌われたら俺は……俺は……っ!
「うちの子――天才過ぎ!?」
ご主人???
「今まで名前決めてなかったけど、これでようやく決められる。こんなに賢いにゃーにゃーの名前は「ホームズ」に決まりね! 世界一賢い猫よ、きっと!」
ご主人ーーー!? ご主人、それでいいんですか!? いや、それで済ましてくれるならこっちとしても嬉しいんですけどちょっと心配になってしまいますご主人ーーー!! というかアレなんですね! 実は子供ができたら親馬鹿になるタイプだったんですね、ご主人ーーー!! でも、そんなところも好きだー大好きだー!!
あと、なにげにずっと悩んでいた俺の名前が決定したんですねご主人!
しかし、ホームズなんて名前になるとは……三毛でもないし、黒猫だし。名探偵の名前はちょっと期待が重たい気がするけど、ご主人のくれたなら名前ならオッケーでーす!
「よーし、作戦会議をしましょうホームズ! コレをどう使いましょうか」